DOG DAYS ~桜の花が舞う頃に~(凍結中) 作:緋奈桜
戦場ではまだ戦いが繰り広げられているが、その一角とある場所では勇者と女の子が追いかけっこをしていた。先程まで、激しい戦闘を繰り広げており少なくない疲労もあるはずなのにこの場の風景を見る限りでは、そんな雰囲気はまったく感じられずむしろ先の戦闘時よりも激しい運動量――逃走劇を繰り広げていた。心なしか女の子の目は怪しい輝きに包まれていた。
また、その近くでは女の子が追いかけ、赤い髪をした男の子――勇者が逃げ回るといった光景を眺めながら会話をしている人影があった。片方は、銀色の髪の毛をしている女性。もう片方は、勇者の友人という肩書をもつ1人の男の子である。
「それで、その……カヤという人は、もしかして此花 カヤというのでしょうか?」
雪花は、レオ閣下の言葉が気になった。異世界の人が自分の名字を呟いて考え込んだかと思えば、このような場所――異世界で自分が知っている名前を発言したからだ。
「おぉ、そうじゃ。知っておったか。それで、お主とカヤ殿とはどういう関係なのじゃ?」
「カヤ殿ですか。カヤは……俺の母さんです」
カヤ殿……いったい母さんはここでどんな呼ばれ方してるんだよ! というか、なんでこの場所に知ってる人がいるんだ?
「何!? カヤ殿の息子じゃと? そうか、そう言われてみれば先程ワシの技から逃げおおせたのも納得じゃの。それに、よく見ればどことなくカヤ殿の面影もあるしのう。ふむ、あのカヤ殿の息子ならば致し方あるまい」
「え? そんな理由で納得しちゃって大丈夫なんですか? それはそうと……なぜ、母さんのことを知っているのですか?」
母さん……何をやらかしたらこういう認識されるんだよ……。母さんの息子って肩書きだけでありえない誤解とかされそうで先が思いやられるんだが……。もしかして、この先々で会う人それぞれになんかしら言われるんだろうか? それじゃなくても、ここに来たばかりでもう大変なのに、俺無事でいられるのかなー? いずれにしろ母さんのことは何をやったのかをよく聞いておかないといけないね。……まさか、恨みを買っているとか言わないよね?
「そうじゃのう……なんといえばいいかのう。カヤ殿は、ワシにとって……いやガレット領・ビスコッティ領それぞれに住む人々にとっての恩人じゃの」
「恩人……ですか」
今まで行方不明だった母さんのことがわかったんだ。それだけでも、ここに来れたことに感謝しなくちゃいけないな。恨みを買ってるんじゃなくてよかったー。しかし、恩人か……いったい何をやったんだろう?
「うむ。まぁあまり戦場で、長々と喋っているのもなんじゃなぁ。あやつらもまだじゃれ合っておるようじゃし、詳しい話はまた今度してやろう。話は城の者へ通しておく故今度ワシの所へ来るがよい」
「それもそうですね。まぁ、僕としては母さんの話が聞けただけでも十分にうれしかったです。欲を言えばもっと詳しく聞きたかったのですけれど。あいつらを放っておくのはまずいですよね」
ん? 待てよ。母さんがここの恩人なんだろ? てことは、だ。普通に考えてここの出身? というとアレか? 俺にも実は獣耳があるのか!? あんな素敵耳が俺にも!? でも、男に獣耳ってなぁ……だが、ううむ。悩ましいな。あったらあったで、聴力とか上がりそうだしな。そうなると、俺もここ出身になるのか?ん? それだと、あそこに書かれていた石碑の言葉って……
「のう? セッカよ。聞いておるか? 行くところがないのなら我が国に来ぬか?」
どうやら、またレオ閣下の言葉が耳に入っていなかったらしい。
「え? はい、そうですね……そう言って頂けるのはうれしいのですが探さねばならぬ人がおりまして、それにシンクともゆっくり話をしたいもので」
「そうか……。して、尋ね人とはまた妙なことを申すではないか? そなた、勇者と同じ場所から来たのであれば尚のこと、この世界に知り合いでもおったのか? あぁ、カヤ殿は母上であったな」
「いえ、そのようなことではないのですが。この戦場に来る少し前に託された言葉がありまして、ダルキアンという人に会え……と。先程の母の話を聞くと尚更会いに行かねばならない理由もできましたし」
「ダルキアン……じゃと!? 誰から託されたのかはわからぬが、それならば犬姫のところで聞けば教えてくれるであろう。勇者と話したいということでもあるし、今日のところは犬姫の世話になるがよいぞ。ただし、ワシはまだお主のこと諦めておらぬからな? 忘れるでないぞ。では、必ず近いうちにガレット城に寄るのだぞ」
そういい残し、レオ閣下は去っていった。レオ閣下によって石碑の手掛かりが増えたことは雪花にとって何よりの情報であった。
雪花がレオ閣下と話しているうちにどうやらシンクと女の子の追いかけっこは終わったらしく、近くに伸びていた。伸ばされたといった方が正しい。最後はシンクが蹴り飛ばされ終わったようだ。雪花がそちらへ目を向けると屍と化したシンクが目を回していた。
シンクをノックダウンさせた後、女の子は茶色の髪に
「さっきはこれのおかげで助かった。……感謝する」
「女の子が裸のままというのは、よくないから咄嗟に渡しちゃったけど匂いやらサイズとか、そもそも男が着ていた物だけど平気だった?」
すると、女の子は一段と頬を染め
「へ……平気だ。とりあえず、洗って返すから待って……あ! そういえば、見かけぬ顔だな?」
「うっ……そうでした。挨拶がまだなんだった。俺は此花 雪花。まぁいろいろあって、そこに寝ているシンクと同じ場所からここへ来た」
