【前回までのあらすじ!】
城塞都市ザルフェダールの領主は南方の遊牧民との戦争を計画していた。
しかし、「ワールドイーター」という脅威が迫る中、争いなんてしてる場合じゃない。
領主への直訴で戦争を止めなければ…!
そんな時、都市内で出逢った不思議な女性、ティエラさんから『岳魔迷宮ジャマル・マターハ』の存在を聞く。
その攻略をすれば領主に会えると考えた僕たちは、新たにティエラさんを仲間に加え、迷宮攻略に乗り出していた――!
◆◆◆
僕はルネとティエラさんと共に『岳魔迷宮ジャマル・マターハ』の中を進んでいた。
だが、順調にもう1つの入口を見つけ出したまでは良かったものの…。
『『『『GIAAAAAAA!!』』』』
「うわっ…!また…!」
「キリが、ない…!」
「オレが蹴散らします!2人は下がって、自分の身を護ることに集中してください!」
ティエラさんが蒼と朱の双剣を手に漆黒の魔獣の群れに飛び込んでいく。
『GYAU!』
「ぅあっ」
「ルネっ!」
「治療します!キズナ君は魔術で敵を足止めしてください…!」
「っ…はい!」
怪我を負ってしまえばティエラさんに治療魔術で回復してもらう。
…と、このように。見事なまでのおんぶに抱っこ。ルネはともかく、僕はティエラさんの足手まといにしかなっていなかった。
その上、休憩用の拠点作成に料理までティエラさんが担当してくれている。
なんとか彼女の力になりたかったけれど、ただでさえ戦闘慣れしていないのに、迷宮という狭く特殊な空間では役立てることなんて無かった。
「この環境では料理も満足に出来ません。こんなものしか今は作れませんが、よろしければ」
彼女はパンと乾いた何かの肉を取り出し、その肉をパンで挟んだ。そして、懐からいくつも調味料を出してあっという間に3人分の食事を作ってしまった。あれだけの種類の調味料をいつも持ち歩いているのだろうか…?
ちなみに、凄い美味しかった。ルネはその美味しさに驚愕して、無言で黙々と食べ続けていた。気持ちは凄く分かる。
喫茶店の料理も勿論美味しかったけれど、彼女の料理は家庭の味という感じがした。記憶はないけれど、かつてこういう味つけを毎日のように食べていた気がする。
感想を伝えるとティエラさんは。
「オレの本気はこんな程度じゃないですよ。これはあくまでも簡易の食事。帰ったら「カレーライス」をご馳走してあげます。この程度で喜んでいたら、きっと泣いちゃいますよ?」
と不敵に微笑んで見せた。
かれーらいす。不思議と凄く聞き覚えのある響きだ。迷宮内でこれだけの料理を出したティエラさんが、ここまで自信満々に言う料理。楽しみで仕方ない。ルネの目なんかキラキラしていた。
しかし、敵は迷宮を進むほど数を増していく。
そして、僕はまだこの時、
初めての迷宮。溢れる敵。素人が過半数以上。
そんな環境で、
それは、何度目かの敵集団に囲まれた際のことだった。
「危ない!キズナ君っ!」
「え?」
「くっ…!」
死角から飛び出してきた魔獣に対し、反応が遅れ、思考が真っ白に染められた。
そして、次の瞬間目に飛び込んできたのは。
魔獣の爪が貫通したティエラさんの腹部から噴き出す、真っ赤な血だった。
◆◇◆◇
迷宮を進んで行くが、オレたちの進みは遅い。
考えてみれば当然ではあった。キズナとルネには迷宮攻略の経験なんて無い…あっても覚えていない、が正確か。
そして、オレだって多少経験がある程度でしかない。加えて、ゲームで全ての通路やトラップが描写されている訳もなく。
そんな状況でサクサク進めるわけがなかったのだ。
リズ先輩に貰った愛用の懐中時計を見れば、既に迷宮に入って半日は経過していた。
そして、まだまだ迷宮は続きそうだ。
そろそろ何かを食べておかないと、いざという時に空腹で力が出なくなる可能性もある。
こういう風に狭く、敵も多い迷宮内でゆっくり料理をするなんて自殺行為。
とはいえ、この5年間いつ如何なる時も料理をしてきたオレに妥協は無い。
持ち合わせの食料と調味料で即興迷宮食を作ってやった。
材量はパン、乾燥させたライオン型魔獣の肉、各種調味料。ライオン型魔獣の肉は乾燥段階で一手間も二手間も加えてあるのだが、それだけだ。パンは迷宮突入前に適当に買ったものだし、野菜も足りない。
それをキズナ君とルネは美味しそうに食べていたが…
こんな手抜き料理で喜ばれても何も嬉しくはない。
とりあえず、迷宮から帰ったらオレの5年間の集大成を味わわせてやろう。あの剣聖ちゃんにも負けを認めさせたオレの料理。とくと味わうがいい。
その後も攻略は続いていく。
が、お世辞にも順調とは言えなかった。
まず、想像以上にルネが戦力にならない。
遺跡内で武器が大鎌とか狂気の沙汰でしかないのだ。壁にぶつかる。
あと、複数人での戦闘経験が無いみたいで連携が絶望的に下手。
ゲームだったら狭い洞窟内で長剣とか振るってても疑問湧かないけど、実際の戦闘となると無理があり過ぎる。
オレは短い双剣なので問題なく戦えるが…。
一度、短剣に持ち替えさせてみたが、慣れていない武器ではもっと役に立たなかった。なので、直ぐに鎌に戻した。まぁ、リーチの長い武器と短い武器って全然戦い方違うもんね…。
あと、キズナ君は論外。魔術こそ「アレ」に貰っただけあってそこそこの強さだったが…如何せん戦闘になれていない。経験不足過ぎる。
てか、エネミー多くない?こんなに難易度高いの、最初のダンジョン!?
