ソシャゲで人気投票1位にならないと帰れない!   作:夢泉

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3話 『ピスカ・チュマ・バーン』

 人生楽ありゃ苦もあるさ~♪

 はい。そんなわけで世直し…というか救世の旅に出たキズナ御一行。

 オレ特製カレーで団結力を増した一行は、遊牧民の集落?って言っていいのかな?移動式のテントが立ち並ぶ所まで来たわけなんですが…。

 

「出て行くにゃ!貴様をもてなすにゃんて死んでもごめんにゃ!」

「おいおい、こっちは領主の息子自ら赴いて来たんだぜ?良識があれば部族として取るべき選択は分かる筈なんだがな。これだから蛮人は」

「にゃんだと、貴様!」

 

 まぁ、案の定ぶつかるよねー。

 パドロン君と首長の一人娘ピスカちゃん…ピスカ・チュマ・バーンがいがみ合っている。

 長く争いの歴史を繰り返してきた城塞都市と遊牧民の、次期領主と次期首長候補…仲が良いわけが無かった。

 あ、ちなみに話し方で分かると思うけど、ピスカちゃんは猫耳と猫尻尾を生やした猫人…獣人の一種に分類される種族だ。若干ピンク強めの赤い髪と、耳と尻尾と語尾の「にゃ」…全体的にあざとい。男性人気が凄くありそう。というか実際あった。

 っと。そろそろ止めておくか。まだキズナ君とパドロン君の友情は深まっていない。ルネは常にマイペースでゴーイングマイウェイなので論外。なので、オレが仲裁に入るしかあるまい。

 

「目的を忘れちゃ駄目ですよ、パドロン君。今は抑えてください。貴女も冷静になって下さい。オレたちは戦いに来たわけではありません」

「…わかったよ。すまねぇ、カッとなっちまった」

 

 何故かパドロン君はオレの言うことには素直に従う。

 これはあれかな?オレの溢れ出るお姉さんパゥワーが炸裂しちゃったかな?

 でも、振り返ってみると、カレーを振舞った直後からだった気がするな。そんなに美味しかった?

 

「フゥー!シャー!」

 

 一方、ピスカちゃんの方には毛を逆立てて威嚇される。

 凄く警戒されてる…?こっちもなんで?

 野性的直観というか、第6感というか、そういうのが彼女は鋭敏だ。だから、ルネの奥底に眠る力を警戒して…みたいな描写はあったと思うんだけど、なんでオレまで?精霊だから?それとも地球様の方かな?

 まぁ、細かいことは置いておこう。どうせ、あとでオレのご飯を食べればコロッと懐柔されるはずだから。猫人って熱いもの食べられるのかな?猫舌だったりしたら大変だよなー。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 そして、何やかんやあって化物退治に行くことが決定した。

 意味わからんって?…決まっちまったんだから仕方ないだろ。

 一悶着、二悶着…四悶着くらいまであったけど、キズナ君の熱い説得なんかもあって遊牧民の長老様方とお話の場を設けた。

 それで、その場で城塞都市側からの会談と和平の要求に応える条件として怪物退治が挙がったというわけだ。ゲーム的に言えば1章の最終ボス戦である。

 そもそも、なぜ城塞都市側は戦争を決断していたのかと言えば、遊牧民側に問題が生じたからだ。そしてその問題とは、草原の一角を強大な魔獣が根城にしたことに端を発している。

 魔獣討伐の際にピスカの父である偉大な首長アイルロスが大きな深手を負い、流行り病が重なって亡くなってしまったのだ。娘であるピスカは若すぎるし、そもそも女。そんなわけで代替わりの部族内闘争が起きるに至った…というわけだ。

 であれば。遊牧民とキズナ君たちが友誼を結ぶ一番の簡潔な方法は、キズナ君たちがその強大な魔獣を討伐することに他ならない。誰からも尊敬された偉大な首長が倒しきれなかった怪物を倒す…強さを正義とする彼らにとって、その偉業は畏敬の念を抱くに十分すぎる。

 だから、怪物退治に行くのである。正直、超逃げたい。

 

 

◇◇◇

 

 

 夜。

 今は、遊牧民のテントで休ませてもらっている。

 今日一日はゆっくり休んで、明日の朝一番で怪物の縄張りへと案内してくれるとのこと。また、遊牧民から勇士が何人も一緒に戦ってくれるらしい。

 彼らだって、ずっとリベンジをしたいと願っていたのだろう。

 

