ソシャゲで人気投票1位にならないと帰れない!   作:夢泉

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32話 メインヒロインには勝てなかったよ……(白目)

 

◆◆◆

 

 

 ――これは、少し前の話。

 城塞都市ザルフェダールを出発して間もなくの頃のこと。つい先日まで正真正銘の敵同士だったパドロンとピスカは何かと衝突ばかりしていたし、他のメンバーだって互いに長い付き合いというわけでもなくて――寄せ集めの僕らが、手探りで関係を模索していた時期。

 道中で、大規模な魔獣の群れと遭遇し、戦闘に発展。多勢に無勢であることは勿論、群れの長がとても頭の回る奴で手強かったのを覚えている。統率の取れた群れが、狡猾な作戦で攻めてくるという状況に、バラバラの僕らは苦戦を強いられたのだ。

 辛くも勝利を収めた直後、パドロンが感嘆の声を上げた。

 

「すげぇな。ティエラさんが倒した(むくろ)は全部状態が良い。ザルフェダールの最高級レストランに卸されても不思議じゃないぜ。……当然、狙ってのことなんだろ?」

 

 曰く、ぐちゃぐちゃの肉塊になっても調理して食すことは出来るが、料理としての選択肢は限られてしまう。また、保存や衛生の観点でも好ましいとは言えない。その点、ティエラさんの戦い方は見事の一言。戦闘に支障を来さない範囲で最大限の丁寧さがある云々。

 まさに立て板に水。一度語り始めると止まらない彼は、朗々とティエラさんの技術と配慮を誉めそやした。

 確かに彼の言う通りで、見てみればティエラさんが倒した敵の亡骸は――血塗れで死んでいるのに――“()()”だった。

 

「調理しやすいように考えているのは事実ですけれど、そこまで褒められることではないですよ。燃やし尽くす魔術でもなく、切り刻む剣戟でもなく。非力な双剣だから出来たことに過ぎません」

「いやいや、見るものが見れば分かる。本当に凄いことなんだぜ、これは」

 

 ……対して、僕が覚えたての魔術で倒した敵は真っ黒こげ。これが何かの料理に活かせるとは思えない。そう思うと、命を狙って襲い掛かって来た敵だったけれど、途端に申し訳ない気持ちが募った。

 命を奪い奪われる場に身を置いているくせに、それは余りにも不誠実で愚かしいことに思える。

 弱さや至らなさ。この黒焦げの亡骸には、自分の駄目な所が全て凝縮されているようだ――そんなことを考えて、どうしようもなく暗い気分になった。

 

「その…、ごめんティエラさん。倒した後のことまで考える余裕なくて、それで……」

 

 この謝罪が、彼女なら慰めてくれるという身勝手な決めつけと、浅ましい甘えによる行為であることを僕は自覚していて――なお一層、自分自身への嫌悪感が募った。

 

「……もしかして、さっきパドロン君が言ったことを気にしてるんですか? だとしたら、全く気にしないでください。コゲコゲだろうがバラバラだろうが、調理の仕方はいくらでもあります。今日の夕飯でビックリさせてあげますよ」

 

 僕の内心を知ってか知らずか――恐らくは知っていて、彼女の声音は明るく、そして優しかった。

 

「そもそもですね。戦闘中に調理のことを考えて気が逸れて、それが原因で負けて食べられちゃったら笑い話にもなりません。ですから、キズナ君は絶対に真似をしないでくださいね」

「……それは、僕にはティエラさんのような実力がないから?」

 

 自分が面倒くさい発言をしている自覚はある。それでも甘えてしまう不思議な()()がティエラさんにはあった。

 

「いいえ、これは実力の有無とは違います。余裕……つまりは心理的な問題です」

「……余裕?」

「えぇ。白状すると、オレは命を奪い奪われというのが好きではありません。大嫌いです。でも、いざというときに躊躇していたら命取りになります。だから、食べて食べられるという自然の摂理に落とし込むことで、これは生きる為に必要なことだ、仕方のないことだって自分を納得させているんです。自己暗示みたいなものですね」

「僕も同じようにすれば、少しはマシに戦えるようになるのかな」

「…………どうして、そんなことを思うのですか?」

「さっきの戦い、僕は何の役にも立たなかった。もっと出来ることが有ったはずなのに、だから――うぇ!?」

 

 そこまで紡いで、僕の言葉は途切れた。

 ティエラさんが僕の両頬を包み込むようにして、強制的に顔を上げさせたからだ。

 唇が触れ合うかのような至近距離で彼女と向き合う。空よりも青い瞳に絡めとられて動けなくなる。そのキラキラとした輝きに、僕は束の間、呼吸することすら忘れた。

 

