彼女の正体について隠しても話の本筋には関係ないので明かしておくべきと判断。
これはテラのいた真っ白な空間で、「ティエラ・アス」の設定を考えていた5日間の話だ。
「なぁ、結局のところワールドイーターって何なんだ?」
「あれ?ゲームのシナリオでもう語られてなかったっけ?親友のいた時点で」
設定を考えながら、世界の仕組みや秘密など聞き出せることは聞きだしていく。
会話を重ねるうちに仲も深まっていったので、かなり気さくに尋ねることが出来る。
「俺のプレイしていた段階だと、
そもそも俺の知っている「WF」はまだ完結していない。シナリオの中で少しずつルネ=ワールドイーターという情報は出されていたが…。
ほとんどが主人公(プレイヤー)以外の視点で語られる形式であり、プレイヤーは知っているが、主人公は知らない…という状況だったはずだ。
「そっか。それだけか~。そもそも、それ間違ってるよ」
「え?そうなの?完全にワールドイーターはルネだと思ってた」
けど、そもそも違っていたようだ。考察班は完全にワールドイーター=ルネで結論付けてたが…。ミスリードだったってことか?
「ワールドイーターはルネではない。けど、逆は正しい…もっとも、ボクは「ワールドイーター」って名称嫌いなんだけどね」
「はぁ?悪い、もっと分かりやすく教えてほしい」
訳分からん返しが返ってきた。自分で全部分かってる奴は、こういうことがあるから困る。
「どう言葉にするのが良いのかな。えぇっと、そうだね、ルネはワールドイーターの…
「概念人間?巫女?もっと分からなくなった」
「例えば、「死」の概念が意思と肉体を持ち、概念精霊として活動するのが「死の概念精霊ネクロア」だよね?」
「墓守さんか」
『静穏の墓守ネクロア・テルア』。初期実装SSR…最高レアの一体で、「死」の概念精霊。本来であれば無差別に死を振りまく存在でしかなかったが、ある青年との出逢いと別れが彼女を変え、戦場にて穏やかな死を与えるようになった…というキャラクター。未亡人の蒼肌美女という、刺さる人には刺さる属性かもしれない。俺は大好き。
「概念精霊は概念の「
「その事を利用しようとしたのが、騎士王や悪辣王だったよな?」
騎士たちの王は「理想」のため、欲深き王は「野心」のため。目指すものは異なるけれど、2人の王は同じ手段に目を付けたのだ。
「八騎士」と称される存在は、これに関連した「使命」を掲げて動いている。
「その通りだね。それで、だ。概念の影が精霊という形でしか顕現しないのは、ヒトそのものの肉体では概念に到達できない…言い換えれば、耐えきれないからだ。肉体も自我も崩壊してしまう。あくまでも普通ならば、だけど」
「じゃあ概念人間というのは?」
「器の方を弄ったということだね。概念に耐えられるよう、1から器を創った。他の人間と全く変わらない材料を使いつつ、構成を微調整し、余計なものを削ぎ落す。一切の無駄を排し、「人間」という枠組みのままで概念に到達可能な存在へと昇華させる。…そして、そこに概念を降ろせば…てってれ~!概念人間の完成~というわけ」
何らかの目的のために、選ばれし人の器に超常の存在を降ろす。あるいはシャーマンのような…そうか。
「
「「神降ろし」か、うん、とても良い表現だね。ボクも採用しよう。そもそもワールドイーターは悪性の存在じゃない。
「じゃあ、「カオス」がワールドイーターに飲み込まれるってのは?」
「単純な話だよ。
世界そのものが間違っている?
「考えてみてよ。そもそも
…そう、なるのか、な?
まぁ、確かに殻が無ければ生卵は形を保てない。ゆで卵にでもなってれば別だが。
「…?ってことは「カオス」は元々違う形だった?」
「正解~。だからこそ、親友の世界では「ゲーム」なんて形になっているわけだ」
「…んん?どういうことだ?」
実際、それは不思議だった。なぜ俺が異世界で活動することが元の世界のゲーム内容を改変できるのか、という謎は。
「世界は無数に存在する。異世界は実在し、魔法がある世界もあれば無い世界もある。けれど、選択で分岐する無数のパラレルワールドなんて存在しない。
「無数に世界はあるけど、1つの世界から分岐した世界は存在しない…?でも、「地球」って…」
朝起きて二度寝をするか否か。朝食をパンにするかライスにするか。玄関を出る時に右足から出るか左足から出るか…そういう無数の選択で分岐するIFの世界線が膨大にあるわけでは無い…?
「そうだね。現状、
どういうことだ??聞けば聞くほど疑問符が増えていく。
「この際だから全部話してしまおうか。世界の成り立ちから全て。こんな奇妙な事態になってしまった始まりと経緯。人間の過ち。そして――」
そこで、そいつ…数日後に「テラ」という名を与えられる存在は、一度言葉を区切ってから告げた。
「――ボクが目指す1つの終わりについて」
◇◇◇
「…といった感じだね~。長い話だったけど、退屈じゃ無かった?」
確かに長い長い話だった。単純な会話時間としての長さというより、その話
「退屈では無かったよ。俺が1位になるため…そのための設定を考えるうえで世界の仕組みとか成り立ちは重要な知識だからな」
「それは良かった。それで、ボクの話を聞いてどう思った?」
どう思ったか…どう思ったか、ねぇ…。
「うーん、正直、
「軽っ!?あれれ?予想以上に軽いね?」
まぁ、重い話に分類される話だったな、確かに。少なくとも、ごく普通の学生が聞かされて良い話でも、関わって良い話でもなかった。
けどな。
「だってさ、
そうだ。俺の目的が変わらないことだけはハッキリした。なら、何も問題ではない。
「アハハハハハハ!そうだね!その通りだ!やっぱり親友を選んで良かった!」
俺の回答の何が琴線に触れたのかは分からないが、真っ白な空間に特大の笑い声が響き渡る。
「世界の仕組み?世界の成り立ち?ボクの目的?…全部全部蛇足でしかないよね。その通りだ」
おう、分かっているじゃねぇか。
結局のところ、世界がどうとか関係ないんだ。
「ボクや世界がどうであれ関係ない。だって、これから始まる物語は単純明快」
だって、これから始まる物語は。
妹を救いつつ元の世界に帰るために――
「キミが1位を目指す物語…それだけの物語だもんね!」
――俺がソシャゲで1位を目指す物語なのだから。