「にゃに馬鹿にゃ事を言ってるにゃ!」

 

 で、今はそのテントの中でピスカちゃんが涙を浮かべて怒っている。

 ピスカちゃんは年が近いこと、また前首長の娘という立場ある存在であることなどから、滞在中のキズナ御一行の相手をすることになった。そして、昼から夜にかけて随分とキズナ君とは親しくなったようだ。

 まぁ、パドロン君は論外だし、ピスカちゃんはルネとオレを警戒している。なら、自然とキズナ君とばかり話すようになってしまったのだろう。

 

「父様…偉大にゃるアイルロス・バーンですら倒せにゃかったにゃ!それをお前たちみたいな奴らが…!死にに行くようなものにゃ!」

 

 それで、仲良くなったキズナ君が怪物退治に行くのを止めたい…とピスカちゃんは思ったようだ。尊敬していて大好きだった父親でも敵わなかった怪物。あの日、亡くなってしまった父と重ねてしまったのかもしれない。

 

「はっ、腰抜けは引っ込んでろ。びーびー泣きやがって。娘がこれじゃ、お前の父親の強さも言う程でも無かったんじゃねえのか?」

「にゃんだと!父様を侮辱するにゃ!」

「そう思われちまうって言ってんだよ!偉大な親を誇りに思うんなら、相応の振る舞いをしろってことだ!親の顔に泥を塗りたくないんならな!蛮族には分からんかもしれんが!」

「貴様ァ!」

「落ち着いてください、2人ともっ!」

 

 パドロン君とピスカちゃんの間に入って止めに入る。仲を深めたキズナ君に対し、この2人の仲は半日で拗れに拗れた。些細な事で何度もぶつかりまくったのだ。

 まぁ、この2人もそのうち仲良くなる。そのうち「パドピス」なるカップリングが出来る程度には。

 公式で具体的な恋愛描写は一切なく、ピスカちゃんはキズナ君に好意を寄せていたので完全な非公式CPだが、そこそこの人気があった。ケンカップル需要って一定数あるよね。

 

「えっと、その。世界を救うというのは一番の理由だよ。僕たちはそのために来たんだし」

 

 キズナ君とルネも加わって何とか2人を落ち着けた後、キズナ君が静かに話し始めた。

 さっきのピスカちゃんの言葉に対する返答、なのだろう。

 

「でも、それだけじゃなくてさ。凶悪な魔獣が出て困っている人がいるなら助けたい…そう思うのは普通の事じゃないかな?」

 

 はぁ―――――(クソデカ溜息)

 出たよ、出やがりましたよ。異常者の思考。

 

「お前、マジか…え、これホントに?」

 

 パドロン君も驚いている。気が合うな!

 パドロン君だって戦う覚悟は決めていた。でもそれは討伐が和平交渉に繋がるから。それをすることで、城塞都市の利益に繋がるし、そこに住む人々を護ることに繋がるからだ。

 けれど、キズナ君は全く違う。出逢ったばかりで、しかも怪物退治という死地に赴くことを押し付けてきた…とも取れる遊牧民の人々を助けたいという理由で戦おうとしている。

 あまりに異常過ぎる。

 

「普通では無いですよねー。まぁ、でも、これがキズナ君なんですよ。オレはもう諦めました」

「それでこそ、キズナ」

「マジかよ…いや、だからこそ選ばれたのか…納得したぜ」

 

 ピスカちゃんとキズナ君が2人だけの空間を作っている横でパドロン君とルネとオレでひそひそ話している感じだ。

 そんなことをしている間にもキズナ君の言葉は続いていく。

 

「きっとピスカのお父さんも同じだったんじゃないかな。君やみんなを護るために強大な魔獣に立ち向かった。勝ち目なんか見えなくても、戦う理由があったから。それは誇るべき事なんだと、僕は思う」

「…っ!」

「あっ!ピスカ!」

 

 キズナ君の言葉になにを思ったか、ピスカちゃんはテントを飛び出して行ってしまった。

 

「やめておけよ。今は一人で考えさせてやれ。アイツだって戦士だ。なら、自分なりの答えを見つけるだろ」

「パドロン…」

 

 彼女を追いかけようとしたキズナ君をパドロン君が止める。

 戦士云々はオレには分からないが、今は一人で考えさせてあげるべきだというのは同意。

 理解力のある女ムーブは常に心掛けていく。

 

