BADENDの先に掴むもの   作:超高校級の警備員

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 私を5以下から救ってくださった方に感謝の極み。
 そして、これまで応援してくださった読者の皆様に感謝感激雨あられ。


罪の聖女と復讐の将軍

 レイヴェル・フェニックスは未だに悩んでいた。なぜ誇銅は消されることになってしまったか。

 少し前までは悲しみと失意で考える気になれなかったが、最近になってやっと落ち着いてきた。

 そして少し余裕のできた頭で考えてみて不自然だと。

 裏で何かが起こってたとしても表で起きてる事に助けになりたいと思っていた自分が何の手も打てなかったのか。いや、打たなかったのか。

 

「実家の力を借りればもしかしたら。

 シルバー君の件があるのでお父様には情で訴えかければ十分可能性もあったかもしれませんのに。

 そもそも誇銅さん自身も大切な存在が目の前にいたのになぜあんな事に?」

 

 次から次へと不自然な無行動が頭に浮かぶレイヴェル。

 

「誇銅さんの優しさが甘い判断を……いえ、それを盾子さんが見逃すのもおかしい。

 もし仮に冥界、三大勢力側が強硬手段をとったと考えても理由が見当たらない。

 和平を目的とするのに自ら敵を作る理由なんて……」

「それがあったんですよ」

「!!」

 

 一人で考えふけっていたレイヴェルの隣にいつの間にか死んだはずの月と恋の姿が。

 あまりに急な、そしてさも当然のようにいた月に対してレイヴェルは動くことどころが声も出なかった。

 

「おそらく私たちの力がテロリストに渡る確率と、私たち自体を敵に回す危険性を天秤にかけたんでしょう。

 そして、誇銅さんの異常な回復さえ抑えれば人材の十分そろった自分たちで十分殲滅できると考えた。そんなところですかね。

 確かに私たちは強かったですが、数も少ないうえに後ろ盾もない。一般人だから組織力もないと考えたんでしょう」

「ゆ、月さん……?」

 

 ようやく硬直が解けたレイヴェルは月と距離をとるということはせずにその場で質問する。

 逃げる必要はない、どうせ無駄であろうと思い。

 

「はい? なんでしょうか?」

「どうしてここに?」

「どうしてって、復讐に来たんです」

「ふ、復讐……まあそうですよね」

「ええ♪」

 

 レイヴェルはすぐさま月の言葉に納得した。

 彼女たちがどれほど誇銅の事を愛していたかレイヴェルは知っている。

 そんな彼女たちが復讐に冥界に来ることなど当然と言っていいだろう。

 

「それで、最初は私ですか?

 誇銅さんに好意を寄せておきながら大切なことは何一つ行動を起こさなかった私を」

 

 そして自分もその対象に入っているだろうと。

 いかに誇銅と仲良くしていたかと言っても自分は悪魔。憎むべき種族の一人である。

 それに仲が良かったと言っても自分は何もしなかった。

 いじめといじめの傍観は同じ罪であるとして。

 

「逃がしてあげましょうか?」

「え?」

「もちろん貴方とギャスパーさんだけですが。

 私はこれからリアス・グレモリーとその眷属に罰を与えにいく予定です。

 レイヴェルさんとギャスパーさんは絶対に耐えられないでしょう。だから私たちのことをリアス・グレモリーに秘密にしてこっそりギャスパーさんを連れて逃げる時間を与えてもいいですよ?」

 

 その言葉にレイヴェルは一瞬自分の罪を許されたような気分になったが、それは自分の勝手な錯覚だと消し去る。

 消し去るどころか月は自分に新たな罪を作らせようとしてる。

 

「……リアスさんたちを裏切れと?」

「別に裏切ろと言ってるわけではありません。貴方たちは“偶然”出会わなかった事になるだけですから。

 誇銅さんの弔いで誇銅さんが好意を抱いてた人をできれば傷つけたくはないのです。

 ――――――――――約束、守ってくれますよね?」

 

 レイヴェルは月の笑顔に人間が思い描く魔王の鱗片を感じた。

 

 

 

     ◆◇◆◇◆◇

 

 

 アマテラスたちの助言を聞いた一誠たちはそのその日は早めに修業を切り上げてみんなでちょっとしたお茶会のようなものを開いた。

 ぶっちゃけ普段の部室でのくつろぎかたとあまり変わらない部分はあるが陽影の言ったことを実践する意味で普段よりは豪勢になっている。

 

「どう小猫、何かわかった?」

「……いえ、いつもより味わって食べることを意識してみましたが特に何かつかめると言ったことは……」

「そんな一朝一夕でどうにかなる問題じゃないぜ小猫ちゃん。

 小猫ちゃんならきっとすぐにつかめるようになるさ」

 

 鬼喰いにもらった助言をうまくいかせなくて落ち込む小猫を一誠が励ます。

 その際一誠に頭を撫でてもらった小猫は明らかにうれしそうな顔をした。

 そんな中にレイヴェルが入ってくる。

 レイヴェルもオカルト研究部の部員であるため当然歓迎された。

 だが、レイヴェルはそのおいしそうなお菓子に目もくれない。

 そんなレイヴェルに次いでグレモリー家の使用人が飛び込んできた。

 

