BADENDの先に掴むもの   作:超高校級の警備員

78 / 92
修業総仕上げ、語られし者

 妖怪たちが住まう現世とは少し違う次元にある世界。またの名を(あやかし)界。

 別の次元にあると言ってもレーティングゲームで使用するようなものとは違いそこで暴れれば現世に支障をきたすほどその壁は薄い。

 ここはその妖界の中でも高天原に近く、主に七災怪が挑戦者とぶつかり合うために作られた妖界。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「とりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 二つの拳がぶつかり合う。

 その衝撃は周りの土や岩を砕く衝撃を周りに与えた。

 

「フハハハハハ、力は吾が輩と互角。国生みの巨人の名に恥じぬ力よだいだらぼっち」

「ふはははは、そうであろうそうであろう。むしろ天才な天災である私に対抗できることを褒めてやろう」

「ふっ、七災怪にそんな口を聞く度胸がある奴がいったいどれほどいようか。まったく態度と妖力だけは伝承通りの巨人よの」

 

 土の七災怪である土蜘蛛が戦っているのは日本で有名な巨人、だいだらぼっち。

 だが、だいだらぼっちと呼ばれる少女本人はあまりにも小さなぐるぐるメガネの少女であり小学校低学年ほどの大きさしかない。

 実際に土蜘蛛となぐり合ってるのは粘土で作ったような頭部のない丸っこい大きな巨人である。その頭部の代わりにだいだらぼっちと呼ばれた少女の下半身が埋まっているのである。

 

「だが、天照様に与えられし七災怪の称号に恥じぬよう吾が輩もなめられっぱなしではいかん!」

「七災怪の称号には興味はないがせっかくの機会、私の発明品を存分に試させてもらうとしよう」

 

 二人の猛攻が大地を揺らす。

 土蜘蛛の土遁の術が大地を巧みに操り、だいだらぼっちの攻撃は一撃一撃が地形を変える。

 

「……会長、これどうやってあの二人からお札をとればいいんですか?」

「あれだけ攻撃の余波が激しいと近づくのも一苦労ですね。さて、どのような切り口で行きましょうか」

 

 誠司だけはまた別の場所で“別の先生”に鍛えてもらっている。だからこの場にはいない。

 ソーナ眷属一同は学校に長期休暇の連絡だけ入れて高天原へ修業の直談判に来ていた

 しかしいくらソーナがアマテラスと良い面識があるといえ悪魔、そう簡単な問題ではない。日本勢力も安請け合いはしない。

 それでもソーナは必死に頭を下げて協力を請うた。

 その甲斐あって信頼のおけるところだけで秘密裏に修業を受けさせてもらえることに。

 そこで七災怪とまではいかないがそれぞれの属性の上級妖怪から個人指導を受けさせてもらい、現在は締めくくりの修業を行っている。

 最後の修業だけは七災怪の協力のもと息抜きと称してアマテラスが直々にソーナたちに課題を与えた。

 

「これから土蜘蛛とだいだらぼっちの手合せの場にお主らを送り込む。

 そこでお主らは土蜘蛛が首にかけておる札の文字を儂の所へ持ってくるのじゃ。

 土蜘蛛は札を守ること以外でお主らに危害は加えん。しかし、だいだらぼっちとの戦いに巻き込まれれば別じゃがな。そして、それによって手加減できる保証もないため命の危険も大きい。

 そして制限時間じゃが今回だいだらぼっちには自身の発明品を七災怪相手に存分に試せるということで引き受けておる。なので制限時間はだいだらぼっちが戦いを止めるまでじゃ。

 あやふやな制限時間じゃが本来実戦で明確な制限時間などわからんゆえこれも修業の一つじゃ。では、待っておるぞ」

 

 滞在中の匙との会話で腐女子がばれてしまった文車妖妃が手のひらサイズの木札にさらさらと何かを書いて土蜘蛛に渡す。

 土蜘蛛はソーナたちの前にひっくり返した砂時計を置いて先へ消えていった。

 ソーナたちは砂時計を開始時間と受け取り砂時計をじっと見つめるが、砂が3/2以上落ちたところで文車妖妃が

 

「勘違いしてるようですが規則は天照様がおっしゃったものだけでこの砂時計は何の意味もありませんよ」

「もっと早く言えよッ!」

 

 匙のツッコミと同時に少し遅れて、しかし上級日本妖怪を相手にするには遅すぎる出だしだ。

 そのため戦闘直前という絶好の機会を完全に逃し激戦中という最悪な状態になってしまった。

 

