ソシャゲで人気投票1位にならないと帰れない!   作:夢泉

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13話 夏イベ<艶舞>/浴衣ティエラ据腰

 いやはや、「夏野菜のキーマカレー」堪能させてもらった。

 夏野菜の瑞々しさがピリリと辛いカレーと絶妙なハーモニーを奏でる一品。

 野菜本来の自然な甘さは香辛料の辛さと対極にあるように思えて、全く違うのだと痛感した。天使の歌声と悪魔の歌声の共演…とでも表現するべきか。

 夏の暑さで食欲が湧かない時にも、あの一皿ならば関係なかろう。

 スパイシーな香りに食欲が刺激され、夏野菜のフレッシュさが身体を癒す。

 夏の料理と呼ぶに相応しい。

 

 そのティエラさんは食事の後でどこかへ姿を消していたのだが、暫くしてキズナと共に戻ってくる。

 そして、その恰好は――。

 目を奪われるとは正しく、このような状態を言うのだろう。

 月の光で華が咲いたのだ、と。或いは、そう言われた方が余程納得できる。

 ヒトの身で届く美しさとは到底思えない領域に、それは存在した。

 

「ティエラ殿。その服装は…」

「似合っていなかったですかね?」

 

 似合っていないなどと。そんな事を言う者がいるわけあるまい。

 いたとしたら、それは目が節穴だと断言するしかないだろう。

 

「否。断じて否。拙者の故郷の服に似てござる故、驚いただけのこと。良くお似合いにござる」

 

 成程。見慣れぬ服装だと思ったが、ナナシの故郷のモノか。

 ティエラさんは長い事、各地を放浪していたと聞く。その際に入手した服装なのだろう。

 世界は広い。これ程までに女性を彩る服があろうとは。

 いや、ティエラさんだからこそ、か?

 

「黒く艶やかな髪が最も似合うと安易に考えていた己を恥じ入るばかり。なんとも堂に入った着こなし。感服致したでござる」

「ふふ、ナナシ君はお上手ですね。ありがとうございます」

 

 着こなし。そう、着こなしだ。

 彼女が身に纏う服について、詳しくは知らない。だが、服というモノには、それなりの「着方」が存在する。

 それが伝統的なモノ…文化・文明を象徴するモノであれば尚更だ。歴史に裏打ちされた着こなし・振舞い方が深い海の如く背後にある。それは歴史、文化の重みに他ならない。

 物真似は出来る。形だけなら真似られる。腕の立つ傭兵が騎士の恰好をしても、それなりに様にはなるはずだ。

 だが、そこまででしかない。傭兵に騎士の振る舞いは出来ないのだから。本質を理解して自らの一部とするのは容易ではない。

 だが、ティエラさんはどうだ?

 それに慣れ親しんで生きてきたのだ、と。そう言われても納得できる程に着こなしている。

 例えるならば、夜と月、大空と鳥、せせらぎと新緑。そうやって共にあることが当たり前であるかのようですらある。

 その衣服を自らの一部とするまでには一体どれほどの…

 

「ヤバイっス!めっちゃ綺麗っス!激マブっス!」

「ありがとう、パハル」

「あー!その微笑みプライスレスっス!お持ち帰りして良いっスか!?」

「それはちょっと止めてください…」

 

 いや。愚問か。

 料理にあれだけのこだわりを見せる女性が、ここぞという時の服に手を抜くはずがない。

 形だけでなく、その本質。歴史や文化を十分に理解した上での振る舞いなのだろう。

 それは「自然」という言葉が相応しく――

 

「ティエラさん、流石ですね。大人の魅力とでも申しましょうか…。(わたくし)もそんな魅力を持てるように精進致しませんと」

「ありがとうございます。でも、オレは今のリエスも可愛らしくて好きですよ」

「その恰好で告げられますと、同性でも照れてしまいますね…」

 

 ――そうか。「自然」なのだ。

 ヒトの形をした極上の美を見た時、普通であれば絵画や彫像といった美術品を連想する。

 だが、彼女には相応しくない。

 彼女の有するそれは、もっと根源的なモノ。母なる海、父なる大地、友たる草木、遥かな空。そういう在り方こそが彼女の美なのだ。

 

