DOG DAYS ~桜の花が舞う頃に~(凍結中) 作:緋奈桜
エクレールにフロニャルドに関することを教えてもらった後、城下町を後にしてお城へと向かった。なんでもお城にある学院に行くという。正式にはビスコッティ国立研究学院、通称『学院』だとか。ここまでいろいろなことがあって忘れていたが、ふと自分の荷物のことが気になった。
「そういや、シンク。俺の荷物、この鞄以外の物なんだけど、知ってるか?」
「セッカの? あー、それなら大丈夫。僕の荷物と一緒に落ちてきたから部屋に置いてあるよ」
「よかったー。あれにはいろいろと入っていたから助かったよ。後で取りに行くわ」
あの鞄には、サバイバル用品が入っていたからシンクが見つけてくれてよかったぁ。無くしたと思っていたからな……シンクの荷物と一緒ってことは、あの落下の時か! こっちの鞄は背負ってたから落ちなかったのか? それにしても、中身は無事かな? あの高さから落ちたんじゃなぁ……。
落ちてきた時のことを考えて、雪花はふと空を見上げた。空には昼間にも関わらず星が瞬いていたり、島が所々浮いていたりして幻想的だった。
フロニャルドかぁ。偶然とはいえこんな場所に来られたんだ、折角だから満喫しますかねー。そういえば、今まで旅行とかしたことなかったからちょうどいい機会でもあるしな。まぁ、まずは俺の立場を最優先に考えないといけないよなぁ……。今のところ不法入国になっているだろうし。まぁ、母さんのことがばれなきゃいいか。レオ閣下の反応を見ると、大変なことになりそうで怖いんだが……
そんなことを考えている間に、3人と1匹は大きな門のところまでたどり着いた。門をくぐり建物の中に進むと、そこは長い廊下が続いており本を抱えた人たちが忙しなく歩き回っていた。奥の部屋まで来ると、小さい女の子がいそいそと大量の本を抱えていったり来たりしていた。
「リコ。召喚について何か分かったか?」
「エクレ! 来たのでありますか。それが……申し訳ないであります。現在、学院が総力を挙げて調査中なのであります」
あたふたしながら白いローブを纏った女の子は、エクレールとシンクに頭を下げ続けていた。
「リコ落ち着け、私も勇者もそんなにすぐに見つかるとは思っていない。その召喚についてなんだが、もう1つ頼みたいことが増えたんだ」
「……なんでありますか?」
「勇者召喚の際に巻き込んでしまった者がいるのだ。それが、こっちのセッカなんだが……巻き込まれた場合の処置はどうなるのかわかるか?」
「此花 雪花です。えぇっと……」
「私は、リコッタ・エルマールであります。ここ国立研究学院の主席を任されているのであります」
そういい、リコッタは敬礼をした。リコッタたち学院組は、制服の上に白いローブを羽織っていた。
「主席!? ってことは頭いいんだね。凄いなー。じゃあさリコッタ、俺の立ち位置ってどうなるかわかる?」
すると、雪花の褒めるような発言を聞いて頬を赤らめた。がすぐに顔を引き締めて考え始めた。少しするとリコッタは
「召喚に巻き込まれたのであれば、一応お客様という扱いになると思うであります。ですが、姫様にお伺いするのが得策であります」
「ありがとう、リコッタ」
こちらの会話が終わると、何やら忘れていたらしいエクレールが
「そういえば勇者、期限について何か言ってたな? いつまでだ?」
「えっと、春休み終了前には戻らなくちゃいけないし、その3日前にベッキー達とお花見があるから……あと、16日」
「16日!? それならご帰還方法を探すには希望が湧いてきたであります」
「うん、お願いね。……でも、その前に……。召喚された場所に行ったら、電波繋がったりしないかな?」
そういうと、シンクは携帯を取り出して画面をリコッタに見せた。リコッタは、携帯を見つめて目が輝いていたが聞きなれない単語のところで首を傾げた。
「電……波?」
どうやら、ここフロニャルドの人には電波というものが分からないみたいでリコッタはもちろんのことエクレールもシンクの隣で首を傾げていた。そこで、シンクは電波について簡単に説明していた。説明を聞いた後に、リコッタは何か思いついたらしく準備を始めた。
ところ変わって城内にある一室でお茶を飲む姿があった。1人はピンク色の髪をした女の子。もう1人は女の子のそばで待機してお盆を持って、メイド服を着ている女性。そして、机を挟んで向かい側に座る少年……雪花の姿があった。なぜこのような場所にいるのかというと――
リコッタが準備を終えたあたりで、姫様にお会いになられてはいかがでありますか? という言を受けて近くにいた学院生の案内によってこの部屋に連れてこられたという次第である。学院生はというと、雪花を部屋に案内した後一言二言、中にいる人物と会話し帰って行った。
「私は、ここビスコッティの領主でミルヒオーレ・フィリアンノ・ビスコッティと申します。こちらは、メイド長のリゼルです」
「メイド長をしております。リゼルと申します」