「結構、良いこと言うじゃないですか。ピスカちゃんのこと、実は嫌いじゃなかったりするんです?」

「ち、違ぇよ!……ただ、俺も前に父上から言われたことに悩み続けてる最中でな。それで、それは俺自身が答えを出さなきゃいけないことだって思ってるんだよ。だから、アイツも戦士として、偉大な父親の子どもとして、自分なりの答えを見つけるべきだと思っただけだ」

「パドロンは優しいんだね」

「口は、悪いけど、優しい」

「う、うるっせぇな!どこをどう聞いたらそうなんだよ!さっさと寝るぞ!明日は早えんだろ!」

 

 なるほどなぁ。間近で当事者として見ると確かに。パドピスってのも可能性0じゃあ無いのかもね。ま、オレには関係ない事だがな。

 明日は決戦の日。戦闘民族の遊牧民たちでさえ敵わなかった強敵。ゲーム的には1章のラスボスとして相応しい存在と言えるだろう。

 普通に戦えばまず勝てない。だが、前回の戦いの際にピスカの父アイルロスが致命的な一撃を与えていたりする…らしい(メモ知識)。

 自らの致命傷と引き換えに怪物に深手を与えたアイルロス。彼の決死の攻撃は怪物を絶命させるには僅かに至らなかったが、遊牧民たちを襲う力は完全に奪い、撤退に追い込んだそうだ。

 今も傷は完治しておらず、全盛期の半分の力も出せないようになっているとのこと。

 だが、安心はできない。迷宮の時もテトマの時も死にかけた。気を抜かずに戦うしかあるまい。

 …なんてことを考えているうちに寝息が聞こえてくる。3人は寝たようだ。

 実は精霊は眠らないので、布団に入っているだけだったりする。

 このまま何もしないで一晩中過ごすのも暇だ。ということで、いつも通り、自分の精神世界に意識を集中していく。こうすると普段は1つに纏まっているオレの人格が明確に3つに分かれるので、そいつ等とのお喋りを楽しむのだ。

 …なんか友達のいない寂しい子みたいだな。いや、自分とはいえ、完全な別人格でもあるし?一人なんか、お星様の意思そのものだし?ぼっちじゃないんだからねっ!

 

 そうして、草原の夜は更けていった。

 

 

◇◇◇

 

 

「本当に行くのかにゃ」

「…うん。ここで行かなきゃ後悔するから」

 

 明朝。

 旅立とうとするキズナ君にピスカが話しかけている。

 

「………お前、馬鹿にゃ」

「あはは、ティエラさんとかにも結構言われる」

 

 そりゃそうだ。お前、馬鹿だもん。異常だもん。

 

「でも、父様と同じ目にゃ。あの日、戦いに向かった父様と同じ目をしているにゃ」

 

 そこで一度言葉を区切り、ピスカちゃんはキズナ君の眼を見つめて言った。

 地平線の向こうから差し込む日の出の光が、2人を照らす。

 あー、これは一枚絵決定ですね。ヒロイン昇格おめ!

 

「キズナ。アタシも戦う。アタシも一緒に連れて行って欲しいにゃ」

「ピスカ…」

「昨日、キズナの決意を聞いてアタシなりに考えたにゃ。逃げてばかりいられにゃい…そう思ったにゃ。だから、戦う。キズナと一緒に」

「…うん、分かった。よろしくね、ピスカ!」

 

 良かったね、キズナ君!君は異世界ハーレムへの道を一歩踏み出した!

 オレの邪魔をしないなら、いくらでも応援してやるぜ!

 「主人公好き好き」属性持ち同士で人気を奪い合い、潰し合うがいいわ!

 オレは少し違うアプローチで人気を掻っ攫ってくからな!

 

 草原に朝が来る。

 戦いはもう直ぐ始まろうとしていた。

 

 




★後書き(読まなくて大丈夫です)
皆様から様々なご意見いただきました。ありがとうございます。
とりあえず、番外編は外伝としてそのうち纏めて投稿する…と思います。
いつになるかは分かりませんが。お待ちいただけますと幸いです。
各サイトは基本的に同じ内容になると思います。もっとも、特殊タグの有無や文字数制限の有無があるので完全に同じ形式にはなりません。でも、大筋は同じはずです。

今後とも当作品をお楽しみいただければ幸いです。
夢泉

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