「ん、そうか。私は、エクレール・マルティノッジだ。な……今、なんと言った?」
先程までの顔が一転し、険しい顔つきになった。
「何か、まずいことだった?」
やっぱり服を貸したのがいけなかったのかな? なんせ今までろくに女の子と係わったことないからわからないけど。女の子はデリケートって聞いた気もするし……やばい、また変な汗が出てきたよ。
「たしか、姫様が召喚したのはそこのバカだけのはず……なのになぜもう1人異世界から召喚されたのだ? 私も詳しいことは知らないが召喚の儀自体、滅多なことでは行われないから謎に包まれているというし……えーい! わからん。いずれにせよ一旦城に戻り確認を取らなければいけんようだ。……ってあれ?」
雪花は、エクレールが自分の発言を聞いていなかったと思い、近くにある壁に寄りかかて、体育座りをして地面に丸を書き始めた。すると、いつ復活したのかシンクも雪花のそばで体育座りをして、暗い雰囲気を漂わせていた。
「アホ勇者まで何をやっているんだ? ほら、2人とも行くぞ!」
「え?」
「帰れない~帰れない~」
「ほら、さっさと来ないと置いてくぞ」
「あー、今行くよ。ほれ、行くぞシンク」
「う……うん」
何があったのだろうとシンクの手を引っ張りながら雪花は思った。エクレールのそばに行くまでシンクはずっと元気がないままだった。
案内されるままに雪花とシンクは城下町まで歩いて行った。町の広場まで来ると、エクレールは近くの柱に腰かけ2人には椅子に座るよう促した。
エクレールは主に雪花に対して、ここフロニャルドのこと。ひいては自国ビスコッティ共和国のことを説明した。説明がどんどん進むにつれ雪花の表情は輝いていった。するとシンクは、携帯を取り出して
「まぁそうだよなぁ……異世界だもんなぁ。帰れないんだよなぁ」
「まったく、覚悟もないのに召喚に応じたりするからだ」
「覚悟ッ! 覚悟も何もこのワンコが! ……踊り場から降りようとしたら落とし穴を仕掛けてぇ」
「落とし穴ぁ? タツマキが?」
「そうそう、このワンコを撫でてシンクを待っていたらいきなり落ちてったんだよなー」
すると、雪花の横……椅子のそばで雪花に撫でられていたワンコ――タツマキがブンブンと抗議するかのように首を振って地面に小さな陣を出して、ちょこんとそこへ足を置いた。ここを見ろと言いたげな雰囲気から、その小さな陣を3人はそれぞれ覗き込んで、唯一こちらの文字が読めるエクレールが読み上げた。
「何々? ようこそフロニャルド、おいでませビスコッティ……」
途中まで読んだところでタツマキが前足でちょんちょんと指し示す。よく読めということらしい。そこには小さな文字で何やら書かれており……。
「注意、これは勇者召喚です。召喚されると帰れません。拒否する場合は、この紋章を踏まないでください」
シンクの顔から血の気が引いて真っ白になってしまった。雪花はというと、落ち着いた様子でエクレールの言葉を聞いていた。シンクは項垂れていたかと思うと、頭を抱えながらがばっと起き上がり
「こんなんわぁかるかぁーい!」
「知るか! 私に言うな! ふん! まぁ貴様を返す方法は学院組が調査中だ。時期に判明するさ。」
「だといいけど……」
「それにしてもセッカはやけに落ち着いているな」
シンクの様子を見守っていた雪花に向けてエクレールが話しかけてきた。
「うん? まぁなんていうか、俺は別に帰らなくても平気だからさ。心残りは多少なりあるけど。それに、ここでは存分に腕試しできそうだしね。せっかく来たからには満喫しなきゃ。やるべきことも出来ちゃったし」
「とりあえず……まぁ、その……なんだ。阿呆とはいえ、貴様は賓客扱いだ。ここでの暮らしに不自由はさせん。ひとまずはこれを受け取っておけ」
そう言って、エクレールは巾着袋をシンクに差し出した。
そして、彼女は
「戦場での活躍報奨金だ。受け取りを拒否などすれば財務の担当者が青ざめる。そして戦場には、兵士たちも楽しいから参加している者も多いだろうが、この報奨金の支給は自分がどれだけ戦に貢献できたかの大切な目安だ。少なくとも、参加費分は取り戻したいというのも本音だろうしな」
「「参加費!?」」
「というか、俺はそもそもなんで貰えるわけ? 戦には乱入……になるのかな? しちゃったけれど、そもそもシンクみたいに召喚されたわけじゃないから賓客でもないんじゃない?」
一度は受け取った雪花だったが、エクレールに袋を戻そうとした。
「あー、それはだな。財務のところに報奨金を取りに行ったときに、セッカの分も渡されたんだよ。なんでも、相当数の敵を撃破したとかって言っていたが心当たりはないのか?」
「「え?」」
なぜか当人ではないシンクも驚く。思い返してみると、シンクと合流するまでに避けきれなかった時に攻撃していたかと思い納得した。……したのだが、手はエクレールの方に突き出したままになっていた。
「心当たりはあったけど、そんなに倒した覚えはないよ? それに、これって多いんじゃないの?」
「相当数とは言ったが、身元不明だったからだとは思うのだが見合った額じゃなかったのでな。その……さっきのお礼も込めて足しておいた」
それで思い出してしまったのか、エクレールの頬が赤く染まった。
「別に、気にしなくていいのに……。そういうことなら、ありがたく頂戴します」
「じゃあ、これから町でも案内しながら2人にいろいろ教えるからついてこい!」
そういうとエクレールは立ち上がって歩き始めた。それから、屋台を眺めたりお金やら食べ物などから、フロニャルドについての様々なことを教えてくれた。