ソシャゲで人気投票1位にならないと帰れない!   作:夢泉

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前回の話のティエラ視点。
こ れ は ヒ ド イ

少しだけシリアスあります。


4話 舞台裏のティエラ

「『ようやく、見つけました』…なんか違いますね」

 

 メインストーリーの最初は何かどっかの城塞都市らしい。

 らしい、と曖昧なのには理由がある。体感で5年以上前の事なのでゲームの内容とかほとんど覚えていないのだ。メモ帳に忘れないようにメモしておいた内容に「最初は城塞都市。遊牧民と戦争。領主に直訴」等と書いてあったので、多分そうなんだろうな、という感じである。

 他にも戦争の理由やら何やらも書いてあった。5年前のオレに感謝である。

 もしもオレの後にゲーム世界に転生する後輩がいたら、メモ帳とペンを何が何でも入手しろとアドバイスするね。

 

 「ティエラ・アス」の本能とでもいうべき「主人公クン追跡機能」をフル活用して進む方向に、立派な城塞で囲まれた都市が見えてきた。なので、多分あれがそうなんだろう。名前とかは知らん。

 

「『やっと、見つけました』『見つけました』『見つけた』『会いたかったです』『探しておりました』」

 

 魔術で低空飛行しながら何をブツブツ呟いているのかと言えば、ファーストコンタクト用セリフの最終確認である。

 前々から、主人公クンの反応を予想してセリフを作成し、劇の台本を覚えるように毎晩練習を重ねていたのだ。だが、直前になってもっと良いセリフがあるんじゃないかな、とか不安になってきたのである。

 大事な試験前あるあるだ。

 

「『やっと、見つけた…』…これですね。やはり」

 

 だが、そういう時に限って当初の案がやっぱり良いなと再認識するまでがセットだったりする。

 通常は「です、ます」と丁寧な口調で話す「ティエラ・アス」の口調が、歓びやら何やら巨大な感情で崩れてしまうというコンセプトだ。

 運命的な再会だということを強調するため、街中でぶつかってしまうというのも良いだろう。そうだな、その時のセリフは「きゃっ!」だな。「オレ」という男勝りな一人称のオレが発する最初で最後(ストーリーが進めば他にも出すかもだが、当面はない)の女らしさ全開の言葉である。

 きっと、画面の向こうの皆様は、その女の子っぽいのが本当の「オレ」だと誤認し、「オレ」という一人称や男っぽい振る舞いは虚勢を張っているのだと解釈することだろう。

 普段強気な女の子が内面には弱さを抱えている…って良くない?守ってあげたいと思うじゃん?思うよね?思えよ。思って全力でオレを守れ、推せ。1位にしろ。

 

「ふむ、主人公クンセンサーは真っ直ぐこの街に向かっていますね」

 

 城塞都市に入る。

 この世界は色んな世界の融合世界だ。そのため、共通の身分証とかはまだまだ整備されていない現状がある。その国独特の身元確認で外部からの侵入を遮断している所も無いわけではないが、あまりにも少数で例外的だ。

 

「さて、初めて来る街ですし、当然ながら土地勘は皆無です」

 

 これは困ったな。城塞都市っぽい所も5年の旅の途中でいくつか訪れたが、全部外れだったようだ。

 最初は落ち着いて手料理(日本食再現)を食べさせたかったが、初めての土地では難しい。料理が出来る台所の確保がまず困難。落ち着いて食べることが出来る宿のような場所も即座には用意できない。その土地の食材の種類や鮮度、質だって分からないし。

 ならば、せめてオシャンティーなキャフェテリアでも見つけて優雅なティータイムと洒落込もう。

 ここで妥協は出来ない。せっかく案内した場所が満席で入れない…とかだとちょっと間抜けじゃん?ドジっ子とか残念属性が付く。そして、それは残念ながらティエラ・アスの目指す方向性ではないのだ。

 とすれば、人目につかないような、それでいて掃除が行き届いているような店が最適だな。ついでに、今のオレの料理人スキルをもってすれば、店から漂う料理の香りや料理人の姿を見るだけで大抵のことは分かる。

 

「む、この香りは…?」

 

 気になった店を覗き込む。

 ふむ、経年劣化の具合を見ても随分と長い事やっているが、掃除は行き届き、店内は清潔。店に染み付いた香りも上等。相当なこだわりがあると見た。店主も素晴らしい立ち姿と雰囲気。その手は職人の手。客も聞きかじっただけの若造ではなく、真の良い店を知っている常連といった感じ。間違いない、ここは良い店だ。