「とりあえず、私たちができる最高の威力で割り込む隙を探しましょう。

 頼みましたよ、由良、仁村、花戒お願いします」

「「「はい! 火風雷遁・三位舞首」」」

 

 火遁・風遁・雷遁の三位一体のソーナ・シトリー眷属忍術最強の一撃と共に土蜘蛛とだいだらぼっちとの戦闘への割り込みが始まる。

 力はなくとも技術と戦略は悪魔の中で上位に位置すると自負するソーナの力が惜しげもなく発揮される。

 

「ならばこれでどうよだいだらぼっちよ、土遁・土龍登り」

「ふふふならばこれはどうだ土蜘蛛。妖気探知ミサイル」

 

 だが、二人はソーナたちを気にも留めずに戦いを続ける。

 ソーナたちの攻撃は二人の激しい余波にすべて弾き返されてしまったのだ。

 

「くっ、己の力のなさが憎い」

「会長、自棄にならないでください。私たちのやってきたことは確かに無駄ではないのですから」

「ええわかってます。ですが、この場面リアスたちならば……」

 

 もしもこれがリアス眷属たちならば、一誠の赤龍帝の倍加の力やリアスの消滅の力で強引に突破できた可能性も無きにあらず。

 しかしソーナたちは忍術を習得したところでリアスたちのような強力な大技は持ち得ていないのだ。

 あくまで五行陰陽の属性相性と巧みな戦術で戦うだけで、単純に強力な力に対抗することがソーナたちの弱点である。

 

「イッセーたちと比較しないでください! 会長がそんなことを言ったら俺は……」

「匙くんそんな弱気になっちゃだめ。会長だって別に本気で言ってるわけじゃ」

「わかってるわかってるよ。だけど、こんな局面になる度にあいつらがまぶしく見えちまって……」

 

 ソーナたちには二つ道があった。

 一つはアザゼル総督のご厚意に甘え人口神器に頼る事。これならば強さはいかに人口神器を使いこなすかが強さのミソとなりアザゼルの魔改造次第でぐんぐん強くなれる。

 だが、それは個々の可能性を捨てると同時に自分たちの強さ=人口神器の強さと認識されてしまう。さらにアザゼル総督の意思一つで自分たちはすべての力と実績を失う。

 二つ目の道は今まさに辿る個々の実力を高めること。これならば実力、実績共にすべてソーナたちの手に収まる。

 しかし、自身に大した才能がないことを自覚するソーナ眷属。神器を持つ森羅と匙も一誠ほどのインパクトと強さはなく、匙に至ってはこれまたアザゼルの技術が組み込まれてしまっている。

 才能がないソーナたちにとって二つ目の手段は無謀ともいえる。

 だからこそソーナたちはあえてこの道を進んだ。自分たちの実力だと胸を張って言うために。

 

 絶望的な力の差、自身の内側からあふれ出す劣等感。

 弱気になりながらもソーナの頭は思考を止めようとはしなかった。

 確かに私たちはリアスたちよりも数段劣っている。それはもう逃れようのない事実。そんなのはもうとっくに理解していた。

 それでも何かあるはず、非才な私たちでも頂に近づく何かが。

 そこでソーナは高天原での最初の修業、こころに眷属全員ボコボコにされて自分の弱さと徹底的に向き合わされた時に言っていた言葉。

 

「我々は無駄な力は使わない。

 外国の怪異のように強力な力を持ちえない代わりに自分の力を無駄なく使い最小限の力で最大限の力を発揮できるようにしている。

 おまえたちは自分の力を増やすことでしか強さの基準を作れない。だから相手が自分の力を上回ったら、自分の力が通じなかったら勝てない。

 だが、我々はいかに能力や力の差で劣っていようとも勝機を見いだせる。それが我々が勝っている部分だ。

 しかし、逆に我々は個々の能力が低いため力を増やそうとすることをおろそかにする傾向がある。そこは我らの劣ってる部分だな。

 おまえたちは各上相手に必ず負けるが、我々は各上に勝てる可能性があるが格下に負ける可能性もある。

 どちらが強いとは言い難い、一長一短なのだよ」

 

 そしてある結論に辿り着く。

 

「お次はこれだ! 磨滅ランチャー」

「ほうほう、威力はなかなか。攻撃範囲、命中精度もよし。

 しかし、単発で終いか?」

「会長……?」

 

