多分あと2話、第20話で夏イベ終了予定です。
木製の大迷宮の中央にて。ティエラさんとテトマが口論をしている。
『反論。ティエラの提案した「流しそうめん」には致命的な欠陥がある』
「へえ?どんな欠陥があるというのです?」
『回答。一本の傾斜で実行に移した場合、ルネが全ての“そうめん”を食べ尽くして終了すると予想される』
「…む」
『そのため、当機は複数の通路と十分な長さを確保するべきと判断。これならば、ルネであろうとも移動の時間が必要であり、他の参加者にも十分に機会が訪れると結論付けた。何か反論はあるか』
「…むむむむ」
『当機の勝利である。速やかに降伏せよ』
「……降参です」
…話は変わるが、ティエラさんとテトマの組み合わせって凄く仲良いんだよな。多分、このパーティに属する個人間の繋がりで一番良好な関係性なのではないだろうか。
ルネとキズナも強固な関係性だが、あれはあれで危うい感じも少しする。まぁ、何かあった時は仲間として俺たちが支えれば良いだろ。
すると、テトマとの議論を終えたティエラさんがコチラに向かって歩いて…こようとして木に引っ掛かり、最終的には魔術で飛行してきた。
そして。
「えーっと。まぁ、はい。これを「流しそうめん」と認めたくはありませんけど。一応、流しそうめんをやりましょう」
と。どこか投げやりな風に告げたのだった。
◆◆◆
そんなわけで、「流しそうめん」開催である。
全ての木製通路の片端はテトマに繋がっており、そのテトマは湖に繋がっている。そして、湖からテトマを介して幾筋もの木製通路に水が流し込まれた。
ティエラさんの説明によれば、この水に流されてくる「そうめん」をハシで掴んで食べるそうだ。ハシは遥か東のごく一部の地域で主流の食器である。
「カオス」においてはヒトの交流と共に文化は凄まじい勢いで広まるため、このハシも有名な食器の1つだ。
記憶の無いルネは苦戦していたものの、直ぐに使いこなすようになった。毎回、ルネは物覚えが非常に早いのだ。
「じゃあ流しますよー」
ティエラさんの声が聞こえて、「そうめん」が流され始めた。
なんか残像が見えるくらいのスピードで各ルートに「そうめん」を流している。ルートが多いから大変なのかもしれない。自分は後で食べると言っていたが、これは後で代わるべきかもしれないな。
さて、何はともあれ「流しそうめん」開始だ。
ふむ。
なるほど、これは幼い者が喜ぶだろう。
「祭り」に該当するモノは古今東西に存在している。ヒトの歴史と「祭り」は実に密接な関係にあったと言えるだろう。無数の世界から多種多様な文化・文明が流入してきた「カオス」では、それを強く実感する。
一口に「祭り」といっても様々なものがある。静かなモノもあれば、賑やかなモノもある。しかし、どんな「祭り」においても共通する要素が1点。そう、「食事」の存在だ。
一部文化圏では特定の期間に食事を絶つようだが、それが終わった後は盛大に食べる、というのは珍しくない。
この「流しそうめん」は「祭り」と「食事」を1つにした、正しく「食べる祭り」とも表現できるもの。
楽しみながら食事ができる、ということか。
お、早速俺の元に「そうめん」が。さて、実食…
「遅い。いただき」
…?
…………???
なんか黒い残像が目前を横切って、気付いたら「そうめん」が消えていた。
見間違い、か?
