凄かったなぁ、朝の食事。
遊牧民の集落で一晩過ごしたオレたち。その間の食事は向こうが作ってくれた。具体的には昨日の夕食と今日の朝食の二食分。
ところで、遊牧民の食事というのは独特である。農業をしているわけではないので、野菜や果物はほとんど含まれていない。基本は家畜の肉や乳製品を中心とした料理だ。家畜は普通の動物もいるが、魔獣もいる。
5年の旅路の中でも遊牧生活を営む人々と接触する機会は無かった。日本にいた頃は言わずもがな。そんなわけで、凄く新鮮な味わいの料理の数々だった。
肉の調理自体も中々特殊なようではあったが、これは既知の技術の数々と照らし合わせて大体推測できる。それよりも、乳製品の方が非常に興味深い。一体何をすればあんなに深い味わいになるのだろう。これは料理の時点での話じゃない。搾乳・保存・加工の段階で既に大きく異なっているとみるべきだ。
魔獣退治をして遊牧民たちと友好関係を結んだら教えてもらおう。そうだな、対価として砂漠で習った調理技術を教えるのはどうだろうか。多分、遊牧生活に応用できる点が多いはずだ。
オレの料理の技術は高い。だが、まだまだ先がある。研鑽を止めるつもりは毛頭ない。地球に帰ったら料理人になるのも良いかもな。「カオス」の食材こそ使えないが、学んだ技術の数々は地球でも活かせる。決して無駄にはならない。
…と。魔獣討伐に向かう道すがら、そんなことを考えて歩いていく。
戦いの作戦は戦闘民族の遊牧民たちとパドロン君が話し合って決めてくれた。だから、決戦前とはいえ考えることもない。正直言って、暇である。
すると、ピスカがオレとルネの方へと向かってきて問うた。
「お前たちは何にゃ?」
…ふむ?ふむふむ?
なるほど。要するに。
アイツは私のだから手を出さないで!(意訳)
ということだな!
青春だねぇ。ほらほらルネ、うかうかしてると泥棒猫に正妻の座を奪われちゃうよ。
「どういう、いみ?」
ピスカの問いかけにルネが首をかしげる。うん、全く伝わってないですね。
まぁ、現状、ルネの感情は育ちきっていない。恋愛感情という複雑な感情を、彼女が扱いきれるようになるまでには当分時間がかかるだろう。
彼女について思う所は多々ある。憐れだと思うし、同情もする。けれど、オレはオレの目的を優先させてもらう。
…オレの両手は自分と妹で一杯だ。お姫様を救うのは、
だけど、そういう展開はオレが元の世界に帰ってからにしてね!
先に繰り広げられるとルネの人気が鰻登りになる気がする!
元の世界に帰ってからなら、いくらでも願ってやるからさ!
もしもオレの帰還前に二人で幸せゴールインしようとしたら全力で邪魔するからね!
おっと、思考が逸れたな。
とりあえず、困っているルネに助け舟を出すとしよう。
「あー…ルネは昔の記憶を失っているんです。なので、彼女自身にも彼女の事は分からないんですよ」
ピスカは得体のしれないルネと、精霊という正体を隠したオレを探りに来た、と考えて間違いないだろう。
思ったよりも早かったが、想定していた展開の1つではある。
よーし、人気1位を目指してロールプレイ開始のお時間だ。
「そうかにゃ…それはすまにゃい事を聞いたにゃ。ごめんにゃ」
「べつに、きにしてない。ゆるす」
問いかけの狙いとしては、直球な質問で動揺するかどうか反応を見る…といったところかな。悪くない手と言える。普通ならば、だが。
ルネはそもそも記憶なんか持ってないので、動揺するわけがない。
そしてオレはと言えば。
オレも動揺なんか一切しないのよね。この「カオス」において、黒衣の種族詐称能力を訳分からん謎パワーで見抜いてくる奴なんかザラにいる。吸血鬼の女王とか黒騎士とか良い例だ。アイツらホントおかしいよ。星の力を借りて発動している正体隠しを、「勘」の一言で見抜いてくるんだぜ?
そんなわけで、5年の旅路で似たような問いかけは幾らでもあった。しかも、オレは常にロールプレイ出来るようイメトレを重ね、夜は精神世界の中で演技練習を続けている。故に、こうして詰問されても落ち着いて対処可能だ。
ここは…そうだな。オレも直球で返そうか。
意味深な発言を、さも深刻な事情がありそうな顔で呟くとしよう。
「オレの方は…えぇ。オレは自分が何者なのか良く分かっていますよ。そして、その異常性も、ね」
「…いや、その別に、にゃ。
オレは種族が特殊なだけで超普通の一般人だけどね。でもま、「異常性」という言葉は便利だ。範囲が曖昧で具体的な事なんか何も指しちゃいないのに、ちょっとヤバイ感じがするでしょ?