「大変ですッ!! 禍の団が冥界に襲撃しました!」

「なんですって!?」

 

 突然の禍の団の襲撃報告。

 楽しいお茶会はすぐさま強制終了し戦闘準備に入る。

 使用人の悪魔から魔王からの命令を受けとり現場へ向かう。

 だが、ギャスパーだけは未だにレイヴェルと何かを話している。

 

「ギャスパー、早く来なさい」

「はい! 部長。それじゃレイヴェルさん部長が呼んでるので後で」

「あっ……」

 

 リアスたちは戦闘の支度を手早く終わらせて伝えに来た使用人から支給されたフェニックスの涙を受け取る。

 そして使用人の悪魔は現在の冥界の状況を簡単に説明した。

 

「ここまで敵の侵入を許してしまうなんて、一体どんな手段を使ったんでしょうか?」

「そんなことより今は奴らを倒すことが先決だ!」

「そうですね、今は事態の収拾を急がなくてはいけませんね。

「その通りよ朱乃、ゼノヴィア。とりあえず今一番近い襲撃場所はどこかしら!」

「ここです」

『……へ?』

 

 使用人の悪魔の返答に思わずまぬけな反応を示す。

 

「今皆さんがいる場所、ここです」

 

 グレモリーの使用人と思われた悪魔は不気味な笑顔を浮かべて窓から外へ飛び降りる。

 そしてリアスたちが遠距離攻撃を与えにくくも自分の姿は確認できるとこまで走るとその場で立ち止まる。まるで自分を追ってくるのを待つように。

 窓の外を見ると屋敷の周りを広い範囲が結界によって閉じ込められていた。

 

 

 ―――――――――――ゴト

 

 

 窓とは反対側の部屋の入り口から何か大きな、ちょうど人が倒れたような音が聞こえた。

 

「これは……!!」

「酷い」

「見るなアーシア!!」

 

 首のないグレモリー家本来の使用人らしき人の遺体が趣味悪く立たされていた。

 その近くには血なまぐさい臭いが漂う大きな布袋。

 おそらく中には生首が詰まっているのであろう。

 

「こんな惨いことを……禍の団、絶対許しちゃおけねぇ!!」

「その通りよ。みんな! 早く行くわよ!」

『はい!!』

 

 グレモリー眷属は逃げた悪魔を追う。

 その悪魔はリアスたちが屋敷から出たのを確認すると全速力で飛んでいく。

 

「捕まえたぞ!!」

 

 だが、弱体化したとはいえ赤龍帝や騎士の木場の速さには勝てずある程度の距離で捕まえた。

 

「シシシ、俺を捕まえたとこでこの結界は解けない。

 殺したいなら殺せば? 俺はただの案内人だから」

「案内人?」

「そう、この先にお前たちとの対面を希望する人がいる。

 破面と言えば通じるだろう?」

「破面……」

 

 その言葉でこの先に待ち受けているであろう敵の正体が何となく想像がついた。

 リアスたちは案内人と称する悪魔の案内通りの場所へ向かう。

 そこはリアスたちも訪れたことのある場所。

 リアスたちが誇銅ファミリー全員と初めて敵対した場所。

 

 

「お久しぶりですね、オカルト研究部のみなさん」

「月……やっぱり誇銅の関係者か」

 

 そこに待ち受けているのが誇銅関係者の破面(アランカル)であろうことはリアスたちも想像に難くない。

 レーティングゲームの時と違って異空間ではないが試合をするには十分な広さの闘技場。

 そこで月は待ち受けていた。

 

「しかも禍の団と協力して冥界襲撃。目的は私たち? それとも冥界そのもの?」

「はい、誇銅さんの復讐とフランちゃんの敵討ちに来ました。

 だけど禍の団と協力したわけではありませんよ? ただ騒ぎに便乗させてもらっただけです。敵の敵は友ってね」

「残念だけど信用できないわね。

 前々から貴方たちが禍の団と裏で繋がってた証拠があるのだから。それにこの悪魔も禍の団の悪魔でしょ?」

「別に貴方たちが私を悪だと思うなら勝手にそう思ってればいいです。

 ちょうど三国志で董卓は大悪党として描かれていますし。

 でも、真実と自分には決して嘘はつけませんよ? 結局最後に人を追い込むのは残酷な真実と自分自身なのですから」

 

 月は不敵に笑う。

 その表情はどこかかわいらしさもあるが、それ以上に不気味な闇が見え透いている。

 今の月は非道な悪女の雰囲気がよく出ている。

 

「やっぱり月さんもフランちゃんと同じように」

「あらあら、間に合わなかったみたいですね、

 じゃあ仕方ありませんねえ。残念ですが受けてもらうことになります」

 

 月はギャスパーの姿を見て意外そうな表情を見せたがすぐさまリアスたちを挑発する体制に戻した。

 月の一瞬だけ変化した様子を気にはなったがそこを追及する余裕はない。

 

「どうやら恋―――――呂布はいないようだな。確かにお前の回復は強いが一人だけなら問題ない!」

 

 ゼノヴィアはエクス・デュランダルの刃先を月に向けて強気な態度に出る。

 それは回復役の敵一人ならばという安心感とサポート役になど負けないと言う自身からきている。

 破面の強さは身を以て知っているがそれを踏まえても日常の月が強いとは到底想像できないのである。

 

