ソシャゲで人気投票1位にならないと帰れない!   作:夢泉

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エタってないです。


8話 ティエラ先生の夏期講習

『提案。ティエラは下着姿になれば良いのではないか?』

「何ふざけたこと言ってんですか、スケベAI。湖に沈めますよ」

 

 ファンタジーパゥワーで作るといっても、採寸は必要らしい。そんなわけで、オレとナナシ君以外は双子に連れられて行った。

 ナナシ君は先に湖を調べて、双子から聞いた「湖のヌシ」などの危険性が無いかを確認しに行ってしまった。

 そんなわけで、暇だから昼食の準備でもしておこうかと思っていたところ、テトマが妙な事を口走り始めるではないか。

 この人工知能、進化の方向性間違えてない?

 

『疑問。ティエラが憤慨する理由が理解不能。…「下着」と「水着」には明確な差異があると推測。本件に関する該当データ無し。ティエラ、当機の疑問への回答を願う。下着と水着の違いとは何か』

 

 何を当たり前の事を。

 素材も用途も全く異なるじゃないか。下着は普段服の下に着て、水着は泳ぐために着る。下着は水にぬれると透けたりするしね。水着で泳ぐのは良いけど、下着で泳ぎたくはない。だから、この2つは全く異なるわけで…。

 ……うん?待てよ?その逆はどうだ?

 考えてみると、ふむ。確かにな。水着と下着の違い、か。改めて考えると結構深い内容かもしれない。

 もちろん種類にもよるが、水着も下着も肌を覆い隠す面積はほとんど同じであることが多い。

 素材や造りは違う。用途も違う。けれど。

 

「根本的には意識の違いでしか無い、のかもしれませんね」

『意識の違い?更なる説明を要求する』

 

 どう説明したものか…。

 例えば、水着と下着の違いは?という問いへの答えの1つに素材・造りの違いがあるだろう。水着は濡れても透けない、泳ぎに特化した衣服と言える。

 しかし、だ。

 

「濡れても平気な素材だから、というのは大きいでしょうけど…それだと、濡れなければ下着で砂浜にいても恥ずかしくないことになってしまいます」

 

 先程テトマの問いかけで考えていて思ったのだ。仮に、そもそも下着が濡れても透けない素材だったとしたら、と。或いは、技術が発展して全ての衣服が水をはじくようになり、水着の機能も備えるようになったとしたら、と。その場合、オレを含め人々は下着で泳ぐのか、と。

 答えは当然NOだ。であれば、水への適性の差異は水着と下着を分かつ決定的要素ではない、ということになる。

 ならば。

 

「水辺に行けば周りも着ているから、泳ぐ際に水着を着るのは常識だから。或いは、下着は隠すべきものだから。…こんな感じで、自身または周囲の意識が違っているだけですよ」

 

 結論としては、こうなるわけだ。

 とはいっても、オレは水着も超恥ずかしいけどなー。世の女性の皆さんがどうなのかは知らんけども。

 肉体は女だが、精神がかなり複雑な状態なので、余計にそう感じるだけなのかもしれないが。

 

『理解。規範と感情の問題と結論付ける。後者は当機に備え付けられていない領域だが、前者の理解は容易。感謝する、ティエラ』

「オレだからよかったものの、他の女性にいきなり「下着姿になれば?」なんて言ってはいけませんよ」

 

 ルネも大丈夫だとは思うけどね。あの子はそこまで感情が育ってないから。あと、パハルも平気かもしれない。羞恥心とかどっかに置き忘れてきたアホの子だし。

 あれれ~?パーティ内の女子、過半数以上が大丈夫そう?

