ソシャゲで人気投票1位にならないと帰れない!   作:夢泉

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28話 悪質な修羅場販売はお断りしております

 

 

◇◇◇

 

 

「さぁさぁ、騎士殿! この不死身を攻略せねば、眠り姫は攫われてしまいますよ!」

「させねぇって言ってんだろうが!」

「その意気や良し! もっともっと盛り上げて行きましょう!」

 

 ふっっっっざけんなぁぁぁぁぁぁ!!!!!

 修羅場とか逆ハーとか、そういうの本当勘弁してほしいんだよ! マジで!

 こちとら清純派ヒロインで売り出してんだ! 変な噂が立つような絡みしてくんじゃねぇよ!!

 

 キャラ同士の絡みも過ぎれば毒となる。

 既にカップリング相手のいる相手だと「俺の嫁」需要を満たせなくなるし、最悪なのは女性プレイヤーからの好感度だ。自分の好きな男キャラ達を誑かして侍らせてる女キャラに好感を抱く物好きはそうそういない。

 このままだと、ティエラ・アスが原作蹂躙系オリ主っていう地雷キャラに成り下がる。

 ぼくのかんがえた最強のモテモテ逆ハー女……そう、所謂メアリー・スー。大したことしてないのに魅力的な原作キャラに愛される奴。二次創作で大量発生しているアレになってしまうのだ。

 別にメアリーさんが駄目ってわけじゃない。それはそれでキャラとしてアリだと思う。でも、ほぼ確実に人気投票1位にはなれない。

 

 まずいまずいまずいまずい。

 1位になれない。それは妹を救う事も地球に帰る事も出来ない最悪の結末を意味している。

 どうする。どうすればいい。

 

 …………いや。

 元々、難易度が高い事は知っていた。

 ここまでが上手くいき過ぎていただけだ。想定外の障壁が立ち塞がることなど初めから分かっていたじゃないか。

 絶望している暇があったら今から打てる手を考えろ。

 

 例えば、そう。

 こいつら全員の好感度を一瞬で一気に下げる……駄目だ。方法が思いつかないし、あったとしても他者から嫌われる行為=プレイヤーに嫌われる行為とも言える。

 ならば、こいつら全員この場で亡き者にしてしまおうか。

 ……落ち着け。流石に飛躍し過ぎだ。というか出来ない。

 ヴァルトはSSRでオレなんかより圧倒的に強いし、それに何よりサーカスを仕留めるのは難易度が高すぎる。

 キング・サーカス。奴の言葉は九割九分が嘘。奴の能力では完璧な不死も無敵も実現できないし、むしろ実際は弱点だらけの能力だ。WFに登場する……混沌世界「カオス」にいる強敵たちの中では比較的弱い能力の持ち主と言えるだろう。

 それでも。

 条件こそあるが、しぶとさにかけては一級品。あの黒光りして触角の長いG並に凄まじい生存能力を誇る。

 奴は殺そうとしても殺せない。……いや、殺そうと思えば思うほど殺せなくなる。そういう存在。

 よりにもよって、この場面でコイツか。ティエラ・アスじゃ逆立ちしても奴は倒せない。

 

 ……む? そういえば、なんだろう、この香り。

 そうだ。確か、これは料理で使ったことがあるハーブの香り。

 全身を休ませ、心を落ち着ける。そういう睡眠促進の作用があって、薬草として医療目的でも使われるのだ。

 魔術が使えない状況だって当然あるだろうし、そういう方面の知識も旅の中で蓄えておいたから知っている。

 

 ……もしかしなくても、オレの治療の為だろうか。精神と肉体は密接な繋がりがある。香りで肉体を落ち着かせれば、精神も癒されるのは道理。

 誰だか知らないけど、ナイスだ。

 ……とはいえ、流石に用意し過ぎでは? オレの周囲が薬草の山で囲まれてるんだけど。

 全く素人め。この薬草は効果がカオスクオリティ。強すぎて使う量に気をつける必要があってだな……

 

 ……?