 二人の余波の届かぬ場所で敗者のオーラを醸し出すソーナ眷属内でソーナはふらっと立ち上がる。

 その姿には先ほどまでの負け犬の像は見えない。

 むしろ今までの勝利の方程式を組み終わった時の表情をするソーナの顔が。

 

「みなさん、立ってください。こんなとこで立ち止まってしまっては盾子さんを止めることなんてできません」

 

 そのソーナの顔は眷属全員に安心感を与え押しつぶされてしまっていた心をたてなおらせた。

 

「会長! ついにあの二人に対抗する手段を見つけたんですね!」

「いいえまったく。むしろ何度考えてもあの二人の間に割って入ることは今の私たちには無理と判断しました」

 

 だが、皆の代弁とも言える匙の言葉をバッサリと否定した。

 眷属ほとんどがいっきに落胆する。

 

「しかし、天照様の課題をクリアすることはできます」

「一体どうやって?」

「戦いは手段であって目的ではないってことですよ」

 

 

 

 

   ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「正解じゃ! 土蜘蛛の持っておった札と一字一句間違いなくあっておる」

「はい」

 

 アマテラスのもとへ戻ったソーナは与えられた課題通り土蜘蛛の持つ木札にかかれている文字を伝えた。

 それを確かめるべく土蜘蛛とだいだらぼっちの戦闘を中断させ連れてきて木札をアマテラスが直々に確認する。そして見事正解だった。

 

「合格じゃ。これで今できる修業は終いじゃ。後は時間をかけて己を研磨することじゃ」

「はい、ありがとうございました。

 そして、私たちの修業のためにわざわざ天照様まで来てくださってありがとうございます」

「よいよい、ちょうど仕事詰めで手ごろな息抜きがほしいと思っとったところじゃ。

 それに日本を救うためであれば儂も協力は惜しまん」

 

 ソーナは修業の懇願時に盾子の事を話していいる。

 だからこそ日本勢力もソーナたちの修業に協力した。盾子の行動が必ず日本にも何かしらの不利益をもたらすだろうと。

 それほどの理由がなくては例えソーナたちであろうと断っていただろう。

 

「ところでどうやって土蜘蛛の目を欺いて札の字を読んだ? 土蜘蛛はお主らを近づけておらぬと言っておったが?」

「簡単な事です。札の字が読めないなら字を書いた人に聞けばよいと。ですから文車妖妃さんに直接札の内容を聞きました。ルール上問題はありませんよね?」

 

 アマテラスが少し意地悪っぽく質問するとソーナもまた賄賂を渡す人のような悪そうに笑って答える。

 

「ああ、問題なしじゃ」

「今回私たちに与えられた課題は土蜘蛛さんとだいだらぼっちさんを倒すことではなくあくまで土蜘蛛さんが首にかけた札の字を持ち帰る事。

 ですから土蜘蛛さんたちをたおすよりも確実で簡単な方法があればそちらをとるのが得策だと」

「その通り。正面から力で制すなど今のお前たちには無理な事。

 そして今回の敵もおそらく技量はお主ら以上だと考えたほうが良い」

 

 おふざけの入った表情から一変して真剣な表情へ変わる。

 それはアマテラスがある程度ソーナの事を信頼してると同時に破面のこれまでの行動と凶暴性からかなりの現実味があると考えているからだ。

 実際ノラ虚ですら三大勢力からの被害程ではないが無視できない被害が出ている。

 そのため引退した生きている元七災怪も現場に出ている。

 

「その盾子とやらが使う術はお主が元々仕えた水遁・蒸気暴威から考えて忍術と考えてよかろう。

 となれば砂を操る術は恐らく何かしら手が加えられておると思うが基本は砂遁じゃろう。

 砂遁はそれだけで土遁の上位。さらにお主が言った力を枯渇させる術や砂で圧死させる術も高度な技術。加えて知恵者である事も考えれば忍術は土蜘蛛と同等と考えてもよかろう」

 

 話に聞いただけの情報でもアマテラスは盾子を高く評価した。

 それは盾子が破面の支配者という事に加え自分たちの術を習得してる可能性が大きいうえに相当の知識を持ってると判断したからである。

 その多彩な技術と知識が同じ系統の術を使う者同士としてソーナたちがどれほどか苦戦するのは目に見えている。

 

「敵の力を見誤るでないぞ。それさえしなければお主らが死ぬ事は少なかろう」

「はい、ご忠告ありがとうござます」

「うむ。では儂らはこれで失礼する」

 

