BADENDの先に掴むもの   作:超高校級の警備員

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 予定時間に遅れてしまい申し訳ございません。
 ちょっと最後の部分がいまいち納得がいかなくて修正していました。
 現在もそこまで納得がいってませんが、まあ描きたかった結末はかけたと思うので投稿します。
 後ちょっと長いです。
 








 たぶん読者の方は忘れてると思うので一応乗せときます。

 清水(注:月の偽姓) 朝倉(恋の偽姓)


背負う十字架の重み

「さあ、自分の罪と向き合いなさい」

 

 月の十字架が怪しく光りだす。

 リアスたちはこれから繰り出されるであろう攻撃に身構えた。

 

「―――――――――――――何も……起こらない?」

 

 だが、しばらく待っても月の攻撃は始まらない。

 月本人も怪しく微笑むだけでその場から動こうとはせず十字架の光も収まっている。

 

「何にもないなら次はこっちの番だぜ――――――」

「うふふ」

 

 勢いよく駆け出すリアスたちだが皆ゆっくりと減速しだして立ち止まった。

 そうして何かに呼び止められたかのように立ち止まり、今現在は頭を抱え苦しみだす。

 

「ぐぐぐ……違う、やめろ!! そんなつもりじゃない!」

「それは違う! 違う! 違うんだ! ……違う」

「」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「そうそう、そうやって自分の罪と向き合いなさい。

 そして自分自身の罪悪につぶされなさい」

 

 リアスたち、いや、月以外のその場の全員が様々な様子で苦しみだす。

 その際月がした行動と言えばしゃべり笑ったくらい。

 なのりリアスたちは今までのどんな激戦でも逆境の中でも見せた事ないほど苦しみだした。

 

 

     ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 フランちゃん同様に破面となって生き返った清水さん(注:月の偽姓『悪と呼ばれた仁王と飛将軍』)

 清水さんの戦い方はよくしらないけど強力な回復系の神器を持ってることは覚えてる。

 確かに強力な回復力は脅威だが、回復系ということはアーシアと同じサポート型。そこまで強くないはず。

 しかし油断はできない。破面としての能力。フランちゃんとの戦いで破面としての力がどれほどのものかを体験している。それに清水さんには過回復の攻撃もある

 

『相棒、確かにあやつからは強さは感じない。だが破面だ。

 それに相棒も病み上がりなのだからくれぐれも油断はするなよ』

「ああ、わかってる。それに今の俺には油断する余裕なんてねえよ」

「さあ、自分の罪と向き合いなさい」

 

 清水さんの背負う十字架が怪しい光を放つ。

 なんだ! 一体何をする気なんだ!

 俺や木場はみんなを守るために前に出てガード体制をとる。

 その後ろでゼノヴィアやロスヴァイセさんがリカバリーのために控えてくれる。

 だが、10秒ほどたっても何の変化も起こらない。

 なんだ、攻撃を止めたのか? 清水さんは何をするつもりだったんだ?

 

「なんだかよくわからねえが次はこっちの番だぜ!」

〈また殺すのか?〉

 

 突如頭の中で声がする、まるでドライグが俺に声をかけるように。

 だがドライグの声ではない。

 どことなく聞き覚えのある声、それが自分の声だと気づくのに少し時間がかかった。

 

〈そうだ、俺はお前だ。

 それで、お前はまた自身が生み出した被害者を殺すのかと聞いている〉

 

 俺の手で生み出した被害者?

 一体何を言ってるんだ?

 

〈誇銅を見捨てた〉

 

 あれは、仕方なかったんだ。

 誇銅が禍の団と繋がってる証拠を見せられたからには俺がとやかく言えるようなことじゃなくて。

 

〈仲間だ仲間だ言っておきながら何の行動も起こさなかった。

 もしもリアス・グレモリー眷属の誰かが同じように疑われ証拠を提出されたとしたらお前は同じ対応ができるか?

 答えは言わなくてもわかる。なんだって俺もお前も兵藤一誠だから〉

 

 なんだか胸や頭が痛くなってきた。

 周りを見回すと他のみんなも俺と同じような症状に見舞われてる。

 くっ、なんだこれは。

 清水さんの精神攻撃か!?

 

〈俺は知っていた、誇銅が処分されること〉

 

 何言ってんだ、知るわけないだろ!

 そもそも誇銅が疑われた時だって魔王様たちが誇銅から話を聞くだけだって。

 

〈オーディン様の時に言われたじゃんか、“もし傘下に入れることができないなら、敵になることを想定しても最悪の手段をとることも総意だ”と〉

 

 あっ……。

 そうだ、確かにそんなことを言われてた。すっかり忘れてた。

 でもだからってすぐに処分が下されたわけじゃないだろ!

 きっといろいろ悩んでからのなくなくの決断だったと思うぜ。

 

〈そんなの俺たちは知らない。

 ちょっと話がそれるかもしれないが俺と俺の間柄ってことで許してくれ。俺が伝えたいのはこっちなんで。

 確かこの頃からだったよな、誇銅を自分たちの仲間だとしつこく言い出したのは〉

 

 な、なんだよ。誇銅は俺たちの仲間なんだから別におかしいことないだろ。

 

〈誇銅は俺たちの治療に禍の団撃退の手伝い、修学旅行では階段を治してくれたりもしたな。

 そんで―――――俺たちは誇銅に何をしてあげた?

 答えは何もしてない。

 でも、そんな形の仲間はまあありと思う。匙なんかにも聖剣破壊の見返りは何も渡してないが、共闘や拳を交えたことで仲間と呼べるくらいの間柄にはなってるだろう。

 ところで……誇銅が一度死んで以来、誇銅は俺たちの事を仲間と呼んだっけ?〉

 

 そんなのもちろん言われて……あれ? 言われたっけ?