 ……………。

 …………………………………………………………………。

 

 ……ふむ。強すぎる催眠作用の薬草? それが山程ある?

 待て。確か、あのピエロの能力では……。

 

 判断は一瞬。

 ハーブの山に火の魔術をぶちこむ。

 火力は超弱くて良い。必要なのは低温で燃やす事。

 燃やせば即座に煙が立ちこめて……

 

 あ、やべ。やり過ぎたかも。

 

 

◆◆◆

 

 

「……煙? ……むむ。これはこれは、少々マズイですね」

「なん、だ……? 弓を持つ手が重く……?」

 

 ふと気付けば、周囲一帯が白い煙で包まれている。

 僕様には何の影響も無いけれど、ヴァルトやサーカスには何らかの異常が発生しているようだ。

 

「もしかして……さっきの香草か?」

 

 そうだ。これはエルフの医者が山程持ってきた香草だ。

 あわや戦闘開始という状況を回避させた立役者として、エルフたちはティエラに深く感謝している。

 だからこそ、倒れた彼女が心配で過剰に香草を用意してしまったのだろう。確かそれはティエラの周りに置かれていたはずで……

 

「……まさか!?」

 

 嫌な予感がしてティエラが眠っていた方を見ると。

 そこには燃え上がる香草と立ち昇る煙に囲まれて、サムズアップ&ドヤ顔を披露しているティエラがいた。

 ……やりやがったなアイツ。

 

 強力な催眠作用を持つ香草を一度にあれだけ燃やす。

 僕様は精霊で睡眠を必要としない故に影響がない。けれど、ヴァルトとサーカスは無事では済まないだろう。

 証拠に、眼に見えて二人の動きが鈍くなっている。

 ……とはいえ。自信を“不死身”だの“無敵”だのと語っていたサーカスにも効果を発揮しているのは何故だ? 単純に睡眠は無効化出来ないのか?

 

「偶然? それとも、まさかまさか知っている? ……ふふ、ふふふふ。どちらにせよ、ますます興味が湧いてきました」

 

 すると。

 サーカスは右手を腹部の前に。左手を外側へと払い。そのまま深々と頭を下げた。

 

「誠に残念ですが、そろそろワタシは主の元に帰らねばなりません。眠り姫も目が覚めたようですし、どうやら此度の公演は時間切れのようで御座います」

 

 ……何だって?

 

「えぇ、えぇ。本当に口惜しい。ですが、御安心くださいませ。この演目の続きを、いつか必ずや、更なる興奮と感動と共に皆々様に御送りすると御約束致します」

「待て、貴様……っ!」

 

 意識を保つのもやっとなのだろう。

 フラフラと覚束ない足取りのヴァルトは、それでもサーカスを逃がすまいと弓を構える。

 

「それではそれでは。暫しの御別れを。また近いうちに御逢い致しましょう」

 

 しかし、唐突にポンッと甲高い音が響いた直後。

 一瞬の間に、サーカスの姿は幻のように消え失せてしまった。

 

「くそっ……待ちやが、れ……!」

「エルフ君!」

 

 ドサリ、と。弓矢を握りしめていたヴァルトが遂に崩れ落ち。彼を最後に、周囲一帯にいたエルフ全員が眠ってしまった。

 残ったのは、精霊だから眠らなかった僕様と、何故かピンピンしているティエラ。この2名を除き、周辺から動く存在が消えたのだった。

 

 

◆◆◆

 

 

「さて、と。眠ってしまった方々はこれで全員ですね」

 

 僕様とティエラは、眠ってしまったエルフたちを一カ所に集め終わった。

 ちなみに、サーカスを撤退に追い込めたのは完全な偶然らしい。目覚めたら眼前で戦いが起きており、とりあえず思い付きでやってみたら効果を発揮したとのこと。

 ……思い付きで味方諸共一網打尽にする広範囲攻撃をしないで欲しい。

 

「それでは、皆さんの事は任せましたよ、ウインター」

 