 

『ティエラには言っても良いのか』

「そういうことじゃないんですよねー」

 

 駄目だ。AIとの会話めっちゃ疲れる。誰か助けてー。人間と話がしたいよー。

 

「ティエラ殿、テトマ殿。只今、戻り申した」

「あ、ナナシ君。おかえりなさい。ご飯にしますか?お風呂にしますか?それとも…?」

「はて…?昼食も湯浴みも未だ早過ぎるにござる。それに、「それとも」とは?」

「いえ、ただの冗談です。ふざけて言ってみただけですから、忘れてください」

「良く分かりませぬが、そう申されるのならば詮索は致しませぬ。十数秒後には忘却の彼方でござろうよ」

 

 心の中で助けを叫んでいたらナナシ君が来てくれた。

 それで感謝を込めてサービス特殊ボイスを披露してあげたが、まったく通じない、と。

 まぁ、テラから世界の成り立ち聞いてるから、ナナシ君の世界は地球では無いのだと知っているのだけども。

 概念精霊「ティエラ・アス」であればこういう確認はしただろう、と考えてのロールプレイに過ぎない。

 そういえば、お風呂ご飯~の三択って元ネタ何なんだろう?何かのドラマなのだろうか?

 

「…周辺確認の結果、重大な危険の兆候は見受けられず。この付近で休息をしても安全だと判断した次第。後程、キズナ殿たちにもお伝えする所存にござる」

「ありがとうございます、それは安心ですね」

『当機の索敵機能は未完成であるため断定はできない。しかし、付近に危険性は少ないと判断する』

「テトマもありがとうございますね」

 

 まぁ、どれだけ調べても無駄だと思うけどね。多分、イベント用のボスキャラに該当するから。バカンスの終わり頃に襲ってくるんじゃないかな。

 …これを言って夏イベ潰すのは避けたいので、絶対に言わないけど。

 ふと気になってナナシ君の服装を見てみれば、見慣れた忍者服だ。

 いつもと違う点は濡れているところか。あと少しだけ色合いが違うかもしれない。

 どうやら、水をはじいているようではあるものの…。

 

「それが先ほど言っていた水中装備、なのですか?普段と殆ど変わっていないようなのですが」

「左様でござる。濃い紺色で水中に潜れば姿を隠せる、水を弾く、水中でも十分に暖かい、などの特徴を持つ水中装備にござる。そも、忍者は忍ぶ者。洒落っ気を求める存在ではありませぬ故」

「なるほどです」

 

 ま、理由はそれだけではないわけだが…。

 …ふむ。あえて話題に出してみるか。

 「忍者」の情報収集能力の高さは、元の世界でもこちらでも変わらない。

 この忍者がオレの動向を調査などしたらどうなる?計画に支障が出るかもしれない。

 ならば、ここで隠し事の1つを暴いてやろう。そして、その上でオレも1つ何か情報を差し出す。

 秘密の共有は裏切りを防止する効果的な手法だからな。

 

「ところで、ナナシ君の右手の薬指…それ造り物の指ですよね。それ以外の身体の部位もいくつか…。水着を即断で辞退したことと関係あったりしますか?」

「…気付かれてしまうとは。本来の肉体と変わらぬ運用ができるよう修行を積んでいたのでござるが。修行不足、ということにござるか」

「いえ、戦闘中に治療魔術をかけたら貴方の身体の一部だけ効かなかったんですよ。そこに薬指も含まれていました。オレの力は生物にしか効果がありませんから、造り物ではないのか、と」

 

 9割はテラに聞いて集めた情報だけれども。

 実際、治療魔術がおかしな反応を示していたのは事実である。

 

「なるほど、それは盲点でござった。久しく他者と組むことが無かった故の弊害、にござるな」

「気を悪くしたのなら申し訳ありません。秘密を勝手に暴くような行為で迷惑ですよね」

「迷惑などと、そんなことは断じてござらんよ。そも、ここまでの道中ティエラ殿の魔術に救われていた拙者が、感謝こそすれ文句を言うなど」

「そう言ってもらえると救われます。今後もキズナ君たちと行動を共にするのであれば、治療担当としては知っておかなければなりませんから」

 

 別に知らなくても治療は出来るし、何なら最初から知っていた。が、「ティエラ・アス」のロールプレイとしては完璧だ。

 