「恋ちゃんは後から来ますよ? 魔王たちを殺してからね」

「魔王たちを殺す? お兄様が貴方たちなんかに負けるわけないじゃない!」

「ならそう思ってればいいんじゃないですか?」

「なんですって!」

 

 月はどんどんリアスを挑発する。

 悪意に満ちた月の言葉がリアスたちの心を浸食する。

 既にリアスたちの心は月の悪意で疲弊させられている。

 

「恋ちゃんがいたら貴方たちは一瞬で死んでしまいます。

 恋ちゃんが仕事を終えてここに来るまで私が一瞬では死ねない方法で苦しめてあげます。

 でもご安心ください、苦しいのは恋ちゃんが来るまでの間です。

 恋ちゃんが来れば苦しみの生から一瞬で楽になれますからね」

 

 そういうと月は振袖から長い鎖を取り出した。

 そして鎖を目の前の障害物を薙ぎ払うかのように横向きに振りかぶった。

 当然鎖は空振りに終わりそれどころが反動で月自身をぐるぐる巻きに縛る。

 一重、二重、三重と月に巻かれる鎖はとぐろを巻く。

 月は自身の行為によって自身の鎖でぐるぐる巻きになり両腕の自由が完全に失われた。

 そして鎖が巻き終わると同時に自身の刀剣解放(レスレクシオン)の号令を発する。

 

「許して――――――――――――――――『咎聖女(アレペンティル)』」

 

 月のすべてが爆発的な霊圧上昇によって生じた煙で隠される。

 だが、爆発的な霊圧上昇ではあるがその規模はフランドールと比べると小さい。

 そしてその姿は三蔵法師のような僧衣を纏い背中には大きな十字架を背負っている。

 見栄えは悪くないがお世辞にも強そうには見えない。

 むしろ背中の十字架が重しになってさえ思える。

 現に月から感じる脅威はその怪しい雰囲気以外は皆無である。

 だが、それだけで十分であった。

 

「さあ、自分の罪と向き合いなさい」

 

 月の十字架が怪しく光る。

 この瞬間から月の与える地獄が始まった。

 

 

   ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 冥界の中心部、本来なら魔王たちが集まる場所。

 そのため普段は魔王たちの他に護衛の悪魔や雑用をこなす悪魔も多くいる。

 だが、現在は非常時のためその護衛たちは禍の団討伐で出払っている。

 それが魔王たちを無防備にしたと同時に幸運にも死者を抑える結果となった。

 

「……あそこか」

 

 魔王を殺しに来た恋がすぐそこまで迫っていたのだ。

 もしもこの場に護衛の悪魔がいれば無駄に死体が増えていただろう。

 恋は苦手な探査回路(ペスキス)を使用して魔王の位置だけはきちんと把握した。

 だが、ここで恋の進路を妨げる者たちが現れる。

 

「おっと、ここから先は通すわけにはいかないな」

 

 恋の進路を妨げたのはヴァーリ率いるヴァーリチーム。

 

「……どけ」

 

 恋は無言で斬り伏せようかと考えたがまずは警告した。

 20分ほど前からまたタバコを切らした恋だったが今はギリギリのラインでイライラはしていない。

 だからいちいち斬るのがめんどくさいという心が勝り殺気を放ってどかせようとしたが、

 

「すさまじい殺気だ。この俺ですら一瞬ぶるっときたぜ。

 だからこそこの血がたぎる!」

 

 それは逆にヴァーリーの戦闘狂の部分を刺激しただけであった。

 恋のめんどくさい気持ちは(あき)れへと変わり、そのせいでイライラの方が勝った。

 『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』の禁手化『白龍皇の鎧(ディバイン・ディバイディング・スケイルメイル)』の顔の部分だけを纏っていないヴァーリに無言で斬りかかる。

 実力者のヴァーリはこの攻撃に気づけたが気づいた時には刃はもう目の前。避けることも防御も間に合わない。 

 ヴァーリは自分の世界がゆっくりに見えた。

 

「危ない!!」

「危ねぇ!!」

 

 近くにいたアーサーと美猴がなんとか恋の剣からヴァーリーを守った。

 だが、美猴の如意棒は弾き飛ばされアーサーはこらえきれず倒れ、ヴァーリは浅くだが斬りつけられたうえに壁に激突。

 ただの斬撃を防御しただけなのに割に合わない被害。

 戦闘狂の集う百戦錬磨のヴァーリチームに対して早速格の違いを見せつける恋。

 

「ゴッくん」

 

 後衛に控えていたルフェイが自身の護衛であるゴーレムに命令する。

 ゴーレムは態勢を崩したヴァーリたちの盾になるように恋に襲い掛かるが、恋は一太刀で縦に切り裂く。

 ゴーレムは本当の意味で盾の役目しか果たせなかった。

 

「ゴグマゴグを一太刀だと!? ヤバい状況だがますます面白い」

 

 立ち上がったヴァーリは鎧を完璧に纏って恋に立ち向かう。

 

「DivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivide」

 

