ソシャゲで人気投票1位にならないと帰れない!   作:夢泉

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9話 夏イベ<波乱>/水着ルネ爆走

「何があったんですか!?」

「ティエラ殿。下手人は捕らえておいたでござる」

 

 爆音と共に湖に巨大な穴が穿たれる、という異常事態が発生したので、現場に向かうとナナシ君に首根っこ掴まれたルネとリエスがいた。

 周辺の村の人とか超驚いてると思うので、お姉さんポジとしては叱らねばなるまい。

 

「何があったのか聞いても良いですか、ルネ、リエス」

 

 しかし、だ。一応、理由を聞いておく必要がある。何があったらあんな大惨事になるのやら、皆目見当がつかない。

 オレの問いかけに、ルネは何やら誇らしげな顔を浮かべ、片手をVサインにして、いけしゃあしゃあと答えた。

 

「ふふん。飛び込み、達成。ぶい」

 

 何を言っているんだ、この馬鹿娘は。

 

「申し訳ございません…。(わたくし)が彼女を空に打ち上げてしまって…」

 

 リエスがルネを庇うように答えるが、聞けば聞くほど疑問符が増えるだけだ。

 とりあえず、ゆっくりと順を追って話してもらえば、少しずつ全容が明らかとなっていった。

 

 まず、記憶の無いルネは夏の遊び方がよく分からなかったらしく、とりあえずキズナ君たちを観察することにしたという。

 すると、キズナ君が少し高くなっている場所から湖に飛び込んでいるのを見かけた。

 面白そうだと考えたルネは、リエスに頼んで魔術で上空に吹っ飛ばしてもらう。飛行魔術ではない。攻撃魔術を武器の大鎌で受け止め、衝撃で吹っ飛ばされるという力技だ。

 …もうこの時点でオカシイよね。

 なんで普通に真似ないの?普通の飛び込みを見て、なぜ遥か上空から飛び込もうという発想になる?

 考えつくルネもだが、それに協力したリエスも相当頭おかしいぞ。常識人枠のリエスでさえ抗えない謎パワー。精霊の水着は怖い。というか精霊が恐ろしい。あ、オレも精霊だったわ。

 

「飛び込んだ経緯は分かりました。納得は微塵も出来ませんが、理解はしましたとも。…それで?何故、飛び込んだ後にあんな事に?」

 

 いくら凄い勢いでも、小柄なルネが1人吶喊したところで、あんな風に湖の水がごっそり消えたりはしない。

 

「私は、多分、泳げない。なら、水を吹き飛ばせば、いい」

 

 ??????

 なに言ってんのコイツ?

 先程と同じ要領で1つ1つ質問していけば、大体のことは理解できた。

 そもそも、ルネは泳いだことなど無い。

 それを、ルネは着水の瞬間になって思い出したらしい。

 このままだと溺れてしまうのでは…と考えたルネは、咄嗟に奥義を発動。

 着水地点付近の水を吹き飛ばす…というかワールドイーターの力で消滅させたわけだ。

 しかも、それで力を使い果たして動けなくなり、空洞を埋めるべく流れこんできた水に巻き込まれて溺れた、と。それでナナシ君に助けてもらったらしい。

 アホすぎるな?

 

「今回は直接の被害は誰にも…湖に棲んでいた魚とかは別として、無かったですし。厳重注意だけにしておきましょう」

「申し訳ありませんでした、ティエラさん…」

「ごめんなさい、まま」

「ママじゃないですよ、ルネ。ふざけるようなら説教の時間を増やしますが?」

 

 と、こんな感じで。この一件は終わりを迎えた。

 しかし、今回のそもそもの原因となった件は片付いていない。

 ルネが泳げない事についてだ。

 

「流石に3日で泳げるように、ってのは現実的じゃねぇよな」

 

 パドロン君の言う通りである。

 短期のスキー教室じゃないんだから、流石に無理だろう。

 そもそも、少しだけ泳げるようになったくらいでは不十分だ。魚型の魔獣もいる世界では、水中戦闘が出来なければ泳いで遊ぶのは難しい。

 

「私、遊べない…?」

 

 しょぼんとするルネ…いちいち動作が可愛いんだよな、コイツ。そういうのホントに止めて欲しい。人気が奪われる。

 

