ソシャゲで人気投票1位にならないと帰れない!   作:夢泉

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2話 『パドロン・ザルフェダール』★

 あの後、テトマを仲間に加えたオレたちは城塞都市ザルフェダールへと帰還した。兵士たちと一悶着も二悶着もあったが、まぁ語る必要もあるまい。モブの出番など必要ないのだから。

 それで無事、ザルフェダール領主のパラモア・クア・ザルフェダールさんへの謁見が許され、キズナ君の熱き演説が繰り広げられた。まぁ、これもまるまる全部カットでいいだろう。

 それで、何やかんやあって領主の息子のパドロン・ザルフェダールが仲間に加わって、現在のキズナ御一行は遊牧民たちの所へ向かおうとしている。

 考えてみれば当然のことで、城塞都市としては長年頭を悩ませてきた対遊牧民問題解決の機会をみすみす手放すのだ。しかも戦争の準備は着実に進んでいた。戦争は利権とか色々なものが絡む。戦争を止めるとして、じゃあ契約とか進めていた商人は納得するか?暫くの期間、税を多く納めていた人々は?正規兵以外で雇った兵は?準備してしまった武器は?敵に抱いていた感情の矛先は?…と挙げればキリがない程に問題があふれ出てくる。

 いくら領主パラモアが「ワールドイーター」の話を信じてくれても、「じゃあ止める」と言って止められるようなものでは無いのだ。領主本人だって停戦に不満を抱えた誰かに暗殺される可能性もある。

 では、どうするか?簡単な話、「終戦」に見合うだけの対価がなければならないのだ。それで領主が考え出したのが、遊牧民たちとキズナ君が友誼を結び、城塞都市と遊牧民の間に立つことで平和的な会談の場を設ける。そこで、様々な取引をしたうえで和平を締結する、というものだ。

 内部がガタガタの遊牧民は強く出られる立場ではないし、賠償金とか今後の取引とかで城塞都市は優位に立てるだろう。その結果をもってすれば、商人とか町人とかも納得する…というわけらしい。まったく、政治は難しくて分からんね。サッパリだ。少なくとも、NAISEIはオレには無理だということがハッキリした。

 で、今は何をやってるかというと、カレーを作っている

 何してんだ、さっさと遊牧民たちの所へ向かえ…と思われるかもしれない。だが、これは必要な事なのだ。

 迷宮を出てから全ての事態はあれよあれよと進んで行った。城塞都市へ直行、領主への謁見、直談判、遊牧民たちの所へ出発決定…これら全てが半日の間に起きた出来事である。迷宮から出て後、ロクな飯すら食ってない。ブラックすぎるな??

 というわけで、迷宮で約束したカレーを作っているというわけだな。

 必要経費だと言って領主から金を徴収し、城塞都市で大量の材料を購入。領主の舘の、素晴らしいキッチンもゲット。材料は潤沢、道具も完ぺき、食すはオレのちゃんとした料理を食べたこと無い腹ペコ共。…ふっ、何て素晴らしいシチュだ。腕がなるってものよ。

 新しく仲間に加わった領主の息子くん。きっと彼は日々美味しいものを食べてきたことだろう。キズナ君とルネは勿論、この坊ちゃんの舌も唸らせて見せようではないか。

 「所詮、平民の食事だろうに」とか口走ったことを後悔させてやろう!フハハハハハハハ!

 …今の発言からも分かるように、パドロンは現状、かなり嫌味な奴だ。平民とかを見下しているっていうのかな、典型的な貴族のお坊ちゃまのような思考に囚われている。騎士として真面目に武芸の修練を積んできたこともあって、尚更、「守られるだけの弱い存在」を苦々しく思っている…みたいな面もあるっぽい。

 ま、そんな選民意識の塊のパドロン君だが、キズナ君(プレイヤー)との旅の途中でどんどん成長していく。特に、これから向かう遊牧民の所で、亡くなった偉大な首長の娘が仲間に加わるのだが、彼女との触れ合いが大きな刺激となるようだ。色恋…とかそういうことではなく、敵としてしか見做せなかった存在の実際の姿を知っていく中で、自らの視野の狭さを自覚していく、みたいな感じだろうか。

 WFのストーリー加入メンバー…コミカライズなどで主人公一行として描かれるメンバーは基本的に「成長していく少年少女」だ。どこか危うさや未熟さを抱えた少年少女が、世界の危機に立ち向かい、多くの困難に直面する中で成長していく…というのが魅力の1つでもある。キズナ君にルネ、パドロン君、そして遊牧民の少女と、エルフの女の子、最後に忍者。この6人が基本メンバーだった。