 接近しながら半減の力を容赦なく使い恋の方まで飛んでいく。

 普通ならこれだけ半減の力を受ければいかに強者であろうと万全の体制は崩れる。

 あれだけ鋭さを見せた攻撃ももう安全に受けられるレベルに落ちているハズ。ヴァーリーはそう思っていた。

 

「……悪魔……斬る!」

「なっ!!」

『逃げろヴァーリ!! 斬られるぞ!』

 

 かつて味わったことのない死のイメージがヴァーリとアルビオンの頭の中に強く映し出される。まるで数秒後の自分たちを予知したかのように。

 半減されたはずの恋の威圧感は一ミリたりとも減っていない。

 一誠より豊富な実戦経験と一誠と比べて危険に関して少しだけ臆病だったヴァーリは体をずらし、減速して恋の攻撃を最小限に収めた。

 

「ヴァーリ!!」

「ぐあああああああっ!!」

 

 ヴァーリーの左肘から下をきれいに斬られた。

 初撃を外した恋は今度こそヴァーリの命を刈り取ろうと剣を振るったところを美猴の如意棒が危機を救う。

 

「大丈夫か、ヴァーリ」

「はぁはぁはぁ」

 

 恋の重い一撃が幸運にも強制的に距離を開けさせた。

 それにより追撃による致命傷を防ぐことができた。

 

「やめろニャ、これでもくらえにゃ!」

「これ以上好き勝手にはさせません!」

 

 黒歌は仙術を織り交ぜたオリジナルの妖術で特殊な毒を恋に吹きかけ、ルフェイはヴァーリたちを巻き込まない程度に強力な魔法で恋を攻撃する。

 だが恋は黒歌の毒も効いてる様子はなくルフェイの魔法攻撃は斬ってしまう。

 

「……邪魔」

 

 恋は毒霧と魔法攻撃の爆風の中から飛び出す。

 後衛の二人を守るためアーサーと美猴が飛び出す。

 だが、二人の位置から恋が真っ先に行ったルフェイと方へは間に合いそうもない。

 

「えっ!?」

「ガルゥ」

「きゃっ!」

 

 そこに飛び出したのがもう一匹の護衛、弱体化したあフェンリル。

 最初は恋を見てガルルルと威嚇していただけで近寄ろうとしなかったフェンリルだが、ルフェイと危機と察すると恋の前に飛び出した。

 しかし、恋は軽くかわされてしまい足止めすらできない。

 そのまま恋はルフェイを切り殺すと思われたが、恋はルフェイの服を掴んで救援に来たアーサーの方へ放り投げただけ。

 

「にゃッ!!」

「くっ! オラァァ!」

 

 だが、黒歌に対しては予想通り斬りつけた。

 それを受け止めたのは美猴。思い初撃だった代わりに次の一手には時間がかかりアーサーが駆けつけニ対一の状況に持ち込めた。

 二人が恋を抑えているうちに黒歌とルフェイはヴァーリの応急処置に向かう。

 

「しっかりしてヴァーリ」

「俺なら一応大丈夫だ。腕一本くらいアザゼルと同じだ。

 それよりあの二人の援護を。あいつが相手では殺されてしまうぞ」

『その心配はないかもしれんぞ』

 

 ヴァーリが珍しく弱気になっているところにアルビオンが声をかける。

 

「どういうことだアルビオン?」

『どうやらこいつが殺しに来てるのはヴァーリと黒歌だけ。つまり悪魔だけということ。

 安心はできないがヴァーリと黒歌以外は殺される確率は低めと見積もってもよいだろう』

「……確かに。だからあいつは俺と黒歌以外は直接狙われなかった。

 それならさっきのルフェイのこともつじつまが合う」

 

 完全にニコチンがきれた恋は同族でも手が付けられない。

 この状態の恋を安全に処理するには月か新しいタバコくらいである。

 だがそれでも極力無関係者、非戦闘員は殺さないようにしている。

 

「ぐはっ!」

「……まず一人」

 

 そしてニ対一だった斬りあいも圧倒的な剣術の差に美猴がフェイントからの拳を受けてしまう。

 そこから破面のパワーからの回し蹴りで美猴は壁に思いっきりめり込んだ。

 その隙をついてアーサーが重い一撃を加えるが、

 

「そこだッ!」

「……」

「なにッ!!?」

 

 なんと剣ではなく腕で止められた。

 聖王剣コールブランドの一撃を止める恋の皮膚は予想外だったがすぐさまアーサーは回避行動にでる。

 アーサーも巧みな剣術を操るが正直恋の方がうえだ。

 確かにアーサーの剣術も上級だが、それは聖剣の力を使うことを前提とされどちらかというと試合用である。

 だが恋の剣術はまさに一撃必殺の戦場用。ただの鉄の刃で敵を殺すための技。

 アーサーがいかに剣術で劣ってなかろうと、フェエントを織り交ぜて惑わし本筋を隠そうと、いくつもの死線をくぐりぬけようと、この世界より死の恐怖が濃厚な世界で一騎当千の名を手に入れた恋相手には力不足である。さらに加えるなら今の恋は破面である。

 

「俺の魂に答えてくれ、聖王剣コールブランド!」

 