 よく思い出せ俺、絶対に言われてるはずだ。

 誇銅だって一緒に戦ってきた仲間なんだから。

 

〈俺は俺の記憶をすべて知り、瞬時に調べることができるんだが、三大勢力会談以来仲間と呼ばれた記憶がないんだが。

 俺の勘違いだったりするか?

 それにそもそも俺だって本当に仲間って思ってたのか?〉

 

 こいつの勘違いに決まってる! こいつは俺なんかじゃない!!

 ライザー戦の時も、コカビエル戦の時も、俺が暴走しちまった時にだって体を張って助けてくれるようないいやつなんだ。

 そんな最高な仲間を坂間と思ってないわけないだろ!!

 

〈眷属時代はただの同期。三大勢力会談頃はどうでもいい格下。そして生き返った後は都合のいい回復要因ってとこか?

 まあこれは記憶からの推測だけどな。

 流石にその時どう思ったかまではあまり記録されてないんだよな。無意識なら特に。

 まあ、案外当たってるかもしれないな。三大勢力会談の時なんて誇銅の存在をガチで忘れたもんな〉

 

 俺の声をした幻が俺の心を掻き毟っていく。

 それも記憶だけは正しくまるで本当にそうだと錯覚されそうになる。

 それでも俺は自我をしっかり持って踏みとどまる。

 どうすればこの幻を消せる。

 俺はいつこの攻撃を受けたか鮮明に思い出す。

 すると怪しく光った十字架の事を思い出した。そうか、あの十字架だ!

 

「十字架だッ! あの清水さんの背負ってる十字架が原因だッ!」

 

 苦しんでいたみんなも俺の言葉に反応して顔を上げてくれた。

 俺たちはこの幻を解くために一斉に清水さんの十字架に攻撃を始める。

 本当に十字架が原因と言う確証はない。だが、一番怪しいのは幻聴の直前に光りだした十字架だ。

 

「ふん! はっ! はあっ!!」

「はああああぁっ!」

「んッ!!」

 

 正直頭の中で自分の声をした幻のせいでぜんぜん集中できない。

 それになんだかとても苦しい。

 確かに俺たちも攻撃に集中できてないし、精神もかき乱されて大技が使えない。

 だけども清水さんは俺たちの一斉攻撃を簡単にすべてよけきってしまう。

 

「なんで当たらないのよ!」

「私は破面の中で鋼皮(イエロ)は脆く虚砲(セロ)の威力も低い。

 だけど探査回路(ペスキス)は大得意なんです。

 そのおかげで多少の先読みと人並みの響転(ソニード)で回避には自信があります」

 

 先読み、そんな能力も隠し持ってたのか。

 まずいな、みんな幻聴のせいで疲弊している。

 しかもたちの悪いことにこの幻聴は俺の心をえぐるのに最適な言葉を並べてくる。

 なんなんだこの幻聴は!?

 

「はぁはぁはぁ……せめてこの幻聴が止まれば」

「貴方自身ですよ」

 

 俺たち自身? 清水さんは一体何を言ってるんだ?

 

「私の『咎聖女(アレペンティル)』は幻覚を見せる能力なんかじゃありませんよ?

 ただ自身の罪と向き合わせる程度の能力。

 そして感じた罪の分だけ重くなる」

「うぁぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁぁッ!!」

『!!?』

 

 道案内で連れてきた禍の団のメンバーが頭を抱え悲鳴をあげる。

 道案内をさせた後に拘束も解いておいたのに何でまだいるんだよ。

 男はその場で悲鳴を上げながらも俺たちに危害を加えるでもなく、清水さんに攻撃するでもなくただただ苦しんでいる。

 なんで何もしないんだ?

 

「ガッッ!! ガァァァッ!! うわぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

 ―――――――――ベチャ!

 

 

 次の瞬間その光景に俺は目を疑った。

 男の脳が男の頭蓋骨を突き抜けて破裂したんだ。

 ギャグ漫画みたいなコメディ的な表現じゃない。

 実際に目の前で、人が、脳みそが、血が噴き出した。

 俺は目を背けたかったがあまりにも衝撃的なシーンに固まってしまう。

 

「ヴッ!!」

 

 目の前で起きたあまりにもリアルでグロテスクな光景に吐き気を催しやっと目を離すことができるように。

 今までの戦いの中で血が飛び散るようなことは多々あったがこんなグロテスクな光景、しかも戦闘外で起こることなどなかった。

 他のみんなの様子も見てみるとみんなすごい表情をしてる。

 こんなグロテスクな死を心優しいアーシアには見せたくなかったがあの様子では見てしまったんだろう。

 

「あらあら、彼は自分の罪に押しつぶされてしまったようですね」

 

 罪につぶされる!?

 清水さんの能力で俺たちも最終的にああなっちまうのか!!?

 俺の仲間たちがそうならないうちに早く清水さんを倒さないと。

 

「貴方たちがいくら否定しようと苦しいと言うことは罪の証。

 貴方が言う幻聴は間違ったことを言っていますか?」

〈そう、俺はお前兵藤一誠。俺が今までの人生でおこなったいけないことを教えてるだけだぜ?