「殊更に隠すような事でも無いでござるが、拙者の四肢の一部は造り物にござる」

『疑問。当機の同類ということか』

「否。テトマ殿のように複雑ではござらん。人形の方が近いでござろうな。身体の一部を偽りの肉で補っているだけ故」

「それを魔術で動かしているというわけですね」

『把握。データの修正を開始する』

 

 機械仕掛け・カラクリ仕掛けというよりは、身体の一部が人形になっている、という感じなわけだ。

 

「そして、先程のティエラ殿の問いかけへの回答にござるが。この身体のことは、拙者が双子の申し出を断った理由の1つであるのは確かにござる。楽しい気分に水を差してはなりませぬ故」

「1つ…?まるで他にも理由があるみたいな言い方ですね」

「左様。2つ目はいざという時のためにござる。服の下には数多くの武器が隠してある故、有事の際には戦闘可能にござる」

 

 成程。ナナシ君は雷や炎を飛ばすみたいな魔術で戦うわけじゃない。

 「くない」とか忍者っぽい道具で戦う。その武器は服の下などに隠してあるから、水着になれば丸腰になってしまう、と。

 

「そして3つ目。拙者はあの双子を信用してござらん。唐突に現れて不思議な術で服をつくる…実に面妖極まりない限り」

 

 ですよねー。

 夏イベだって割り切れてれば話は別だけど、リアルで遭遇したら疑うよね。

 キズナ君たちは経験が少ないから、悪意を感じない幼い子供ってことで信用しきっていたけど。

 パドロン君も訓練は十分でも長旅の経験とかは無いらしいし。

 パハルは…うん。長旅もしてるし実戦経験も豊富だけど、基本的にアホの子だからなぁ…。謎の直感で信用できると感じたら信じきっちゃうんだよね。

 ふむ。

 秘密の共有はこの辺りの話題にしよう。

 自分が精霊だという事は伏せつつ、「何らかの事情で精霊と深い関りがある」くらいの位置づけにしておこうか。

 

「ナナシくん、あの双子は「精霊」…それも、相当永く生きる古参の「概念精霊」です」

「誠にござるか!?特殊かつ強力な力を有する「精霊」は、それ故に異質な存在感を放つ…一目で判別可能と拙者は聞き及んでござったが」

 

 そうなんだよねー。だからこんな黒衣が必要なんだよ、オレも。

 正直、黒衣無かったら即バレからの超絶面倒なことになる。具体的には八騎士とか精霊教とかの関連で。

 

「恐らくは、2人で1人だからでしょう。概念を2つに分けることで、精霊の存在感も分割しているのだと思われます。その上から他者の認識を狂わせる衣服…特殊な魔術装備を纏っていました。気付けないのも無理はありません」

 

 存在感のカラクリは同じ精霊だから気付けた。衣服は似た効果を持つ黒衣を知っているから推測できる。

 

「なんと…!然らば、過度な警戒は不要でござったな。精霊様ともなれば悪意にて拙者たちを害そうなどとは考えますまい」

 

 でたよ、これ。精霊への謎の信頼。

 精霊を信仰する精霊教徒ではなくとも、この「カオス」において精霊は特別な存在だ。

 何もない所から唐突に発生する神秘的な誕生。出力に個体差はあるものの、それぞれが魔術で再現不可能な特異な力を操る点。個体によっては遥かな昔から語り継がれる程に長く生きていること。極めつけに、その長大な寿命の全てを「使命」に費やすという物語性。

 …などといった性質を持つ精霊が神聖視されるのは当然で。「精霊」への信仰は「カオス」全土に存在している。数多の世界の集合体である「カオス」において、たった2つの世界宗教の1つが「精霊教」であることからも明らかだろう。

 そんなわけで、「カオス」の人々は精霊を無条件で信頼したりする。

 曲がりなりにも精霊であり、この世界の成り立ちも知っているオレから言わせれば実に馬鹿げた話なのだが。

 精霊はそんなに綺麗で高潔な存在じゃない。

 