 そう言ってアマテラスと土蜘蛛はその場から消え、後に残ったのはソーナたちとだいだらぼっちと文車妖妃。

 だいだらぼっちがソーナたちに話しかける。

 

「さて、この機械も返しておこう」

 

 だいだらぼっちはソーナたちから預かった電子生徒手帳を返す。

 ここであれば何かしら呪いを解除したりする方法があるかもしれないと預けていたのである。

 

「何かわかりましたか?」

「うむ、天才発明家である私が呪術の達人である役小角と協力して調べてみたが現段階では時間的にも足りない。

 これを分解できれば手っ取り早いのだがこの類の呪具は下手に破壊すると解呪不可能となる可能性が高いとの意見があったからな」

 

 だいだらぼっちはこの一週間ほどで調べた結果を高らかと説明する。

 体は小さく殆ど成果はないというのに態度だけはとことん巨人級。

 

「これはまさに科学と呪術の革新的な組み合わせだな。

 残念ながら私は呪術、あいつは機械が専門外なのだ」

 

 話をしながら適当に残りの電子生徒手帳も返しているがここまで話して返していない電子生徒手帳はまだだいだらぼっちの手の中に半分ほど残っている。

 だいだらぼっちが説明している間暇そうにしていた文車妖妃はその場で白紙の巻物に何かを書き始めた。中身は文車妖妃の妄想のBL小説である。

 

「これは例えるなら人間が作った法律ってとこだね」

「法律?」

「融通がきかないから穴をつければ簡単。まっその穴を探すのが大変なんだけどね」

 

 匙の質問に答えると同時に最後の電子生徒手帳を返し終える。

 返し終えると同時に自分の用件は終わったとばかりに勝手にその場から消える。

 それがアマテラス相手でも発明が浮かんだならばその手を止めない巨人の図太さと自己中心的なだいだらぼっちの性格。

 

「さてさて終わりましたか。それでは私からの話を始めさせていただきましょう」

 

 文車妖妃はだいだらぼっちの話が終わったのを察するときりのいいとこまで素早く書いて立ち上がる。

 

「まずは一週間お疲れ様でした。

 この後はどうします? アマテラス様の課題を合格した貴方たちなら大体の妖怪は忍の皆さんと殆ど同じ扱いをしてくれると思います。

 流石に七災怪程の方に稽古をつけてもらうことはできませんが他の強者妖怪なら頼めると思いますよ。どうします?」

「いいえ、これ以上は急速な成長は私たちでは望めそうもありませんのでベストコンディションで挑めるように誠司くんと合流して最後の休息を取りたいと思ってます。

 それに駒王町もそろそろ心配ですし。今町を守ってる友人は確かに強いですが他の面で不安で今の敵に対しては力不足感があるので」

「町の事なら心配ありません。日本を守るのは本来我々の仕事。

 虚の目撃数がダントツに多い駒王町にはある派閥を一時的に派遣していますから」

 

 

    ◆◇◆◇◆◇

 

 

 モノクマの襲来によって告げられた門番を探すべく日常生活をきちんと送りながら門番の情報を集めるリアス眷属たち。

 話を聞いた冥界の上層部も可能な限り町に手伝える悪魔を配置して協力している。

 修業にも協力的だったが残念ながら手の空いてる強者はおらず重要な要件に駆り出されているか病院のベットの上、もしくは墓の中である。

 しかし、日常生活と悪魔としての仕事もおろそかにするわけにもいかないと考え時間的に情報はあまり集まらない。有力な情報に関しては皆無。

 おそらくすべてを情報集めに回しても見つからないであろう。

 

 その間も盾子との決戦に向けて個々の修業も欠かさなかった。

 一誠と木場はお互いに組手で技の質を落とさないようにし、自身の改善点を何度も話し合ったり。

 ゼノヴィアはイリナに協力してもらって剣の鍛錬。リアスと朱乃とロスヴァイセもそれぞれ練習メニューをこなす。

 アザゼルの協力もありかなり良質なトレーニングができている。

 だが、それはすべて日常の片手間ということもありあまり効果はでそうもない。効果的なのは本人たちが日々劇的に強くなっているという半分思い込のような実感のみ。

 やはり今まで一気に強くなる術ばかりを手に入れてきてしまった弊害がここで出てきている。どうにも基礎的なことよりも応用的なことばかりを基礎トレーニングのように行っている。昔ながらのスポコントレーニングばかりで筋肉の付き方もめちゃくちゃ。