 俺が責めてると思うなら、それは自分自身を責めてるのと同義〉

 

 幻聴だけでもきついのに清水さんの言葉を聞いちゃだめだ。

 俺が今一番しなくちゃいけないのは一刻も早く清水さんを倒すことだ。

 そっちに集中すれば少しは気もまぎれるだろうし。

 俺は今できる禁手化状態で清水さんに挑む。トリアイナを使うことはできないが仕方ない。

 

「いいですよ、最後の足掻きくらい付き合ってあげます」

 

 俺だけじゃなくて他のみんなも苦しいながら全力で清水さんと戦う。

 だが、ただでさえ本気を出せない状態で連携もほとんど取れてない。そんな状態で先読みができる清水さんに攻撃はぜんぜん届かない。

 それどころが清水さんのビーム攻撃を一方的に喰らってしまう。

 

「ね? 私の虚砲って殺傷力低いでしょ?

 これでも本気で撃ったのよ。

 だけど、その代り私の虚砲は破面中最速なの」

 

 威力は低くとも俺たちを吹き飛ばすくらいの威力はある。

 くそ、一体どうすればいいんだ!

 

 

 

    ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「ふふふ、あははははッ!

 そうです苦しんでください」

 

 心にぽっかり穴が空いた月は既に優しさを失っている。

 日本妖怪たちとの衝突を避けたのも被害を出したくないなんて理由ではなく単純にイレギュラーが起こってほしくないという打算的な思考からきている。

 だから苦しむ怨敵を見ても(リアス・グレモリー眷属)を見ても、苦しむ学友を見ても(ギャスパー)、なぜか悦楽の笑顔で頭から血を流す遺体を見ても満足げな笑顔には一点の曇りもない。

 

「フランちゃんは貴方たちが死んだ後も永遠に拷問し続けるつもりだったんです。

 しかし、その設備はフランちゃんの能力があってこそきちんと使用できるものなのです。

 ですから、私たちは貴方たちの魂が痛みを感じる間だけ痛めつけることにします。

 憎らしいほどの悪運ですね。

 まあ、永遠の拷問からは逃れられたのはフランちゃんを倒した敢闘賞でしょうか」

 

 リアスたちが苦しむ姿を見て最後の瞬間を今か今かと待つ月。

 誇銅が死んだ日から曇り空だった月の心は今快晴を迎えている。それも大地を焼け焦がすほどの快晴。

 月の目線は基本的にはリアス・グレモリーに向いているが時々声を上げる他の眷属に向くこともある。

 

「ああ、この瞬間を恋ちゃんと過ごしたいけど恋ちゃんが来たら終わってしまう。

 なんとももどかしいこの気持ち。

 これで誇銅さんの無念も晴らせます。

 復讐を成し遂げた私たちを褒めてくれるでしょうか。

 誇銅さん、誇銅さん。……誇銅さん……」

 

 誇銅と過ごした日以来満たされなかった心が復讐の快感と誇銅への純愛、そして悲しみにより一瞬満たされた。

 そんな瞬間に今まで全く目を向けていなかったギャスパーの苦しむ姿が目に入る。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

 一人でぶつぶつと謝り続けるギャスパー。

 リアスたちが月に向かってきた時も一人だけ動かずにその場でうずくまって謝罪の言葉を並べていた。

 月の意識は苦しむギャスパーに釘づけとなる。

 

(あ、ああ……)

 

 月はここに来るまでの出来事を思い出す。

 ここに来るまで月と恋は盾子に頼まれてあるところで結果的に大量虐殺を働いた。

 その際に子供の悪魔をも巻き込んだ。

 助けることもできたはずなのに月は苦しむ姿を見つつ無視。

 まだ月が優しさを失っている時である。

 

(こんなことをして誇銅さんが喜ぶはずないですか。

 それに悪魔と言えど小さな子供を……ああ……。

 こんな私では誇銅さんに好かれるどころが嫌われ―――――――いや、好きでいる資格すらない!

 それに誇銅さんに優しくしてくださったギャスパーさんをも今現在こんなに苦しめて。

 この体になってから私はあんなひどいことを平然と行っていました。

 あ、ああ……ごめんなさい誇銅さん、どうか誇銅さんのことを慕わせてください。

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいゆるしてくださいゆるしてくださいゆるしてくださいゆるしてくださいゆるしてくださいゆるしてくださいゆるしてくださいゆるしてくださいゆるしてくださいゆるしてください…………愛してください)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――ベチャ!

 

 

 妙に耳触りの悪い音と共にリアスたちは悪夢から解放された。

 

「うぐぐ……あれ?」

「声が、収まった」

 

 なぜ自身の声から解放されたか不思議に思いリアスたちは顔を向けようとする。

 リアスたちが苦しみから解放されて初めて見たのは赤い月の足元。

 月の足元にはまるで大きな絵具玉が落ち潰れたような赤が広がっている。

 そこから視線を上げていくとちょうど心臓あたりにぽっかりと穴が空いている月の姿が。

 破面の穴ではない。その穴からは鮮血がぼたぼたと零れ落ちている。

 

「え? なんで、どうなってるの?」

 

 月は血を流したまま仰向けに倒れこむ。

 動き出す様子はないが一誠と木場が率先して注意しながら月に近づく。

 月は息絶えていた。目を見開いたまま。

 優しさを思い出した月は自分の罪の重さに耐えきれなかったのだ。

 その目には果てしない絶望が広がっていた。

 

「助かった……のか?」

「でも、一体なんでこんなことに」

 

 月が倒れた理由、禍の団の奇襲を受けた理由、そしてなぜこんな事になってしまった理由、さまざまな事柄の根源を考えるも答えは出ない。

 それよりも今するべきことに目を向けようと考えた。

 

「それよりも彼女の話が本当ならお兄様たちが危ないわ」

「そうだな。朝倉とは一度しか剣を交えたことはなかったがその時でさえすさまじく強かった」

「それに彼女たちは人間の時にですら冥界の上級悪魔を何人も斬ったと聞いてます。

 そこに破面化が加われば彼女の話も嘘ではないと思います」

「そうね、その通りよ。冥界を守るために急ぎましょ」

 