「俺は、此花 雪花です。よろしく、お願いします」
「それで、ええっと……。セッカさん、ごめんなさい!」
「え!? 何がですか? というか姫様? 頭を上げてください!」
「勇者召喚が初めてだったとはいえ、巻き込んでしまったものですから。帰ることもできない事を知らなかったとはいえ、こちらの落ち度です。本当にごめんなさい!」
そう言って、姫様はまた頭を下げた。雪花は、やはり戸惑っておりあたふたしていた。なんせ一国の領主である姫が頭を下げているのである。これまでの人生で、目上の方から頭を下げられ、謝罪を受けるなどなかったのでそれはもう盛大に慌てていた。それを見かねたリゼルが2人をなんとか落ち着けた。
「それで、セッカの処遇についてなのですが……先の戦を拝見しまして、ぜひ自由騎士として我が国を手助けしては頂けないでしょうか?」
「へ?」
てっきり、先の戦に乱入したためにお叱りを受けるものとばかり思っていたので拍子抜けしてしまい変な声を上げてしまった。
「えぇっと、それでは乱入したお咎めとかはなしですか?」
「お咎め? 何故ですか? 先の戦ではレオ様の紋章術から逃れたりしていたじゃありませんか。それに、聞いた話だと相当数の敵を倒したとか……戦を盛り上げていただいたのに、その様な方を叱る理由がありません! むしろ、褒めて差し上げたいくらいです」
言うや否や姫様は机に手をついて身を乗り出して、雪花の手を取り、目を輝かせていた。雪花は戸惑いながらも姫様の手を握り返した。
「ありがとうございます。……ところで、自由騎士になった場合どのようなことをすればよろしいのですか?」
「それは、戦があった場合に勇者様とご一緒に参戦していただければ大丈夫です。自由騎士は、その名の通りに国に縛られることもありませんので平時などはご自由に過ごしていただければよろしいです。それから、詳しいことはリゼルに聞いて下さいね? それと、この自由騎士を考えたのはレオ様なのですよ」
「ふぇ? え? もう一度よろしいですか?」
「ご自由に過ごしてよろしいです?」
「えっと、その後です」
「ん? これを考えたのはレオ様ですよ?」
おぉう。やられた……お叱りはないと油断させておいてから追い打ちをかけるとは、この姫様侮れん。それに、レオ閣下仕事早いですねー。てことは、母さんのことがばれているのか。聞きたいことはあるし、それはいいんだけど。俺も変な目で見られたりするんだろうか? ふぅむ……自由騎士かぁ、さすらいの旅人と名乗るよりは絶対いいよな……。それに戦にもきちんと出てみたいし、せっかくのお話だし受けてみよう。
「姫様!不肖此花 雪花、自由騎士の話を謹んで受けさせていただきます」
「よかったぁ。ずっと黙っていたので断られたらどうしようと思っちゃいました。それに、考えているのは分かったのですが、青くなったり白くなったりとおまけに汗がダラダラ流れて見てて面白い方ですね。それでは、後日授賞式があるのでそこに出席してください」
「それでは姫様、お時間ですのでそろそろ。あと雪花様、お部屋のお外で少々お待ちくださいませ」
とそれまでほとんど立っていたリゼルは姫様に時間を告げる。なので、雪花は部屋を後にした。少し待っていると中からリゼルが出てきて雪花に後についてくるよう促した後、別の部屋に案内してくれた。
「雪花様、滞在中はこの部屋をお使いくださいませ。先程の姫様がおっしゃられていた通りほとんどの時間を自由に過ごしていただいて構いませんので、ご自由にお過ごしくださいませ」
「あの……リゼルさん? 様はちょっと慣れないのでやめていただけませんか? そんな呼び方されたことないのでもっと気軽にお願いします」
「あら? でも勇者様と同じで召喚されたのですから、それにカヤ様のご子息でもあるわけですし。そして、私どもはメイドですのでお気になさらず。どうしても、と言われるのでしたらそのようにお呼びいたしますよ」
「では、どうしてもお願いします」
「はい、かしこまりました。あと、先程の自由騎士についてなのですが、今回の自由騎士とはその名の通りに国に縛られません。一応ビスコッティ・ガレットの両国で急遽決まったことでして、戦の参加権などは両国ともにございます。最初の戦はこちらで参加していただき、次はガレット側での参加。と、このように持ち回りで参加していただくようになります。ここまでで何かご質問はありますか?」
うっ……まぁ様って呼ばれるよりはマシかなぁ。でも年上の人にさん付けで呼ばれるのもちょっとなぁ、まぁ文句を言ってもしょうがないか。文句を言うとしたら、母さんにだな。
ふむ、自由騎士って今回作ったようなものなのかな? ビスコッティとガレットの両国での取決めとなると、最後にレオ閣下と会話したのが決まる切っ掛けになったのか? 戦は両国順番での参加か。むしろこれはありがたいな。ビスコッティとガレットの両国で情報収集できるわけだし。この辺も考えてくれてたのかな?