お、また次が来た。とりあえず、気を取り直して…。
「ふ、ちょろい、パドロン」
また消えた。黒い残像も変わらず。
「ルネぇぇぇぇぇ!?」
「おいしいよ♪」
「おいしいよ♪…じゃねえよ!」
「名前は、書いて、ない。これは、戦争」
…確かに、彼女の言う事にも一理あるかもしれない。
なるほど、これは食事の皮を被った戦争だったのか。仕掛けられた戦争から逃げては、次期領主の資格など無い。俺も本気を出すとしよう。
…そこから先のことは、よく覚えていない。
「そうめん」が美味だったことはよく覚えている。しっかりとしたコシがありながら、ツルリとした“のどごし”の清涼感を有するソレは、暑い夏でも、いや暑い夏だからこそ幾らでも食べれる一品。「めんつゆ」と絡んだ、サッパリとしつつも奥深い味わいも見事の一言。付け合わせの「天ぷら」は、外がサクッと中はフワッとしていて、実に「そうめん」と良く合った。
ただ、これしか覚えていない。もっとゆっくり味わい尽くしたかったのだが、そんな余裕は無かった気がする。
全てが終わった後にティエラさんとテトマが。
「二度と「カオス」で、こんな事はやりません」
『全面的に同意する。まさか、当機の計算がここまで崩されるとは思わなかった。生物の食欲、食への渇望を甘く見ていたようである』
などと言い合っていたのが印象的であった。
◆◆◆
午後。
午後は午後で色々なことがあった。
どういう経緯か唐突に始まったビーチボールなる競技は盛り上がったな。
最初は男性陣(俺、キズナ、ナナシ、タッタ)VS女性陣(ルネ、ピスカ、リエス、ティエラ、サホ)だった。珍しくティエラさんが参加しているが、これはルネにせがまれて断れなかったから、らしい。
進めていくと、途中で「ナナシ強すぎる問題」が浮上。ナナシVSナナシ以外のフルメンバーになる事態に。
それでも、急に分身したりするナナシの謎魔術に翻弄され、俺たちが負けた。悔しさを通り越して意味不明である。
その後。何度か連戦をしているうちに、流石に疲労してきたナナシが分断工作を決行。
俺とピスカが衝突するように行動を誘導され、喧嘩が勃発。最終的に俺とピスカの一騎打ちになっていた。何故だ。
当然、勝った。文化的スポーツで蛮族に負けるわけにはいかないからな。…かなりの辛勝だったのは目を瞑ろう。
そして、夕刻。
沈みゆく太陽を横目に、そろそろテトマの元へ帰ろうかとしていたところで。
先程コテンパンにしたピスカが、何やら物憂げな表情で湖を見つめているではないか。
憂いある美女みたいなことしやがって。全く似合っていないぞ。
「なんだ?俺に負けたのがそんなに悔しかったのか?黄昏やがって」
「にゃ!?違うニャ!適当な事いうニャ!」
「じゃあ、なんだよ。なんか悩みでもあんのかよ」
「にゃ…お前には関係にゃいニャ」
急にしおらしくなりやがって。
調子が狂う。
お前はもっと馬鹿みたいに明るく振舞っていろ。
「…どうせ、キズナのことだろ?」
「にゃにゃ!?にゃんで分かったニャ!?」
「分かりやす過ぎんだよ、お前。アプローチしても空回りばっかで上手くいかなくて…といったところか?」
「にゃ…」
蛮族のくせに妙な所で繊細だよな、コイツ。
「今の自分の感情が、にゃんか変なことになっているのは自覚しているニャ。多分、この水着のせい、にゃんだと思うニャ」
「ま、それは否定しねぇよ。それで?」
俺も自分がかなりハイテンションになっているのは自覚している。ティエラさんがなっていないのを見るに、十中八九この水着の作用なのだろう。
ナナシは多分、みんなに合わせている、と言った所か。
冷静な状態を保っていて、多様な知識も併せ持つティエラさんとナナシがスルーしているのだ。恐らく、悪意あるものではないのだろう。
「アタシは旅に出る前に決めたニャ。もう逃げ
「それは何故だ?」
「…アタシはティエラみたいに料理上手じゃ
「はぁ?馬鹿か、お前?」
「にゃ!?馬鹿って言うニャ!」
本人にとっては重大な悩みなのかもしれないが、想像以上に馬鹿げた悩みだった。
はぁ…。面倒くせぇ。けど、コイツがこのままだと調子が狂って更に面倒くせぇ。