具体性のある情報なんか一切出しちゃいないのに、「隠していた秘密を打ち明けた」風な雰囲気を出すとともに、重い事情を抱えているような感じになる。だから、聞いた方は何となく同情してしまって、それ以上の追及が出来なくなる、と。
案の定、ピスカは申し訳なさそうに戸惑っている。思い通りになって笑みが零れ…おっと、それはマズイ。それは完全な悪女ムーブだ。
悪い笑みを浮かべて暗躍、最後にはだいたい裏切る系の峰不○子ちゃん路線では、流石にソシャゲで1位にはなれないだろう。
だから、浮かびかけた笑みを即座に変える。完全に消すことは出来ないので、笑いの方向性を変えるのだ。悪女の笑みから優しい近所のお姉さんの笑み…年下の子の悪戯を見守るような微笑みにする。
貴女が悪意でそんな訊き方をしたわけでは無いことは分かっていますよ~、と理解者面をしていくわけだな。
「ピスカさんがオレを警戒するのは当然です。オレの全ては嘘で出来ていますから」
「…嘘で出来ている、にゃ?それはどういう…」
ついでに少し情報を上乗せ。
優しい一面を見せた上で、「自分の全てが嘘」なんて明らかに重い事情がある発言。これで、望んでそうなっているわけでは無いのに…という可哀そうポイントも稼げる。
そういえば。女は秘密で武装して美しくなる…だっけ?某国民的漫画であったセリフ。もうよく覚えてない。思えば、5年も漫画読んでないんだなー。帰ったらたくさん読もう。あ、でも、先に忘れた勉強しなきゃか。うえぇ。
勉強の件は置いておいて、と。
実際、嘘が女を美しくするというのは結構真理な気がする。秘密のある少し危ない女の人って謎の色気あるじゃん?やり過ぎると悪女になるから見極めが大切だけど、隠し味程度に使って行くと効果的。
…っと危ない。忘れる所だった。暗くなりすぎるのも問題なのだ。完全シリアス担当になってしまう。
シリアス成分が強すぎるキャラは、お祭りイベントとかで扱いにくいのだ。
水着やらハロウィンではっちゃけるためにも、コメディ適正も持っていなければならない。
というわけで。
「だから安心してください。ピスカさんの想い人を害そうなどとは考えていませんよ」
「にゃにゃにゃ!?ちが、違うにゃ!そういう事じゃ
ラブコメ適正発動!
心の機微に敏く、恋を応援したり相談に乗ったりするポジっぽく振舞う。
これによって運営さんとプレイヤーさんに、オレにはちゃんと日常コメディ適正もありますからね~とアピール!
シリアス要素とコメディ要素の絶妙な匙加減が一番難しいのだ。
今はまだ、コメディ属性はこの程度の少量で構わない。一年目はミステリアスキャラとして動いていくと決めたわけだからな。
あとはシリアス属性を醸し出して行けば、調整は完璧だ。
「それに。いつかオレは――」
ここは演技なんかいらない。帰りたいというオレ最大の激情を込めて発言する。
演技は磨こうとも所詮は演技。嘘偽りない本当の感情が持つ真実味には到底及ばない。なので、こうやって時々本音も交ぜる。
何割かの真実に、何割かの嘘を交ぜると良い…というのは聞き覚えのある話だ。詐欺師のテクニックだっけ?
「…いえ、何でもありません」
それで、思わず零れてしまった…という風に慌てて誤魔化す。
一般的な常識があれば、これ以上深く踏み入ってくることは無いだろう。
…縄で拘束したまま尋問して無理やり聞き出そうとしてきた、頭のおかしい黒騎士とかいう騎士もいたがな!あの女マジでムカつく!
「そうかにゃ。…感謝するにゃ。良い感じに力が抜けたにゃ。戦いの前に変に気負い過ぎると大きなミスに
ちょっと無理やりな流れでピスカは話を終わらせようとしている。これ以上踏み込むべきではないと理解してくれたようだ。
ピスカがあのイカレ騎士と同じ思考回路ではなく、マトモな感性の持ち主で良かった。本当に良かった。
…視界の端に、こちら側を振り返ろうとしているキズナ君たちが映る。
なるほど。そろそろ目的地だから、集合のために声を掛けようとしている…といった所だろう。
ならば。最後に仕上げの一撃だ。
考察班諸君は頑張ってくれたまえ。
「ルネ。ピスカ。キズナ君の事をお願いしますね。彼は少々…いえ、かなり危ういところがありますから」
ふあっははははは!
未だに初恋なんて浅い次元にいる
お前たちは恋心を武器に正妻戦争に挑むのだろう?
ならば、オレはそれに愛で対抗しよう!
恋は求めるもので、愛は与えるもの…だっけ?良く知らんけど、そんな感じだった。
君たちがキズナ君を恋しいと想って、彼に「振り向いてほしい」「知って欲しい」「近付きたい」などと考えて行動していくのであれば。
オレは愛しているが故に一歩引く女…の演技をしよう!
「にゃ?それはどういう…?」
「あ、向こうでキズナ君たちが呼んでいます。どうやらそろそろ目的地のようですよ。急ぎましょう、二人とも!」
見返りなど求めず、ただただ彼の幸せを願う…演技。
演技も貫き通せば真実と変わらない。
であれば。
この気持ちは、まさしく愛だな!!