「いえ、今のところ大丈夫です」
「あとはそうですね。両国ともに自由に行き来してよろしいので、もしガレットに行きたくなりましたらお声をおかけくざさい。自由騎士については、おおまかにこのくらいですね。それと、こちらで何か御用がありましたらいつでもメイド達にお声をかけてください。それでは、失礼いたしますねセッカさん」
雪花は、部屋に案内された後、鞄を置いてからベットに腰かけ一息ついていた。
それにしても、これからどうしようかなぁ……暇だから外にでも……出て……み……。
――そこで、雪花の意識は無くなった。
ふと、雪花が目を開けてみると窓から見える景色が真っ暗になっていた。どうやら、疲れて眠ってしまったようだ。どうも、床に倒れる形で寝ていたようで体が痛かった。ベットに腰かけていたのだからベットに倒れ込めばよかったものをなぜ床に倒れ込んだのか不思議でならなかった。一先ず、床から起き上がり背伸びをしてから窓を開ける。すると、涼しい風が部屋の中に吹き込んできた。
「ちょっと散歩でもしてみるか」
開け放った窓を閉めた後、雪花は部屋を抜け出した。とりあえずもう一度町に行こうと考えていた雪花であったが、知らない場所なので迷ってしまった。なにせお城なのである。しかも、ここへ来るまで緊張続きで道を覚える余裕は雪花にはなかった。それに、今までここまで広い建物には入ったことがなく、入ったとしても精々デパートぐらいである。一般家庭に住んでいた身としては大きさの桁が違うため仕方がないといえばそれまでであるが……。
所々壁に案内図が書いてあるのだが、雪花はフロニャルドの文字が読めないのでお手上げ状態であった。このまま勝手に進んでもいいのだが、二次遭難になる可能性があったために案内図の前で立ち止まって雪花が百面相をしていると、見知った顔が近づいてきた。
「セッカ様、こちらで何をしているのでありますか?」
「傍から見ると面白い顔をしていたぞ」
「ちょうどよかった、暇ならこの案内図について教えてもらえないかな? あとリコッタ、様付けはやめてほしいかなー」
「私はこれから用事があるから、リコに教えてもらうといい。ではな」
「了解であります。それでは、セッカ……さん。私のことはリコでいいであります。それで、ここはですね」
エクレールは、すたすたと歩いていったしまった。残された俺はリコに案内図について教えてもらって、ついでに町までの案内を頼んだら了承してもらえたので一緒に繰り出すことになった。
町についてみると、今日の戦興業が成功したおかげか祭りムード一色に染まっていた。見渡す限りに屋台が立ち並びいい匂いが漂ってきた。雪花は、朝ご飯以降何も口に入れてなかったためキューっと顔に似合わずかわいい音を出してしまった。隣にいたリコはその音を聞いて近くの屋台まで連れてきてくれた。
「セッカさん。ここの屋台がおすすめでありますよ。おひとついかがですか?」
「見たことない食べ物だけど、美味しいの?」
「はい! とても美味しいであります!」
リコッタが薦めてくれた食べ物は、クレープのような生地で野菜やお肉が挟んであり赤いソースがかけてある食べ物だった。それをリコと一緒に買って、近くの椅子に座って食べてみた。すると、酸味が少し効いておりお肉が入ってるのにもかかわらず、さっぱりとしておりなかなかに美味しい食べ物だった。
食べ終わって一息ついていると、隣に座っていたリコッタがそわそわしていた。
「ところで、セッカさん。勇者様に聞いたのでありますが、携帯電話というものをお持ちではないでありますか?」
「携帯? シンクから聞いたの? 一応持ってはいるけどシンクの物と比べるとあまりいいものではないよ?」
雪花は携帯を取り出しながらリコッタに説明した。雪花が持っている携帯は、年寄りが使うような簡単なものだった。というのも、これまで連絡をとりあうような人もいなかったためにあまり使う機会がないため電話ができればいい、という考えのためであった。いろいろ説明していると、リコッタは目を輝かせながらローブで隠れている尻尾をパタパタと動かしていた。
「そんなに気になるなら、あげようか?」
がたっと勢いよく椅子から立ち上がったかと思うとこちらに身を乗り出してきた。
「よ…よ…よろしいのでありますか? 勇者様はホショウがどうのとおっしゃっていたのでありますが、セッカさんはその、ホショウは大丈夫なのでありますか?」
「おっと、そんなに身を乗り出さなくても……大丈夫だよ。俺は、あまり使わないし中古で手に入れたものだから」
「感激であります! では早速戻ってこれを分解して、中の構造がどうなっているかを……ハッ!! どうも、私は見知らぬ機械を見ると我を忘れてしまうようでありまして」
「リコ落ち着いて、そんなに慌てなくても携帯は逃げないから」
「では、さっそく学院に戻り……携帯の調査を……あれ?」
「ん?」
ふと前を見ると、先の戦の時のように箱が空中に現れた。そしてそこに映っていたのは3人組の女の子と手足を縛られて身動きのできない姫様であった。すると、
「我らガレット獅子団領!」
「ガウ様直属、秘密諜報部隊!」
「「「ジェノワーズ!!!」」」
三者三様にポーズをとり、名乗りを上げたところでいつ準備していたのか煙幕が立ち上った。