 アーサーはこのままでは勝機はないとして聖剣に認められてはいない身だが精一杯の思いの力を聖剣に込めて力の解放を促す。

 いくら魔法が効かなくとも聖王剣コールブランドの力なら届くと踏んで。

 アーサー・ペンドラゴンの武器、聖王剣コールブランドが神々しいまでの聖なるオーラを放つ。

 彼は今、聖王剣コールブランドの力の解放に成功したのだ。

 

「これならいける……! くらえ! これが聖王剣コールブランドの力だッ!!」

 

 聖王剣コールブランドの輝く一撃は一筋の光となり襲い掛かる。

 その斬撃は空間ごと削り取って恋を切り裂こうとする。

 

「……そこ」

 

 が、空間ごと削り取って切り裂く聖王剣コールブランドの斬撃を逆に斬った。

 その神々しく巨大な一撃を研ぎ澄まされた細い一筋が切り裂く光景は見とれるほど美しく残酷な現実。

 

「な、な、なにッッ!!?」

「……見かけ倒し」

「グハッ!!」

 

 恋はあっけにとられ打つ手がなくなったアーサーを美猴同様壁にめり込ませた。

 だがその光景をヴァーリチームは黙って見ていたわけではない。

 恋の動きをしっかりと見て勝機を探し出そうとしていた。

 

「美猴に続きアーサーまでもこうもあっさりとは。

 フハハ、さすがの俺も恐怖を感じるぜ」

『だけど、あいつの秘密が少し見えてきた。

 聖剣の一撃を切り裂いたのは異質すぎる。

 きっとあいつに魔法や神器が効かないのも、あの異常な強さの秘密もそこにあるだろう』

 

 元々の素質を含めた強さから命を懸けた戦いにおいて弱気な姿勢を見せてこなかったヴァーリ。

 だが、先ほどあまりにもリアルな死のイメージを見せつけられ恐怖する姿はアルビオンも初めてだった。

 だからこそ冷静な判断がしやすいアルビオンが恋の秘密を探っている。

 

「……無敵無頼の鋼皮(ゲラ・シン・コンフィアンサイエロ)。……恋の鋼皮(イエロ)は……異能を受け付けない。

 ……敵も味方も……恋はすべて拒絶する。

 ……それと……丈夫。ただそれだけ」

 

 アルビオンが悩みに悩んで見つけ出そうとした秘密を恋はあっさりと暴露。

 知られたからといってどうにかなる問題ではないが、美猴とアーサーの敗北が無駄にされたように感じた。

 

『……それじゃ、その剣はどうだ?

 聖剣王の本気を切り裂くなど技量でどうこうできるものではないぞ?」

「……それと、この剣は恋の一部。

 ……丈夫で……異能を受け付けない」

 

 恋の暴露はヴァーリたちの気力を大きく下げた。

 確かに恋に秘密はあった。だが、その秘密はただ異能が効かないだけ。

 この圧倒的状況は技量差だけの結果。

 普段ならこんな状況でも逆転する手段は魔法や神器などの異能が必須。

 それをすべて封じられてしまっている。

 

『くっ、ヴァーリの半減の力とは相性が悪かったということか。

 悔しいがこれが赤龍帝の倍加なら少しはチャンスがあったかもしれんな」

 

 つまり普段の逆転劇などない。

 追い込んだら勝ち、追い込まれたら負けのシンプルな戦い。

 それが破面・恋との戦い。

 

「いや、まだ手はある。

 つまり一撃で仕留める出力があればいいんだろう」

『確かにそうだが、まさか!』

「今やらなければイッセーとの再戦のチャンスはゼロだ」

 

 ヴァーリは明らかに最後の最後に何か企んでいる様子を見せる。

 だが恋は焦ることなくその場を動かないヴァーリーたちに向かって歩く。

 

「我、目覚めるは 律の絶対を闇に堕とす白龍皇なり

 無限の破滅と黎明の夢を穿ちて覇道を往く

 我、無垢なる龍の皇帝と成りて

 汝を白銀の幻想と魔道の極致へと従えよう」

 

 ヴァーリの魔力が爆発的に上昇した。

 白龍皇の鎧が変化しヴァーリーの力もさっきとは比べ物にならないほど飛躍的に上昇している。

 

「『|白銀の極覇龍《エンピレオ・ジャガーノート・オーバードライブ》』!!

 悪いが一瞬で決めさせてもらう!」

 

 ヴァーリは一瞬で目にも止まらぬスピードで恋に攻撃を仕掛ける。

 

(これならいける!!)