「ナナシ君。精霊に関する存在を容易く信用してはいけません」

「それは、どういう…?精霊は世界に定められし使命へと、己が全てを捧げ続ける存在のはず。拙者は精霊教徒ではござらんが、その在り方に尊敬の念を抱いてござるよ」

 

 それだ。

 そこがそもそも間違っている。

 

「「精霊」は使命に殉じているのではありません。逆です。使命がヒトの形に囚われている。もっと分かりやすく言うのであれば、使命が歩いている存在が「精霊」なんです」

「使命が歩いている…にござるか」

 

 使命に全てを捧げ続ける…それだけ聞けば、崇高にして健気、献身的で悲劇的な存在に思えるかもしれない。同情を集め、関心を引き、やがては信仰へと至る。

 だけど、そもそも同情なんかする必要が無いのだ。精霊は自らの在り方を憐れだとは微塵も考えていない。その逆に、誇りみたいなものも欠片も持っていないのだ。

 「使命」が行動しやすいように、最適な形として人型を選んでいるに過ぎない。故に、「使命を遂行する」以外の作戦コマンドを持ってないのだ。極論、自分の命にすら執着がない。

 例えば、剣聖ちゃん…剣聖エスペラ・エスパーダは「剣の概念精霊」を斬り捨てたわけだが、斬られた「剣の概念精霊」は下手人であるエスペラを褒め称えて大笑いするだけだった。色々あって今もエスペラちゃんの持つ剣として生きているが、そのまま死んで消滅しても僅かな恨みを抱くこともなかっただろう。

 そんな精霊を憐れむのは不毛だ。種の性質として共食いを行う生き物を、人間が勝手に憐れむのと似ている。

 

「ヒトとは根本からして異なる存在なんですよ。形だけ同じの全く別の生き物…相互理解など求めるだけ無駄です。…何事にも例外はありますが。数百年経っても色褪せぬ愛を実らせた精霊もいますから」

 

 …精霊はそういう存在のはずなのだが、特例がいたのよね。

 

「む、もしや『魔術師と死精霊』の話でござるか?」

「おや、ご存じでしたか」

「実に有名な話でござるからな。「死」の概念精霊「ネクロア」と、そして人間の魔術師「テルア」の愛の物語は。婚約の証として薬指に指輪を贈る風習は、今や世界の常識にござる」

 

 本人はそれ凄く恥ずかしがってたけどね。

 「死」の概念を司るネクロアさんは、その場にいるだけで周囲の命を吸い取っていくという力を持っていた。

 一度は使命を捨てて死ぬことを決意した彼女は、ある男性と運命の出逢いを果たす。結果的には愛した人の命をも奪ってしまったわけだけど、その人はネクロアさんを恨まず、死ぬ間際に贈り物をした。

 それは魔術師の男が己の全てを注ぎ込んで間に合わせた指輪型の魔道具。その指輪の力でネクロアさんの常時発動型の力は抑制されたのだ。

 ネクロアさんは彼の死後、その墓を自作。愛した人の指輪と名前を拝借し、「ネクロア・テルア」と名乗りながら、墓を背負って旅を続けている。本来は無差別に死をばらまく使命だったけれど、今は戦場にて死の間際の命に安らかな死を与える、という使命に変わっている。そんな感じで初期実装SSRの『静穏の墓守ネクロア・テルア』は誕生した。

 彼女の物語は『魔術師と死精霊』という題名で吟遊詩人が「カオス」全土に広めた。地域によっては子ども向けの絵本になっていたりもするらしい。

 魔術師とネクロアさんの元へ時々顔を見せていた友人が、魔術師の死後に知人に話して、それが別の人に伝わって…を繰り返した結果なのだとか。

 死別から50年くらい経ってネクロアさんが気付いた時には時すでに遅し。「カオス」中に自分の物語が広まっていたのである。

 おっと、思考が逸れたな。

 まぁ、とにもかくにも。彼女は例外だ。

 使命を放棄して死のうとしたネクロアさんは精霊として異常極まりなかったし、そんなネクロアさんに生きる力を与えて使命の形を変えた魔術師はもっと特異な存在だった。

 他の精霊はそんなに人情に溢れちゃいない。

 