「キズナ君。さっき言ったとおり、オレのは自己暗示。嫌々仕方なく、目的の為、生きる為に身につけた妥協です。それは否定するべき罪悪ではないでしょう。誰もが不条理に折り合いをつけて諦めながら生きています。けれど、オレはキズナ君には……この混沌の世界で、他ならぬ貴方にだけは、そんな妥協をして欲しくない」

 

 常に敬語で話す彼女が、強く切り結んだ言の葉。

 その彼女の言葉で、気付く。

 そうだ。この混沌の世界に生きる皆の力を束ねなきゃワールドイーターには勝てない。このカオスの世界は救えない。妥協なんて、している暇はない。

 託されたのに。誓ったのに。僕は僕の原点を忘れかけていた。

 けれど。でも。やっぱり僕には力がなくて。さっきの戦闘も余裕なんてなくて。

 

「どうしてもというのなら……そうですね。戦闘中に目を瞑ってみる、なんてどうでしょうか? 外界をシャットアウトして、自分の心を強制的に落ち着けるんです」

「そんなことをしたら危な…」

「確かに、達人同士の1対1……たったの一太刀で決着のつくような死合なら致命的な隙でしょう。けれど――」

 

 ふと。忘れていた呼吸が戻る。

 花のような香りが鼻をくすぐり、春の風のように体の中を吹き抜けていった。

 

「――忘れないでください。貴方は決して独りじゃない」

 

 

◆◆◆

 

 

 リミエントさんの説得に失敗し、戦いになって。

 僕らは直ぐに、機械都市の強さを思い知らされた。

 

「大きさが違い過ぎる…!」

「攻撃も一つ一つが嵐の様相。まさに圧倒的にござる。次に一撃を食らえば……考えたくないでござるな」

 

 ナナシの言うとおりだ。もっとも、モーションが大きいからパンチとかミサイルへの対処は意外と難しくない……けど、問題は先ほどの砲撃。辺り一面に巨大なクレーターを穿つほどの威力。面で攻撃されてしまえば回避などできない。

 リエスさんやパハルさんの防御魔術と、テトマの防壁。それらを中心に、皆の力を合わせて何とか防いだが……次は無理だろう。

 だからこそ。次が撃たれる前に打倒しなければならない……のだが。

 

「そもそも良く分かんねぇ障壁で攻撃が防がれてねぇか!?」

『――正解だ、パドロン・ザルフェダール。かつて先人たちが心血を注いで作成したW・R・A――World Rejective Armor。世界崩壊すら退けた装甲が、あらゆる外的要因を否定しているのだ』

「ご丁寧に教えてくれてありがとうよ! けど、それは大森林の地下資源を使わなきゃ再現できねぇって話だったはずだ! ってことは不完全! そうだろ!」

『――またしても正解だ。長い年月の果てに劣化した装甲と、我らが有り合わせの資材で作成した装甲の掛け合わせ。滅亡を免れるには不十分も甚だしい未完成品。とはいえ、計算上、諸君らの攻撃程度ならば完全に無効化できるとも』

 

 そうだった。機械都市は既に一度、世界の滅亡を乗り越えていたんだった。

 改めて認識する。僕らの前に立ち塞がるのは、正真正銘1つの世界なのだと。紡がれてきた変革の歴史は、絶対不動の解を僕らに突きつける。

 しかも。仮に障壁を突破できても、鋼鉄の巨人は健在。アレが腕を振り払うだけで、その一歩を踏み出すだけで、僕らは全滅の危機にさらされてしまう。

 諦めるつもりはない。負けるつもりはない。けど、あまりにも勝機が無さすぎる。

 早く何とかしなければいけないのに。負けるわけにはいかないのに。

 どうする。どうする。どうすればいい。駄目だ、本当に打つ手がない――

 

 ――その時。ふわりと吹いた風が、大森林の木々の香りを運んでくる。

 その緑の香りに促されるように、僕は戦闘中にもかかわらず両の目を瞑った。

 

 

◆◆◆

 

 

 瞼が光を遮断し、視界が真っ暗になる。

 いつかどこかで、こんな黒の景色を見た……気がする。

 失っている過去の記憶のどこか、なのだろう。

 そこは寂しい所だった。でも“誰か”の愛に満ちていた。このカオスという世界への愛で一杯だった。

 その“誰か”に僕は託されたんだ。“みんな”が生きる、この世界のことを。

 だから――。

 

 

◆◆◆

 

 

