今頃、ユーザーたちはイベント限定UR「ダウジングマシン」をオレに装備して周回をしている頃ではないだろうか?
最初のイベントで登場したレアドロップUP効果を持つ超有能武器。夏イベ後に始めたユーザーから何度も再登場を願う声が上がり続けた伝説の武器である。…確か、最終的には3周年記念でショップ交換に追加されたんだったかな?
その武器が「双剣」であったことは明確に覚えていた。オレも周回でお世話になったし。実は、「双剣」を選んだ事情の1つにコレもあったりする。
「双剣」装備のキャラは決して多くない上、「ダウジングマシン」はSTRを大幅に下げてしまう。故に、アタッカー以外の…つまりはヒーラーで「双剣」キャラがいたら…というのは常に言われ続けたことなのだ。
…「WF」ではクエストスキップ機能が存在する。スキップ機能は「キズナ深度」が上がらないし、「称号」獲得にも繋がらないという欠点はあるが、WFユーザーにとってなくてはならない機能である。
しかし、それにはスキップチケットが必要で、有限だ。本編クエスト初回クリアやログインボーナスなどで入手して、コツコツと貯めるしかない。あとはイベントで交換して入手するか、低確率でドロップするのを待つくらいかな。
しかも、だ。「エネミー」や「ドロップ」は一度クエストで遭遇orドロップしていないと、スキップに反映されないというシステムだったりする。つまり、「レアエネミー」や「レアドロップ」を確認するまでは同一クエストを周回する必要があるのだ。そして、スキップ機能の時にも「ダウジングマシン」は効果を発揮する。
何が言いたいのかと言えば、だ。要するに「レアドロップUP」と「アイテムドロップUP」は超有能、ということである。
「双剣ヒーラー」は戦闘システム的に最適解であるだけでなく、ヒーラーでドロップUPにも貢献できる超有能キャラになれる、というわけだ。まさしく全力の媚びである。受け取れユーザー!
…っと思考が逸れた。今は花火だったな。
花火、と言っても本物の花火を持ち歩いていたわけじゃない。食料も持たなければならない中、たくさんの花火を抱えておくというのは現実的ではないし、持ってても長旅の中で湿気て使い物にならなくなっていただろう。
ならば、どういうことか?
ご都合主義を可能とするのはファンタジーパゥワー…即ち、魔術に他ならない。
いつだったかのイベント…3年目のイベントだったかな?…で砂漠の花火師が出てきたのだ。老人の師匠と、可愛い女の子の弟子。この「花火師」というのは、「花火をつくる師」の意味ではなく、「花火の魔術師」なのだ。その術理を師匠から弟子へと受け継いできたのが、この「カオス」における「花火」である。
放浪の旅の時期に、わざわざクソ暑くて超乾燥している過酷環境の砂漠に行っていた、大きな要因の1つがコレだ。門外不出のその技を、欠片だけでも学ばせて貰うためだった。
頑固ジジイ…もとい、誇りある職人の首を縦に振らせるまでに随分と苦労したものだ。
ただ、その苦労の甲斐あって、僅かに習得することに成功したのである。…もっとも、本家の「花火魔術」とは比べるのも烏滸がましい遊びレベルでしかないが。
それでも、夏イベントにおける要素としては十分だ。これで本家登場までは花火担当に収まることが出来る。
「全員に行き渡りましたね?」
今、キズナ君たちの手には小さく細い棒が握られている。女教師ティエラの時の長い棒を分割するとこういう状態になるのだ。
普段は女スパイが太ももに付けてるような小物入れ…レッグホルスター?レッグリグ?…名称は詳しくないけれど、小さな入れ物が足に巻かれていて、その中に分割して収納してある。
物を取り出すときにチラ見えする生足…なんか良いだろ?普段は貞淑に隠されていれば余計に。良いと思ったら清き…いや清くなくて構わないから一票をよろしく、ユーザー!
