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――さぁさぁ、皆さん御立会い。最高のショーを始めましょう。
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「ねぇ、サーカス。次の公演のテーマは『変革』と『停滞』が良いなぁ」
「それはそれは? 実に実に興味深い。一体どういうことなのでしょうか? 無知なワタシにも分かりやすいよう御教授を願いたいものです」
「良いよ、教えてあげる。つまりね――」
変革と停滞。明日と今日。それらを衝突させ、心弾ませる最高の演目を創造して見せよと。陛下はワタシに命じられた。
そう。今回の大森林と機械都市の戦いは、全て悪辣王陛下……マリス様の要望でワタシが仕組んだことでした。
エルフの秘宝、魔力結晶体。それをワタシは奪い、並行して機械都市へ大森林地下のデータを送り付けたのです。
目的は単純明快。機械都市と大森林を争わせるため。
理由は“
えぇえぇ、それでこそ。それでこそですよ。
陛下はよく、歌うように紡がれます。
「――より楽しい戦争を。より楽しい殺戮を。より楽しい蹂躙を」
あぁ、あぁ。何という悪辣。何という邪悪。
それでこそワタシたちの主、これこそが悪辣王陛下。
そんな御方が、今回の一大公演の全てをワタシに一任されたのです。
何と光栄な事でしょう。何と愉快な事でしょう。
世界を舞台に、命を生贄に、平和を足蹴に、混沌を飲み干して。
そうして初めて。ワタシは最高のサーカスを完成させられるのですから。
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元々、今回の計画では大森林も機械都市も滅ぼす必要は無かったのです。
単純に、この2つの「相反する世界の戦い」という演目を陛下にお届けし、その御心を満たすのが第一。
次に。かつて機械都市が世界滅亡を逃れる際に用いたという『W・R・A』の設計図を入手する事。
そして最後に。救世を掲げ進む「キズナ・ハルカワ」とその一行の実力や性格を調査する事。これには当然、「ルネ」の進捗具合と、「ティエラ・アス」の検分も含まれているのです。
故にこそ、わざわざ機械都市の技術を用いて「複合魔獣兵器メングン・アルジエ」を製造。これに遊牧民の集落を襲撃させました。
結果として、想定通り彼らはやって来て、今まさに2つの世界の戦争を止めようと足掻いております。
せっかく長年準備して引き起こした戦争を、彼らならば止めてしまう事を承知の上で。そこまでの過程をショーとして演出するのが計画だったのですから。
つまり、当初の目的は全て達せられた。ワタシのサーカスは完璧だった――
――ただ1つ。演目が不発に終わったことを除けば。
ワタシの想定では、エルフの長老たちとキズナ御一行の対決があるはずでした。お互い何も間違っていないのに争わねばならない悲劇を演出する予定だったのです。
ですが、それは未然に防がれた。「ティエラ・アス」という精霊の行動によって。
初めから「ティエラ・アス」の異質さには気付いていました。カオス各地で僅かな「誤差」を生み出している存在として悪辣王陛下が注目していたからです。
現状、悪辣王様は敢えて彼女を放置しています。
理由は1つ。それが面白そうだから、それだけです。
えぇ、えぇ。その御考えにワタシも同意です。異論などあるはずがないですとも。
ですが、それはそれとして。ワタシの公演計画。緻密に計算された珠玉のサーカスを彼女は壊したのです。
そうですそうです。当たり前でしょう。
許せませんよねぇ、そんなのは。
ですから、ワタシは彼女を放置しない。
彼女が今後、悪辣王陛下の障害となりうる可能性。
彼女が悪辣王陛下のお気に入りの1つである事実。
ワタシの行動が悪辣王陛下の御心に背く危険性。
全てを考慮し、熟考を重ね、そして――
――彼女をワタシのモノとしてしまえば、全て解決すると結論付けました。
えぇ、えぇ。そうです。そうなのです。
ワタシが彼女を攫い、躾けてしまえば良いのです。
さながら火の輪をくぐる猛獣のように。
我がサーカスの演者、舞台装置の1つとして、1から調教して差し上げましょう。
さすれば、ワタシの溜飲は下がり、悪辣王様の御気分も害さない。今後、想定外のイレギュラーとなる可能性も潰せます。
あぁ、あぁ!
何という思い付き! まさにまさに最高の演目!
ワタシ自らがピエロとなるに相応しい、最高のサーカスじゃあないですか!
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そのように考えたワタシは、密かに「ティエラ・アス」の傍へと忍び寄り、そして――
「これはこれは。成程成程? なかなかどうして、危険な一撃ですね。ワタシが姿を現さねばならぬとは」
――自らの胸を狙う必殺の一射を認識したのです。
全く全く。困ったものですね。
閉じられたカーテンの向こうは観客から決して見えないブラックボックス。それを力技でこじ開けてしまうとは、何ともマナーの悪い客がいたものです。
これでは開演時間を早め、ワタシの姿を現さねばなりません。
まぁ、もっとも。
「サーカスは至極のショー。男に興奮を与え、女の胸をときめかせ、子供の目を輝かせる。あらゆる世界の娯楽を超えたエンターテインメント。故に故に――」
姿を現したのならば。
「――
およそワタシは
はやく秋イベ書きたい(季節外れ)