 店も決まったところで、次は。

 

 そうだな。まずライバルを1人潰そう。

 

 5年前のオレのメモと僅かに残った記憶によれば、主人公クンとメインヒロインのルネは魔獣から逃げてこの街に来る。そして、迫る遊牧民と城塞都市の戦争を止めるべく、聞き込みを開始するわけだ。

 ここで色んな話を聞きながら主人公とルネは街中を移動する。その途中で幼女に頼まれた猫探しを挟みつつ、ストーリーは進んでいく。

 そして、この猫探しが直近の最大の強敵である。

 いや、正確には。猫探しを頼む幼女が問題なのだ。

 オレがティエラ・アスの容姿を緑髪蒼眼にしたのには2つの理由がある。

 1つは「地球の意思」という設定に合わせるため。

 もう1つは、キャラ被りが無いからだ。WFにはオレが知っている時点まで緑髪の実装キャラは皆無だった。そのため、唯一無二の個性になる。黒髪とか銀髪とか白髪とか赤髪とか金髪とか青髪とかたくさんいるしね。

 だが、それはプレイアブルキャラに限るのだ。

 そう、この物語序盤で出てくる幼女は無駄にイラストが凝っていて可愛く、しかも緑髪なのである。その個性の塊の容姿から重要キャラではないかと噂されたが、サービス開始から3年たっても再登場は無かった。しかも公式が生放送か何かで「もう出ないですよ」と明言したキャラだったりもする。ファンからの愛称は「猫幼女」であり、ネタ半分に謎の人気があるのだ。

 先ずはコイツの出番を潰す。さっさと猫を見つけて届け、何食わぬ顔で主人公クンと合流しよう。無視しても良いが、シナリオの強制力とかで猫探しスタートされても困る。

 ついでに、本来彼らが聞き込みで集める戦争の理由とか諸々も全部オレが話してしまうとしよう。

 有象無象のモブの出番などいらぬ。オレの人気のための生贄となれ。

 

 

◇◇◇

 

 

「お姉ちゃん、ありがとうー!」

 

 ふ、呑気なものだな。オレに出番を喰らいつくされたとも知らずに。だが安心するがいい、猫幼女よ。お前の分も、緑髪キャラの人気はオレが確立してやろうではないか。

 さて、猫探しをしている間に、主人公クンは完全に街に入った。今は反応が一ヵ所で留まっている事を見るに、ルネちゃんとお話しして仲を深めていることだろう。

 それを邪魔するつもりはない。初めからヒロイン力でアレに勝てるとは考えていないし、正妻枠を狙っているわけでも無いのだから。

 だが、過去の女&謎多き女ポジは譲らない。それはオレのものだ。

 そして、ずっと目を背けていたが…地球さんがハッスルしまくっていらっしゃる。精神統一に洒落にならない労力を割いている状態だ。ステイ、ステイ。落ち着いて。

 これ、主人公クンに会った瞬間何をしでかすか分からんね。

 一層気を引き締めよう。

 

 

◇◇◇

 

 

「なんで、戦争なんて…」

「そこまでは、分からない。けど、この世界で、戦争の意味をイチイチ問うのは、無意味かも」

「そんな…!止めなきゃ…!」

 

 はい、コチラ現場のティエラです。原作主人公クンと正妻ちゃんがイチャついております。

 オレは、2人の会話を近くの茂みに隠れながら伺っている。タイミングを見計らって介入するつもりだからだ。こういう時に緑髪は便利だ。植物に紛れる。

 主人公クンは男の子でしたね。ハイ、地球さんステイ、ステイですよ~。精霊の身体はドキドキしないでね~。精神統一精神統一。そうだこういう時は素数を…あれ?1って素数に含むんだっけ?5年前からロクな計算してないから忘れたわ。これアッチに帰ったら相当勉強しないとヤバいね。

 というか、やっぱりこの主人公は頭おかしいよな。こんな見ず知らずの世界を救おうとか思えるってイカレてるわ。見捨てて帰りたいとは思わんのかね。

 

「なら、まずは聞き込みだ!色んな人から話を聞いてみよう!行くよ、ルネ!」

「おー」

 

 …などと考えているうちに、ちょうどいい感じになった。

 ティエラ・アス、WFへの原作介入を開始する!

 

「きゃっ!」

「うわ、すみません!大丈夫ですか!」

 

 1歩を踏み出した主人公クンとぶつかった。当然、わざとである。

 この程度の衝撃は何でもないが、わざとらしく見えないように倒れ込む。だから地球さんステイステイってば。ちょっと感情のコントロール難しくなってきたわ。

 

「怪我などありませんか?」

 

 よし、ここだ。俯いている間に表情を完璧に造り、練習を重ねたあのセリフを今こそ――!