 

 だが、この時まだ一誠たちは知らなかった。

 この結界は自分たちが解いたのではなく、第三者の手によって破壊されたことお。

 そして、目の前の火の粉を払ったせいで火薬庫へ引火してしまっていることにも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 倒れる月の亡骸の傍、彼女は立っていた。

 自分の優しさに殺された哀れな少女の開いた目を閉じてやり手を組ませる。

 彼女はしばらく月の亡骸を見つめ立ち上がる。

 瞳に静かに業火の如き怒りを含ませ一誠たちが去った方を見つめる。

 そして一誠たちが去った方向へ走り出す。

 目の前の障害はどんなものであろうと切り裂きながらまっすぐに。

 

 

 

 

     ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 リアスたちはすぐさま魔王たちのところへ行くため自身の屋敷にまず向かった。

 屋敷には非常時のための転移魔法陣がある。

 それにはサーゼクスが緊急会議などのために使用する直通魔法陣も存在する。それを使うつもりだ。

 

「お兄様たち無事かしら……」

「きっと無事だよ。お兄さんの強さはリアスが一番よくしってるだろ?」

「……ええそうね。ちょっと弱気になっていたわ。ありがとイッセー」

 

 月の攻撃の影響から普段よりも弱気な思考に陥ってるリアス・グレモリー眷属。

 それでも一誠はなんとかこの空気を改善しようとみんなを励ます。

 それは自身の気持ちを吹き飛ばすためでもある。

 一誠は暗くなっている眷属内でひときわ暗くなっている最後尾のギャスパーの方を向いた。

 

「ほら、ギャスパーもいつまでも落ち込んでる暇はな……い……」

 

 ギャスパーよりもずっと後ろの方で何かが近づいてくるのを感じた一誠。

 その感覚は一度だけ、たった一度だけ、それも一瞬だけ過去に味わったことのある感覚。明確な自分の死のイメージ。それが突然一誠の頭に浮かびあがった。

 

「みんな! 呂布が俺たちを狙ってる!」

 

 初めてオカルト研究部で月と恋の本名を知った時に感じたものだとすぐに気づいた。

 一誠は恋の事を偽姓である朝倉とは呼ばず呂布と呼ぶ。

 姿も見せないのに自分に死のイメージを与えてくる鬼神の如き気迫がそうさせる。

 

「それは確かかいイッセーくん!?」

「間違いない。この感触を忘れられるわけねえ!

 ギャスパーも早く……!!」

 

 次に後ろを見た時、ギャスパーのすぐ後ろで戟を振り上げる女性の姿が。

 そこには確かに三国志最強の名を手に入れた最強の武人―――――――――――――呂布の姿があった。

 

「危ない!!」

「……殺す」

 

 ギャスパーも後ろから感じる恋の気配にはとっくに気づいていた。

 だが恐怖で振り向くどころが声も出なかった。

 それに、先ほどの月の能力で自身の罪に攻め立てられたギャスパーはいろいろと疲弊している。

 だから確かに恐怖もあるが誇銅の家族の手にかかって裁かれるなら本望とあきらめの感情も半分ほど占めている。

 もちろん動けない根本は反応できないほどの恐怖ではあるが。

 

 恋の戟が今まさにギャスパーの命を刈り取りに来ている。

 一誠たちも間に合わない。

 リアスたちは何とかギャスパーを助けようと最後の瞬間まで足掻き、当の本人は既にあきらめている。

 だからこそその危機を救ったのは第三者であった。

 

「ソーナッ!!」

「ッ!!」

 

 横からソーナ・シトリーが飛び出してきてギャスパーを押し飛ばした。

 そのためギャスパーは助かったが今度はソーナが恋の切り口の真ん前に無防備で立たされることに。

 

「ソーナさん!」

「……殺す」

 

 恋の戟がソーナの上半身と下半身を見事に切り裂く。

 

「ソーナッ!!」

 

 親友の死にざまにリアスも悲痛の声を上げる。

 だが、ソーナの体は斬られると同時に水となって地面に落ちた。

 そしてソーナ眷属の匙がギャスパーを連れて素早くリアスたちの方へ逃れる。

 

「安心してください。水分身です」

「よかった、本当によかった。

 そしてありがとう、私の眷属を救ってくれて」

 

 リアスは涙交じりにソーナの無事を喜ぶと同時に感謝の言葉を述べる。

 

「リアス、ここは私たちが。

 リアスたちは早く魔王さまのところへ」

「ソーナたちだけじゃ」

「前にも言いましたが多すぎる人数は足手まといです。

 誠司はリアスたちと一緒に行って説明をお願い。

 さあ、早く行って!!」

 

 ソーナはリアスたちをやたらせかしてこの場を去らせようとする。

 リアスもソーナのその必死さに素直に従う。

 そしてリアスたちが完全に行ったことを確認してから恋の方へ向きなおす。

 

「恋さん、貴方が誇銅さんを失った哀しみはわかります。

 耐えがたい怒りが湧きあがるのも理解しています。

 ですが、このまま大虐殺を続けされるわけにもいきません」

「……殺す」

 

 ソーナの必死の訴えにも恋は答えを変えない。

 それでもソーナは自分の思いを恋に伝える。

 

「確かに今の冥界の事情は同族の私でさえどうかと思います。

 起こさなくても済んだ間違いも多々あったでしょう。

 ですが、ここに住む平和を望む一般人まで巻き込ませるわけにはいきません!」

 

