ソシャゲで人気投票1位にならないと帰れない!   作:夢泉

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※ティエラは「治療魔術」の応用で特殊な殺菌処理をしています。
※この処理には特殊な才能と、高い技術が必須です。
※ティエラだから安全に提供できる料理です。
※普通の人は、決して良く分からない「カオス」産の魚を生で食べようとしてはいけません。必ず火を通しましょう。



17話 夏イベ<優雅>/パドロンの優雅な1日<前編>

 朝、今日もティエラさんの料理で1日を始められる。これだけでも、この旅に同行して良かったと思えてしまうのは、流石に不謹慎が過ぎるか?

 世界を救う。領主に相応しい男になる。どちらも俺の揺らがない芯である。けれど、それらと並び立つ領域に踏み込むほど、彼女の料理は見事だ。味は勿論のこと、見た目も芸術のように美しい。

 彼女と旅路を共にする中で、彼女の料理の秘密にも幾つか気付くことが出来た。

 もっとも、それは非常に単純な話で。彼女は常に歩みを止めていないのだ。

 例えば、遊牧民たちとの友誼を結んだ時。彼女はずっと部族の主婦たちに乳製品の秘密を聞いて回っていた。

 彼女は料理に関して、絶対に妥協しない。この「カオス」に集うあらゆる世界の技術を吸収するつもりなのかと疑う程だ。何がそこまで彼女を駆り立てるのか…いや、これは愚問だな。それこそが「料理人」の(さが)なのだろう。

 

「今日は「刺身」ですよ。どうぞ召し上がってください」

 

 昨日、ただの肉があれほど美味しくなることを知った俺は、この「刺身」を侮ることなど無い。

 ただ切っただけに見えるコレにも、きっと何かしらの秘密があるはずだ。 

 しかし、香りを確かめる限りは、全てただの魚といった感じである。

 何か特殊な調味料が用いられている様子はない。

 

「あ、その横にある「醤油」と「わさび」をお好みで付けて食べてください。「わさび」は辛味が強くて好き嫌いが分かれるので、たくさん付けたりはしないように注意してくださいね。特にルネ」

「確かにルネちゃんはやりそうっスね~」

「勿論、言うまでもなくパハルもです」

「ウチもっスか!?」

「今にも大量のわさびを口に放り込もうとしているヒトが何を言っているんですか?」

「いや~、やるなと言われるとやりたくなるじゃないっスか~」

「馬鹿なんですかね?」

 

 「しょうゆ」に「わさび」。

 「しょうゆ」は既に他の料理でも用いられていたので知っている。何でも、穀物を主原料として食塩水を加え、長期間熟成、発酵させたものを絞ってつくるらしい。これが用いられていると、味に言い知れぬ深みやコクが生み出される。ティエラさんが用いる数多の調味料・食材の中でも特に好きな1つだ。

 「わさび」というのは寡聞にして知らない。何かの植物のようではあるが、果たして。

 

 まずは一口そのままで。料理人が付けてと言ったものを付けないのは良くないかもしれないが、なにせ初めての料理なのだ。まずは素の味を検分する必要があると判断した。

 

 …これは!

 なんだ…これは?

 俺は湖の水にでもなったのか?

 一瞬、ほんの一瞬だが、俺は確かに食べた魚と一体化した。

 舌の上に載った魚が溶けて消える。誇張でも何でもなく、噛む必要など無かった。

 魚の脂が有する自然な甘さ。それが口の中でじんわりと広がっていく。

 魚が極上?いや違う。

 これは、捌き方、か?

 名高い「剣聖」に斬られた者は、暫し斬られた事にすら気付かないと聞く。

 まるでその神業を彷彿とさせる技量だ。この魚の身はまだ生きている。

 俺の口の中で消えるまで、確かに生きていたのだ。

 何と言う技量だろうか…!

 分かる。分かるぞ。この技術を支えるのは途方もない時の積み重ね。

 永い永い時の中で洗練されていった、魚を捌く為だけの超絶技巧…!

 

 しかし、これだけでも十分に美味いが、何かが足りないという感覚を覚えるのも事実。

 それでは、「しょうゆ」を付けて二口目…。

 

 …!

 ………!?

 何だ、このベストマッチは!「しょうゆ」によって魚本来の味が一層際立っている!

