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「爺様! 森の中で怪しい奴らを捕まえたんだ!」
「ヒメロス! お主どこに行っておった! ……待て、怪しい奴らじゃと!?」
「なんかウロウロと歩き回ってたから捕まえて連れてきた! ほら! 僕の手柄だ、みんなも見てくれよ!」
「何を言って……!?」
僕とリエスさんは縄でグルグル巻きにされてエルフたちが集まる場所に連行される……振りをしている。
その他の小細工は、布をフードのようにして顔を隠す簡易な変装をしたくらい。武器という武器も持って来てない。
でも、それで良い。
重要なのは、正体を隠す事でもなければ戦う事でもないのだから。
「覚悟は良いですね、キズナさん」
「――うん。大丈夫」
ヒメロス君の演技で大勢のエルフの視線が集まってきている。即ち、舞台が整ったのだ。
この瞬間、思い出すのはティエラさんの言葉。
『種族や立場、あらゆるモノを飛び越えてオレたちは共にいます。ピスカとパドロン君なんて敵同士でしたし、テトマも最初は敵対していましたよね? なのに、今は一緒に旅をして戦っているんです』
『全ては、キズナ君が誰に対しても真っ直ぐに向き合い続けた結果です。それは誇るべきことだとオレは思います。そんなキズナ君なら、きっとエルフたちの心も動かすことが出来る。そんな風に思うんです』
そうだ。そうだとも。僕達の旅はそういう旅だった。
誰かを傷つけるための旅じゃない。争うための旅じゃない。
誰かと繋がるための旅。言葉を交わして、一緒にご飯を食べて、そうやってヒトの輪を広げていく旅。
だから――。
スーッと息を吸う。肺の中に大森林の清涼な空気が溜まっていくのが分かった。
さぁ、やろう。
「僕は! ハルカワ キズナ! 貴方たちに――」
裏表のない想いを込めて。
ありったけの声量で。
「――助けてもらいに来ました!!」
◇◇◇
樹兵をバッタバッタと伐採して、進むこと暫し。
SDGsやらエコロジーやらに真っ向から叛逆する環境破壊オラオラ状態だけど……まぁ、構うまい。ここは地球じゃないし。そもそもオレが母なる地球サマそのものなのだ。文句など言わせるか。
……ただ、随分と数が少なかった。もしかしたら、常に歩き回っている巡回用の樹兵だったのかもしれない。
これは、ひょっとすると術者の注意が他の所に引き付けられている可能性が高いな。
奴が控えている以上、ルネたちが機兵食い止めに失敗したとは考えにくい。となると、十中八九キズナ君が主人公してるんだろう。
……原作シナリオ云々もそうだが、こういう場面で“ソレ”が計算をミスったりはしない。ここで見事に決められる人物だからこそ、キズナ君は
と、なれば。
オレも急がなければならない。
「……やっぱり間近で見ると凄まじい大きさですね。見上げていると首が痛くなりそうです」
ここは世界樹。大森林世界の核。正真正銘、世界の中心。
そんな樹に物理法則や常識は通用しない。
例えば。天まで届く高さで、一見すれば登ることなんて出来そうもない。だというのに、特定の存在であれば頂上に一瞬で到達できてしまったりする。
そう。特定の存在。例えば――
「
精霊人格を久しぶりに表に出して、脳裏に浮かんだ言葉を口ずさむ。
そうすれば身体が白い光に包まれて――。
◆◆◆
『クソっ! もう少し耐えられると思ったんだけどな!』
『やはりティエラ殿の癒しの技無しでは!』
『どっかの次期領主が無駄に格好つけたりするからニャ!』
『アァ!? どっかの蛮族が戦力になってねぇからだろ!』
『ニャ!? お前よりアタシの方が倒してるニャ!』
『んなわけねぇ! 俺の方が絶対に多く倒してるぜ!』
言い争いながらも押し寄せる機兵を倒し続ける一行。
しかし、少しずつ傷が増えているし、何より疲労の為か動きが鈍くなってきている。
――そんな一行を、どこからか観察する者がいた。
「クハハハハハ! ヒーラーが離脱して暫く。だんだん厳しくなってきたみたいじゃないか!」
それは一見すると幼い少女。
銀髪、右が金で左が紫のオッドアイ。白と黒のゴスロリ服で身を包み、右手は紫の瞳を隠すように前で構えられている。
そして、彼女の正面。まるで空間が切り取られているかのように直径1メートル程の
『じゃあ何体倒したニャ!』
『んなの数えてるわけねぇだろ!』
『ならアタシの勝ちにゃ』
『どういう理屈だ!』
『――開示。ピスカの機兵撃破数156。パドロンの機兵撃破数164』
『ほら俺の勝ちだぞ、蛮族! ナイス、テトマ!』
『そんにゃ!?』
『――続けて開示。ルネの機兵撃破数302』
『はぁ!?』
『私の、勝ち。ブイ。2人の夕飯、私の、もの』
『どういう理屈だ!』
『どういう理屈ニャ!』
『まこと、仲良きことは美しき事にござるな』
『ナナシ、テメェの眼は節穴か!』
言葉を交わしながら戦い続ける少年少女+α。
その様子を見ていた少女は不敵な笑みを浮かべて呟く。
「冗談を言い合える余裕がある……というよりは、少しでも戦意を維持するために軽口を交わしているというのが正確かな。そろそろ限界が近いらしいね」
そして。どこからか一冊の本を取り出すと。
意味も無く、その場でクルリと一回転。
「ククッ! そろそろ吾輩の……この全智なる記録者アクル・イルムフィスの出番のようだな! フハハハハハハハハ!!」
視点の順番。
縄で縛られた異常者。
↓
仲間たちの窮地に目立つことだけを考えてる精霊。
↓
世界の危機にカッコ良くなることだけを考えてる人権。
ロクなのが居ない。