 それはソーナの本心。

 自分の姉すらも頼らずに自分と信頼できる眷属たちでコツコツ集めた情報からソーナは今の冥界をそう表現した。

 それでもソーナは冥界を生まれ故郷を捨てる決断はできない。

 

「だから私が変えていきます。

 間違いを犯した者たちには必ず生きて償わせます。

 ですから、どうかもうしばらく私たちに猶予をください。

 お願いします!!」

 

 頭を下げて必死にお願いする。

 どうかその怒りはしばらく鎮めてほしいと。

 自分が今の冥界を立て直し犯した罪を償うと。

 そして恋の答えは。

 

「……悪魔……殺す!」

 

 恋の心は変わることはなかった。

 

「そうですか残念です。

 でしたら、降りかかる火の粉は払わねばなりません!」

 

 ソーナはまず草下の土遁で恋が自由に動けない足場作りをさせる。

 恋の周りに平らな地面はなくなった。

 だが、破面は空中の霊子を作れる。だから恋にとっては別段異常なし。

 しかし、解放した恋の体は自身が創り出した霊子の足場すら拒絶し破壊した。

 それにより恋の機動力はいくぶんそがれる結果に。

 

「火遁・大炎円」

 

 恋を囲むように炎をサークルができあがる。

 閉じ込めて逃がさないように炎は高く激しく燃え上がる。

 

「……恋に……魔法は無駄」

「知ってます。

 知ったからこそ私たちは来たんです」

「風遁・大熱風」

 

 炎の上から激しい風が吹き荒れる風はすぐさま恋にぶち当たり能力によってかき消されるが恋はその副産物に苦しめられた。

 

「……くっ、熱い」

「火そのものは防げても熱は通る。

 このまま熱で焼き殺させていただきます!!」

 

 炎はやがて恋をつつむ竜巻となり恋を苦しめる。

 普通なら中の温度は生き物が生きていられない状態である。

 だが、恋はその竜巻を斬って中から脱出する。

 それでも息のあがりようからかなりの不意打ちが決まった様子。

 

「匙!」

「はいっ、陰遁・常闇襖」

 

 今度は真っ黒な闇が恋の周りを包み込む。

 普段の恋なら囲まれる前に逃げるなり斬るなりしるが不意打ちの疲労のせいで間に合わない。

 恋の視界は360°闇に囲まれた。

 恋は自身に触れてない魔法の効力は打ち消せない。この闇はただ視界を防ぐだけではなく方向感覚まで狂わせた。さらに周りからは鋭い石つぶてが恋を正確に狙い撃ち。

 恋はこの闇から逃れるためにとりあえず目の前を大きく切り裂く。

 闇から逃れた恋が目撃したのはソーナが水遁で大きな水の塊を作り出し、由良の火遁がそれを熱湯の塊に変えるところ。

 光に若干目をやられてる恋に向かってソーナは熱湯の水玉を恋にぶつける。

 

「……だったら、斬ればいい!」

 

 恋は有言実行でその熱湯の塊をきれいに縦真っ二つにしてみせた。

 熱湯は恋に一滴もかからない。

 

「ちゃんと手はうってます」

「風遁・大熱風」

 

 熱湯玉の半分が風に押されて恋にぶち当たる。

 恋は若干冷させられたとはいえアツアツの熱湯を直接肌にかけられた。

 恋の皮膚はあきらかに火傷を負っていた。

 

「私たちはリアスたちと違って恋さんたちを逆恨みのテロリストなんて考えてません。

 おそらく冥界側が何かやらかしたんでしょう。

 ですが、リアスたちと違って私たちは本気で恋さんたちを殺しにいきます。

 リアスたちみたいに下手な情けなんてかけません」

 

 火傷に苦しむ恋に対してソーナは容赦なくもう一度炎の竜巻の中に閉じ込める。

 そしてその周りには匙の陰遁をはべらせて脱出しても位置の特定ができないように。

 少しずつだが、確実に恋の命を削るソーナ。

 これで恋を殺すことができる。そう確信したソーナ。

 

「……刀剣解放第二階層(レスレクシオン・セグンダ・エターパ)

 

 だが、突如炎の竜巻も闇の襖も両方とも恋の周りから消え去った。

 さらに恋の火傷後も消え恋の体中に普段は隠してる体の刺繍が顔にまで広がっている。

 見た目も霊圧も明らかに変化している。

 

「会長!」

「会長、これは一体!?」

「わかりません。しかし、恋さんは触れる魔法しか打ち消せません。

 とりあえず警戒しながらもう一度です!」

『はい!」

 

 ソーナ・シトリー眷属は再び恋の速度でも反応できる距離をつくり遠距離から連携忍術を準備する。

 だが、いくら印を組もうが術は一向に発動されない。

 

「印が間違ってる!? いいえ、そんなはずはない。

 ! もしかして……」

 

 ソーナは眷属に合図を送って四方から分身で突撃知るように命令する。

 だが、その分身は恋が目線を送っただけで消滅してしまう。

 

「まさか、恋さんが見るすべての異能を否定しようというのですか!?」

「……恋の目に映る世界……恋の世界。……恋の目にはもう誇銅も月も映らない」

 

 恋はそう言っておろしていた戟の刃をソーナたちに向ける。

 

「うぐっ……」

 

 一歩後ろに下がったソーナは眷属たちに合図を送る。

 それはほんの一つの合図。それも誰に向けてるのかわからない。

 だがソーナ・シトリー眷属は動いた。

 

「雷遁!」

「「陽遁!」」

 

