スマホの画面の中に立ち現れる、巨大な機動兵器。
出るゲーム間違えてんじゃねぇのかとのツッコミは、今回の章が始まってから散々に抱いた感想だし、そもそも「これがカオス」の一言で片づけられてしまうので、もう諦めよう。
そんなことは正直どうでも良い。
問題は、この機械都市が丸ごと巨大ロボットへと変形したボスエネミー『機動都市ミカニア』との対決が、
負けイベントとは、戦闘があるゲーム内イベントでプレイヤー側の敗北が確定しているイベントのこと。ストーリーの都合で勝つことは許されず、負けて初めて物語が進行する。作品によっては病的なレベリングと執念のプレイングによって勝利することが可能な場合も……あるにはあるが、勝ったのに負けたこととして物語が進んだりする。
とにもかくにも。俺はこの負けイベントが個人的に
第一に、“負ける”ということが俺は嫌いである。だから、負けイベントっぽくても最後の最後まで抗ってしまうのだが……そうすると、時間ばかりかかってしまうので嫌いだ。戦いを有利に進めようと消費した貴重なアイテムも帰ってこないので嫌いだ。無論、SNSや攻略サイトを調べれば、そのイベントが負けイベントか否かなど直ぐに分かる……が、それはカンニングをしているようで嫌いだ。
そもそも“敗北”を押し付けられるというシチュエーションが我慢ならない。所詮お前は傍観者に過ぎないのだと――己の力で運命を覆す
――昔。そんな俺の価値観に、完全同意してくれた奴がいた。
そいつの名は
彼はWF以前に何らかのゲーム制作に携わった経歴は見つからない謎多き人物――と、されているが。俺は彼を知っている。彼と俺は小学生時代にゲーム友達だった。転校したばかりで友達の少なかった俺に、テレビゲームの楽しさを教えて友人になってくれたのが田中だったのだ。
◆◆◆
「なにこれ全く勝てないんだけど!? どうなってんだ、田中ァ!」
「あぁ、そういうの最悪だよね。特に負ける瞬間まで分からないやつが一番最悪」
「田中ァ! 負けを押し付けられるなんて俺は嫌だぞ!」
「僕も完全同意。もし僕が将来ゲームを作ることになったら、絶対に実装しないって断言できるよ」
「ふざけんじゃねぇ…! 俺は絶対に勝ってみせるぞ、田中ァ!」
「このゲームじゃ絶対に無理だと思うけど……でも、そっか。そういう楽しみ方もあるか」
「何か言ったか、田中ァ!」
「ううん。独り言。さぁ、勝つんでしょ、コイツに」
「おう! 行くぞ、田中ァ! 俺はゲームで誰にも負けねぇ!」
◆◆◆
あれから父親の仕事の都合で再び転校して、田中とはそれっきりだった。
だが、俺がプロゲーマー・山田となったように、田中も彼の道を突き進んでWFという素晴らしいゲームを運営するに至った。本当に誇らしく、そして純粋に嬉しいと思う。
あの少年の日。エアコンなんて大層なモノはない、扇風機だけが回るムシ暑い部屋の中で。分厚いブラウン管テレビが発する高熱も意に介さず、ひたすらにゲームに熱中した夏の思い出。
あの熱い記憶を胸に抱いて、俺も彼も大人になった。
今、俺は誰にも負けないプレイヤーを目指してプロゲーマーとして研鑽の日々にある。
ならば。きっと、いや間違いなく、田中は負けイベントなんて理不尽なものが存在しない、最高のゲームを造ったのだろう。
そう信じるからこそ、この機動都市との戦いは負けイベントではないと信じることができる。どれだけ絶望的な戦いでも、どこかに打開の糸口があると確信できる。
さぁ、お互いの夢が交錯する時だぜ――
【「ヤマダ」の攻撃! 機動都市のW・R・Aに防がれた! 0ダメージ!】
【「エスペラ」の奥義『絶剣・玉響』! 0ダメージ!】
【「ピエラ」は「アドヴェンスド」を強化した!】
【「アドヴェンスド」の奥義『混沌を越え冒険の先へ』! 0ダメージ!】
…………あれ?
【0ダメージ!】【0ダメージ!】【0ダメージ!】【0ダメージ!】【0ダメージ!】【0ダメージ!】
………………………………あれれ?
【「機動都市ミカニア」のワールド・クラッシュ・キャノン!!】
【「全員」に999999999999ダメージ!!】
【「ヤマダ」たちは全滅した!】
ゴリッゴリの負けイベントじゃねぇか、田中ァ!
※なお、めっちゃ工夫して頑張ると倒せるし、限定称号がもらえる模様。