「にゃ、こんなのズルイにゃ…。綺麗すぎにゃ。一人だけ搦め手は無しにゃあ…」

「ふふ、ピスカ。見せないからこそ魅せることが出来る…そんなこともあるのですよ」

「にゃあぁ。今日は敗北を認めるにゃ、でも絶対に負け(にゃ)いにゃ」

「取ったりしないから安心してください」

「これはアタシの気分の問題にゃ!全てで相手の一番になってこそ真の勝利にゃ!」

 

 露出の高い水着は、成程、1つの美の形かもしれない。

 歴史に名高い芸術品に、裸婦や裸夫のモノが多いことがそれを証明している。

 遥かな昔から、ヒトは在りのままの姿に美を見出してきたことは事実だ。

 だが、同時に。

 同じだけの期間、ヒトは身に纏う衣服の美も追求し続けてきた。

 形状を、色合いを、合わせ方を、振る舞いを。

 故に。隠された美もまた、美の頂の1つである。

 

「正直ねー、見事なのー」

「完成度はー、低いけどー」

「貴方にねー」

「ぴったりー」

「ボクもねー、負けられないなー」

「ワタシもねー、燃えてきたなー」

「今はねー、材料が無くてー、無理だけどー」

「次に会う時はー、覚悟しろよー」

「お前にー、1番似合う服をー」

「つくってー、やるからなー」

「覚えてろよー」

「ろよー」

「タッタくん、サホちゃん。ふふ、分かりました。その時を楽しみにしていますね」

 

 確かに、双子のつくった水着は見事だった。素材、着心地、仕上がり…全てが芸術品と言っていい。

 それと比べれば、ティエラさんの着る衣服の完成度は低いだろう。

 だが、これは服の完成度の話ではない。

 そこにある服を如何に着こなすか、という話なのだ。

 

「ティエラさん」

「パドロン君」

 

 さて、俺も感想を言わせてもらおう。

 女性が普段と異なる装いをしていたら感想を述べる。貴族として当然だ。

 しかし、ここで溢れる言葉を際限なくぶつけるのはナンセンスだ。

 確かに、この美を称える言葉は溢れてくる。いくらでも言葉を紡げるだろう。

 だが、それは俺が満足するだけだ。降りしきる雨の如く矢継ぎ早に言葉を贈られても、女性が困惑するだけ。

 女性を褒めるのならば、相手の女性を第一に考える。独りよがりになってはいけない。

 一言二言で良い。簡潔で良い。難しい言葉や遠回しな言葉を言う必要もない。

 ありきたりな言葉でいいのだ。そもそも、どんな言葉でも女性の美しさを完全に表すことなど不可能なのだから。

 故にこそ、全ての称賛を凝縮して伝える。

 大事なのは、伝え方。

 こちらが恥ずかしがるのは最悪。恥ずかしいのは女性の方だ。勇気を出して普段と異なる装いをしてくれているのだから。

 真っ直ぐに相手の目を見つめ、落ち着いた声音で、一番伝えたい事を簡潔に。

 

「凄く似合ってるぜ。正直、見惚れちまった」

「そんなに真っ直ぐ言われると、なんだか照れますね…。でも、とても嬉しいです。ありがとうございます」

 

 褒めるのは、女性によく見られたいからじゃない。

 他と違う褒め方で覚えてもらおうなどと考えるのは愚か。

 ただ褒めたいから褒めるのだ。

 

「まま、きれい。私も、着たい」

「オレはママじゃないと何度言えば…。ごめんなさい、これは一着しかないんです。大きさが合わないですけど、後で着てみますか?」

 

 あのやり取り、もう何度目だ?1日に最低3回はやってるからな…。

 正直、ティエラさんには悪いけど、母娘にしか見えない。

 ルネの幼い言動と雰囲気。そして、ティエラさんの落ち着いた雰囲気と包容力、面倒見の良さ。

 これらが見事に母と娘の繋がりを描き出している。

 

「ううん。違う。一緒に着たい。お揃い、したい」

「ルネ…。そうですね、いつか一緒に着ましょうね」

「うん、約束」

「そうだ、ルネ。約束と言えば。昼間の約束を果たしましょう」

「とっておき、だよね?」

 

 そう言えば、昼間にルネが泳げなくて落ち込んでいる時にそんなことを言っていたな。

 夜だけの「とっておき」があるとか何とか…。

 

「それでは。夏の夜ならではの遊び。花火をしましょう」

 


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