ソシャゲで人気投票1位にならないと帰れない!   作:夢泉

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21話 全智なる記録者 アクル・イルムフィス

 

◆◆◆

 

 

 ――少女にとって、生まれた世界は地獄そのものだった。

 

 

◆◆◆

 

 

 思えば、遠くへ来たものだ。

 

「ぐっ……!?」

「パドロン殿!?」

「気にすんな! ちょっと掠っただけだ!」

 

 生まれた世界には“魔法”も“魔術”も何も無く。

 前王の治世、偽物の占いや黒魔術で世が乱れたことを教訓とし、王は幻想を否定。人心を惑わす妄想、危険思想として扱うことにした。

 

『――あの日焦がれた軌跡』

 

 詐欺師として投獄された父母の残した書物の山。

 禁書として没収されて。たった1冊、咄嗟に隠して残った本。

 内容は三流も良い所で。どこにでもあるような英雄譚でしかなかったけれど。

 

『――かつて遠き星の空』

 

 役人に見つからないよう、星明りで読みふけった。毎日毎日、何度も何度も。暗記してしまう程に繰り返して読んだ。

 だって。仕方が無いじゃないか。

 胸が高鳴ってしまったのだ。格好良いと思ってしまったのだ。

 

『――幼き時分の夢物語』

 

 それはきっと、誰もが幼心に描く夢であり。

 皆が成長と共に捨て去っていく外皮のようなモノ。

 蛇が脱皮をするように。ヒトは夢想を脱ぎ捨て大人になっていく。

 

「……キラキラ。 ……これは、星?」

「……? 何か聞こえるニャ」

「これは……詠唱、にござるか?」

 

 誰も真面目に聞いてくれない夢想。

 信じる方がどうかしている与太話。

 それでも――。

 

『――焦がれた理想。

 ――欲した奇跡。

 ――握りしめた夢幻の欠片』

 

 ――その幻想に、恋焦がれてしまったのだ。

 

『混沌を――』

 

 そして、あの日。

 運命の時。

 

『世界を――。空想を――』

 

 世界が一変した。

 カオスに飲み込まれ、空想は現実となった。

 

『理想を――。夢を――』

 

 まず最初に“オッドアイ”を目指してみた。

 理由なんて、格好良いから、それだけ。

 そこから始めて。振り返らずに突き進んで。

 

『あの夜の星を――』

 

 思えば。

 穴だらけの屋根から星空を見上げた、あの日。

 そこから随分と遠くへ来た。

 吾輩は今、世界の行く末を左右する立場に立っている。

 

『――統べて此処に実現しよう』

 

 さぁ。

 届かなかった星空はもう無い。

 

『堕ちよ星空。此の手の中に』

 

 集めた叡智が(きざはし)となりて。

 

星降る夜の――

 

 この身を奇跡に届かせる。

 

――癒しの奇跡

 

 吾輩、今、超絶カッコイイ……!

 

 

◆◆◆

 

 

 キラキラ、キラキラ。

 降り注ぐは光の柱。

 十、二十、三十……増えて増えて。数え切れぬ程に増えて。

 戦場を覆い尽くし、埋め尽くし。

 

 ()()()()()()()()()()

 

 

◆◆◆

 

 

 ティエラさんが戦闘から離脱して20分くらいだろうか。

 正直、ここまで良く保ったと誇りたい。

 だが、先に向かったキズナ達やティエラさんが戻ってきていない。……つまり、まだ目的のエルフの説得が達成できていない可能性が高いのだ。

 ということは、俺たちは失敗したという事になる。

 あれだけティエラさんに格好つけておいて、なんて情けない。こんなザマじゃ父上に認めてもらうなんて夢のまた夢……

 

「ぐっ……!?」

「パドロン殿!?」

「気にすんな! ちょっと掠っただけだ!」

 

 ……なんて。内心で自分を鼓舞するのも、そろそろ限界らしい。

 騙し騙し戦い続けた身体は、普段とは比べようも無く重い。咄嗟の判断力も鈍くなり、攻撃を食らってしまう頻度も増えてきた。

 剣と盾を持っていた両腕を中心に力も入らなくなってきている。

 これ以上戦うのであれば、四肢の一本くらい無くす覚悟をしなければならない。 

 

「まぁ、だとしても。やるしかねぇよな」

 

 それでも。それでも立ち上がれ、パドロン・ザルフェダール。

 後のことなど考える必要は無い。今はただ、少しでも時間を稼いで――

 

「……キラキラ。 ……これは、星?」

「……? 何か聞こえるニャ」

「これは……詠唱、にござるか?」

 

 ルネの呟きと同時、俺も気付く。

 何やらキラキラと光る粒子のようなモノが降り注いでいる。

 星とは言い得て妙だ。これはまるで、星空の中に迷い込んだかのような――

 

「……っ!? 何だ!? 攻撃か!?」

 

 直後。降り注ぐ光の柱、柱。柱。

 無数の光が戦場を押しつぶし飲み込んでいく。

 

「……否! これは攻撃というよりは恐らく……!」

「……傷、消えた」

「スタミナも魔力も全快にゃ!?」

「ほほう。成程成程? これはこれは、まさか?」

 

 それまでの長期戦闘で擦り減っていた体力。ボロボロになっていた身体。空っぽになっていた魔力。そういった全てが湧き出て来る。溢れんばかりに漲っていく。

 

「ティエラさん、じゃねぇよな。これは」

 

 ()()()()()()

 そんな矛盾した言葉が脳裏に浮かぶ。

 ティエラさんの、全てを優しく包み込むような繊細な回復の対極にあるような術。

 それを為したのは間違いなく――

 

「クハハハハハハハハ! お困りのようだな、救世を掲げる少年少女よ!」

 

 降り注ぐ星空を背にして。

 高笑いと謎のポーズと共に。

 その少女は心底楽しそうに宣言した。

 

「吾輩こそは! “カオス”全ての事象の観測者にして記録者! 叡智を超え全智に手を伸ばす、強欲なる旅人! 何を隠そう、その名はアクル・イルムフィス!」

 

 

 

 





尚、ティエラは弱い出力を節約やりくりして使っているだけ。
それが偶然、繊細な感じで伝わっただけだったりする。


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