 

 逆転劇を確信したヴァーリだったがそれは間違いである。

 恋の動体視力はきちんとヴァーリを確認できていた。

 だからこそ何も焦ることなくいつも通りの動きを神速で行うことで難なく対処したのである。

 結果生まれたのが

 

「ぐああああぁぁぁああああああぁああぁっ!!」

「「ヴァーリ!!」」

 

 ヴァーリは残っていた左肩から先を失うことに。

 だが命は残っている。一度目の恐怖がヴァーリーを無意識のうちに回避優先にさせたのだ。

 恋は倒れるヴァーリにとどめを刺そうとしたが、それをフェンリルが阻止しにかかる。

 

「……うざい」

 

 恋は飛びかかってきたフェンリルを横一文字に斬った。

 悪魔でない人や魔獣を含めた動物などは殺さないようにしていた恋だが、行く手を何度も邪魔されタバコがきれていたこともありこの制限を解いた。

 

「そんな……フェンリルまであっさりと……」

「……よくあること」

 

 だが、弱体化したとはいえ神喰狼。

 

「くぅ~」

「フェンリル! よかった無事だったのか」

 

 フェンリルは深い傷をおってはいたがヴァーリの救出に成功して戻ってきた。

 しかしそれが余計に恋をイラつかせた。

 恋は今度は歩きではなく走ってヴァーリにとどめを刺しに来る。

 そしてその攻撃はまたしても止められた。

 背後からの魔法弾によって。

 

「すまない、城に潜んでいた裏切り者を片付けるのに手間取ってしまって」

『アジュカ・ベルゼブブ』

 

 魔王の一人アジュカ・ベルゼブブの放った魔法弾によって恋の進撃は中断された。

 複数はなたれた弾丸はほとんどは恋の左腕で弾かれたが、地面に落ちた魔法弾は爆発して恋を足止め。

 

『気をつけろあいつは』

「彼女には魔法攻撃は効かない。

 勝負の行方は魔法を使わぬ技量次第というわけだろ?

 救援には行けなかったが外の様子はしっかり把握している」

 

 アジュカは素早くヴァーリたちを回収して城の中に逃げ込む。

 

「そして残念なことに僕では彼女に勝てないことも」

 

 爆発が収まり煙を切り裂き恋が出てくる。

 その矛先はアジュカ・ベルゼブブを殺さんと向く。

 

「だから、勝てる要素が揃うまで籠城させてもらおう」

 

 恋は剣を振りかぶりアジュカのすぐ近くまで来たが目の前に展開されていた透明な結界により阻まれた。

 

「確かに君に触れられた魔法弾は着弾後の魔法は発動しなかった。

 だが、触れることはできた。

 つまり、君は触れる前の無効化はできない!」

 

 恋はその結界を破壊しようと何度も斬りつけるが結界は壊れる様子を見せない。

 恋の剣は異能を受け付けないだけで切れ味は普通の剣と変わらない。ここまでよく切れたのは恋の技量。

 だが、大木を斬るのと壁を斬るのでは斬りやすさは全く違う。

 アジュカの結界はそこも計算にいれているため恋でも斬れない。

 

「ふっ、残念だったな。

 その結界は呂布と言えど一筋縄ではいかんぞ」

「座して死を待て『独戦(ソレダッド・ゲラ)』」

 

 恋の霊圧が一瞬のうちに急上昇し小規模な爆発が起こった。

 爆発の煙が晴れるとそこには解放前と特に変わったところのない恋がぽつんと立っている。

 だが、感じられる霊圧は解放前より強力かつ鋭くなっている。

 今は恋は誰にも意識を向けていないが向けられた時の恐怖はとてつもないものだろう。

 さながら今の状況は武器を持ってない人間が自分に興味をしめしてない虎の近くに座るような恐怖と似ているだろう。

 解放した恋は再び結界に触れようとする。方天画戟に変わった剣を振り上げることもせずに。

 

「一体何をする気だ……?」

 

 ピッ……パリ―――――ン!!

 

「な、なんだって!?」

 

 結界はなんと恋が触れただけで薄い氷が張られた水たまりを踏む如く自然に簡単に砕け散った。

 殴るでもなく斬ったでもなく、ましてや強く振れたわけでもなくただ優しく手を置いただけで砕けたのだ。

 

「……恋の世界に……こんなものない。……だから……壊れる」

「くっ……」

 

 アジュカ・ベルゼブブは様子見をかねて最初と同じタイプの魔法弾で攻撃する。

 恋はその攻撃に一切反応しようとはせず棒立ち状態。

 だが、恋に当たった魔法弾は着弾と同時に消滅した。

 

「なん……だと……ぐっ!!」

 

 恋の一瞬の斬撃がアジュカを襲う。

 刀剣解放(レスレクシオン)した恋の身体能力はもはやだれもついていけない。

 今の一瞬で殺すことももちろんできたが、恋はあえてアジュカの右肩から右足の付け根まで縦に切り裂いた。そして壁際まで蹴り飛ばす。

 自分なりの苦しめ方のつもりである

 

「はぐッ!! はがぁッ!!」

「……恋は孤立。……恋の世界には誰も入れない。……人も……悪魔も……魔王も……神も……(ゆえ)でさえ。

 ……恋の世界にないものに頼る奴、恋に勝てない。

 ……お前らの幻想……恋は認めない。……そんな幻想、ぶち壊す」

 

 魔王の命を奪おうと恋は一歩一歩近づいていく。

 恐怖を仰ぐためにわざとゆっくりと。しかし、少しでも逃げるそぶりを見せれば一瞬で近づいて切り殺せる。

 まさにアジュカは座して死を待つだけだ。

 

「……」

 

 魔王に近づいていく途中、恋の視界に入った机の上にタバコが置いてあるのが見えた。

 ここに来てタバコを切らしてしまった恋は魔王を殺す前にタバコを取りに行く。

 

「なんだか知らんがチャンスだ。今のうちに」

「…」

 

