本日2話目です。
この番外編はミュージカル風…というよりはインド映画リスペクト。時々歌を挟む感じで進めようと考えております。
満天の星。埋め尽くさんばかりの星明りに彩られた宙。
そんな光景を見ていると、いつだって思い出すのは妹の……
◇◇◇
「お兄ちゃん。今度ね、学校で合唱コンクールがあるんだけどね」
小学6年生になった妹が病室で呟く。
その手には薄くて青い冊子。ト音記号やヘ音記号のイラストが躍り、『第45回合唱コンクール』の文字が印刷されている。
随分と長く、精一杯の力で持っていたのだろう。冊子にはクッキリと皴が刻まれている。それはまるで溢れ出る彼女の感情を代弁しているようにも見えた。
小学校6年間、通学していない日の方が圧倒的に多い妹。運動会を筆頭に、各種行事は不参加が当たり前。遠足も校外学習も。これまでの計5回の合唱コンクールだって、そうだった。
ただ歌うだけなら、とは行かない。壇上に立って人前で一曲を歌いきる。それは想像以上に体力を消耗する。
途中で倒れたりすれば全てが滅茶苦茶になるだろう。クラスメイト達が放課後に残って練習したりして積み上げてきた努力を踏みにじることになる。
それは妹が一番嫌うことに他ならない。自分のせいで誰かに迷惑をかけてしまうことを、妹は何より嫌う。
「……ごめん。何でもない」
そんな妹が、こんなにも未練がましく合唱コンクールのプログラムを握りしめている。その理由なんて明白に過ぎる。
恐らく…いや、間違いなく。妹は最後のイベントである修学旅行にだって参加は出来ない。このままならば、彼女は“クラスの皆で何かをする”という学校らしい思い出を何1つ経験できずに卒業してしまう。
頻繁に病室へ見舞いに来てくれた友達とも、中学が別々になれば今までのように会えなくなるかもしれない。
正真正銘、これは妹にとって最後のチャンスなのだろう。
なら――
「分かった。じゃあ、兄ちゃんが練習に付き合うぞ」
「本当!?」
口に出しながら、自分の中の冷静な部分が無責任な発言をするなと非難するのを自覚する。
だが、知った事か。これから医者や学校側と相談を重ねなければならないだろうが、そんなもの兄にとって何の苦でもない。
修学旅行やらと比べれば、その実現可能性は比べるまでもなく高いのは明らか。
そして。
たとえ最終的には参加できずとも。
その努力の過程こそが、青春そのものなのだと俺は思うから。
だから。
「あぁ、勿論だ。病室で歌うのは迷惑かもだから、外の中庭で一緒に歌おう」
「うん! ありがとう、お兄ちゃん!」
何より。この笑顔が見れるのなら。この笑顔を守れるのなら。
自らの選択に後悔なんて微塵もない。
「それで、課題曲はどんな歌なんだ?」
「えっとね――」
妹が口にした歌は俺も良く知っている歌だった。日本人なら誰でも知っていると言っても過言ではない名曲。
その歌は比較的に短かったから、宙音でも頑張れば歌いきれるかもしれなかった。
もしかしたら、先生やクラスメイトがそういう歌を意図して選んでくれたのかもしれない。そんな事を思った。
◇◇◇
夢は今もめぐりて
忘れがたき
雨に風につけても
思ひいづる故郷
志を果たして
いつの日にか帰らん
山は青き故郷
水は清き故郷
◇◇◇
「っ…! 誰ですか!?」
背後に何者かの気配。
じっくりコトコト料理しながら人目を気にせず歌う……そんなことをしていたから気付かなかった。
思い出すのは数日前に遭遇したムレ騎士。黒衣を纏っていても、この混沌の地で安易な安心は命取り。
すわ敵襲かと振り向けば――
「…………女の、子?」
そこには栗色の髪と瞳の少女…いや、幼女と呼んでも差し支えない小さな女の子。
随分と痩せ細った彼女は、そこで静かに涙を流していた。
<後書き>
歌は悩みました。
『カントリーロード』や『遠く遠く』、『麦の唄』。
故郷を想う曲は名曲が多くて困りました。
ただ、“帰らないで頑張る”“もう帰らない”みたいな歌はティエラには合わないなと判断。本人も絶対に歌いたくないでしょうし。
そんなわけで『ふるさと』に決定しました。
追記
やっと書けたので、明日は本編投稿します。お待たせいたしました。