ソシャゲで人気投票1位にならないと帰れない!   作:夢泉

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あと2話くらいで終えられそうです。
カット多めでサクサク進めます。




33話 第2章、【完】……?

◆◆◆

 

 

 その瞬間、戦場が止まった。

 誰もが――機械の兵隊すらも――その光景に言葉を失い、動きを止めた。

 絶対の計算を打ち崩したのは、少女の黒い一閃。

 その一太刀こそが。混沌とした戦場へ、()()()()()()もたらしたのである。

 

 ――その光景を前にして、思う。

 キズナとルネ。

 いつだったか湖畔で蛮族(ピスカ)に話したように、俺は二人の関係性を危ういものだと考えている。共依存に似て、しかし異なる関係性。あれは、そう……例えるならば“鏡”だ。

 

 キズナはルネを。ルネはキズナを。記憶を持たぬ2人は、お互いを通して自己を認識している。

 それは薄くて脆い鏡を通してのみ成立する、虚像の関係性。

 どちらか、或いは両方が、過去の記憶を取り戻して“己が何者であるか”を認識した瞬間――鏡が割れるように――容易く壊れてしまうのではないか。そんな漠然とした不安が離れて消えない。

 けれども。

 この特異な関係性が、決して唾棄すべき醜悪なモノではなく――むしろ、()()()()()であることにも俺は気付いている。

 

 鏡はただ己を映す物ではない。己を客観的に観測し、変革を促す物でもある。

 鏡を見ながら化粧をする。衣服を整える。髪をセットする……鏡を通して行う、己を磨く行為の数々。「今」を映す像が、「先」へ導く役割も果たす。

 今のキズナとルネが、まさしくそれだ。

 キズナは間違いなく――たとえ如何なる勝算があったとしても――ルネ以外の誰かに対し、あれほど迷いなく突撃を託しはしなかった。なにせ彼はお人好しだから、その“誰か”が傷つく可能性を考えて一瞬の躊躇が生まれる。

 ルネもまた――たとえ如何なる理由があったとしても――キズナ以外の誰かの指し示す先へ、あれほど迷いなく突っ込むことはなかった。なにせ彼女は記憶がないから、自分の力に対して自信を抱くことができない。

 

 けれど、キズナはルネだったから、ルネはキズナだったから、あの吶喊を成した。

 友人、恋人、夫婦……その何れとも異なる、通常ならば絶対に成立しない関係性。過去が判然としない2人が互いに、己自身よりも相手を信頼している。相手の存在を通して己の在り方を定め、共通の目的へと向かって突き進んでいる――そういう、不可思議で現実離れした関係性。

 だが、それ故に。

 絶対にありえない関係性から放たれた一手であるが故に、あの一太刀は誰にも読めず阻めず。機械都市の完璧な計算すら凌駕してみせたのである。

 

 2人の関係性の是非は、俺には分からない。正義とか悪とか、そういうことでもないように感じる。

 だが、今日この時、この瞬間に限っては。

 ――あの一閃こそが、まさしく“()()”である。

 

 そのことを俺は。

 彼と彼女の姿を眺める蛮族少女の、キュッと引き結ばれた唇を通して理解した。

 

 そして、だからというわけではないが。

 決して、断じて、絶対に。心ここに非ずな少女の意識を戦闘へと引き戻すためでは100%無いが。無いったら無いが。

 唯々、それが勝利の為に必要な最適解だったからでしか無いが。

 ともかく俺は。

 ありったけの声量で、叫んだ。

 

「今だぜ! ヒメロス―――っ!!!」

「…っ! いつまでも引きこもってないで! さっさと助けてよ、()()()()()――!!」

 

 直後。

 緑の光球へと叫んだ少年の言葉は。

 過たず。

 停滞の森の奥底へと届いた。

 

 

◆◆◆

 

 

 ありとあらゆるものが集う混沌の世界にあっても。どこまでも等しく、どこまでも冷酷に、時の流れは全てを押し流す。

 想いも、記憶も、命も――全ては時の中で枯れてゆく。

 