 唯一着実に力をつけているのは小猫だけ。

 

「そう、その感じだにゃ。白音に自然のエネルギーが満ちるのを感じるにゃ」

「……なるほど。鬼喰いさんが言っていた料理の味一つ一つを感じろとはこのことだったのですか」

「そうだね料理の原材料がどんな味へと変化したかを一つ一つ感じるのは自然のエネルギー一つ一つを感じるトレーニングになりそうだにゃ」

 

 黒歌はあの後ヴァーリチームをやめて日本で修業のし直しをしたいと言った。

 そして前の師匠に頭を下げて昔のことを謝り弟子にしてほしいと頼み込んだ。

 最初は悪魔に教えることはできないと断られたが必死に頼み込みでここで得た力は悪魔としては決して使ってはならないという条件で許可。

 今は師匠の身の回りの世話をしながら修業させてもらっている。

 そして今は師匠にしばらく暇をもらえるように頼み込んで妹の小猫へ自分が身に着けたスキルを日本妖怪猫ショウとして伝えに伝えている。

 

「姉さんはこんな短い期間でどうしてそんなにも強くなれたんですか?」

「それはやっぱり教える人がよかったからかにゃ。なんたってお姉ちゃんの師匠はただの猫又から火車へとなった二代目火影だからにゃ!」

 

 黒歌が師匠は実は引退した二代目火影だと知ったのはつい最近である。

 通常は潜在能力的意味合いで猫ショウだけが火車へとなれるチャンスがあるが、ただの猫又で火車へとなったのは二代目と三代目火影だけ。

 

「本当は私よりも師匠か他の火車に白音の修業を頼んであげたいけど、師匠には断られたし他の火車に至っては師匠と現火影以外絶滅してるし」

 

 補足すると日本妖怪の猫ショウも絶滅している。

 なので実質火車になれる者はもういない。

 

「いいえ、姉さんだからよかった。だからこそ私もこの火車の力を得ることができた。

 きっと他の人ではここまでこれなかったから」

「にゃあ。うれしいにゃ。こんなに早く習得できたのは白音が才能があったからにゃ。

 だけどそれを火車と言うのはやめた方がいい。私も初めて発現した時に師匠に火車になれたって言ったら怒られたにゃ」

 

 名乗るとしても最低でもそれを火車の力だとは言ってはいけない。

 なぜならその小猫たちが発現した火車のような力は本物の火車の力とはあらゆる面で違うからだ。

 いうなれば小猫たちの火車は妖力と魔力の両方を使うことで発動基準を落とした妥協発動というべきもの。

 日本妖怪が怒るのは日本で生まれ消えた火車の名をその程度の努力で得られるものと汚されたくないからだ。

 だが、火車の力をオマージュしたものと言うなら日本勢力も怒りはしない。火車の名をそのまま盗られることが日本の逆鱗に触れる。

 実際に悪魔でなかったとしたら小猫も黒歌も火車へといたるには力不足すぎる。

 そしてその日の夜リアスたちは複数のはぐれ悪魔討伐に向かった。

 

「なぜ3人ものはぐれ悪魔がこの町に」

「この前の冥界襲撃で動ける悪魔がかなり減ってしまったの。

 だからそれまで息をひそめていたはぐれ悪魔たちが活発的に動きだしたって聞いたわ」

「しかし、幸いにもそれほど数が多くないらしく被害はかなり少ないと聞いてますわ」

 

 送られた資料にはA級と書かれてるが今のリアスメンバーの実力からすれば簡単な相手。

 リアスたちはさっさと終わらせて明日に備えようと考えていた。だが……

 

「おかしいわね。報告ではこの辺りのはずなのに」

「確か資料によれば自分の力に酔って主を全治半年の重傷を負わせて脱走した典型的な力に溺れたパターン。

 さらに極度の戦闘狂でもありはぐれ認定前から同族に一方的に喧嘩をしかけては力を誇示するためと語り部にするために過度に負傷させていた。だったと記憶してます」

「そんな相手が縄張りに入ってきた僕たちを放置するのはやっぱり何かおかしいですね」

 

 このようにはぐれ悪魔を長い時間探し回るが一向に見つからない。

 相手が好戦的とあることで盛大に呼びかけてみるも音沙汰はなし。

 ちなみにギャスパーは盾子との決戦のために自分の技を完成させたいと昨日から数えて三日間修業に出かけてしまったのでこの場にはいない。

 