 眩しい光が恋の視界をふさぐ。

 しかし、その光も一瞬で打ち消された。

 だが、そのあとに起きた爆風は恋の視界を2秒ほどふさいだ。

 吹き荒れる爆風を切り裂いたから。

 そしてそのあとにソーナたちの姿はない。

 周りを見回しても隠れてる様子もなく完全に逃げられたとして恋はリアスたちの後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……行ったか」

 

 恋が言った後、ソーナ・シトリー眷属は土の中からぞろぞろと這い出てきた。

 ソーナたちはあの一瞬の間に地中に身を隠したのだ。

 そのからくりはこう。

 

 雷遁の強力な一撃で軽く視界をくらませ、陽遁の激しい光で恋の視界を完全に一瞬だけ失わせる。

 雷遁と陽遁の二つの目くらましはすぐに恋の能力で打ち消されるが、その間は他の術が視界に入らないため使用可能に。

 水遁の蒸気暴威を火遁で即爆発させ、その爆風を風遁で強化し魔法攻撃の副産物で恋の視界を奪う。

 そこから土遁で地中に避難所を作り出し、避難所と蓋をしてる地面の間に陰遁で気配を消したのだ。

 恋の視界にさえ入らなければ打ち消されることはない。

 

「た、助かった……」

「私の意図を正しく受け取ってくれてよかったわ。

 ありがとうございます、草下、匙」

「は、はい……」

「でも、あの状態で冷静に逃げの判断ができるとはさすがです。

 会長の判断能力のおかげで私たちは助かりました。つくづく会長が私たちの王でよかったと思いました」

 

 ソーナは恋と戦ってみるという選択肢を最初っから捨て去った。

 恋には自分たちの最大で唯一の武器、忍術がまったく効かない。

 それでいて身体能力など比べるでもなく圧倒的に負けている。

 ソーナは自分たちは絶対に恋に勝てないと最初の段階で見切りをつけ逃げにすべてを賭けたのだ。

 

「いいえ、あの場で生き残るのも隠れることも全員が揃ってこそなしえたこと。

 私の方こそ貴方たちが私の眷属でいてくれたことに感謝します」

 

 ソーナは自分たちの生還を喜びながらも後に行ったリアスたちの心配をする。

 

「リアス……」

「イッセーの奴も恋さん相手では……」

「少し、いえ、かなり……いえ、もう無理と言えると思います。

 そのうえで命を繋げるかどうか」

 

 椿がかなり不安な推測を述べるがそれを否定することできずソーナたちは心の中で同意するばかり。

 

 

 

     ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 リアスたちが向かった先は普段魔王たちがあつまる冥界の中心部。

 一度屋敷に戻りそこから転移したのだ。

 そこでリアスたちが見たものはボロボロに切り刻まれた壁に深手を負ったアジュカ・ベルゼブブとヴァーリーチーム。

 恋との連戦を覚悟していたリアス眷属だったが、この惨状はまるで予想外であった。

 唖然としてる一誠にヴァーリーは苦しそうにして黒歌に肩を貸してもらいながら歩いてくる。

 

「兵藤一誠、無事だったか」

「ヴァーリー、大丈夫か。そして一体何があったんだ!?」

「呂布だにゃ。呂布がたった一人でしたことだにゃ」

 

 立っているのもつらそうなヴァーリーに変わって黒歌が答える。

 一誠は四肢が足りてないヴァーリーの様子を見つめる。

 

「情けないものだ歴代最強の白龍皇と言われながらたった一人のこのザマだ」

「そんなことねえよ。魔王様だって勝てない相手だ。

 俺だったら生きてられるかわからねえ」

 

 一誠は自身の力が大きく減少したこともあってかなり自信を失っていた。

 そのうえ好敵手であるヴァーリーが、それもたった一人に負けてしまったことに正直自分では勝てないと確信した。

 

「情けないことを言うな!」

 

 そんな一誠の様子をみてヴァーリーは重症でありながら大きな声で喝をいれる。

 

「俺のライバルなら俺を倒した相手を倒してみせるくらい言えよ。

 そうじゃなきゃお前は呂布の脅威から仲間を守れないぞ!

 お前は俺ですら持ってない不思議な力がある。必ず勝てるなんて言えないが勝って守ってみせろよッ! イテテ……」

「そんな体で大声出すんじゃないにゃ!」

 

 ヴァーリーの言葉が一誠の心を再び燃やす。

 ライバルの激励に一誠にいつもの自身が戻る。

 

「もちろんだ。俺は守ってみせる! 仲間も、冥界も、そしてリアスの乳だって守ってみせる!!」

『乳もって、やっぱりどことなくしまらんな。

 だが、だからこそ相棒らしい』

「ふふっ、はははははは! それでこそ乳龍帝だ。

 やっといつもの顔に戻ったな」

 

 一誠の表情が普段の表情に戻り安心したヴァーリも薄らと笑みを浮かべる。

 

「それで、呂布はどうなったんだ?」

「少し前に追いつめた魔王にもとどめを刺さずに向こうへ走って行った。

 なぜかかなり焦ってる様子だったな」

 

 ヴァーリーが指差した方向には月との戦闘が行われた場所がある。

 そのことは一誠も含めたリアス眷属はすぐさま気づいた。

 恋が焦ったのは間違いなく月がやられたことに原因がある。

 つまりさっきの襲撃はたまたまではなく意図的に自分たちを狙ったという事に。

 

「イッセー、ここを離れるわよ。

 呂布の狙いは私たちよ」

「はい!」

 

 リアスも他の被害者から事情の説明を受け恋の狙いが自分たちということに行きついた。

 それでけが人だらけのこの場所を戦場にするわけにはいかないとして他の場所に自分たちを餌にして誘導しようと考えたのだ。

 