「まずはオレが手本を見せますね。見ててください」
オレが修行の末に習得したのは、万人が遊べる花火魔術…即ち、コンビニとかスーパーで売ってるお徳用花火セットみたいなヤツである。
この方がイベントの遊びとしては良いだろうと考えての事だ。
修行もロクにしていない有象無象に伝統ある花火を扱わせる…そのことに否定的だった頑固ジジイ、もとい、職人を説得するのは以下略。
最終的には師匠と弟子とオレ…あとは当時面倒を見ていたピエラやベステアが加わって「みんなが遊べる花火魔術」の開発に躍起になったのだった。
「棒に魔力を集中させつつ、頭の中でイメージをして…」
この小さな棒の中には魔術の術式が緻密にびっしりと刻まれている。職人爺さんの神業あってこそ成立した伝統工芸みたいなものだ。
その効果は、簡単に言えば「魔術の抑制と指向性の誘導」…とでも表現するべきかな。
この棒の素材は魔力を通しにくい物質…魔力版絶縁体で出来ている。化学関連は詳しくないので表現が正しいかは分からんけども。凄く貴重な物質で、集めるのには苦労した。
攻撃魔術として放たれれば大惨事になる魔力でも、この棒が一度せき止める。そして、僅かな魔力だけを内に留めるのだ。
あとは使用者の想像…即ち魔術の出力イメージに応じて、術式が「魔力」を「花火魔術」に変換する。
白い光が噴水のように溢れ出る光景をイメージすれば…
「わぁ!凄い、綺麗!」
「にゃ!?火かにゃ!?でも熱くないにゃ!」
「コイツは凄えな…」
「わわわ!帝都でもこのような一品は見たことがありません!」
「…実に見事。火の花とは言い得て妙にござるなぁ」
「綺麗でキラキラ!めっちゃ感動っス!」
『非常に高度な技術によって製造された物と推測。重要な記録として保存』
「凄いなー!ボクもやるー!」
「綺麗だなー!ワタシもやるー!」
溢れ出る白光のシャワーに一同驚愕。
ちなみに、順にキズナ君、ピスカ、パドロン君、リエス、ナナシ君、パハル、テトマ、タッタ、サホである。
ルネはポカンと口を開けて見入っていた。目がキラキラしている。みんな実に良い反応をしてくれるじゃないか。わざわざ砂漠なんて場所まで行った甲斐があったというものだ。
「さぁ、どうぞやってみてください。イメージさえすれば、どんな形にも色にもなりますよ。応用は少しコツがいるので、最初は難しいと思いますが」
促せば、直ぐに皆全員の棒から同じように白い光が溢れ出す。
「わ!出たよ!」
「にゃにゃ!」
「凄いー!簡単だー!」
「綺麗ー!楽しいなー!」
「…っと。…コレは洒落になれねぇぜ。これだけ簡単なら使い道はいくらでも考えられる。祭、式典、大道芸…文化の革命が起きるレベルだ」
『肯定。仮に低コストで量産可能であれば、商品価値は非常に高いと推測』
「流石に量産は出来ませんねー。素材も凄く貴重ですし、造り手も限られています」
「だよなぁ…これが量産可能ならもっと有名になってるはずだぜ」
この花火魔術はイメージが重要。手本を見れば誰でも直ぐに発動できる。オレが最初に手本を見せた理由だ。ああいう風に光が出るモノだ、とイメージ出来さえすれば良いのだから。
最初のイメージさえ掴んでしまえば、あとは様々な応用が可能だ。出力は弱いから打ち上げ花火みたいなモノは無理だが、ススキやスパークから線香花火まで。色も自由自在である。もっとも、応用は少しコツが必要で、特に「線香花火」の難易度は超高い。
…でも、だからこそ上達するという楽しさ、競い合う遊び方も生まれるはずだ。誰の線香花火が一番長く持つか、という競争を楽しんだ人も多いはず。この花火魔術なら、その再現もできる。
全てはイメージ。故に、地球には無かった新しい形を創造する者だって、いつかは現れるだろう。
ま、初めてでは難しいだろうけどね。現代日本で実際に見て触れたオレだって線香花火は難しかったし。
だからこそ、慣れているオレの出番が増えるわけで…
「まま、見て見て」
「ママじゃないですよ。それで、どうしましたルネ…え?」
は?
え。なにコイツ。どういうこと?
棒からオーロラのように広がった光の帯が、彼女の身体をグルリと包み込み、クルクルと回って煌めいている。
花火を纏っている、だと!?どういう発想だ!?
え?凄すぎない?発想もだけど相当制御難しくないか、それ?線香花火より難しそうなんだが??
「す、凄いですね、ルネ。とても綺麗ですよ」
「ふふん。私、すごい」
光の渦の中でドヤ顔を披露するルネ。誇らしい気持ちを表現するように、光がオレンジ色になった。
しかも、刻一刻と光の色合いが微妙に変わっていくのが実に芸が細かい…。
なんだろう、この妙な敗北感?
いや、しかし…!線香花火は明確なイメージと緻密な制御が必要な高等花火魔術…!
ぽっと出の初心者…しかも異世界人に負けるオレでは無い!
◇◇◇
「私、優勝。ぶい」
後ほど行われた線香花火耐久勝負はルネの圧倒的優勝だった。
しかも、ナナシ君とパドロン君にまで負けた。
ナナシ君は何となく分かる。けど、パドロン君に負けたのは本当に意味が分からない。
そんなこんなで、夏イベ一日目は過ぎていった。