 かつて、エルフ最強と呼ばれた男がいた。

 そして。どの世界どんな種族であっても、他の多くの若者が抱くのと同じように。彼にもまた、競い合う相手が居なくなった退屈な森を飛び出して、己の実力を確かめたいとの渇望があった。

 だが、彼はそれをしなかった。()()()()()()

 先代の長である父が病に倒れ、若しくして土へと還ったから。

 祖父や父、先祖たちが守り続けてきた安寧を維持し、後世へと繋ぐため。彼は父の跡を継いでエルフの長となった。

 男は、己の感情を完全に押し殺して、守り人としての生を選んだのである。

 以来、彼は懸命に、森の停滞を守り続けてきた。いくつもの季節を、先立つ知己を見送りながら。長い長い――気の遠くなるような歳月を生きてきた。

 若かりし頃に抱いていた「外の世界に行きたい」という願望。あのころ確かに、誰にも譲れないと……そう思えていた情熱は、既にどこにもない。とうの昔に枯れ果てて久しい。

 

 白状すれば。老人は未だに己の守り続けてきた「停滞」が間違っていたとは思っていない。

 実の孫に否定されても。機械都市という圧倒的な危機が迫っても。信仰の対象である精霊様に苦言を呈されようと。

 それでも。老人は認めない。自らの人生を否定するには、気力も勇気も枯れてしまって足りない。

 

 そうだ。

 そうだとも。

 全ては時の中で枯れてゆく――

 

『いつまでも引きこもってないで! さっさと助けてよ、お爺ちゃん――!!』

 

 ――しかし。それ故に継がれゆくのだ。

 そのことを老人は知っていた。枯れた木に若芽が生える様を、老いた眼で何度も見てきた。

 ほら。老人の血を継いだ者が、教えても語ってもいないのに、かつての老人と同じような願望を抱いて森の外へ飛び出している。

 生きて、育み、死んで、継がれる。その「停滞(くりかえし)」こそが生命の本質。世界が異なろうとも変わらぬ絶対の真理。

 故に――。

 

 この森の停滞を間違っていたとは思わない。それを老人は認めない。

 されど。

 未来を継ぐ若芽が老木より先に手折られていい道理は――この世界の何処にもない。

 故に――。

 

 

◆◆◆

 

 

 ――故に。ここに巨木の龍が顕現する。

 老人は、孫が“停滞を打ち破るべく溜めた魔力”を用いて。

 エルフたちの信仰対象“安寧の象徴たる世界樹”を身に繕い。

 他ならぬ己の意志で。

 絶対の“掟”を破り、森の外へと踏み出した。

 

 

◆◆◆

 

 

 世界樹の龍と、機械の巨人。

 それは正しく“世界”同士の戦いであった。

 紡がれてきた歴史が、築かれてきた文明が、受け継がれてきた想いが――その全てを賭けて衝突する。

 その戦いの詳細を語るには、人の……吾輩の言葉は余りに力不足。

 されど、構うまい。

 “革新”を謳いながらも――“未知”に頼らず――過去の遺物に縋る解しか導き出せなかった世界と。

 “停滞”に囚われながらも――“彼ら”の手を借り――可能性の一歩を踏み出した世界と。

 どちらが勝利を収めるかなど、あえて語るまでもなく明白なのだから。

 故。

 記録者たる吾輩は、粛々と、その結果のみを日記帳に記そう。

 

 “革新”の都は、己が内にあった“停滞”故に敗北し。

 “停滞”の森は、己が内に育った“革新”故に勝利した。

 題して――“『革新』と『停滞』のアイディアリズム”。

 是にて、終幕。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仮に。この閉じた物語に続きがあるとすれば。

 其れは不要な蛇足に他ならず――「()()」と称するのが妥当であろう。

 

 

記録者:アクル・イルムフィス

 

 

◆◆◆

 

 

「さぁさぁ! 皆さん御立会い! 最高のショーを始めましょう!」

「是より始まりますは、誰も求めぬ幕開け! 拍手のないアンコール! 演目名は――『悪辣』! 今こそ今こそ、開演に御座います!」

 

 

 

 

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