ソシャゲで人気投票1位にならないと帰れない!   作:夢泉

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12話 夏イベ<妖艶>/浴衣ティエラ幕明

 バーベキューの後、僕たちは色々なことをして遊んだ。

 そういえば、パハルさんがエルフに伝わる、日焼け止めの塗り薬を出してきた時は大変だった。「これを男に塗ってもらうのが流行りと聞いたっス。てなわけで、キズナ、お願いするっス」と言われたけど、恥ずかしくて出来るわけないじゃん。

 でも、それがエルフの常識なら合わせるべきかな…と悩んでいる所で、何故かピスカが乱入。自分に塗ってくれと主張し始めたのだ。僕が覚えてないだけで、結構な流行なのかもしれない。

 結局、面白そうだと思ったルネが塗り薬を強奪して、2人に塗りたくっていた。…全身を擽りながら。

 …その光景を見ていると色々マズそうだったので、ナナシとパドロンと一緒にその場を離れ、3人で泳ぎの競争をした。惨敗したけど。

 ナナシが1位で、パドロンが2位。僕は3位。忍者は凄かった。

 リエスさん?湖畔で特徴的な椅子…ビーチチェアと呼ばれる…の上で寛いでたよ。真っ黒な眼鏡をかけて、果物が入ったジュースを飲んでた。本人が満足なら構わないのだけど、アレは楽しいのかな?

 

 楽しい時間は直ぐに過ぎるもので、気付けば辺りは暗くなっていて。

 ちなみに、夕飯は「夏野菜のキーマカレー」だった。ティエラさん曰く、「キャンプ…では無いかもしれないですけど、やっぱりカレーは外せません」とのこと。いつもと違う感じだったけれど、凄く美味しかった。

 いつものことだけど食べたパドロンが変な反応をしてたなぁ。

 

 それで夕食後。そのティエラさんに呼び出されているので、指定された場所に向かっている。

 必ず1人で来るようにって言っていたけれど…。よほど重要な話なのかな?

 あ、でも。耳元で囁くのは自重してほしい。距離近いし、なんか良い匂いするし、息づかい感じるし、ドキドキして心臓に悪い。

 ティエラさんって他人との距離感がかなり変だから、気をつけて欲しいんだよね。あんまり色んな人に、あの距離感で接して欲しくない。

 あ、いや!僕だけにして欲しいとか、そういう独占欲的なことではないはず!多分!きっと!単純に仲間として心配なだけだから!

 

 …僕は誰に言い訳をしているのだろうか?

 

 そんなことを取りとめもなく考えながら歩いていると、目的の場所に着いた。

 すると。

 

「キズナ…君ですか。良い夜ですね」

 

 言葉を失った。

 僕に気付いて静かに振り返った女性。

 その美しい立ち姿を表現する言葉が見つからなかった。

 

「これは「浴衣」というんです。涼しくて夏にはピッタリなんですよ」

 

 そう。彼女の装いは昼間と変わっていた。

 黒い服だ。いつも彼女が纏っている黒衣と同じ色。けれど、普段とは明らかに違う。

 これは「魅せる」ための服だ。

 月光の下、襟と袖口から覗く白い肌の美しさを黒い衣が引き立てる。

 アクセントはたった1つ。彼女の細い腰に巻かれた、深く静かな瑠璃色の帯。他の華美な装飾は一切ない。

 でも、だからこそ。若草色の長髪と蒼い瞳は一層の存在感を放つ。彼女本来の美が際立つ。

 結われた髪は隠された首筋を曝け出し、艶めかしく月夜に映える。

 

「むー。女の子が普段と違う服装をしていたら感想を言うものですよ?…それとも似合ってなかったですか?」

「い、いや…その…!に、似合ってないなんてことは無くて…、けど、えっと、その…」

 

 違う。違うんだ。

 何て言っていいのか分からないのだ。何を言っても上手く伝えられる気がしない。

 どんな表現も劣化にしかならない。慣れ親しんだ陳腐な言葉は、その全てが無力だった。

 

「ふふ。その真っ赤な顔に免じて勘弁してあげます」

「え、えっと、その…そうだ!何か用事があったんじゃないの?」

 

 これ以上、彼女と2人きりで向かい合っているとオカシクなってしまいそうだった。

 なので、強引に話題を変える。

 彼女には違和感を与えたかもだけど、今は僕の心臓を最優先で考えたい。バクバクし過ぎて心配なのだ。

 

「用事なんて無いですよ。…知っていますか?こういう服は着て直ぐが、一番綺麗なんですよ」

「それは、どういう…?」

 

 一番綺麗なことと、現在の状況にどんな関係性があるのだろうか?

 …駄目だ。分からない。

 

「鈍いですね…。まぁ、構わないです。これは未練のようなものですから」

「未練?」

 

 クルリと僕の方へ背を向けて、ティエラさんは呟いた。

 その声音には言い知れぬ寂しさ…のようなものが滲んでいて。

 彼女は僕に背を向けただけだ。距離はちっとも変わっていない。

 なのに、彼女がずっとずっと遠くに行ってしまったように感じる。錯覚する。

 彼女はいつもそうだ。

 近いように見えて、届かない。

 まるで、夜空に輝く星のような。

 

「夏は楽しい季節でもありますが、言い知れぬ哀しみを抱く季節でもあるとオレは思います」

 

 それは記憶のない僕にも分かる。

 今日だって、夕日が沈んでいくのを見て、なんだか寂しいような、物悲しいような気持ちになった。

 楽しい時間こそ早く終わる。全てのモノに終わりは来るのだと。そう言い聞かせられてるようにも感じてしまう。

 

「そんな季節ですからね。ある風習になぞらえて、私の…。オレの身に宿る死した想い。それに供養をしようかと思いまして」

「死した想い?供養?」

「全てが造り物で、偽物。叶う意味のない想い。そんな感情は死んでいると表現するべきでしょう?それだけのことですよ」

 

 まただ。

 彼女は時折、こうやって僕たちを突き放す。

 答えているようで、答えていない。初めから、僕たちに理解をさせるつもりが無い。

 これ以上踏み込むな、と。暗に告げている。

 でも、それは。

 嫌だ。認めたくない。

 

「それは違う」

「キズナ君…?」

 

 彼女の手を無理やり掴めば、彼女は驚いたように振り向いた。

 

「ティエラさんの過去に何があったのか、僕は知らない。…覚えていない、が正確なのかもしれないけれど。でも、1つ言えることがある」

 

 会ったばかりの頃は彼女の意思だからと見過ごしたけど、もう違う。

 彼女をそのままにしたら、僕は後悔する。

 だから。

 

「今ここにいるティエラさんは本物だ。偽物なんかじゃない」

 

 偽物と表現するからには、「本物」があるのかもしれない。

 けれど。

 

「僕と会話しているティエラさんは、美味しい料理を作ってくれるティエラさんは、皆を支えてくれるティエラさんは、目の前にいる1人だ。僕にとって、僕たちにとっての本物はここにいる。他のヒトなんて知らない」

 

 これだけは絶対に揺らがない真実だ。

 的外れかもしれない。見当違いかもしれない。

 ここより深くは、彼女が自分の事情を話してくれるのを待つしかないけれど。

 それでも、これだけは伝えておかなければならなかった。伝えておきたいと、そう思った。

 

「…そう、ですか。他ならぬ貴方がそう言うのですね。…ありがとうございます、キズナ君」

 

 彼女は驚いたように目を丸くした後、蕾がほころぶように微笑んだ。

 




やっと書けた…
久しぶりに「過去の女属性」を全力で書いた気がする。

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