ギャスパー・ヴラディは悩んでいる。
大好きな先輩との決別、もう元には戻れないのか。
ギャスパーは禍の団の襲撃により誇銅が死んだと聞いた時、誰よりもその死を悲しんだ。そして、飛んできた誇銅の腕の前で泣きじゃくったのである。
その後、ギャスパーは前のようにずっと引きこもることはなかったが、よく引きこもるようになってしまった。
そんな中ギャスパーは誇銅が帰ってきた知らせを聞く。
ギャスパーはすぐにでも誇銅に会いたかったが、その知らせを聞いたのが夜だったためさすがに迷惑になると考え、次の日学校で会おうと思う。
ギャスパーは誇銅がもうリアス・グレモリーの眷属でないことは知らない。故にギャスパーは誇銅がオカルト研究部に来ると思いオカルト研究部の部室で待っていたのである。
そしてオカルト研究部の部室にノックの音が響く。ギャスパーはついに誇銅が帰ってきたと思うが、入ってきたのは見知らぬ女子二人。ギャスパーは少しがっかりしたがすぐに立ち直る。
(ただ誇銅先輩じゃなかっただけ。別に誇銅先輩が来ないわけじゃない)
そう思っていた。
部長がその二人と話をする。二人の自己紹介にオカルト研究部の全員が驚く。それはギャスパーも例外ではない。
しかし、ギャスパーはそんなことどうでもよかった。いつ誇銅が来るのかが気になって仕方ないのである。
だから二人からの言葉にギャスパーは心から落胆した。
誇銅はここには帰ってこない。誇銅ともう関わることができない。大好きな先輩との死別、そして生き返っていても会えない。
ギャスパーは引きこもりこそしていないが、心の穴はむしろ前より広がっている。
ギャスパーは公園のベンチに座っていた。一誠が殺され誇銅が襲われた公園だ。
仲のよさそうな兄弟を見て何かを思い出すように俯く。
「こんな昼間っから暗い顔をしてどうしたんだい? 未来ある若者がリストラされたサラリーマンみたいなオーラを出すとか日本の未来が不安になるよ。
なに? 高校で先輩にいじられたりして落ち込んでるの?」
誰かがギャスパーに声をかける。その声は少年のようなやや低めのはっきりした声で、どことなく愛嬌のある響き。
ギャスパーは声に反応し声の方を見る。そのにいたのは赤褐色のドリルのようなツインテールの少女。
「話くらいだったら僕が聞いてあげるよ。赤の他人だから相談できることもあるさ。さあ、僕に話してみなよ」
そう言って少女はギャスパーの隣に座る。
普段のギャスパーなら知らない人に声をかけられた時点で怯え、隣に座られた瞬間その場から逃げだすが、今のギャスパーはそんなことよりこの悩みを聞いてもらいたいと思いの方が強かった。
ギャスパーはそんな思いから見ず知らずの少女に悩みを打ち明ける。
「僕の大好きな先輩が遠くに行っちゃったんです。とっても悲しかったんですが、戻ってきてくれました。
でも、一度は戻ってきてくれたんですが、なにやらひどいことをしてしまったらしく決別されまた遠くに行っちゃったんです」
「なるほど。君は決別されるようなことなのになにをしたのかわからないの?」
「はい、最初遠くに行っちゃった時何があったのか僕は知りません。でも、僕たちは先輩にひどいことをしてしまったらしいのです」
「で、君はどうしたいの?」
「先輩と仲直りがしたいです!
でも、きっと許してもらえません。だから……」
「……は~、君は実に馬鹿だな」
「え?」
少女はため息を吐をつく。
そしてちょっと呆れ顔をしながらギャスパーの方に向きなおす。
「君はその先輩に恥ずべきことを何もしてないんだよね?」
「はい!」
「じゃあ堂々と会いに行けばいい。
君に本当に何も悪いことをしていなければその先輩は受け入れてくれると思うよ」
「でも……」
「君はその先輩とまた仲よくしたいんでしょ?」
「はい」
「じゃあ行っておいで。それとも君の先輩はそんなに信頼できないの? その程度の気持ちだったの?」
ギャスパーは先ほどの暗い表情から何かを覚悟した表情になり、今にも死んでしまいそうな声もはっきりしたものに変わる。
「そうですよね。会いに来てくれないなら僕から行けばいいんですよね。
それに行けばなんでこんなことになったのかわかるかも知れない!」
「そうだね」
「ありがとうございます。僕の名前はギャスパー・ヴラディです。あなたのお名前は?」
「重音テトだお♪」
「ありがとうございました。重音さん!」
「テトさんでいいよ」
ギャスパーはお礼を言うとそのまま走ってどこかへ行ってしまう。
ギャスパーの姿が見えなくなったところでテトはつぶやく。
「まったく、誇銅は今でも君のことを気にかけていたよ。『一人前になる前に離れてしまった』ってね。
でも同時に誇銅は心配はしていなかった。『ギャスパー君なら絶対に乗り越えられる。それに僕と違ってギャスパー君には居場所がある』ってね」
テトは一度伸びをして立ち上がる。
そして鼻歌を歌いながら公園を出て行く。
ギャスパーはその後誇銅の家の目の前まで来たが敷地に入ることができなかった。
目の前に壁があるわけでもない。危険を感じるわけでもない。ただ入ることができない。
不思議に思いながらもギャスパーは何度も入ろうと試みたがすべて失敗に終わる。
結局その日は帰ることにしたギャスパーであった。
VOCALOID(UTAU)から 重音テト