「ともかくです。「精霊」そのもの、或いは「精霊」と縁が深い存在など信用しない方が良いですよ。善悪云々の前に、根本的な価値観…世界の捉え方が違うのですから」

「成程。ご教授有難く。…ところで、ティエラ殿は随分と精霊に詳しいのでござるな?」

「えぇ。以前に色々とありましてね。精霊にはそれなりに縁があるんです」

「なんと。精霊に縁とは…精霊教の信者が聞けば泣いて喜びそうな話にござるな」

「あ、これ絶対に秘密ですよ。敬虔な精霊教徒に絡まれたりしたくないので」

 

 とりあえず、秘密の共有で差し出す情報はこれくらいでいいだろう。過去に何かあって精霊と縁が深い…ついでに好感情を持っているわけでも無い、くらいかな。

 縁もなにも、オレ自身が精霊なのだが。

 けれど、今の段階では正体は明かさない。考察班の題材になって注目を集めたいから、というのは勿論だが、もう1つ理由がある。

 正体が「精霊」だと発覚すると、「悪辣王」と「騎士王」の配下が近づいてくるんだよね。

 まるで街灯に集まる虫みたいに寄ってくるよ、あいつら。正直、凄くめんどくさい。

 

『疑問。双子の精霊と共にいるキズナ達は危険ではないのか』

「そうですね…テトマが危惧するような「危険」はないはずです。あの双子が司る概念は「服」「裁縫」「染色」あたりでしょうから。キズナ君たちが怪我をしたりすることは考えにくい」

「その言い回しですと、別の「危険」が?」

「まぁ、これを危険と言っていいのかどうかは分かりませんが…」

 

 …懐から眼鏡を取りだす。ついでに細長い棒と何かの書物を出して装備。

 テッテレー!女教師ティエラの完成!

 ユーザーさん!新しい立ち絵よ!

 

「何故、急に眼鏡を…?」

「気分の問題です、気にしないでください」

 

 まさか1つのイベントに浴衣と女教師の2段構えとは思うまい!

 眼鏡は道中の街で買った伊達眼鏡だし、黒板もないので棒にも意味は無い。あ、本は料理のレシピ本だった。

 伊達眼鏡+意味のない棒+関係ない本…本当に形だけである。

 

「コホン。テトマ、ナナシ君。「服」というものについて、どう考えますか?」

『回答。ヒトが身体に纏うもの。身体を保護するため、自らを飾り立てるため、集団の構成員であることを示すため等の目的で使用される』

「流石ですね、テトマ。模範回答です。…では、もっと範囲を狭めましょう。「夏に着る水着」は何のためにあるでしょうか?」

『回答。泳ぐため、そして自らを飾り立てるため』

「その通りですね。それらをまとめて一言で表すとしたらどうなりますか?」

「…楽しむため、にござるか?」

「ナナシ君、大正解です。楽しいから泳ぐのです。お洒落をするのです。故に、「夏の水着」とは徹頭徹尾「楽しむ」ために存在しています」

 

 生徒役の2人が優秀過ぎる。話がサクサク進む。

 

「そして、精霊は概念そのものです。当然、「服」の概念精霊が作った「服」は、一般的な「服」とは異なります。概念を突き詰めた「服」になるのですね」

 

 要するに、楽しむために存在する服を、「服」の概念精霊がつくるわけだ。

 

「「夏の水着(たのしむ)」という概念を極めた水着…そんなものを着たら、一体どうなってしまうでしょうね?」

 

 

 ◇◇◇

 

 

「青い空!白い雲!照り付ける太陽!」

「夏だ!海だ!海水浴だぁぁ!!」

 

 それ湖だよ。海じゃないよ。

 …驚くなかれ。今の発言は水着を着たパドロン君とキズナ君の発言だ。

 前者がパドロン君で後者がキズナ君である。

 貴族的思想に凝り固まっていた少年も、記憶を失くして使命一筋になっていた異常者もどっか行った。ここにいるのは、ただ夏を楽しむ馬鹿2人である。

 