 

「やっと、見つけた…」

 

 あれ?声が震えて…待って!?涙が溢れてくるんだけど!?

 ちっ、地球様がアグレッシブに暴れているせいで「俺」と「私」が分離しかかっている。

 10年かけて探し求めた存在と会えたという「概念精霊ティエラ・アス」の設定(こころ)が暴走している…!

 いや、シーン的には涙があっても良いか?より感動的になるかもな。なら、結果オーライ。 

 とはいえ、だ。このシーンでは涙として良い方向に働いたが、今後はどうなるかわからないぞ、コレ…!

 

 

◇◇◇

 

 

 とりあえず、先程見つけておいた喫茶店でのお話タイム。

 案の定、ルネも主人公クン――陽川絆という名前だった――も無一文だったのでオレの奢りだ。5年間でそこそこ蓄えたので問題は無いのだが…。

 おい小娘。ちょっとは遠慮しやがれ。キャラ壊すわけにはいかないから怒るに怒れねぇだろうが。あ、まだ頼むの?マジで?

 

「――だから、すみません。僕はティエラさんの事を覚えていないんです」

「そう、そうなのですね。ごめんなさい、人違いだったようです」

 

 そりゃそうだ。会った事ないもの。だが、事実関係などどうでも良い。

 とりあえず、弱弱しく気遣った風に言っておけば、ポイントが稼げるだろう。

 自分も辛いけど相手の事を思いやって一歩引ける女…うん、いいね。ポイント高そう。

 

「記憶を失くして、ティエラさんのことを忘れてしまっているのは、すみません。でも、もし、何か知っているのなら教えてほしいです。思い出すきっかけになるかもしれませんから」

 

 まぁ、こういう質問が来るだろうなとは予測していた。

 とりあえず、ここは情報を小出しにするべきか。意味深なことを言って、考察班の材料にしてもらおう。

 

「…わかりました。とはいえ、オレも言えることは多くはないのです。ただ、貴方は元々こことは異なる世界の人物でした。「地球」と呼ばれる星の「日本」という地で生まれ育った存在が貴方です。覚えはありますか?」

 

 海外版でも主人公の容姿はそのままだったから、このセリフで良いだろう。

 アメリカンな人が来てたりしたら対応は変えてたかもだけど。ちゃんと原作に忠実で良かった。

 

「はい。記憶は無いですけれど、「チキュウ」に「二ホン」…とても懐かしい感じがします」

 

 わかる~。この世界の言語とは明らかに違う音の羅列。超懐かしいし安心するよね。

 寂しい時は一人で日本語呟いてるんだよね、オレ。日本語で歌とか歌うこともある。かなり心が落ち着くよ。

 

 すると、主人公クンが自分の名前「陽川絆」について質問してきた。

 オレが探していた人物と彼が同一人物なのかの確認……いや、本質は自分が本当に「陽川絆」なのかという確認か。

 ふむ。実際、名前間違っている説も無きにしも非ず。オレはコイツがどこまで記憶を失っているか正確な所は分からないのだ。

 適当に、意味深かつ間違えていても言い訳できるような言い回しにしておこう。

 

「えぇ。間違いなく、その名前だったはずです。懐かしい感じがしますから」

 

 そもそも「ティエラ・アス」に地球で過ごした誰かの明確な記憶など無い。ただの想念の具現化であり、記憶は付随していないのだ。だから、この返しで満点だろう。

 

 ぐっ…!そろそろ地球様がヤバそう。分かった分かったから、聞くから。ちゃんと。だから落ち着いて。

 尤もこの質問自体は「俺」も興味がある内容だ。いや、「俺」も「私」も「オレ」も、そして勿論「地球」も。今の「ティエラ・アス」を構成している全てが同じ質問をしたがっている。

 分かる。今この瞬間、「ティエラ・アス」はかつてない程に、完全に近い。

 

「貴方は…貴方は帰りたいとは思わないのですか?」

 

 そう、これだ。オレは帰りたい。何があろうとも、あの世界に、家族と友達がいる世界に帰りたい。例え記憶が無かろうとも、この思いだけは無くならないと確信できるほどに。

 コイツは、陽川絆はどうなのだろう。

 地球が、精霊が、人間が。彼の答えに注目していた。

 

「その…記憶がほとんどないので、そういう風にはあまり思えないといいますか…」

 

