なんやかんやで1章以来の精霊ちゃん掘り下げエピかもしれない。
KOTATSUが喋っている。
勿論、中にいる存在が喋っているんでしょうけれども。ただ、完全に潜ってしまっているらしく、炬燵が喋っているようにしか見えないのです。
「そもそも、此処にヒトは入ってこれ無い筈なんだけどな……」
その通り。それは、さっきの“
常識・価値観・記憶……そういった全てが、この空間と相容れない。あらゆる“概念”が消滅した世界など、人間なら認識するだけで気が狂ってしまうのです。
肉体が精霊のモノであったことに加え、お星サマが尽力していたから吐き気程度で済んだのでしょう。
現状、回復の為に“
「……ん? あれ、なんか気配が妙だと思ったけど。もしかして君、ヒトじゃない? かといって精霊とも少し違うような?」
この空間でマトモに行動する方法は極々限られます。そして、そのどれもが机上の空論と言っても良い程の荒唐無稽な方法ばかり。
ですが、1つだけ。普通の生物には無理でも、概念精霊であれば容易く実行できる……というか、特に意識せずにフルオートで可能な方法があるのです。
それこそが、己自身を確固たる“概念”として観測し続けるという方法。
あらゆる概念の消失した……し続ける空間で、己は“こういう存在だ”と明確に認識し続ければいいのです。
言葉にすれば、それだけの事。
ですが。普通の生命ではそんな事は出来ません。
何故なら、人間は様々な事を考えて生きる生き物だから。
例えば、一流のスポーツ選手。彼らは1つの事に邁進しているように見えるかもしれませんが、食事、睡眠、趣味、人間関係、健康、お金……挙げれば切りがない程に他の事も考えて生きているのです。
それが悪い事だとか、そういう話ではありません。それが人間の生き方であり、人間とはそういう生き物なのですから。
故に。人間では、ほぼ確実に概念精霊にはなれません。
……あくまでも“ほぼ”ですけれども。
……っとと。今はそんなことを考えてる場合じゃ無かったですね。
この『元精霊』との会話に集中しなければ。
“
「人間? 精霊? いや、それ以外なのか? ……駄目だ。正体が良く分からない。その黒衣、余程の代物だね。元とはいえ精霊の僕様が見抜けないなんて」
改めて。ブツブツ何事かを呟いている炬燵を観察してみます。
炬燵の中、少しだけめくれた布を通して此方を除くソイツ。
間違いなく見辛いでしょうが絶対に外に出るつもりはないようです。
まぁ良いです、とっとと本題に入りましょう。
「――単刀直入に言います。
「断る。僕様はもう何もしない。世界の危機も知った事か。さっさと帰ってくれ」
ワールドイーターの事を知っている……というよりは、
もう1つの世界を脅かす邪悪。彼から精霊としての使命を
……けれど。精霊であるのなら、精霊であったのなら。
悪辣王の目的と手段を知って、精霊として抵抗するべきなのに。
分かっていた事とはいえ、これを見るとやっぱり……
「はぁ、これが使命を失った……いえ、奪われた精霊の成れの果てですか。同じく使命に生きる存在としては悲しい限りですね」
彼は元々“冬”の概念精霊。名前はそのまま“ウインター”。
概念精霊は個人の武技術理以外にも、有する概念の“強さ”が実力に影響する存在。“冬”という概念は多くの生命が共通で認識する概念である故、精霊としての彼は相当な強者だったそう。
「部外者が言うじゃないか。僕様たち精霊が使命を奪われるって事の意味が、お前に分かるのかよ」
ですが、彼は概念精霊の全てとも言える使命を……“概念”を奪われた。
自らの存在意義を悪辣王によって奪われ、生きる意味を見失ってしまい――それでも、精霊の肉体は朽ちる事すら彼に許さず、ただ無為な日々を過ごし続けている。
要するに、炬燵引きこもり失業ニート精霊ということですね。
「
そして。その状況は私にとって他人事じゃない。
私だって、“陽川 絆を地球に帰す”という使命を、当のキズナ君本人から不要だと断じられました。
これは共感。そして同情。
一歩間違えれば。ボタンが1つ掛け違っていたら。きっと私もこうなっていた。
……いや。もしかしたら、もっと邪悪な存在になっていたかもしれませんね。
「……君が何者か知らないけど、有象無象のソレと精霊の使命とを一緒にしないで欲しいな」
カチンとくる言い方をするじゃないですか。
