青い青い空の下。
セミ…っぽい生き物の声が響いている。
うるさいのは確かだけれど、何だかそれだけではなくて。
胸が自然とワクワクしていくのを感じる。
『前方に大規模な湖を確認。迂回しますか?』
「泳いでは渡れないの?」
機械都市ミカニア及びエルフの大森林目指して東へ進んでいると、巨大な湖にぶつかった。道中でも様々なトラブルがあったが、それらは割愛で良いだろう。多分、ゲームでも語られないし。
だが、ここで湖か。ちょうど暑くなってきた時期に合わせるように湖の出現…。
これは来たのでは??
『完全体の当機であれば水路も問題なく移動可能です。ですが、現状の完成度では難しいでしょう』
「じゃあ、迂回するしかない?」
『ただし。3日程度あれば、現状の集積パーツと近辺の材料を用いて、当機を水陸両用に改造可能です』
ふむふむ。3日間のバカンスということだな!
ポイント稼ぎの絶好の機会!
「3日か…迂回とどっちが早いのかな?」
『湖の正確な面積及び形状が不明な為、断定は不可能。遥か上空から観測できれば話は異なりますが』
「飛行魔術とかで確認するってこと?」
おいおいキズナ君。変なこと口走って夏イベ無くすとか、絶対にするなよ?
「飛行魔術はそんなに便利なものではありませんよ。高度が高くなればなる程に莫大な集中力と魔力を必要とします。膨大な魔力を宿した存在、或いは飛行に適した翼などを有していれば話は別ですが…。少なくともオレには無理です」
「申し訳ありませんが、
仮に出来てもやらんわ。確認した結果、迂回の方が早いなんてことになってみろ。ポイント稼ぎの夏イベが消え去るだろうが。
そもそも飛行魔術は超高度な魔術だ。適性が無くて使えない者の方が圧倒的に多い。
また、使える者も無制限に使えるわけではない。
自分だけなら、ある程度自由にそこそこの距離を飛べる。戦闘も可能だ。
だが、少し荷物を持つと魔力消費と精神疲労がケタ違いになる。人一人なんて抱えたら間違いなくヤバイことになってしまう。
そんなわけで、オレとリエスだけなら単騎で向こう岸へと渡れるが、キズナ君たちを抱えて往復…なんてのは無理なのだ。
『現地点から確認できる範囲において、該当の湖は南北…当機の進行方向から見て左右に広がりを持っています。半面、東西…直進方向では比較的短距離』
…思い返せば、地球でも巨大な湖って異常な大きさだったよね。海外のやつ。
もっとも、実物を観に行ったことがあるわけじゃないけれど。
グルっと車とかで回ろうとしたらどれくらいかかるんだろ?というか直ぐに燃料が尽きるか。
「キズナ君。ここは改造してから進むべきだと、オレは思いますよ」
「ティエラさんに同意だな。今後同じような地形が無いとは限らない。今のうちに改造できるならしておくべきだと思うぜ」
「私はそこまで急ぎの旅路ではありませんし、どちらでも構いません」
「拙者は一宿一飯の恩義を返すべく同行している身、どちらの選択にも異論はござらん」
「アタシもどっちでも構わ
「ルネちゃん、なに言ってるか分かるっスか?」
「…???」
「ウチも意味不明っスよ。仲間っスね」
「うん。いみふ」
「…じゃあ、3日間でテトマを改造しちゃおう。それで湖を突っ切っちゃおう!」
若干2名ほど全く話についてこれていなかったが、構うまい。
なんなら、幼子とアホの子にも分かりやすく言ってやろう。
バカンスが始まるんだ!
『では、これが必要となる物質の種類と量を記したリストです。遥か昔に湖岸に栄えた文明があったようで、有用なパーツも複数発見できています。それらがあれば、当機の改造は十分可能でしょう』
「つまり、テトマが改造に集中している間に、僕たちでリストの部品を集めればいいんだね」
ゲーム的には、多分、クエスト周回して資材集め…みたいになるんじゃないかな。
…ところで水着はどうするんだろうね?
