ソシャゲで人気投票1位にならないと帰れない!   作:夢泉

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この辺りくらいからティエラの想定外の事態が起きていきますね。まだまだ小さく少ないですが。


5話 『最初のダンジョン』★

 さぁ、ついに始まったWF本編!今日も張り切ってユーザー様のポイントを稼いでいくよ!

 

「古代遺跡…?」

「えぇ、そうです。人呼んで『岳魔迷宮ジャマル・マターハ』。これを攻略し、謎を解明すれば必ず領主は会うでしょう」

 

 キズナ君の疑問に、さも情報通だというように答えていく。聞けば何でも答えてくれる便利な女ティエラちゃんムーブだ。

 あ、ちなみにキズナ君には敬語を止めてもらった。「貴方にそんな言葉使いをされるのは、なんだか違和感がありますので」と、昔の思い出(捏造)を理由にして。ユーザー的にはこういう口調の方が距離近い感じがして良いかな、という安直な判断だ。

 そして。序盤に色々な事を教えてくれる案内役…これはユーザー的にポイント高いのでは?ちょっと教師属性もあるかもしれない。眼鏡の女教師ティエラちゃんとか良くない?

 まぁ、そういう奴は物語中盤位から役立たずになるのもセオリーなのだが…。その頃には運営も水着ティエラとか実装して金を巻き上げ始めるはずなので、大丈夫だと信じよう。

 

「謎と、攻略?」

「その通りです。この迷宮は未だ多くの謎に包まれています。話は1年程前から始まるのですが――」

 

 ルネの質問に答えつつ、頭の中でメモに書かれていた内容を整理していく。

 城塞都市ザルフェダール北部の山岳地帯。1年ほど前、そこに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 もっとも、これは「カオス」ではそこまで珍しいことではない。起こること自体は稀だが、説明は簡単だ。そう、()()()()()()()()()()()()()のである。

 世界が融合して「カオス」に組み込まれる。言葉にすれば簡単だが、これは途轍もない現象だ。だが、「カオス」の側にも、組み込まれる世界の側にも、地震や異常気象のような事が起きたりはしない。「気付けば、一緒になっている」のだ。初めからそうだったように土地や建造物が「カオス」に根付いている。

 知性ある存在だけは変化に気が付くことが出来るが、或いはそれが正しい事なのかは誰にも分からない。知的生命体以外の総て、「世界の法則」でさえ何事も無かったように1つの世界として溶け合っているのだから。まるで、知性を有していることが間違いであるかのような錯覚にさえ陥ろう。

 ともかく。世界はあまりにも自然に融合を果たす。そして、基本的には同じ世界の事物は一カ所にまとまる。だが、今回の遺跡のように、どこの世界産かも分からない人や物が唐突に現れることもある。空間や時間すら飛び越えて、突如として姿を現すのだ。

 この遺跡はそうして現れた。山と人工の遺跡が同化し、巨大で奇怪な存在と成り果てて。山の表面が人工物交じりに変貌し、山の中をくりぬくように遺跡の空間が広がっている。それこそが『岳魔迷宮ジャマル・マターハ』なのだ。

 

「えっと、そこを攻略することが偉業…ということは誰も攻略してないの?」

「そうですね、半分正解です。確かに、かの迷宮は未だ誰1人攻略できていません。ただ、それだけなら攻略しても領主が会うことは無かったでしょう」

「あと半分は、なに?」

「ふふ、そうですね。勿体ぶらずに答えましょうか。実は、この迷宮は城塞都市にとって大きな悩みの種でもあるのです」

 

 というのも、この遺跡には元の世界の魔物が多く生息していたのだ。いや、生息していたという言葉は正確ではないかもしれない。遺跡そのものが魔獣を生み出している

 この遺跡から発生する漆黒の魔獣は死すると黒い灰となって消え去ってしまう。そして、それが数限りなく溢れ出してくる。

 当然、城塞都市側はこの事態を重く受け止めた。そして、原因を究明し解決すべく調査隊を派遣し――帰還者0という結果のみを残して失敗する。

 その後、命知らずの実力者やトレジャーハンターのような存在も周辺から集まってきたが、誰1人として帰還することは叶わなかった。この事を受け、城塞都市側は遺跡の調査を諦め、遺跡の出入り口を魔術結界と鋼鉄の扉で封印。見張りを立てて常時監視することで手を打ったのである。

 山を焼き払ってしまうという案も出たが、謎の素材で出来た遺跡を燃やし尽くすことが不可能なのは明白であった。加えて、下手なことをすれば魔獣があふれ出し、城塞都市に被害が出ることも考えられた。環境への被害も甚大だろう。

 

「――と、このような感じですかね。この迷宮を攻略して魔獣発生の謎を解き明かすことが出来れば領主が称えることは間違いありません」

「でも、入口、塞がってる」

「そう、普通は入れません。ですが、最近になって漆黒の魔獣の目撃情報がチラホラと増え始めています。嘘や見間違いと断言できない程度には」

「別の出入り口が存在している、ということ?」

「或いは、それまで無かったものが何らかの要因で新たに誕生したか、ですね」

 