「小猫ちゃんの仙術でも反応なしか?」

「はい何も……いえ!」

 

 小猫は大きくて希薄で微弱な何かをかすかに感じ取った。

 

「向こうにかすかですが何か感じました」

「はぐれ悪魔かしら」

「わかりません。ただ、ほんの一瞬ですごく希薄でしたが確かに何か感じ取りました」

 

 リアスたちは小猫の感覚を信じてそちらの方へ進んだ。

 そこでリアスたちが見たものは、見るも無残に殺されたこの町の警備に当てられた悪魔たち。

 その血だまりにたたずむ三つの影。

 ドレッドヘアの不良のような風貌の男、血の付いた白いワンピースと左手に持った日本刀と顔を包帯でぐるぐる巻きにした女性、ブレザー制服にポニーテールで下半身がない女性の三人。

 

「これは、貴方たちがやったの?」

 

 三人の不審者は互いに目を見てしばらく魔を開けてから下半身のない女性が口を開く。

 

「だったらどうする?」

「ここで捕らえさせてもらうのが最善だけど、最悪この場で消滅することになるわ。

 数はこちらの方が多いわ。おとなしく投降しなさい」

 

 その問いの答えは。

 

「私たちを捕らえる? ……くすっ、ケラケラケラケラケラ」

「ひゃはははははははは」

「くすくすくすくす」

 

 三人は三者三様の笑い方で笑い出す。

 その不気味な様子に警戒するリアスたちであるが、三人は急に笑うのをピタリとやめると三方向へ別々に走って行った。

 

「なっ! 逃がすもんですか!

 みんな追ってちょうだい」

『はい』

「……逃げたんじゃない」

 

 三人の足はそれほど速くなくリアスたちが回り込み逃げ道を塞ぐのは容易だった。

 下半身のない女性にはリアスと朱乃とロスヴァイセ、包帯の女性には木場とゼノヴィア、ドレッドヘアの男には一誠と小猫が向かう。

 リアスたちはすぐにとらえられると思っていた。実際戦闘自体はすぐに勝敗が決した。

 

 

   ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「追いついたわ。さあ、おとなしく」

「シシシ、追いつかせてやったんだよ」

 

 下半身のない女性は両手を使って走っていたが、ここに来て自分たちから逃げていたスピードとは比較にならない程のスピードでリアスたちに近づく。

 

「なんですって! こんなに素早いなんて」

「くっ、雷光ッ!!」

「スピードがあってもこれだけの魔法攻撃なら!」

 

 朱乃の雷光、リアスの消滅の力、ロスヴァイセの北欧魔法攻撃の嵐も女性はいとも簡単に避けて見せる。

 そして両手で走ってるとは思えぬスピードで朱乃とロスヴァイセに近づいた。

 

「この動きについてこれないなんて、まだまだだね」

 

 女性はスピードに乗ったまま両腕を引いて突き出して槍の如きタックルで朱乃とロスヴァイセを吹き飛ばす。

 

「がっ! ……がはっ…………」

「い、息が……できない……」

 

 思いっきり腹を吹き飛ばされたため二人は呼吸困難になり戦闘不能へと追いやられてた。

 

「はい油断しない」

 

 女性は二人を倒した後も加速を続けリアスの手前まで来て両腕で強引に小回りを利かせてリアスの背後に回りリアスの首をとった。

 

「はいおわり~」

 

 

 

   ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 木場とゼノヴィアは包帯の女性と剣を持って対峙している。

 確実にとらえるために木場は禁手を展開している。

 だが、未だ捕らえるに至ってはいない。

 

「くそっ、殺さぬように加減はしてるがエクス・デュランダルでは難しい。

 そもそも相手はなぜ武器を持っていて戦おうとはしないのだろうか?」

「それは違うよ。彼女はさっきからずっと刀の柄に手をかけている。

 おそらく僕らの隙を伺ってるんだよ」

「だが、あの持ち方で振るえるのか?」

 

 ゼノヴィアの言うとおり包帯の女性は右手で鞘を持ち左手で柄を持ち両方の手の甲が相手に見える持ち方をしている。

 つまり刀の柄を持ってはいるが明らかに斬る体制ではない。

 

「確かにそうだが。油断はいけない。

 サイラオーグ眷属の騎士のシャルル君も剣とは思えない剣を扱っていた。

 相手が武器を構えているのならどのような体制でも僕は油断しないよ。

 それに、ゼノヴィアが本気で戦うことで僕の『双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』が彼女を捕らえやすくなる」