「まず、想い出だっけ?まぁ、言いたいことは分かるさ。ルネとキズナは互いが初めて会った相手だ。右も左も分からない中で支え合った…間違いなく特別な関係性だな。ティエラさんは…あのヒトは自分のことを詳しく語らないけどよ、多分キズナと何かあったんだろうな」
ティエラさんがキズナと何らかの繋がりがあるのは間違いない。
共に旅をしていれば、流石にわかる。
まぁ、本人が語ろうとしない以上、踏み込むべきではない領域なのだろう。
「だけど、それが何だ?」
「にゃ…?」
「1つ聞くが。お前がキズナにアタックしてんのは、部族の奴らに言われたからか?それだけの軽い理由か?」
「にゃ!違うニャ!…逃げ続けていたアタシはキズナの言葉で立ち直れたニャ。だから、父様の仇も討てて、それで…」
はっ。
なんだよ、ちゃんとあるじゃねぇか。
「なぁ、それは十分特別な想い出じゃねぇのか?」
お前は今言った過程を経て、アイツに惚れたんだろ。
心が大きく動いたんだろう。世界が一変したはずだ。
なら、それは――。
「「ピスカ・チュマ・バーン」が初めて異性に惚れるに至った理由なんだろ。自分の初恋を軽んじるな」
――お前にとって、何よりも特別な想い出だ。
「恋心なんて自分だけのモノだ。だったら、その切っ掛けである「想い出」の
「アタシだけのもの…」
お前にとって大切なら、その価値を自らで貶めるな。
大切だと思う心を誰かと比べて見失うなんて馬鹿げている。
「付け加えれば、これから嫌でも想い出なんてものは増えていくさ。この2日でどれだけ滅茶苦茶な事があった?たった2日だぜ?」
「にゃ。確かに色々あったニャ」
ピスカは湖畔でのトラブルを思い出したのか、軽く笑う。
やっと調子が戻って来たじゃねえか。
そもそも。ティエラさんやルネがキズナを恋愛対象として見ているかどうか、は大いに疑問の余地ありだが。それでも、特別な何かがあるのは間違いなくて。
もしも彼女たちの片方、或いは両方が恋敵になるのであれば、最終的に勝者と敗者が生まれるのだろう。
だったら、ここから積み上げていけばいい。自分自身が何よりも大切だと感じる「想い出」を築いていけばいいのだ。
「…あとは、料理だったか?」
まぁ、これに関しては…。
「これは諦めろ。お前がティエラさんに料理で勝てるなんて天地がひっくり返ってもありえねぇよ」
「にゃ!?そんにゃことは………あるかもニャ」
ティエラさんの料理を支えるのは古今東西、無数の料理の技・知恵・歴史。背後にある文化の重みが違う。
しかし。
「だけどよ、近づこうとするくらいは出来るんじゃねえのか。あのヒトの…ティエラさんの料理は毎日の努力の結晶だ。それもしないで、こんな所でウジウジしてる場合じゃねえだろ」
料理とはヒトからヒトへ伝わっていくもの。
ティエラさんが誰かから学んできたように、ピスカもまた学ぶことが出来る。
「あのヒトは、教えてくれって言って断るような心の狭いヒトじゃねぇよ。それくらいは分かるだろ?」
「にゃ。確かにニャ」
別に、ティエラさんは料理担当の座に固執しているわけじゃないだろう。
自分ができること、得意なことをしているだけ。
なら、きっと快く教えてくれるはずだ。
「これでも味覚には自信があるからな。味見ぐらいは…」
…っと。ガラにもない事をベラベラと話しちまった。これも水着のせいに違いない。
さっさと軌道修正しないとな。
「…すまん。味見じゃなくて毒見だな。蛮族の料理なんて高が知れてるだろうしよ」
やはり、俺はこんな感じが丁度いい。
性に合っている。
「蛮族言うニャ!毒なんか作らんニャ!」
へっ。やっといつもの調子に戻ったじゃねぇか。
「……一応、礼を言っておくニャ。…ありがとう、ニャ」
「感謝が足りねぇな。地面に頭つけて「パドロン様ありがとうございます」って言ったら受け取ってやる」
「お前やっぱり嫌な奴ニャ!ちょっとだけ見直して損したニャ!」
うるせぇ。さっさと戻んぞ。
急がないと、ルネに夕食が食べ尽くされちまう。
…さて、今日の夕飯は一体なんだろうか。
★ピスカがティエラに料理を教えて欲しいと頼んだら。
ピスカ「料理を教えて欲しいニャ」
ティエラ「いいですよ。ただし、オレの指導は厳しいですからね。覚悟してください。(は?何コイツ。メシウマ属性狙ってんの?オレの票を奪うつもり?今のうちに事故に見せかけて消しておくべきでは??)」