 ふむ。なるほど、やはりそうか。

 ある意味拍子抜け、そしてある意味で当然の答えが返ってきた。

 郷愁とは記憶の積み重ねの産物。

 記憶が無ければ帰りたいという感情も抱きにくい、か。

 その意味で、アレの狙いは正確だったということだろう。これで彼はホームシックになることも無く使命に突っ走る人間になるのだから。本当にクソったれだな。

 

 そんな風に考えつつ、オレは内心の怒り(特に地球様がヤバイ)を顔に出さないよう努めていた。

 しかし、次の彼の言葉は()()()()()()()、オレを構成する全てを驚愕させた。

 

「ただ、記憶があったとしても僕はこの世界を見捨てて帰ることは出来ません。同じ選択をしたと思います」

 

 は?

 

「僕はこの世界でルネと出会いました。警備隊の人たちに助けられました。そして、この街に生きる人々を見ました。彼らに迫る危機を知っておいて、見捨てることは出来ません」

 

 何を?何を言っているんだ?コイツは?

 精神が乱れる。理解が出来ない。頭がおかしくなる。

 なんだ?コレは?

 

「この決断は僕自身が決めたものです。その道を進むと僕自身が決めたんです」

 

 あぁ、駄目だ。統一していた自己が滅茶苦茶になっていく。

 だから。だから、その後に零れたのは「私」の、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「はは、何ですか、何なんですか、ソレ。おかしいですよ、そんなの。それじゃあ、それじゃあ、オレは、私は、何のために――」

 

 その零れ落ちた本音を最後に「私」は完全に沈黙した。「地球」も同様だ。

 当たり前だ。救おうとしていた存在そのものに真正面から否定されたようなものなのだから。

 

「ティエラさん?」

「…あ。あ、あはは。何でも無いです。独り言です。気にしないでください」

 

 はぁ。今まで通りに全ての意思が同じ方向を向いてというのは難しくなりそうだな…。

 まぁ、オレとしては計画が少し早まるくらいか。取り返しがつかない程の致命的な事態ではない。

 やっと人格の乱れが落ち着いた。

 演技をする余裕も戻ってくる。

 

「…分かりました。世界を救う…それが貴方の選択なのですね。…具体的な方策はあるのですか?」

 

 さて、柄にもないシリアスは終わり。票稼ぎのための演技に戻ろうじゃないか。

 

 

◇◇◇

 

 

 彼らの戦争を止めるための作戦を聞いていく。尤もメモに書かれていたので最初から知っている内容なのだが。

 その最中、本来は彼らが自力で集めるはずだった情報を、さも情報通のように教えていく。

 

「まぁ、概ねはこんな感じでしょうか。他にも政治的な立場とか人気とか偉い人しかしらないような理由はあるかもしれませんが。だいたいは合っていると思いますよ」

「なるほど…。ありがとうございます。とても良く理解できました」

「これを知っても、貴方はまだこの戦争を止めようと?」

「えぇ、決意は変わりません。むしろ、強固になりました。どちらかが滅びるまで終わらない…そんな悲しいことを終わらせられるのなら、進む意味があります」

「ルネさん、貴女もですか?」

「…ん。…私とキズナはお相子。私はキズナと一緒に進む」

 

 口いっぱいに詰め込んだご飯を飲み込んで答える正ヒロインさん。

 お前どんだけ食った?一応、お金は足りそうだけど。もう二度とコイツを外食には連れて行かない。行くならキズナ君と二人でデートで行け。

 オレの安くて美味い手料理で当分は我慢してもらうからな。

 

「はぁ、どちらも筋金入りですか…。わかりました。なら、オレに1つ案があります。貴方たちが為すべき偉業についてです」

「本当ですか!」

 

 こうやってキズナ君の拙い理想に具体的な方向性と形を与えてやるわけだな。

 キズナとルネ。良く言えば純真、悪く言えば幼い所のある二人に理解を示しつつ、進むべき道を示す。

 これで有能で頼れる案内人としての立場は確立できただろう。

 ついでに、モブども(特に猫幼女)の出番は完全に消えた。

 

「えぇ。これを為せば必ず領主は会うでしょう」

「教えてください!」

「ただし」

 

 あぁ。

 ここまで長かった。5年だ。5年も準備してきたのだ。

 やっと。やっと、ここまで来た。

 何としてでも元の世界に帰る。そして妹も救う。その目的だけは変わらない。

 

「オレも同行します。貴方たちは放っておけませんから」

 

 こうして。「ティエラ・アス」は主人公陣営への加入に成功したのであった。

 


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