「そうだな。私はただ目の前の障害を打ち倒すことだけを考えよう!」

 

 包帯の女性はしばらく避け続け「……ふむ」と一言発すると剣の持ち方を居合切りの体制に素早く変える。

 その変化を木場とゼノヴィアも見逃さなかった。

 

「来る」

「うむ」

「トン・カラ・トン」

 

 包帯の女性が剣を振るうと『双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』はすべて横一文字に切り裂かれた。

 そして次の瞬間女性の姿は消えている。

 

「ど、どこに!」

 

 数秒あたりをきょろきょろと周りを探すが見つからない。

 

「トン・カラ・トン」

 

 いつの間にかゼノヴィアの喉に刃が突き付けられている。

 鞘に納められた刀を少しだけ抜いて後ろから。

 この体制になるまで木場たちは女性の気配に気づけなかった。

 

 

 

  ◆◇◆◇◆◇

 

 

 一誠と小猫はドレッドヘアの男とすさまじい接近戦を繰り広げていた。

 

「くっそー! なんで当たらねえんだよ」

 

 一誠の攻撃はすべて躱され突き出す腕はすべて手刀で落とされる。

 禁手の鎧の上から感じる振動でも生身なら何発もくらえば折れてしまう程の威力とわかる。

 

「当たりさえすればなんとか」

「カスの攻撃なんざ俺には当たらねえんだよ!

 

 小猫も一誠のサポートとして仙術で内部の気を乱そうとするが攻撃がすべて手刀で落とされる。

 同時攻撃を仕掛けても男はとんでもない反応速度でそれにたやすく対応してしまう。

 小猫の手も筋状に赤くなってきている。

 

「ならこれならどうだ! 禁手(バランス・ブレイク)! モードチェンジ! 『龍星の騎士(ウェルシュ・ソニックブースト・ナイト)』!!」

 

 一誠はスピードで撹乱する作戦に出た。

 龍神の力がなくなって格段に落ちたとはいえ木場ですらこのスピードにはついてこれない。

 だが男は。

 

「なんだなんだ? そんな大層なもん使ってその程度か? カス」

 

 男はずっと目線を一誠の方へ向け続ける。

 変則的に動きながら可能な限り全速力で動いてるが金次郎は変わらずニヤニヤしたままずっと一誠の方を見てる。しかも小猫の相手をしながら。

 しかし、一誠はそれをスピードをさらに上げると言う荒業で対処して見せようと考えた

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

「なっ! この俺でも追いきれスピードだと!?」

 

 その頑張りあってか徐々に男の反応が遅れていく。

 男は一誠の軌道をじっくり観察しようと小猫を強引に引き離す。その隙を見つけて一誠はどぎつい一撃を入れるため急接近をした。男の目線はこちらを向いていない。だが。

 

「なんてな。まったくカスは簡単に引っ掛かりやがる」

 

 一誠が突撃の姿勢で停止不可能ギリギリで男は一誠の方へ振り向いた。右手を手刀にして迎撃態勢もばっちり終わらせて。

 しかしもう止められない。止めようとすればそれこそ大きな隙ができてしまう。

 小猫もフォローに入れない。

 

「いい夢見れたか? カス」

「ぐぁっ! くっ、モ、モードチェンジ 『龍剛の戦車(ウェルシュ・ドラゴニック・ルーク)』」

 

 それでも一誠の未熟だった頃から培った実戦経験が一誠に防御態勢を素早く取らせた。

 

「アメェよカスが」

「ぐぁぁぁぁぁっ!」

 

 だが金次郎は一誠がプロモーションして0.01秒で反応し手刀から一誠の腕をつかんで背負い投げに切り替えた。

 それでも一誠は地面にたたきつけられないようにスラスターで踏ん張るが上から右手で思いっきり押し込まれて地面に勢いよく激突させられる。その際つかんだ腕を握力で砕いた。

 硬い鎧は叩きつけられた振動を余すことなく一誠に伝えてしまう。

 

「オラオラ、もうおねんねか? 根性なさすぎだろカス」

「誰が終わりっつった……。まだまだこれからだッ!」

「私もいます」

「カスが何人増えたって一括りのカスに変わりねえんだよ。お前らは一にすらならねえんだよ」

 