「行くわよ!」

「待て、これを持って行け」

「ベルゼブブ様、ベッドに戻ってください!」

 

 アジュカ・ベルゼブブが火のともったランタンをリアスたちに差し出した。

 

「ベルゼブブ様、そんな重症で無茶をなさらないでください!」

「ハァハァ、冥界に危機にじっとなんてしてられない。

 それよりこれを」

「これは……?」

「日鳥誇銅が冥界で抵抗した時に屋敷一つを燃やした炎だ」

 この炎は不思議なことに水をかけようが燃えうつるものをなくそうが弱りはするが消して消えなかった。

 だからこうしてランプの中に封じ込めた。

 これならばもしかすると呂布に通用するかもしれん」

 

 誇銅の名が出た時点でリアスたちの中にある種の希望が生まれた。

 誇銅の力ならあの呂布に通用する可能性は十分あるかもしれないと。

 

「ありがとうございます」

「いいや、役に立つかはわからん。

 冥界の運命を君たちに預けてしまって申し訳ない。

 それともう一つ、人気のない場所なら絶好の場所がある」

 

 リアスたちはアジュカ・ベルゼブブに教えてもらった場所へと飛んでいく。

 そこなら中心部から離れているため他の人を巻き込む心配をせずに全力で戦えると。

 だから急いでその場所へと向かう。恋が追いつく前に。

 

 

   ◆◇◆◇◆◇

 

 

 リアスたちは思いっきり戦えると言われた場所、冥界の中心部から遠く離れなおかつ人気の全くない小屋。

 そこにはなぜかアマテラスとその従者こころにレイヴェルの姿までも。

 

「天照様なぜここに!? そしてレイヴェルも!?」

「あの……それは……」

「儂らの避難誘導をしてくれたんじゃ。

 儂らは三大勢力を信用しておらんし身を守る力も護衛もいるから避難所ではなく被害地から離れた場所を頼んでな」

「天照様」

 

 逃げたレイヴェルをかばうアマテラス。

 信頼できず改心する見込みのないと思われる冥界で見込みのある者を助けたいと思う神の心遣いである。

 

「そうだったのですか。ありがとねレイヴェル。

 しかし、この場所もこれから危険になります。早くお逃げください」

「もう手遅れ」

 

 リアスがアマテラスたちに避難を呼びかけているとこころが一人でつぶやく。

 するとさっきより威圧と霊圧の上がった恋がもう目に入るところまで近づいて来ていた。

 その時はまだだいぶ距離があるように思われたが既に後数歩で刃の届く位置まで近づいて来ている。

 そして恋と最も近い位置にいるアマテラスに向かって刃を振るった。

 その刃をこころがローリングソバットで弾き飛ばす。

 

「どういうつもりだ? 儂はこの(いくさ)に関してお互い干渉せんでよいと聞いたのじゃが?」

「はい、そのように我々も確認しております」

 

 恋はアマテラスの問いに応えない。

 既に恋の頭の中には復讐しかなく少しでも立ちふさがるものは敵だと判断している。

 だからその場に残った日本勢力も敵と判断したのだ。

 恋はアマテラスに斬りかかる。

 その速度は一誠たちどころが魔王ですら反応できなかった速度と同じ。

 だがアマテラスたちはその攻撃を躱してみせた。

 

「怠けておった昔とは違うんじゃよ。

 正当防衛じゃ、受け入れるんじゃぞ?」

 

 アマテラスはさっと恋の後ろに回り込み自身の炎で恋を一瞬で灰も残さずに燃やしてしまおうとした。

 だが、その炎は恋に触れた瞬間に消し飛んでしまう。

 

「ぬッ?」

「……殺す」

 

 アマテラスは次の刃も躱し刃の腹を蹴って距離をつくり再び炎攻撃をする。

 しかし、その炎は出もしない。

 

「……なるほどのう。

 ところでお主、その刃をまだ儂に向けるか?」

「……」

 

 恋は怒りだけが満ちた真っ赤な瞳でアマテラスを見たまま答えない。

 

「話が通じぬか。こころ、いけるか?」

「彼女は手ごわいですが問題ありません」

 

 本来ならここで日本勢力に戦わせること自体間違い。

 立場的にも役目的にもここは日本勢力を無理にでもひかせて勝ち目がなくともリアスたちが戦うべき場面。

 しかし、恋の威圧を前にしてとっさに体が固まってしまった。

 さらに恋とこころのぶつかり合う気迫に押されて今は声も出せない。

 感じる威圧は今まで戦ってきた猛者たちより少し上くらいなので支障はなかったかもしれないが、二人から感じる今まで体感したことがない刺し貫くような威圧に押し殺されている。

 

「秦こころ、大手を振って、まかり通る」

 

 こころは一歩前に出て恋と対峙する。

 アマテラスは二人の戦闘範囲から歩いて出ていく。

 恋はこころが動き出した時点で既に攻撃を始めた。

 だが、こころはその斬撃を難なく受け流してみせる。それもアマテラスの方へ流れていかないような気づかいまでして。

 

「感情がないなら感情を植え付けるまでだ」

 

 恋の攻撃をひらりと躱しこころは自分のお面を恋の顔面に装着させる。

 だが、面はすぐさま何も起こることなく弾き飛ばされた。

 

「私の能面もダメか。だったら、単純に殴り倒すだけだ!」

 

 攻撃をするそぶりを見せず防戦一方だったこころの様子が変わった。

 

「気迫、霊力共に最初対峙したときよりはるかに上昇している。

 私も本気を出さざる得ないほどに。だが」

 

 こころの周りに三種類のお面が出現する。

 自身の周りをぐるぐる回る面を一つとり自分に装着した。

 