 白々しくも言い放つ。なお、オレはメモ様のおかげで真相を知っている。5年前のオレ超有能。惚れる。

 この古代遺跡はある世界の古代人たちが危険すぎる兵器の数々を封印した場所だ。彼らの兵器は簡単に処分できない物も多く、永い永い時の流れの中でゆっくりと朽ちていくのを待つのが最善だった。故に彼らはこの遺跡を造り、封印したのである。

 そして、漆黒の魔獣は遺跡の防衛機構。本来は遺跡に侵入した存在を自動的に迎撃するシステムだった。仕組みとしては、遺跡に侵入した存在の力を遺跡自体が吸収し、その力を利用して漆黒の魔獣を産み出すというもの。魔獣1体の力は弱くとも、侵入者に余力がある限り力を吸って魔獣を産み出せるのである。果てしない迷宮と無限の敵。不届きな侵入者は他ならぬ自らの力によって滅びゆく、というわけだ。

 これならば、どれだけ永い時間であろうとも遺跡の防衛機構が揺らぐことはない。エネルギー切れの心配も無いわけだしな。

 だが、ここで予想外のことが起きた。そう、「カオス」との世界融合だ。これによって()()()()()()()()()()()()()()()()()()「生命に溢れる山」「力を吸収して魔獣を産み出す遺跡」と融合したのだ。あとはお察しの通り。遺跡は無限に魔獣を産み出す迷惑なモンスターハウスに成り果てたというわけである。古代人もビックリだ。

 キズナ君とルネとオレはこれを攻略し、遺跡のシステムを停止させることで事態を解決すればよい、というわけだな。正確な位置は不明だが、存在する裏口を見つけ、そこから侵入するのである。

 そして、この遺跡攻略は領主への謁見のために必要であるだけでなく、今後の冒険に必要不可欠なモノを入手することが出来るのだ。それは、古代人たちが造り出した兵器の1つ…ではあるのだが、危険性は皆無と言っていい。とても頑丈で解体にも一苦労だったので他の危険な兵器の巻き添えを喰らって一緒に封印されたのだ。憐れ。

 因みに、古代人が造り出した兵器は、主人公クンが入手するモノ以外は全てが既に朽ちて使い物にならなくなってる。復元も不可能となって久しい。

 ので、ここの兵器が原因で「カオス」に更なる戦乱の風が吹くということはないし、主人公陣営が古代兵器で無双して天下泰平を暴力で実現することもない。ゲームのジャンルが変わる。

 

「攻略者0のダンジョン…。僕達だけで攻略できるのかな?」

「ですが、やらなければ領主には会えません。それともここで諦めて帰りますか?危険なのは間違いないですよ」

「…いや。もともと世界中の戦争を止めようって言うんだ。これくらい出来なきゃ話にならない」

「ん。私も、キズナに同意。未踏の迷宮、望むところ」

「本当に貴方たち2人は……わかりました。ならば向かいましょう」

 

 もっとも、これはメタ的な視点で言えばソシャゲ最初のダンジョンである。実のところ、そこまで危険性は無い。

 こうなると、「最初のダンジョンなのに城塞都市の人たち1年も解決できなかったの?」と思うかもしれないが、ちゃんとした理由がある。普通は超絶危険な迷宮なのだが、今回だけが例外なのだ。

 このダンジョンは無限にモンスターが生み出されているとはいえ、本質は「侵入者の力を利用して迎撃する」という所から変わっていない。キズナもルネも現時点では強いと言える存在ではなく、この迎撃システムが本領を発揮しないのだ。さらに、遺跡のパワー吸収システムもこれまでの侵入者の力と山の生命力で満杯であり、これ以上吸収できなくなっている。故に、ルネとキズナは弱体化なしで挑むことが出来るというわけだ。

 ついでに、今回入り口として利用しようとしている裏口は偶然に壁が崩落して出来たものだが、ここから入ると遺跡の中枢システムまで実に簡単に行くことが出来る。多少の迷路とはなっているが、半日あれば踏破できる程度でしかない。

 とまぁ、こんなゲーム的ご都合主義展開で「最初のダンジョン岳魔迷宮ジャマル・マターハ」は完成したのだ。

 

「さて、迷宮攻略のための準備も出来ました。――最後の確認です。覚悟は出来ていますね?」

「はい!」

「準備、完璧」

「それでは、行きましょう。『岳魔迷宮』攻略作戦、開始です」

 

 そうして、最初の冒険が幕を開けた――。

 

 




★頂いたイラストの紹介
挽きたて抹茶さま作「ラバスト風ティエラちゃん」

【挿絵表示】

可愛い…!『葬送』『回帰』が格好良い…!
ありがとうございます!

★Twitter&カクヨムで外伝小説「傭兵のダズ」を投稿しました。
(ハーメルンに投稿可能な程の字数が各話に無い、のでこのような形式としました。申し訳ありません)
1章にて酔った勢いでティエラに催淫作用がある酒を渡した間抜け傭兵視点の物語です。
ティエラとリズと愉快な仲間たちの物語。知られざる1年の物語が語られる――。
これから時々投稿していきます。よろしければお読みください。
カクヨム:https://kakuyomu.jp/works/16816927862983935961
Twitter:https://twitter.com/YeJQmptKFQydEHv


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