 ポジションの内訳は、ルネ(近攻)、忍者(近攻)、パドロン(防)、エルフ(術)、遊牧民(遠攻)…と言う感じだ。ここに適正「癒」がいないのには主に2つの理由が考えられる。1つは「術」と「癒」のシナリオ上での書き分けが難しいこと。もう1つは後々何度も、ある「人権ヒーラー」がパーティに一時的に加入したりすること。時々臨時メンバーとして加わっては直ぐにいなくなる準レギュラーみたいな奴がいるのだ。

 そんなわけで、主人公ご一行様にはヒーラーが欠けており、そこにオレが滑り込んだというわけだな。ついでに未熟な少年少女を導く頼れるお姉さんポジも確立してしまおうという魂胆だ。

 …と、思考が逸れた。今は料理に集中しよう。

 ふむ。迷宮での手抜き料理を除けば、これこそがオレの「WF」シナリオにおける料理初陣である。ここは出し惜しみをするべきではないな。

 ある砂漠にて手に入れた超貴重なスパイス。量に限りがあるので普段は使わず大事に保存しているのだが、今日は解禁しよう。いや、これマジで凄いよ。何に入れても味が一段上の領域に行く。

 オレの料理技術は高い。超凄い。地球で母に代わって家の家事を担当すること十年近く。その基本的土台に、「カオス」でのサバイバル知識と「カオス」に散らばる色々な世界の料理技術・レシピ・食材の知識…それらが悪魔合体した結果がオレの料理技術である。

 これはオレの持論だが、料理とは長い長い積み重ねの産物だ。あらゆる時代と場所でヒトが積み重ね、伝え続け、開発・改良し続けたモノこそが料理。料理とはヒトという高度な知的生命体の歴史そのものである。

 和食の技術を取り入れたフレンチの料理人が新たな領域へと踏み込むように。オレは地球での経験と「カオス」で集めた技術の数々によって新たな地平を切り拓いた。

 そんなわけで。

 彼らが挑むのは人類の歴史。料理の極致!

 いくぞ腹ペコ共――――お腹の空きは充分か。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 俺はパドロン・ザルフェダール。城塞都市ザルフェダール領主の長男。いずれこの都市を背負って立つことになる男だ。

 だからこそ、幼い頃からあらゆる努力を重ねてきた。勉学は勿論、戦う兵士としての力だって磨き続けた。遊び歩く余裕なんて一切なかったが、高貴な生まれの者が当たり前に有する責務だと思っていたし、嫌だと思ったことは無い。

 だが、1つ不満があるとすれば。守られる側の人間の姿勢だった。全てがそうではない。だが、一部の奴らは守られて当然だと考えているのも事実で。

 ロクな努力もせず頑張った気になって、俺を特別な生まれだからと羨む。ふざけるな。お前らは俺の半分でも鍛えたのか?この都市では都市を護る正規兵は憧れの仕事。給金だって凄まじい。そして十分な実力があれば誰だってなれる。俺を羨む奴は、せめて俺の半分の努力をすれば、十分兵士として高みへ行けた筈だ。そんな奴らが俺は嫌いだった。

 だが、父上はその姿勢を決して認めなかった。

「そうではないのだ、パドロン。お前の視野は狭すぎる。世界とはヒトの数だけあるのだと知らねばならない。そのことを理解できるまで、お前を次の領主として認めることは無い」

 意味が分からなかった。俺のこれまでの努力を否定された気がした。

 それでも、考えてみようと足掻いて足掻いて、答えが分からなくて。

 そんな時、父上がずっと準備を進めていた遊牧民…あの野蛮人どもとの戦争を止めると言い出した。

 俺たちがどれだけアイツらに悩まされてきたか、誰よりも知っているのは父上の筈だというのに!

 しかも――。

「彼らと共に旅をしなさい。それは必ずお前にとって大切な経験となる。悩み続ける答えにも近づけるだろう。彼らとの救世の旅を成し遂げた時、お前は領主に相応しい男になっている筈だ」

 どこの馬の骨ともしれない平民どもを指して、そんなことを父上は言ったのだ。

 納得なんて出来やしない。だが、俺が今まで積み重ねてきた領主になるための努力が無に帰すのは嫌だった。だから、その救世の旅とやらに俺は加わることを決めたのだ。

 本当に世界が危ないというのなら、弱き民を護る者として参加しなければならないのは事実だったしな。

 

 …だというのに。

 今は何故か、出発もせずに呑気にお食事タイムになっている。馬鹿なのかコイツら?