でも、落ち着きましょう。彼は私が精霊だと知らない。知らないのなら、こういう発言も理解はできるというもの。
こういう時こそロールプレイ。ロールプレイは全てを解決する。ロールプレイ万歳。
この会話はゲームでも描写される可能性が高いのです。まだ私の正体が精霊だという確信を与えてしまうには時期尚早。現時点では「精霊かも?」程度の考察で足止めしておかなければなりません。
それが“
「なんて表現するべきでしょうね、あの感覚は」
……というか、今の私って完全フリー。台詞考えるのは私オンリー。アドリブ果汁100%。
ま、大丈夫でしょ。元を辿れば“
あとで私の完璧なロールプレイを聞かせて吠え面かかせてやりましょう。……あ、でも。悔しがらせるのもですけど、褒めてもらうのも捨てがたいですね。
たとえば、そう……「精霊もなかなかやるじゃん。やっぱりティエラ・アスはお前が居なきゃ成立しないよ」「大義であったぞ、精霊。『
……めっちゃ良いですね。採用です。ベタベタに褒めてもらいましょう。
「自分の全てが否定されるような。世界の全てに置いていかれたような……そんな感覚」
「……む」
「唐突に足場が崩れて、底の見えない暗闇の中へと飲み込まれていくような。これまで行ってきた事、これから為していく事、その全てに意味なんか無いような気がしてくるんですよね」
「……君は。そうか、君も知っているのか」
この辺は、あの時に感じた想いをそのまま言葉にすれば良い。
きっと分かるのは同じ境遇になった精霊だけ。“
でも、だからこそ。彼には、元精霊には伝わるはずだ。
「だとしたら尚更奇妙だ。君は何故そうして平然としていられる? 会話から推察するに未だ使命に殉じているんだろう? どうして……」
うん。彼の疑問も当然ですね。
私も彼も概念精霊で、同じく使命に裏切られた身。
けれど、唯一。私と彼で明確に異なっていたのは。
「私は独りではありませんでしたから」
私には、この三位一体の身体があった。
「私の中に宿る存在が、意思が、私の事を支えてくれていたんです」
「それは、一体……?」
この身体に宿った2つの魂。
特に全ての原点である“人間”の存在が――
「励ましてなんてくれません。そんなに優しい奴じゃないんです。でも、独りじゃ無かった。それだけで、こんなに救われた」
彼と私は元を辿れば同一存在。だけど、私と彼は全然違う。
その差を生み出しているのは、きっと、彼が帰りたいと願う場所で、再会したいと願う人々と紡いできた物語。
「ヒトというのは不思議な生き物ですよね。彼らは使命なんて持たずに生まれてきます。本当に身体1つで世界に投げ出されるんです」
ヒトは自由だ。
私たち精霊は違う。使命と共に生まれ、使命の為だけに生き、使命を終えて死ぬ。人間から見れば長い生涯をかけて、唯一の使命を結実させる。与えられた概念を完遂し、完成させる。
「なのに、時として使命1つに生きる精霊すら凌駕する、凄まじい何かを生み出したり成し遂げたりするんです。本当の意味で、世界を変えてしまうんですよ。ヒトという存在は」
そう。
それは例えば。ちっぽけな人間が、一つの星の意思を動かして見せたように。
「きっと、それがヒトの……いえ。きっと、命の可能性というものなのです」
「……何が言いたい? まさか、精霊として使命を持って生まれた僕様に、使命が無くなったからヒトのように生きろと言うつもり? それは獣に魚のように生きろと言うのと同じだよ」
まぁ、そうですね。
私たち精霊と人間は全く別の生き物。
ですけれど――
「そうじゃないですよ。……精霊も命ある存在。命を授かった存在です。ならば、命ある限り、その命が持つ可能性を探り続けるべきなのです」
――どちらも魂と肉を持って生きる命ある存在。
だからこそ、きっと。私たち精霊も変わることが出来る。
私もまた、その途上だ。
「ヒトになるのではありません。ヒトを真似るのでもありません。ただ貴方は、精霊のままで精霊という存在を超えれば良い」
「精霊のままで精霊という存在を超える……」
「最初に植え付けられた私の使命は一度枯れました……というか折れました。そりゃもう根元からポッキリと。ですけれど、再び芽を出した。最初よりもずっと丈夫になって。ですから——」
連れ帰るという使命は、少しだけ形を変えて。
救世の旅を助けるという手段を得て。妹を救うという悲願が加わって。
私の中には、共に歩む存在が居てくれて。
だから——
「――今の