「阿修羅三面・冷血」

 

 目と口だけが簡単に表現された白のお面。

 だが、それは無表情というより無情という言葉が当てはまる表情をしている。

 

「最初出会ったお前は武神だった。その剣に苛立ちのようなものを感じたがそれでも大胆でいながら繊細さを兼ね備えた武神。だが、今のお前は鬼神だ。

 その力は劇的に増したが繊細さがわずかに、でも我々から見れば大きな違いだ。

 武神のお前は確かに脅威だが、繊細さを失ったただの鬼神では我々には敵わん!」

 

 攻撃をいなすと同時にこころは人体の急所に的確に攻撃を当てる。

 聖剣すら通さないほど強化された恋の鋼皮だがこころの一部の力の乱れもない拳はそれを通して見せた。

 二段階解放した恋とはいえ人体弱点は人間だった頃と変わらない。

 急所を突かれた恋は攻撃の手を止めぬわけにはいかなかった。

 

「無駄な動き一つなく、髪の毛一本血一滴までもが足並みそろえ意思を統一させる。

 それが私の扱う日本の武舞だッ!」

 

 こころの攻撃はこれで終わりではない。

 よろけた恋にさらに接近しひじ打ちの連撃を顔面に当てる。

 倒れそうになるたびにそれを許さず執拗に急所を責め続ける。

 そして最後には子宮に強力な蹴りを入れて吹き飛ばした。

 だがこころの人として、女性としての急所ばかりをねらう冷徹な連撃に恋は特に傷などは負わず平然と立ち上がり再び襲い掛かる。

 

「思った以上に傷が浅い。長期戦は免れぬか」

 

 冷静な思考で恋の攻撃を軽くかわしてバックドロップを決めた。

 そしてその拘束を抜けた恋はもうこころとの勝負をやめて一誠たちのほうへ向かう。

 “攻撃”に身構えていたこころは不意を突かれそれを許してしまう。

 恋は一誠たちの方へ向かうが一誠たちより前にいるアマテラスに向かって先に戟を振るった。

 

「やれやれ、怒りで我を忘れ敵の区別もつかんといったとこか」

 

 アマテラスが小屋のちょうどいい石に腰かけて戦いを眺めているとこころの容赦ない二段攻撃がまたまた人体の急所に入り大きく吹き飛ばされる。

 その時やっとリアスたちも場の威圧に慣れ始めてきた。

 

「日本にばかり頼っていられないわ! 私たちも動かないと!!」

『はいっ!』

 

 倒れてる恋に向かって皆できる限りの遠距離攻撃でサポートに入る。

 その攻撃でこころは追撃を止めて下がり、恋が攻撃を見た瞬間にすべての攻撃は消え去り一誠の禁手も強制解除された。

 

「まっ、こんなものか」

 

 アマテラスは少し残念そうな顔で事態を把握できていないリアスたちを見る。

 その時、朱乃が持っていた誇銅の炎が入ったランプを落とす。

 そうして中身があらわになった状態になる。

 

「…………」

 

 恋がランプの炎をじっと見つめる。

 そしてこころに目もくれずにそのランプのもとへと走り出した。

 だが、こころはそれを好機と見て後ろから攻撃を仕掛けてそう簡単に行かせない。

 

「やばい! でも、これはチャンス!

 ここでこの炎を呂布にぶつけることができれば!!」

 

 一誠は半場冷静さを失って大雑把な作戦をとっさにたてた。

 なぜだかわからないが呂布がランプの炎を見た瞬間炎に反応した。

 それにこの炎はかき消されなかったことからもしかしたら効くかもしれないと。

 一誠はランプを素早く拾い上げて他の眷属から離れる。

 

「イッセー! 何をする気なの!!」

「俺がこの炎で呂布を止めて見せます!!」

「やめてイッセー! そんなの無理よ!」

「無理でもやらないとみんな殺されてしまいます!!」

 

 一誠は覚悟を決めてランプの炎を持って恋の方へ走り出す。

 そのことに恋も気づき強引にこころを振り切り炎の方へ走り出す。

 一誠はランプを振りかぶって恋を火だるまにするつもりである。

 月につけられた心の傷も恐怖も極限状態で一時的に忘れ無我夢中で動く。

 

「行っけェェェェッ!」

「……よこせ」

「ガァッ!!」

 

 だが、素の身体能力の低い一誠が恋の身体能力に少しでも対抗できるわけもなく投げる前にランプを持つてごと斬られた。

 そして落ちるランプを恋がキャッチした。

 

「うぐっ、しまった!」

「…………」

 

 恋は誇銅の炎をじっと見つめる。その瞳には先ほどまでの怒りの炎は灯っておらずランプの炎だけが映る。

 そして恋は誇銅の炎を自身の腹の破面としての穴の中に入れた。

 恋は誇銅の炎が入った穴を見つめる。

 復讐の業火を宿していた恋の瞳が一瞬優しさにみちる。

 そして何か優しいものが満たされたかのように微笑んだ。

 だが、次の瞬間恋の目から、口から、体を突き破って真っ赤な炎が噴き出す。

 その炎はまるで生きとし生ける者を焼き尽くさんとした荒々しい紅い炎。まるで恋の怒りを象徴するかのような紅。

 しかしその炎は激しく吹くがすぐに収まる。

 そうして恋は体中から黒煙を放ち倒れた。

 こうして冥界の混乱は徐々に終息を迎えた。

 大きな爪痕を残して。




 結果は残念だったかもしれませんが、まだ続きはあります。
 一応この章はこれで終わりですが、もしかしたら日を改めてもう一話追加するかもしれません。
 いろいろ至らない点があり申し訳ありません。
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