ソシャゲで人気投票1位にならないと帰れない!   作:夢泉

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長いので分割。


18話 概念消失領域アルニマ・上

 

◇◇◇

 

 

 ――そう。確かこれは、()がまだ“ティエラ・アス”の設定を考えている時のことだった。

 

 

「なぁ。ゲーム内でさ、精霊は“アルニマ”で生まれる云々って言及あったよな」

「そうだね~」

「でも、何もない所から唐突に出現する。だから信仰されている……的な記述もあった気がするんだけど」

「あ、なるほど。確かに、その辺りの理解は君には難しいかもしれないね~」

 

 そこそこ仲良くなったけど、やっぱりコイツの性格は捻じ曲がっている。イチイチ癪に触るような言葉選びをするのだ。

 長いこと他者と関わる事が出来なかったせいで会話スキルを致命的に失ったのか、それとも昔からこうだったのか……?

 

「そもそもの話。領域“アルニマ”と複合世界“カオス”は同一のモノなんだよね~」

 

 それはそれとして。一度何かを問いかければ、言葉を変え表現を変え、あの手この手で此方が分かるまで教えてくれる。

 そこは非常に有難い点であり、俺がコイツを憎み切れない要因の1つだったりする。

 ……少人数制の塾講師とか向いてるんじゃない? もしくは家庭教師。

 

「より正確には、全く同一の座標に存在している場所。極端に分かりやすくすれば、コインの裏表みたいなモノかな~」

 

 ……おっと。今はコイツの授業モドキに集中しよう。

 どんな情報が役立つか分からない。妹を、宙音を救うためにも妥協なんて出来ない。

 

「全ての始まりは“アルニマ”という世界の過ち。その罪科の結果生じた空白を埋めるため、数多の世界が飲み込まれては融合していったんだよね~」

「つまり?」

「……うーん、また後で世界の成り立ちから詳しく教えるとして。大分違うけれど、今はアルニマという土台の上にカオスが成り立っているって認識で構わないよ~」

 

 ほうほう。それは何となく分かりやすいぞ。

 

「そんなわけで~。アルニマに発生した概念精霊がカオスの同一座標で目撃されると、カオス側からは何もない所から誕生したみたいに見えるんだよね~」

 

 ……? 駄目だ。一気に分からなくなった。

 同一座標とは何ぞや?

 

「えーっと、概念精霊はアルニマに発生している。それと同時にカオスにも現れている?」

「ま、今のところは~、その認識でも構わないよ~」

 

 うーん。難しい。

 根本的に知識が足りてないんだろうな。カオスに降り立つ前に、もう少しマシな理解が出来るようにしておかなければならない。

 ……ん? 待てよ。アルニマで発生した概念精霊をカオスで認識できるという事は、その逆は?

 

「なぁ、カオス側からアルニマを認識したり、侵入したりも出来るって事か?」

 

 こういう疑問が出てくるって、少し理解が深まってきた証拠なのでは?

 

「それは無理~」

 

 ……即答で否定された。

 

「アルニマを通常の知的生命体が視認する事は出来ない。ましてや、人間のように高度な知性を有していれば尚更ね~」

「どういうことだ?」

「あそこは全ての“概念”が消失しているから、かな~」

 

 全ての概念が消失している?

 一体全体どういうことだ? 何一つ分からないぞ?

 

「ボクの領域は“無”。何も無いという概念だけを大事に大事に隠していた秘密基地」

 

 ぐるりと辺りを見回す。

 上下、左右、前後。全てが白一色の空間。

 これは“無”の概念の産物。それを俺の脳が“白”と認識しているだけなのだと声は語った。

 

「“ソレ”の領域は“全”。あらゆる概念を飲み込んだ孤独で強欲な牢獄」

 

 ゲーム冒頭の真っ黒な空間を思い返す。

 成程。あれは全てが混ざった結果の“黒”か。

 

「じゃあ、アルニマはなんなんだ?」

 

 話の流れで、1つだけ理解できている事がある。

 この白の空間と、“ソレ”の黒の空間と、そして“アルニマ”。

 人知の及ばぬ謎の領域が3つ存在しているという事。

 “何も無い”白の空間。

 “全てが有る”黒の空間。

 ならば、“アルニマ”とは――? 

 

「アルニマには全てが無くて全てが有る」

「いや、どっちだよ」

「死んでいると観測されない猫は永遠に生きていると等しい。そんな間違いだらけの馬鹿げたイカサマを大真面目に実行し続けている地獄なんだよ、あそこは」

 

 

◇◇◇

 

 

 ――さっきまで世界樹の目の前にいたはず。だというのに、気付けば()()()()()()()()()

 妙な表現ではあるが、そうとしか表現できない。

 この空間には色がない。テラと出会った白一色の空間とも異なる。無色透明に近いのかもしれないが、似て非なるものだ。

 恐らく。ここを既存の言葉で表現することなど出来はしない。そういう類の――

 

「……っ!」

 

 ――頭が割れるように痛い。目の奥がズキズキとして吐き気がする。

 ゲロインが人気投票1位になんてなれると思うなよ。需要なんて誤差の範疇。どこまでいってもギャグ時空の産物であり、イロモノ枠だ。この美少女精霊ティエラちゃんはそんなキャラには成り下がらない。