 魔王たちが動こうとした瞬間、恋の足取りも止まり意識だけが魔王たちに向かう。

 それは無言で逃げたら今すぐ殺すと脅しをかける行為。

 恋はタバコを吸いながら外を眺め早速次の標的を探した。

 

 

 

    ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「ギャスパーさん、少しお話があるのですが今よろしいですか?」

「あっはい、大丈夫です」

「ここじゃ話せないことなんでちょっと移動を」

「大変ですッ!! 禍の団と名乗る仮面の集団が冥界に押し寄せています!」

「なんですって!?」

 

 その言葉が

 

 

「あ……その……あうあ……」

 

 

「ギャスパー、早く来なさい」

「はい! 部長。それじゃレイヴェルさん部長が呼んでるので後で」

「あっ……」

 

 事実をそのまま話すわけにはいかない。

 だが、事実を教えなければギャスパーを止める可能性はない。

 この場のレイヴェルの選択は間に合わなかったとして自分一人で急いで避難した。

 怖かったのだ。あの月と対峙することが。

 だから安全に引き返せるラインでギャスパーを見捨てる選択をとってしまった。

 レイヴェルは一人中心部から離れた小屋にいる。

 

「お主は行かんでもよいのか?」

「「!!」」

 

 自分一人かと思ったその場に自分以外の声が聞こえる。

 その正体が味方であれば疑われ敵であればやられる。レイヴェルにとって自分以外がこの場にいることは最悪の結果。

 

「人々が気づかずともそばにいるのが日本妖怪じゃ。

 まあ儂は神じゃがな。カカカ!」

 

 だが奇跡的にもその正体は敵でも味方でもない存在であった。

 レイヴェルの傍にいつの間にか現れた日本最高神・天照大神。

 

「冗談はさておいて儂らはお主らが来る前からここに居った。

 敵かどうかわからんと隙を見て脅かしてやろうとの思いで今まで隠れておったのじゃ。

 日本妖怪たるものいつでも遊び心を忘れてはいかんからな。って儂は神だっての! アハハハハっ」

 

 アマテラスは一人ノリツッコミで一人で笑う。

 レイヴェルはそのノリに全くついていけてない。

 だが、自分の立場が悪いことは変わりない。

 

「ところで、なぜ日本神話勢力がここに? 今の冥界の状況からお気を悪くするでしょうが怪しいです」

「怪しいのはお主の方じゃ。なぜ悪魔がこんな時に中心部から離れたこんな場所にいるのじゃ?

 部外者の儂らと違ってお主らは町にいるべきじゃろう。

 それもこんな緊急時にはなおさらな」

「あ、うぐぐ……」

 

 レイヴェルは何とか話をそらそうと頑張ったが藪蛇で逆に自分の立場をより悪くするだけの結果。

 しかもアマテラスはその話題にぐいぐい触れてくる。

 

「この緊急事態、悪魔たちは戦場に向かっておるか安全なとこに避難するのが筋じゃろう。

 しかし、この場所は戦場とも避難場所とも違う。

 暗部って可能も無きに非ずじゃがこの場所から得られる情報など価値はない。

 それに暗部だとすればお主はひよっこ、いや、まだ卵にもなっておらん。つまり違うであろう?」

「そ、それではなぜ天照様はこんなところに?」

「この騒ぎを起こした者にこの場は安全と言われてな」

「な!?」

 

 レイヴェルは苦し紛れで反論してみるとアマテラスはあっさりと犯人との関係を認めた。

 この騒ぎに加担はしていないがそれでも立場ある者に知られてはまずい情報を簡単に漏らす。

 

「なに、お主もこちら側の者じゃろう?

 さっきまでの様子から推測できる」

「あ、ああ」

「さあ、話してみよ。ここにお主を害する者はおらん。

 お主の目には罪の意識がたまりにたまっておるが悪人の瞳ではない。儂に話して気持ちを軽くするがよい」

 

 レイヴェルはアマテラスの誇銅にも似た不思議な安心感を感じた。

 それは太陽神天照と火の賢者プロメテウスのどこか共通するものがあったからかは定かではない。

 レイヴェルはすべてを話した。この騒ぎの発端であろう誇銅の事件、誇銅がどのような扱いを受けていたか、禍の団の活動、そしてなぜ禍の団が生まれたかすらも。

 

「……なるほどな。つまり冥界は痛みから重要なことを学習せんかったわけじゃな。

 これで冥界で集めた情報も基にして儂の考えは決まった。

 まったく、制御もできん甘い考えも持ちよって」

「結果として自身の犠牲を最小限に抑えようとして周りにそれ以上の犠牲を強いたわけですね。

 奴らは既に天照様の一度の猶予をとっくの昔に無に帰してたわけですね」

「うわっ!」

 

 アマテラスの傍にこころが最初からいたかのように自然と会話に入ってきていた。

 

「いつの間に」

「私は日本を背負う身、このくらい常識」

 

 微妙にかみ合わない会話。

 レイヴェルはもうこの話題は発展しないとあきらめて次の会話に進む。

 

「ところで先ほどの猶予という言葉が引っ掛かるのですが、差支えなければお教え願えませんか?」

「三大勢力との同盟を害悪として同盟を組まないという方針で一度は決まりかけていた。

 だが、天照様は一度だけ猶予を与えようということで拒絶ではなく保留という形をとっていたのだ」

「天照様はなぜ三大勢力にチャンスを与えようとお考えになったのですか?