 「ティエラ・アス」とかいう緑髪の女が料理をするようだが…

 所詮は平民の粗末な料理に過ぎないだろうさ。

 「かれーらいす」なる聞いたことも無い料理だが、どこか辺境の田舎料理だろう。高が知れてる。幼い頃から、今後の外交を考えて様々な地の特産も食してきた俺を満足させられるとは思えない。

 とはいえ、だ。旅をするメンバーの結団式、のような側面もあるのだろう。なら、参加しておく意味もあるか。なに、少しマズイ食事を我慢して食うだけだ。

 そう、思っていたのだが。

 

 「かれーらいす」なる料理が完成に近づくにつれ、香ばしい匂いが鼻をくすぐり、腹が急速に減っていくではないか。

 そして、運ばれてきた料理は見たことも無い料理だったが、随分と手間をかけて作られていることは一目でわかった。

 

 そして。

 

 口に入れた瞬間―――()()()()()()()

 山が広がる。海が広がる。砂漠が広がる。森が広がる。川が広がる。荒野が広がる。凍土が広がる。草原が広がる。知らない景色が俺の眼前を通り過ぎていく。その全てに共通点は無い…いや、1つだけ。全ての景色にヒトが息づいていた。豊かな場所、過酷な場所、遥かな昔、生きてる今、全てにおいて誰かが誰かを想って料理を振舞う光景が――!

 そうか、そういうことか!これはヒトの積み重ねてきた歴史そのもの!料理という文化の具現!誰かが誰かを想うという概念そのもの!

 この混沌とした世界の総てが、この小さな一皿に集約されている!

 

「――美味しい!凄く、凄く懐かしい感じがする!」

「おかわり」

「ルネはやっ!?」

「おいしすぎるのが、わるい」

 

 キズナとルネ…舌の肥えていない者どもには分からないようだな。この料理に詰まった歴史の重み、技術の価値が。この料理を食べて「懐かしい」程度の感想しか出せぬとは…。

 いや、違う!?

 確かに、この皿には多くの知と技が詰まっている。

 だが!だが、しかし!

 それら全てを1つの皿に纏め上げているのは、全てを包み込む愛…母の愛だ。

 根底にあるのは優しさ。ありふれた家庭料理の簡略さ。

 家庭料理において特定の料理だけに固執する者はそうそういない。家庭料理の本質は、限られた材料と時間の中で飽きが来ないように考えて作られるということにある。それは言い換えるならば、あらゆる文化の料理技術をスケールダウンさせ、運用可能な範囲で取り入れる柔軟性を有しているということ…!

 そんな家庭料理の基本を土台として、その上にこれでもかと積み重なる偉大なる技術の数々。それら全てを違和感なく包み込む包容力。

 懐かしい。

 当たり前だ。懐かしさこそが、この料理の根底にあるものに他ならない。

 

 認めよう。今はこの皿が…美味い――!

 

 

 

 




★頂いたファンアートの紹介
「ノドグロ」さま作

【挿絵表示】

小説の表紙のような、或いはガチャで出た瞬間のような、そんな感じのティエラですね!
美しいです…!






★後書き(※長文!読まなくて大丈夫です)


【謝罪とお知らせ】
 某探偵と掲示板の反応について様々なご指摘を頂きました。読者様方の率直な感想であるとともに全てが正しいご意見でした。僅かでも不快感を与えてしまったのであれば、物書きとして反省しかありません。
 全ては作者が掲示板に詳しくないこと及び想像力の欠如と書き手としての力量不足が原因です。申し訳ございませんでした。
 一度、該当する箇所を見直してみようと思います。その上で修正をしていくことになるとは思いますが、更新が優先です。更新の傍らで少しずつ直していくという形式を取ります。
 ということで、更新は止めません。
 修正は更新の傍らでゆっくりとやっていきます。
 もしも特定の作中人物の言動が納得いかないという場合は、カクヨム版の方へ移ることをお勧め致します。そちらは最初から修正済みになると思いますので。

 長文失礼しました。
 今後とも当作品『ソシャゲで人気投票1位にならないと帰れない!』をお楽しみいただければ幸いです。

 夢泉

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