 それから一誠と小猫は夢中になって男に攻撃を仕掛ける。

 だが、男はその努力をあざけり笑いながらすべて迎撃してしまう。

 しかし、何度も何度もそれをくり返すうちに男はあざけり笑いも挑発の言葉もやめて無表情でさばきだす。

 そして一誠と小猫の拳を両手で受け止める。拳が握りつぶされそうな程の握力で握り二人は拳を全く引き抜くこともできない。

 

「お前たちの実力はもうわかったよ“ザコ”」

 

 そう言って男は急に攻撃を止める。

 乱暴に二人の拳を投げ捨てて後ろを指差す。

 そこには首を取られたリアスと息ができなくて苦しむ朱乃たち。

 ゼノヴィアを人質にとられて動けない木場。

 一誠たちは自分たちの状況を把握した。

 

 

 

 

 

 

 リアスたちは一カ所に集めさせられた。

 既に相手の実力差は思い知らされている。自分たちでは、ましてや既に叩かれた状態の自分たちで勝てないことはわかっている。

 だが、これからの事態に屈するつもりは一切なかった。

 そう思っていた。

 

「まず言っとくが私たちはこの悪魔を殺してない」

「……え?」

「……私たちが来たときには……既に死んでた」

「じゃあなんであんな思わせぶりなセリフを?」

「ちょうどいい機会だから腕の方の自己紹介と思ってな」

「それじゃあ貴方たちは一体何者?」

 

 そのセリフを待ってましたかと言わんばかりに反応する三人。

 そして三人は真ん中に密集して腕組みをする。

 

「まずは私。踏み切りで列車にはねられ、上半身と下半身とに切断されてなお死ねなかった女性の都市伝説。テケテケ!」

「背負っている薪の数が減る、持っている本のページがめくれる、図書室に行く、校庭を走り回っているなどの都市伝説。二宮金次郎!」

「……全身に包帯を巻き、日本刀を持った姿で、「トン、トン、トンカラ、トン」と歌いながら自転車に乗って現れる都市伝説。トンカラトン」

「我ら」

「日本妖怪最大の」

「……表役者」

「「「華の都市伝説組!」」」

 

 三人はノリノリでポーズを決めながら自己紹介をした。

 その姿をリアスたちはポカンと見ている。

 

「まっそういうわけだから私たちは敵じゃない」

「じゃあなぜあなたたちがこの場に」

「俺たちは悪魔ではない何かの気配を感じて駆けつけたんだ。

 まっ遅かったがな」

 

 

「……日本を守るのは日本勢力の役目。……そして……ここを守るように天照様より命じられたのはワレワレ都市伝説組。悪魔は引っ込んでもらおう」

「そ、そんなの聞いてないわ!」

「前の話し合いで日本は日本勢力に返還される話に纏まったって聞いたよ。

 まあ正式にはまだ実権は返してもらってないらしいけどね」

「それじゃここはまだグレモリーの領土だから町を守る役目も私たちにあるは」

「ごちゃごちゃうるせんだよ。テメエらザコはおとなしく引っ込んどけって話だよ」

 

 金次郎はリアスに対して壁がめり込むほどの壁ドンを決め込む。

 リアスも先ほどのダメージもあるためか金次郎の迫力と距離的な威圧に何も抵抗できない。

 

「おい! リアスに手を出すんじゃねえッ!」

「さわんじゃねえよクソザコ」

「ぐっ」

 

 リアスのピンチに一誠が立ち上がり金次郎の肩を掴んでやめさせようとするが触れる寸前に金次郎に思いっきり跳ね飛ばされた。

 

「イッセーさん!」

「イッセー!」

 

 飛ばされた一誠に駆け寄るリアス眷属。

 

「今町で起こってる大きな異変も気づかねえ奴が大口叩くんじゃねえ!」

「町で起こってる……大きな異変? それはどういうこと!?」

「あ゛? 自分で調べろバーカ」

 

 リアスたちが大きな異変のとこを聞くも金次郎は教えてくれない。

 別れ際にリアスたちを馬鹿にしてその場から去ってしまった。

 

「金次郎の奴口が悪くてごめんね。でも、説明したところでたぶん納得しないと思うから。

 そのうち機会があれば呼んであげるからさ」

「……トン・カラ・トン」

 

 完敗したこともアリ暗くなっているリアスたちにテケテケは優しく話しかける。

 そうして残った二人も去った。

 残されたリアスたちはとりあえず遺体の事を上に連絡して帰った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告