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赤い髪の妖精のような少女ミニアが僕たちを案内してくれるらしい。
けれど、街に入るまでには少し手続きとかがあるらしく、ちょっと待っているように言われた。
機械都市ミカニア。本当に凄い街だ。こんな所があるなんて想像もしていなかった。
みんなもビックリしていた。大森林出身のパハルは見たことがあるらしく少し控えめだったかな。
そういえば、ティエラさんも少し控えめだったかも。
旅の途中で立ち寄ったことがあるのか、それとも経験が豊富だから落ち着いていられるのかな。
やっぱりティエラさんは凄い。普段の家事とかもそうだけど、凄く凄く頼りがいのある人だ。ルネが「まま」なんて呼ぶのも理解できてしまう。
流石に自分と年齢が大きく変わらない(だろう)女性を「母」と呼んだりはしないけども。
そうして、ミカニアの圧倒的外観に言葉を失いながらミニアが戻ってくるのを待っていると。
「おやおや、おやおやおや?アナタ達は?もしやもしや?」
なんか変な人が来た。体中がカラフルな色で埋め尽くされていて、顔も色鮮やかな化粧が施されている。こういう格好の人、「ピエロ」って言うんだっけ?よく、覚えてないけれど。そんな気がする。
「お久しぶりですねぇ!ルネちゃん!」
「……え?」
その人は真っ直ぐにルネの所に向かって行くと、ルネの左手を取ってブンブン上下に動かし始めた。凄く嬉しそうだ。
言葉から推測するに、ルネが記憶を失くす前にあった人なのかな?
「その、私……」
「すみません、その子は記憶を失ってまして。あまり強く迫られると怯えてしまいます。一度離れて頂けませんか?」
流石に勢いが強すぎるし止めるべきかなと思い始めたところで、ティエラさんが割って入っていた。
また彼女に頼りきりになってしまった。ルネやティエラさんに護られてばかりじゃなく、僕が彼女たちを護れるようにならないといけない。
……でも、どうしてだろう?ティエラさんの言葉や態度がとても険しいものになっている。ちょっと注意をした、程度の感じではないような?
「なんとなんと!記憶喪失!これはこれは失礼を!ワタシは「キング・サーカス」!昔、一度アナタがワタシの公演に来てくださったことを覚えていたので、ついつい!申し訳ありません!」
「覚えてなくて、ごめん」
「いえいえ!アナタが謝ることではありません!……ところでところで!」
すると、そこでサーカスさんは急にティエラさんに迫っていって……?
「アナタ、凄く凄く不思議な女性ですね。ヒトを超えた神秘的な魅力があります」
気付けば、彼はティエラさんの顎に手を当てて軽く持ち上げている。
何をしてるの!?
「ままに、変なこと、駄目」
『警告。ティエラより離れろ』
「流石に見過ごせぬにござる」
「おいおい、せっかちな男は嫌われるぜ」
「にゃ。珍しくパドロンに同意にゃ」
「いや~、流石にアウトっスよ!」
「紳士らしく振舞うことをお勧め致しますわ」
瞬間、みんなが動き出していた。
ティエラさんとサーカスさんを離して、ティエラさんを庇うように構えている。
……こういう時、僕の情けなさが出てしまう。
どうしても肉体的な俊敏さは皆に劣る。魔獣とかはともかく、ヒトに対する攻撃動作は躊躇ってしまうし。
もっともっと成長しなければ、いつか大切な人を守れなくなってしまうかもしれない。
「おやおやおやおや!これはこれは、すみません!女性に急に迫るなんて紳士としてあるまじき失態!あまりにも不可思議な魅力を感じたもので、ついつい!ティエラさんというのですね!誠に申し訳ありません!」
「い、いえ……」
その後なんだかギクシャクはしたけれど。
サーカスさんが平身低頭謝ってティエラさんも許したので一応の解決となった。
そして、サーカスさんも機械都市の内部に用事があるとのことなので、途中まで一緒に行動しつつルネの以前の事を聞く、という流れになった。
丁度その頃、ミニアも戻ってきて、ついに機械都市ミカニアへと入る事になったのだ。
……まさか、テトマごと空中に浮かせて中に収容されるとは思わなかったけど。
重力とかどうなってるんだろう?
◇◇◇
「……余計なことはするな、ですか」
あの一瞬で。ピエロは……悪辣王の配下の一人はオレに思念を送り込んだ。触れ合った箇所から、言葉とイメージを。
正直、ここまで純粋な恐怖を感じたのは、初めてかもしれない。
こんな世界だ。何度も命の危機はあった。キズナ君と合流してからは更に増えた気がする。
けれど。
これは死の恐怖とか、その程度じゃない。そんな生易しいモノじゃない。
死が救いになる程の邪悪。あらゆる世界、文化、価値観、人種が集まった「カオス」にて、なお「悪辣」と称される在り方。
中に地球サマが居るから耐えられた。精霊なんかギャン泣きである。いや、でもコレは仕方ない。
全年齢対象のソシャゲで描いて良い精神性ではない。ゲームの描写はマイルドになってたけど、公式発表の設定集とか見たらイカレまくってたことを朧気ながらに思い出す。
こっちだと健全フィルター・娯楽フィルターがない分、ヤバさが洒落にならない。
ただ、まぁ。
やるなと言われるとやりたくなる……という訳では無いけれど。
悪いが、今のオレに余裕はない。どんな些細な切っ掛けでも利用して目立たないといけない。影が薄くならないようにしなければならない。
故に。
「シスコンさん。アイツですよ」
「……ティエラさん、何か言った?」
「いえ。独り言です。気にしないでください」
「……無理だけはしないでね」
「大丈夫です。ありがとうございます、キズナ君」
さて、と。これで何がどう変わるか。
オレの出番が増えてくれれば良いのだけど。
正直に白状します。本当はこの話が2話でした。
順番間違えて滅茶苦茶になって、完全に書き直した次第です。
なので、読みにくかったり、話の流れがオカシイ所があっても目を瞑っていただきたいです。