 魚独特の臭みが無くなり、全体が引き締められたかのよう。

 かといって、束縛というわけではなく、「さしみ」の味の邪魔は一切していない。

 まるで、このために用意されたかのような…。

 いや、事実そうなのか!

 これは普段の「しょうゆ」と微妙に異なっている。「さしみ」に合わせるためだけに特別な手間が加えられているのだ。

 「さしみしょうゆ」とでも名付けるべき一品に、わざわざ仕上げられている。本当に、料理というのは奥深い…!

 

 次は、「わさび」だったか?

 「辛味」があるとのことだったが、果たして…?

 

 …ほう?口に入れるとスッキリとした独特の香りがして。

 …!

 …うぉ!これは…!なんだ!?

 辛…!辛い…?いや、何か違う?辛さなのか、コレは?

 舌よりも鼻に来る…!口の中から鼻へと抜けるように刺激が進んで行く!

 

「うにゃあ!?ツーンと来たにゃ!」

「うわわわわわっス!涙出てきたっス!」

「つーん…。これは、攻撃…?」

「うぎゃー!これはー!」

「うぎゃー!無理ー!」

「苦手な人は付けない方が良いですよー」

 

 …だが、美味い!

 なんだ、この表現しにくい感覚は!癖になる!

 出会い頭の強烈なボディブローに驚いたが、落ち着いてくると、この「わさび」が持つ特別な風味の検分も可能となる。

 彼は拳で語り合うタイプらしいな。拳によって固く繋がる男の絆か。俺はそういった関係性は嫌いではない。

 この山由来と考えられる植物性の「わさび」が、しかし見事に水の中に住む魚の味を引き立てている。

 まさしく大地と水の共同作業!大いなる自然の魅力そのもの!

 

「これは、なかなか癖になる魅力がありますね…」

「拙者は非常に好みの味でござる。この奥に抜ける感覚が見事」

「僕も結構好きかも。懐かしい感じがする」

 

 どうも、好き嫌いが分かれるようではあるな。リエス、ナナシ、キズナは好みなようだ。

 ピスカなどのお子様は苦手な味らしい。

 …ふっ。この魅力が分からんとは可哀そうに。

 まさしく、大人の味、といったところか。

 俺の視野は更に広がり、また一歩「大人」へと近づいた、ということかもしれないな。

 この調子で行けば、旅路を終えた時には、きっと父上の期待に答えられる偉大な男になっていることだろう。胡坐をかいて研鑽を怠るつもりは無いがな。

 再び一口。当然、「しょうゆ」と「わさび」を付けて。

 

 くっ…!ツンと来た…!

 

 

◆◆◆

 

 

 昼になった。

 午前中も様々なドタバタがあった。

 テトマに頼まれている素材を集めようとして、パハルとピスカが謎の触手生物に捕まった時は大騒ぎだったな。

 幸い、ヌメヌメする以外は無害という謎の特性だったので事なきを得たが。

 タッタとサホのつくった水着は特殊な防御機能を有しており、少し湖で泳ぐだけで謎の粘液も全て洗い流せたらしい。

 今更だけど、この水着の性能は凄まじいものがあるよな。あの双子、何者なんだ…?

 

 …っと。今は昼飯だ。

 今回は、ティエラさんに場所が指定されているので、一同で向かっている。

 特定の場所を用意しなければならない料理とは一体何なのだろうか…?

 だが、既に俺の見識はかなり広がった。ちょっとやそっとのことでは驚かない自信が…。

 

 ……………。

 ……………。

 ……………?

 …え?どういうこと?

 

 指定された場所に到達すると、そこには流石に想定外の光景が広がっていた。

 筒を縦に2等分したかのような細長い木…のようなものが、巨大な迷路を形成するように周辺一帯を埋め尽くしていたのだ。ちょっと理解が追いつかないのは仕方がないだろう。

 そして、その中心では。

 

「テトマ、誰がここまで大規模なものを作れと言いましたか?」

『謝罪する、ティエラ。しかし、当機にも反論がある』

「へえ?聞きましょうか?この惨状に納得のいく理由があるんですかね?」

 

 テトマがティエラさんに叱られていた。

 本当に何があったんだ…?

 




そろそろ夏イベ終えないとなぁ…

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