「にゃ。夏は勝負の季節。夏猫は獲物を絶対に逃がさ(にゃ)いにゃ。メロメロにしてやるにゃ」

 

 それでこちらは発情しきったメス猫である。

 猫が発情するのって春だったはずだけどなー。おかしいなー。

 キズナ君が捕食とは違う意味で食われないか心配である。にゃんにゃんして出来ちゃった婚…とかは流石にシナリオ崩壊するから止めてよ?

 

「夏っス――!全力で楽しむっスよ!…とりあえず、「ぎゃくなん」?ってのをすればOKっスよね!」

 

 そしてパハル。お前は何があった。何なの?その深い切れ込み。

 てか、大きすぎない?弓兵って胸デカいと駄目なんじゃなかったっけ?

 …あと、聞きかじっただけの知識を自信満々に披露するのは止めなさい。

 まぁ、逆ナンするのは構わないけれど、周辺の村の爺さん婆さんが散歩してるくらいだよ?

 

「夏は開放的な季節…気持ちも衣服も開放的になってしまう。そんな概念ですかね、込められているのは?」

「ほとんどねー、せいかいー!」

「すごいね、すごいー!」

 

 何やら満足げに腕組をして、ウンウン頷いていた双子に話を振れば、元気な答えが返ってきた。

 

「あと1つねー、1番大切なことー!」

「夏は楽しい季節―、だからねー!」

「楽しむ心をー!」

「込めたのー!」

「あははー」

「えへへー」

 

 予測できていたこととはいえ、やはり諸悪の根源はこいつらだった。

 

「分かりましたか?ナナシくん、テトマ。悪意じゃないのです。でも、善意でもないのです。これが「精霊」の在り方なんですよ」

 

 善意とか悪意とかそういう次元ではない。自分の使命に忠実に服を作った結果がコレだ。

 

「成程にござる。とはいえ、害は無さそうにござるし、息抜きには丁度よいでござろうな」

「オレはナナシくんが心配ですよ。酔っ払いの中に素面が1人…みたいな状況になりますしね。テンション合わせられます?」

 

 地球では酒飲んだこと無いけど、こっちでは時々飲む機会があった。だが、精霊の身体は酒への耐性も強いらしく、なかなか酔わないのだ。

 その状態で酔っ払って枷が外れた人の相手をするのは大変だった。

 

「ははは、成程。が、心配ご無用。拙者は忍者で候。周囲に合わせて自らの心身を制御することくらいは朝飯前にござる」

 

 それは凄い。流石は忍者。

 

「それなら良かったです。では、オレはお昼ご飯の準備をしておきます。皆さん、泳ぎ疲れて空腹になるでしょうから」

「そういうことであれば、拙者も手伝うでござる」

「いえ、今日のお昼はバーベキューみたいにして皆さんに作ってもらおうと思っていますので、準備に時間はかかりませんよ。気にせず羽を伸ばしてください。…というか、キズナ君たちを見張っていてほしいです。あの様子では何をしでかすか分かりませんから」

「承知。…いつも美味しい食事を作ってくださり、感謝致す。ティエラ殿」

 

 そう言ってナナシ君は湖の方へ向かって行った。

 まぁ、彼ならば丁度いいストッパーになってくれることだろう。

 さて、と。浴衣の出番は夜と相場が決まっている。

 勝負は夜。それまでは裏方に徹しようじゃないか。

 

 あれ?そういえば、ルネどこ行った?

 一番の問題児が見当たらない。これはマズイのでは?

 そういえばリエスもいないな。

 

 不安を覚え、周囲を見回すが見つからない。

 

 轟音と共に、()()()()()()()()()()のは、それから直ぐのことだった。

 

 




数話分の下書きが消えてしまって作り直してました…(泣)
気付いたら1週間以上経ってた…時間が経つのは早い…。
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