「アレ」はこの難易度でキズナ君クリアできると本気で考えてたの?
キズナ君とルネだけで攻略できると、ご自慢の計算で出たんですかね?
…ん?
「アレ」の計算って多分、ルネとキズナ君だけで行われたよな。
もしかしなくても、原因オレか?
……頑張って慣れない剣を振るい、魔術を放つキズナ君を見る。
……連携なにそれ美味しいの?と鎌を振るルネを見る。
うん、なるほどなるほど?これはアレだな?オレが比較的に結構強くて
今まで戦った原作キャラが剣聖ちゃんとか冒険王とか黒騎士とか規格外ばっかりだったせいで感覚が麻痺していた。どいつもこいつも手も足も出させずに瞬殺してくるんだもんな。ぶっ壊れ共め!
黒騎士、そう、黒騎士。
くっそ、一度思い出すと腸が煮えくり返る。戦闘中なのにあの時の屈辱が思い起こされる。
そう、あれは1年ほど前の事だった――
――――
「オレはティエラ!悪い精霊じゃないよ?」
「問答無用」
「ひえっ」
――――
話も聞かずにオレを一瞬で地に沈めて、縄でグルグル巻きにした上で数時間にわたって尋問された。オレは何も悪くないのに!オレは何も悪くないのに!(大事なことだから2回)…ホントだよ?
あー、今思い出してもムカつくな、黒騎士。今度会ったらぶっころ…せるわけないんだよなー。アイツ強さが異常だもん。
決めた。いつか主人公クンの陣営で一緒になったら、あいつの料理だけ激辛にしてやる。無論、食材を無駄にはしたくないので、美味しい…けど激辛!という絶妙な塩梅を模索してやろう。クハハハハ!あの澄ました顔を歪めてやるわ!
…と。思考が逸れたな。
こんな風に別の事を考えながら戦えるあたり、オレも戦闘になれたものだ。
まぁ、要するにどういうことかといえば。オレは結構強いらしい…!
そういえば、少しだけパワーを吸い取られている気がしないでも無いような…?
オレの背後には地球様がいるので、力の供給だけは潤沢だ。
出力がゴミだから普段はスタミナのあるゴミでしかなかったが、今回に限っては違う。
まさか、遺跡に力を貸す無限の燃料タンクにオレ自身がなっている、だと…!?
燃料タンクが大きすぎて減っていることにすら気付かなかった!不覚…!圧倒的不覚…!
このティエラの目をもってしても読めなかった!!
だが、しかし!この程度のアドリブを出来ずして1位になどなれるはずもなし!
ここは最大限この状況を利用させてもらおう!
そうだな。あえてキズナくんを庇うのを弱めて、彼をピンチに陥れようか。
そうして、ギリギリのところで庇って怪我…!
怪我しても回復魔術で治せるし。これは最高なのでは?
「危ない!キズナ君っ!」
「え?」
「くっ…!」
概念精霊としての本能や地球様の意思は、ちょっと前のキズナ君の問題発言以降、かなり弱体化していて大人しい。立ち直るまで当分かかりそうだ。
普通の「ティエラ・アス」なら主人公クンを窮地に陥れるなど、反対意見が強くて難しかったが今のオレなら簡単だ…!
キズナ君を庇いつつ、飛び出してきた魔獣を斬り捨てる。
「あ、あのティエラさん…」
「気を抜いてはいけません。謝罪も感謝も生きて帰った時に纏めてすれば良いのです。それとも、貴方の覚悟はこの程度の事で折れる程度のものだったのですか?」
心配だったり、申し訳なさだったり、感謝だったり、恐怖だったりいろいろな感情でパンクしそうになっているキズナ君の言葉を無理やり遮る。
そして、彼の示した理想に理解を示し、その背を押してやる。納得していなくても理解して支え、時には軌道修正してやる…。献身的な過去の女ムーブとしては完璧なのではないだろうか?
それに。もう1つ。
あんな風に「オレ」の存在意義を真っ向から否定したのだ。
であれば、簡単に折れるなど許さない。
せめて、その理想には、覚悟には、それだけの価値があったのだと示して見せろ。じゃなければ、お前を想った誰かがあまりにも報われない。
「なら、今は前を向きましょう。大丈夫、オレは意外と荒事には慣れているんです。この程度の怪我は何でもありません」
怪我を治癒しながら言い放つ。しくじった、結構深いな。完全治癒にはちょっと時間かかる。今は応急処置で遺跡出てから集中して治そう。
オレの目的は元の世界への帰還を果たしつつ、妹も救う超ハッピーエンド。それ以外は全て2の次3の次でしかない。
けれど、この身体を形作る「誰かの想念」と「星の意思」とはずっと一緒にいた。オレにだって情はある。その想いに救いを与えてやることくらいはしてやってもいい。無論、オレの目的の邪魔になるなら情なんて直ぐに斬り捨てるのだがな!
そうやって、主人公クンの覚悟を立ち直らせつつ、オレたちは遺跡を進んで行った。
そして、戦闘を繰り返しながら進むこと数時間。
オレたちは、ついに。
遺跡の最奥へと辿り着いた。
はぁ、こっからボス戦あるんだよな…ダルい…。
<あとがき>
もう少しで15000Pt…!ここくらいから伸び悩むことは承知しているさ…!
この先の壁は高く、目指す先は遥か彼方。
それでも!いや、だからこそ!走り抜ける価値がある!
止まるんじゃねぇぞ…!