 そして。

 眠るエルフを運び終わると、即座にティエラはそんなことを言った。

 エルフたちを預け、自分は機械都市との戦いに向かうと。

 しかし……。

 

「待つんだ、ティエラ。君はまだ動ける身体じゃない。このまま此処で……」

「さっきの男……キング・サーカスは悪辣王の配下です」

「なんだって!?」

「これで確信が持てました。間違いなく、この戦争自体が悪辣王の差し金。このままではキズナ君たちが危険です」

「……そういうことか」

「えぇ、そうです。アレは劇的な展開を好みます。楽しい戦争、楽しい虐殺……そういう悪趣味なモノを現実に描き出し続ける邪悪です。……ですから、こんな程度で終わるわけがありません。きっと、まだ何か特大の危険……サーカス風に言うのなら“演目”が残っている筈です」

「……確かに、そうかもしれない。でも、それなら僕様が行く。君は此処に残って……」

 

 力を失ったとはいえ精霊。こんな状態の彼女に戦わせるくらいなら自分が向かう。

 そう言ったのだけれど、ティエラは「いいえ」と一言。迷いも見せずに即答し、そして。

 

「たとえ何があろうとも、どんな状況であろうとも、オレは……ティエラ・アスはキズナ君を助けに行きます。これがオレの今の使命。あらゆるモノに優先する、オレの存在理由です」

「君は、一体……」

 

 そのまま、彼女は問いかけには答えず去って行ってしまった。

 機械都市の方角へと、脇目も降らず。ただ真っ直ぐに。

 

「……全く。これが妬けるという感情なのかな。……君の使命が成就することを祈っているよ、ティエラ・アス」

 

 

◇◇◇

 

 

「キズナ君……」

 

 あっぶねぇええええええええ!!

 やっつけの応急処置でしかないけれど! それでもギリギリ及第点! 多分!

 とりあえず場面が長引く前に強制終了。これで余計な会話をされる前に終了できた……はず!

 

 まず俺は、あの場面で完璧な好感度調整を行うのは無理と判断。

 だからこそ、あの瞬間はとにもかくにも、取り返しのつかない台詞を言われる前に即終了させることを目指した。

 そもそも、ティエラ・アスは人気投票1位になるために……即ち、あらゆるユーザーの心を掴むべく“俺”が考えた完璧美少女だ。男も女も老いも若いも引き付けてしまうのは致し方ない。この美貌と溢れるヒロイン力にかかる税みたいなモノだと考えて諦めよう。

 その上で。好感度調整は今後じっくり行っていけば良い……というか、それしか現状は思いつかない。

 問題の先送りでしかないのは分かっている。……が、さっきの場面で下手な手を打って引き返せない状況になるよりは遥かにマシだ。

 

「キズナ君……」

 

 そして、ここからが何より重要で。

 今後は、キズナ(=プレイヤー)好き好きアピールを増加させていく。計画より随分と早いが、そこは腹を括るしかない。

 息を切らせて走りながら、時折せつなさと必死さ一杯な感じで「キズナ君」と呟いているのも、その一環。

 せつなさに胸が締め付けられている……的な感じで胸にギュッと右手を当てておくのも忘れない。

 

「キズナ君っ……キズナ君っ!」

 

 禍を転じて福と為す……では無いけれど。“精霊()”がアルニマでうっかり口を滑らせた“使命”云々の話。あれを利用させてもらおう。

 つまり。元精霊との対話の中で、自らの使命を今一度見つめ直し、やはり自分はキズナが大切なのだと考えるに至った。そういう方向性で行く。

 これまた幸いにも、この章に入ってからティエラは2度もキズナと離れ離れになっている。

 長年探し続けて漸く巡り逢った相手と再び離れる事となった。それは、ほんの僅かな時間であろうとも耐えがたいモノであり、だからこそ好意を再認識した。捨てようと思っても捨てきれない深い愛を……そういう女の子を演じる。これしかない。

 

「今、行きます……! 無事でいてください、キズナ君っ!」

 

 あの3人を当て馬にして、俺は更なるヒロインポイントを稼がせてもらう……!

 

 


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