 目を開ける。

 光が広がる。世界が色を取り戻す。

 閉じていたのは一瞬。でも、その一瞬が何かを変えたと理解する。

 グルグルと空回りしていた思考は、不思議と凪いでいた。

 なんだか、視野が広くなったような気もする。圧倒的な存在と懸命に戦う皆の姿が良く見える。

 ……あれ? ヒメロス君の周囲に、光る緑の球体が浮かんでいる。

 あれは確か……そう、最初に大森林を訪れた時だ。あれの中からエルフの長老たちの声が聞こえてきて「去れ」と怒鳴られた。遠方の人と言葉を交わすエルフたちの魔術だったはずだ。

 

「ヒメロス君! それは!?」

「詳しく説明している暇はない! けど、あのデカブツを倒せるかもしれない手段がある! あの出鱈目な障壁が無くなればの話だけどね!」

 

 流石は、独学で機械兵を修理した天才エルフ。僕が打つ手なしで焦っている間にも、できることを着々と模索し続けていたんだ。本当に尊敬する。

 勿論、状況は変わっていない。あのバリアを何とかしなければヒメロス君の作戦も無駄になる。けれど、考えなきゃいけないことが2つから1つに減った。半減、50%OFFだ。すごくお得だ。今は唯、あのバリアを何とかすることだけを考えればいいということだ!

 いつも助言をくれるティエラさん……は、今この場にいない。また僕らや皆のために無茶をして、それで眠り込んでいる。そんな彼女にこれ以上の負担は強いられない。

 常に努力を欠かさず、どんな分野でも一流の力を発揮するパドロン……は、今まさに誰よりも最前線で盾役を担ってくれている。不敵に笑っているけれど、体は傷だらけだ。

 古代のスーパー・テクノロジーの塊であるテトマ……は、演算(?)とかハッキング(?)とかの難しい方法でミサイルの軌道を逸らしたり、レーザーとかの着弾点を予想して皆に教えたりしている。チンプンカンプンだけれど、並行して色々とやってくれているらしい。余裕というかリソース(?)は……なさそうだ。

 ビックリ秘密アイテムを出したり、何人にも分身したり。奇想天外のニンジャであるナナシは…………嘘でしょ。今ミサイルを素手で投げ返さなかった?「忍法でござる」ってマジか。忍法って凄い。ただ、そんな彼でさえも、さっき対抗手段がないことを吐露していた。

 エルフの革新、王族の末裔にしてハーフエルフであるリエスさん……は、多彩な魔術で皆の戦闘力を強化しつつ、防壁を張って攻撃を防いでくれている。

 天真爛漫で兄想いのパハルさんと、近接戦闘に天賦の才を有するピスカ……は、その戦闘力で周囲の機械兵を攪乱してくれている。

 そして僕がこの世界で初めて出逢ったルネは――。

 あぁ、そうだ。そうだった。

 ずっとずっと、僕の隣にいたじゃないか。

 機械都市のトップ自ら、“最高”だと言い切った“計算外”の存在が!

 

「ルネ!!」

「ん」

 

 ――彼女と僕の視線が交錯する。

 正直、これは危険な賭けだ。

 そこに計算で導き出した勝算なんてない。

 不発に終わったが最期、少女が集中砲火を受けるかもしれないと分かっている。

 それでも。「お相子だ」と僕らの関係を定義した少女は、僕の目を見て頷いた。

 それで十分だった。それだけで覚悟が定まった。

 

「全力でぶった切っちゃえぇえええええ!!」

「まかせて」

 

 地から天へ。

 それは漆黒の弾丸。あるいは逆しまの流星。

 恐怖、疑問、不信――それら一切の躊躇いなく。あらゆる危険を顧みず。

 僕が指し示す先へ。

 黒髪の少女が――突貫した。

 

 

◆◆◆

 

 

 天を衝く鋼鉄の巨人に迫る、たった一人のちっぽけな少女。

 冷静に考えれば、それは玉砕覚悟の一撃だったはずだ。そう捉えて然るべきだ。

 だが、何故だろう。その黒い流れ星に、悲壮な輝きは欠片も見いだせない。

 そこにあったのは、唯一つ。絶対の信頼。

 

 ――少年は、少女なら出来ると信じ。

 ――少女は、少年の選択を信頼した。

 

 その結果が――これだ。

 停滞を打ち破り。

 革新を凌駕し。

 パリンと、ガラスが割れるような透明な音だけを残して。

 少年と少女が紡ぎ出す、漆黒の大鎌の一閃は。

 叡智の装甲を――消滅させた。

 

 

 

 






【後書き】

おかえり、待っていた…その声に、本当に救われました。
この場を借りて感謝を捧げます。
ありがとうございました。
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