「何とかならないかな?」

 

 キズナ君がそんなルネを見かねて聞いてくる。

 そこで真っ先にオレに目線を向けたのは素晴らしいぞ、キズナ君。

 彼がオレに意識を向ければ向けるほど、必然的にゲームにおけるオレの出番も増える。

 気分が良いので、快く協力してやろうではないか。

 

「ルネ、なにも夏の楽しみ方は泳ぎだけでは無いんですよ」

「どういう、こと?」

「とりあえず、お昼ご飯を楽しみにしていてください。あと、夜にもとっておきがありますので」

 

 オレの人気のため、「カオス」を駆けずり回って入手した秘密兵器の1つを披露する時が来たらしい。

 夏の夜と言えば、のアレだ。

 

「然らば、昼餉までは拙者にお任せを。故郷に伝わる伝統的な遊戯がござる」

 

 そう言うナナシ君の手元には丸い包み。ボールでも入っているような感じだ。ビーチバレーでもするつもりか?

 

「伝統的な遊戯って?」

「ふふふ…何を隠そう、西瓜割りにござるよ!」

 

 キズナ君の問いかけに、ババーン!と効果音でもつきそうな動作で包みを剥がし、丸くて大きな果実…らしきものを取り出すナナシ君。

 精霊の水着ではっちゃけてる周囲に合わせるべく、ハイテンションモードになっているようだ。お疲れ様です。

 

「故郷の西瓜そのものではありませぬが、似たような果実を先程見つけたでござる。これを用いれば十分楽しめるかと」

 

 スイカ割りとは良いチョイスじゃないか。

 実は、オレはスイカ割りには一家言ある。

 病弱な妹を海に連れて行くのは現実的では無かった。そのため、遠出しなくてもできる「夏っぽい事」を色々やるようにしていた。

 スイカ割りもその1つだ。

 友人の緑神(みどりかみ)恋士(れんじ)の家は昔懐かしの日本家屋で、そこそこ広い庭と縁側がある。緑神の祖父の厚意で庭を貸してもらって、数名でスイカ割りをするのは恒例行事だった。方言の癖が凄くて8割方なにを言っているのか分からないけれど、とても優しくて良いお爺ちゃんだ。

 そんな風に毎年スイカ割りをする中で、オレはスイカ割りの奥深さを知った。

 奥が深いと言っても、それは棒を持って叩く側ではなく、用意する側の話なのだが。

 叩いた結果、スイカがグチャグチャになってしまった…という経験はないだろうか?非常に食べ辛くなってしまうし、見た目も美味しそうではなくなってしまう。

 それを避けるにはどうすれば良いのか?

 実に簡単な話で、スイカに隠し包丁…即ち、切れ込みを入れておくのだ。

 そして、スイカのヘタを上ではなく下にすることも忘れてはならない。原理はよく知らないけれど、こうするとスイカが綺麗に割れやすくなる。

 この2点にこだわることで、スイカが爆発四散することなく綺麗に割れる。これで、割った後も美味しく頂くことができるのだ。懐かしい思い出である。

 

 そんな事を思い出しつつ、ナナシ君からスイカもどきを預かって、切れ込みを入れた。

 スイカ割りならそんなに大きなトラブルは起きないだろう。精々がスイカ大爆発くらいだろうしね。

 

 さて、と。お子様が楽しめる昼食、か。腕がなるじゃないか。

 1日目は時間もないしバーベキューで良いだろう。十分楽しめるし美味しい。

 だが、ずっとバーベキューというのは捻りが無いし、飽きる。

 夏の食事と言えば何だろう。

 夏…夏と言えば祭り…祭りと言えばかき氷、焼きそば…焼きそば?

 そば…つまりは麺。麺と言えば…?

 ふむ?これは中々良いかもしれないぞ…?

 

 

◇◆◇◆

 

 

 一方、その頃。

 豪快過ぎる飛び込みにて生じた轟音。

 水の中にいたモノならば一層強く知覚するのは必然。

 故に。

 

 湖の奥底にて。

 巨大な怪物が目覚めようとしていた。

 

 




感想見てます。とても嬉しくて、モチベが上がりまくってます。
色々と立て込んでいるので返信は出来ていませんが、近日中に返信します。

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