 失礼ですが先ほどの見えた天照様の一面から私にはチャンスを与えるような考えに至るとは思えませんでした」

 

 こころはアマテラスの顔をじっと見る。頭の面は猿面へと変わっている。

 アマテラスはしばらく考えこんだ後口を開いた。

 

「まず前提として日本の名のある神はもう儂以外にはおらん」

 

 アマテラスは悲しそうな表情をし、こころの面も悲しそうな姥面へと変わった。

 

「その昔、儂がまだ無知蒙昧で少しく気に食わない事ががあれば人間を祟っていた時代の事じゃ。

 わが父イザナギも既に黄泉の国の母のもとへ行ってしまい儂らにすべてが託されたのじゃ。

 なのに儂を含めた日本の神たちは福を管理することにより人間たちを支配しようと考えていた。

 儂も当時は大賛成してそれを通した。そして儂自身は人間たちの畏怖の念を吸って怠惰に毎日を過ごしておったわ」

 

 それはアマテラスの過去。愚かだった幼稚だったアマテラス。

 思い出したくもない過去だがこれを教訓として少しは

 

「だがそれも長くは続かなんだ。

 傲慢な神共は毎日毎日碌に仕事もせず遊びほうけておった儂を天岩戸あまのいわとに閉じ込めて儂の地位と権力を奪いとったのじゃ。

 他の神共も儂を一切助けようともせずに好き放題暴れよったんじゃ。

 そしてその時の主犯でありもっとも調子に乗ったのが七福神と呼ばれる神共じゃ。人間に割り振られる福をすべて独り占めして悦楽に浸っておった。

 儂の事も無理やり犯して子をはらませて勢力規模を拡大して他も侵略しようとしっとったらしい。

 その時儂の事を救ってくれたのが八の妖怪、初代七災怪とこころじゃ。

 妖怪たちの手によって有頂天になっておった七福神の野望は潰えた。

 儂を裏切ってた神共は儂が全員消した。儂はもう他の日本神が信用できんかった。

 後先考えず傷ついた神共を一人残らず焼き尽くした。

 そしてこんな愚かな儂を見捨てないでいてくれた妖怪たちのために住みよい日本にすることを誓ったんじゃ。

 信頼できる妖怪たちと共にな。

 その時から福を管理するのを止め、厄を管理することにしたんじゃ。

 幸せは儂らの采配ではなく人間一人一人の努力でつかみ取ってもらおうと。そしてそれを脅かす厄を我らが管理しようと思ったのじゃ。

 そして福を管理する神、七福神の霊力だけを笠と提灯に作り替えて、新たに厄を管理する七災怪の象徴とすることにした。

 これが日本で起こった出来事じゃ」

 

 アマテラスは遠い過去を見つめながらさびしげな瞳で語り終える。

 レイヴェルは気の毒そうに口を開く。

 

「天照様以外に日本の事を考える神はいなかったんですね」

「んにゃ、おったぞ。アマノウズメやイシコリドメとかな。

 特にスサノオなんか亡き父上と母上が残してくれた大好きな高天原を荒らしてまで日本を守ろうとしたらしい。

 だがそれはごく少数なうえに反乱が起きる前に全員暗殺されてしまってた。

 あのころの儂があ奴らの言葉をしっかり聞いていればもっとよい日本になっとったかもしれんな」

 

 アマテラスは先ほどのさびしげな表情から打って変わって普通の表情に戻る。

 確かに過去に過ちを犯した。

 だが、それはアマテラスにとっても今に至るために必要な生贄。

 過去に戻れるならば正したいとすら思っているが、アマテラス自身は既に未来を考えている。

 語っている時はさびしく思ったが、語り終えれば過ぎ去った大昔なので引きずらない。

 

「と言うことは今日本にいる神はあなた一人」 

「そうじゃ。だからって日本が弱くなったわけではないぞ。むしろ昔なんかよりもずっと強くなっておる」

 

 アマテラスはそう言って近くのちょうどいい大きさの石に座ってこころが入れたお茶をすすった。

 

「しかし、あの事件が起こったのは必然じゃったかもしれんな」

 

 アマテラスは再び過去を見つめる。

 その瞳に寂しさは映っていない。

 

「儂を含めた他の神たちもはじめっから愚か者だったわけではない。

 過度な平穏が儂らを堕落させた。

 今は神々を大虐殺した儂を恐れ反乱する者はおらんが、理由はそれだけじゃ。

 他の神がやってきたことを儂一人でやっとるから目も届きにくい。難儀なことじゃ。

 まっ、最近は近代化が進んで神としての仕事は減っておるがな」

 

 その瞳に映っているのは過去を見つめつつも冥界の惨状。

 

「これは儂の持論じゃが、程よい不穏が平和のコツじゃ。

 蛇、蛙、蛞蝓も漁夫の利を得ようとせず永遠に戦い合っていれば全員生き残れる」

 

 アマテラスはどこか達観した様子で冥界の騒動を眺めた。

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