◇◇◇
などと思っていたのだが、心配は無用だった。
「ボクはねー、タッタ!兄だよー」
「ワタシはねー、サホ!妹なのー」
湖岸の調査をしようと歩いていると、奇妙な2人組に遭遇する。
水色の髪で小さい幼子2人。服はお揃いで顔立ちはそっくり。
小さな子が2人きりでいるのを心配して声をかけたキズナ君たち。
だが、それらは見た目通りの年齢ではない。正体はオレと同じ精霊だ。
朧気ながらゲームの内容を思い出す。
双子の兄妹「タッタ」と「サホ」。「織物」「機織り」「衣服」「裁縫」「染色」…などの概念を司る概念精霊。
何かの衣装チェンジイベントになると超高確率で登場するキャラだ。
実装はされていなかった…気がする。
「あのねー、本当ならねー、ここにねー」
「船がねー、あったはずー、なんだよー」
要するに、これだけ大きな湖なので渡し舟と渡し守が存在したらしいのだ。
水と食料に恵まれた湖岸という事で、村もいくつか存在するのは確認済み。もう少し進めば町もあるのだろう。
そして、向こう岸に行って暫く進めば有名な機械都市もある。
こういう条件で渡し舟ビジネスをしようと考える人は当然いるわけで。
双子もここを通る時はそれを利用しており、今回もそうしようと考えた。
「魔獣がねー、船をねー、壊しちゃったんだねー」
「湖のねー、ヌシがねー、暴れたんだねー」
「向こう岸にー、いけないなー」
「困ったなー、どうしようかなー」
だが、一週間ほど前に「湖のヌシ」と呼ばれる超巨大魔獣が暴れ、湖岸にあった船は全滅してしまったそうだ。
普段は温厚で、こんなことは今まで無かったらしい。
船の修理やらヌシへの恐れで今は船が1つも出ていないとのこと。
もっとも、浅瀬で漁をしても襲われたりしたという話は無く、もう落ち着いたのではないかとも噂されている。
とにもかくにも、船が無くて双子は困っている、と。
「じゃあ、僕たちと一緒に向こう岸まで行かない?実はね――」
そんな話を聞いてキズナ君が放っておくはずもなく。
双子へ、テトマに乗って一緒に湖を渡ることを提案。
双子は大層喜び、お礼に「服」を作って贈ると言う。
最初は遠慮して断ったキズナ一行だが、双子は引かなかった。
自分たちは服で商売をして各地を転々としている。受けた礼に報いない商売人は信用されない。タダより高い物はない…云々と。
それでキズナ君たちはお礼を受け取ることにした、というわけだ。
ちなみに、服の種類は、案の定「水着」になった。
最初は遊んでいる暇あるのかな、みたいな感じだったキズナ君。
しかし、テトマに聞けば3日間のほとんどはテトマ自身が改造に費やす時間とのことで。
要するに、遊ぶ時間は超たくさんある。
息抜きも必要だ、みたいな話の流れになって最終的にバカンスが決定した。
みんなまだ年若い少年少女…元の世界でいえば中学生~高校生くらいなので、遊びたい盛りなのである。
「ただねー、材料がねー」
「6コしかねー、ないんだー」
双子曰く、双子は特殊な術でイメージした服を作り出す。
しかし、それには特別な材料が必要らしい。
単純な布面積の話ではないのがファンタジーだ。「1人分」で「1つ」必要になってしまう。
それで、それが今は6人分しか無いのだという。
すると、直ぐに忍者のナナシ君が辞退した。彼は水中用衣服を常に持ち歩いているそうで。それを身に着けるとのことだった。
直後にオレが辞退した。心優しい一行は辞退合戦になりかねなかったので、間髪を容れず言った。
皆が申し訳なさそうな、自分が代わるとでも言いたげな顔をしているので、余計なことを言われる前に先制攻撃する。
「オレは泳ぎが苦手なんです」
嘘である。
愁いを帯びた表情で言っておけば、単純に「苦手」だけではなく、過去に何かあったのかもしれないと思ってくれることだろう。
ついでに、せっかくのイベントを暗い雰囲気にはしたくないので。笑顔で言葉を続ける。
「ふふ、実はオレも夏用の衣装は持っているんです。綺麗で可愛い特別な服を。夏の楽しみ方は1つではありません。それを教えてあげますから楽しみにしていてくださいね」
よし!これで1年目の水着回避成功!さらに夏限定の特別立ち絵は完全に約束された!
約束された限定の立ち絵!ふははは!
夏・夜・浴衣…この3ワードの何と強力な事か!!
色々と想像できるだろ?
夏は水着で泳ぐだけじゃないということを教えてやろう!!
小娘どもには出せない年上お姉さんの魅力に慄くがいい…!
ま、そんなこんなで。
最初のお祭り騒ぎが幕を開けた。
セミの声が聴こえる。
夏が、始まる。
タッタとサホの元ネタは竜田姫と佐保姫です。
※以下、【ソシャゲで1位】は無関係です!
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【1話完結短編】
『僕と「彼女」は1日を生きる』
ファンタジー要素皆無の現代モノ。
悲恋かもしれない。けど、きっと違う何かも受け取ってもらえるはず。
カクヨム様の【「5分で読書」短編小説コンテスト2022】に応募中。
6000字に今の私の全てを込めました。
どうか一度ご閲覧ください。
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