 ……なんて。自分に治療魔術をかけつつ、しょうもない事を考えて自分を励ましていると、ふとテラとの会話を思い出した。

 

 ここには全ての“概念”が存在しない。

 “色”の概念も“光”の概念も“屈折”やら“反射”の概念も。一方で、“黒”やら“無”の概念も無い。

 学は無いので例えが正確かは分からないが、この空間は全てがシュレディンガーの子猫ちゃん。

 あるとも言えるし無いとも言える。しかも、“光”やら“質量”の概念が存在しない故、見る事も触る事も不可能。有無生死の結果を結論付ける方法が存在しない。

 これこそは、正当な観測者を失った世界。カオスの原型の成れの果てにして、永遠を望んだ者達の墓場。

 死んでいると観測する存在がいない猫は、永遠に生きているに等しい。

 少なくとも。この狂った空間では、そんな馬鹿げた話が罷り通る。通ってしまう。

 

「これが精霊の生まれるとされる場所、アルニマですか。これはまた、随分と気色の悪い」

 

 ――正確には、その扉の前。無数ある入口の1つでしかないがな。真にアルニマとやらに足を踏み入れたのなら、貴様は1秒も保つまいよ。

 

 おや。地球サマが人格を分離してまで話しかけてきた。……けれど、なんだか声が不機嫌に聞こえるのは気のせいだろうか?

 

 ――斯様に醜悪なモノを見せられれば不機嫌にもなる。少なくとも、『 (オレ)』の子らの行く末がこうはならぬ事を願いたいものよ。

 

 (オレ)たちはこうはならないよ。絶対に。

 

 ――ふ。愛い奴め。……威勢が良いのは構わぬが、先に『 (オレ)』が述べた言葉を真剣に考えよ。

 

 言葉?

 

 ――此処が真のアルニマであれば1秒も保たぬと言った意味。今まさに直面している身体の異常と共によくよく考える事だな。

 

 ……なるほど、そういうことか。

 

(オレ)の魂じゃ役者不足ということですね」

 

 ――言うまでもないことだが、『 (オレ)』は斯様な気色の悪い空間に出て行きたくも無い。代わるのなら他をあたれ。

 ――こんなこと言ってますけど、貴方の魂への負担を少なくしようと手一杯なんですよ。お星サマ。

 

 ……気付かなかった。ありがとう、地球サマ。

 

 ――殺されたいようだな、駄精霊。

 ――ひえっ。……コホン。呼ばれて飛び出て何とやら。いよいよ(オレ)の出番ですね!

 

 話逸らしたな。……けど、精霊は大丈夫なのか?

 

 ――完全無欠にノープロブレムですよ。此処は(オレ)にとって故郷みたいなモノですからね。

 

 まさかズボラガサツ女の人格に使い道があるとはな……

 

 ――(オレ)の扱い酷くないですか!?

 

 

◇◇◇

 

 

 全く。地球サマはともかく、人間は軟弱ですね。この程度の空間に音を上げるなんて。

 ま、そんな弱々な人間クンに代わって、(オレ)がキッチリ仕事を遂行するとしましょうか。

 さてさて、目当ての存在は何処に居るんでしょうね……?

 

「……………………………………無理ですね!」

 

 うん。こんな広い所から探すのは面倒ですよね!

 なので……!

 

「いるんですよねー!! 出て来て下さいよー!!」

 

 ガンガン。

 ガンガンガンガン。

 『葬送』と『回帰』の腹を打ち付けながら大声で呼びかける。

 “俺”の持っていたゲーム知識を考慮する限り、こんな風に騒がしくされたら対象は必ず……

 

「うるさいなぁ! 誰だよ!」

 

 ガンガンガンガン。

 ガガンガガンガンガガガガガン。

 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ、

 

「ホントうるさいんだけど!!? え、待って耳栓してんの!? 騒音まき散らしておいて自分だけは安全圏!? なんて奴だ!!!」

 

 いてっ。

 なんか後頭部に直撃した。……これは黄色い果物? “俺”の知識にある地球の“蜜柑”という果実に似ている。

 ふむ。そういうことか。

 両耳に入れていた耳栓を外す。

 

「どうやら目覚めたようですね。元精霊さん」

「……何をしれっと会話始めようとしてんの? 態々こんな所まで僕様の安眠を妨げに来たの? なんて性格の悪い奴だよ」

 

 振り返りつつ声をかけると、何やら不機嫌そうな声が届く。

 その声の元へ目を向ければ、そこには……

 

「なるほど。知識としては知っていましたが、これがあの……」

 

 まず目に入るのは、正方形の面を上にした木製の板。

 どうやら四隅に支柱が配されているらしく、少しだけ高い位置にある。

 “らしい”と曖昧なのは、フカフカ厚手の布団が間に挟まって敷かれている故に中が伺えなくなっているからだ。

 だが、私は知っている。正確には、同一存在である人間、星地 流斗の記憶の中に答えはある。

 その中は空洞となっており、ぽかぽかぬくぬく温かい空間が広がっているのだ。そして、そこに入った知的生命体はあらゆる気力と意欲を吸収され、二度と外へ出る事が不可能となる。黄金の国ジパングが生み出した最終兵器。

 

「これがあのK()O()T()A()T()S()U()……っ!」

 

 そこには、喋る炬燵が居た。

 

 

 


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