◇◇◇
もしかしたら「胸キュン台詞ランキング」であるとか、あるいは「一生で一度は言ってみたい台詞ランキング」であるとか……そういう所にランクインしていることもあるかもしれない。そういう台詞だ。
少なくともオレの中の、「人間」の男人格は格好良さに惹かれるし、「精霊」の女人格は言われたら胸キュンする。
ただ、この台詞はあくまでも「世界中
――おっと。思考が逸れた。あまりにも現実離れした頭のおかしい光景に現実逃避をしていた。
まぁ、何が言いたいのかというと。通常、「
「……オレも、覚悟を決めなければなりませんね」
視線の向こう側。
機械都市との戦いでボロボロになったキズナ君一行を嘲笑うようにして。
悪辣にも立ち上がるのは、「世界樹の竜」と「機械の巨人」を掛け合わせた
木々を骨とし、鋼鉄を肉とした、全体像を把握することすら出来ない大きさの蛇。
それこそは、大森林より奪ったエルフの秘宝を動力源として、キング・サーカスが生み出した怪物。
まさに「蛇足」という言葉が相応しい、エクストラ・バトルである――。
◇◇◇
「人間よ、今一度問う。――本当に良いのか?」
「それはこっちの台詞だろ、お星さま。本当にやってくれるのか? 正直、何が起こるか全く分からない。最悪、お星さまの人格が消滅する可能性だってある」
「人間如きが母なる星の心配とはな。それこそ不遜も甚だしい。己が分を弁えろ」
「お星さまが強い口調で威圧するときは、いつだって不器用な優しさが裏側にあるんですよね」
「どうやら死にたいらしいな、精霊」
「そう言って、いつも殺さないくせに~。さては図星をつかれて照れてるんですね~? ……あ痛っ!?痛い痛い痛いですって!死んじゃう本当に死んじゃう!謝ります!土下座しますから許して!あああああああああああああああああああ!!!!…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
「…………さて。うるさい奴を黙らせたところで話を戻すぞ」
「は、はい……」
「いつかも言ったが、貴様の進む道は果てしなく険しい茨の道だ。使えるもの全てを使って進まねば、求める奇跡には決して届かぬ。違うか?」
「…………違わない」
「何だ、その軟弱な返答は。どうしても気にかかるというのなら……そうだな。せめて貴様は願っているが良い」
「願う?」
「ふん。なにせ人間という生き物は、遥か遠くの、名も知らぬ星に願いを捧げるらしいからな?」
◆◆◆
『いやはやいやはや、感謝申し上げます! このキング・サーカスの一世一代の大舞台、貴方たちが手厚く下準備をして下さった故、こうして盛大に開演することが出来ました!』
「準、備……?」
『えぇ、えぇ! よくぞよくぞ機械都市をここまで疲弊させて下さいました!』
どこからともなくサーカスさんの声が響く。
どこまでも楽しそうに、嬉しそうに。歌うように彼は語る。
曰く。あらゆる外的要因を阻害する障壁に包まれた機械都市、それを外部から掌握することなど普通なら不可能。しかし、障壁が破られ、かつ都市としても兵器としても機能不全に陥った今なら話は別。
ずっとずっと、この瞬間を待っていたのだと――彼は語った。
その声音を聞いて、気付く。生きる為とか、使命の為とか、愛するモノの為とか――そういう温かな理由が、彼には欠片も見受けられない。
思えば、初めてなのかもしれなかった。
これ程までに純粋な――正真正銘の“悪”に出逢ったのは。
『せめてもの御礼に出血大サービスに御座います! お代は貴方たちの命で結構! 最高の特等席にて、心ゆくまで絶望してくださいませ!』
全員が満身創痍。ボロボロのヘトヘトだ。
こんな状態で、あれだけ強かった機械都市と、それを打ち倒した者――その2つが合わさった存在を相手に戦わなければならないというのか。
それは余りにも明確な絶望だ。底の見えない暗闇が目の前にある。
けれど――。
「
『――はい?』
「それでも、膝を屈する理由には、ならない」
サーカスさんの真意がどういうものかは知らない。
最初に出逢った頃、一緒に戦ってくれたことも全てが嘘だったのか。そこに真実は一欠けらも無かったのか。本当のことは分からない。
分からないから、話をしよう。話を聞こう。
この世界を救うには、きっと――彼の力も必要だから。
そのためにも今、僕らは彼に打ち勝たなければならない。「サーカス」を真正面から叩き落して、舞台から降りた彼と話をする必要がある。
「サーカスさん……いや、キング・サーカス。僕はもう、誰にも負けない」
演目名を『悪辣』だと彼は言った。絶望を寄こせと彼は言った。
だとしたら、残念。一足くらい遅かった。
機械都市も大森林も強くて、そして何より頑なで。僕は一度、確かに絶望して諦めそうになった。でも、そのおかげで僕は、僕が独りではないことに気づけた。
停滞に頑なだったエルフたちにも手を貸してもらえたように。
あれだけ強かった機械都市でさえ打ち倒せたように。
みんなの力があれば道を切り拓けると確信がある。
だから。
僕はもう、大丈夫。
ぐるりと見回せば、みんなも立ち上がっている。
だから。
僕らはもう、大丈夫。
『ふむふむ? 気概は立派! まさに救世主の姿! しかししかし疲労困憊は明白! ワタシのサーカスは激しいですからね? 想いだけでは肉体もスタミナも保ちませんよ?』
まぁ。それは確かに、そうなんだけれども。
正直、立っていられるのが不思議なくらい。肉体はとっくに限界を迎えていて、精神だけで立っているような感じだ。きっと、みんなも同じだろう。
それでも。僕らはもう、絶望することはない。
「……良かった。無事……とは口が裂けても言えない状態ですけど、ちゃんと生きていますね」
この地での最後の戦いが始まる――その刹那。
包み込むような、優しい声がした。離れていたのは短い時間だったはずなのに、なんだか随分と聞いていなかったような気がする。ティエラさんの声だった。
同時に、淡い若草色の光が体を包み、傷を優しく癒していくのに気づく。
もう体は大丈夫なのかとか、寝ていなくちゃ駄目だとか、色々と言いたいことは山積みだった。けれど、まず真っ先に治療への感謝を伝えよう――そう思って口を開いたのだけれど。
「本当に、無茶をして……。凄いことです。誇らしいことです。でも、これ以上はいけません。ドクターストップですよ、キズナ君」
「……え。あれ……?」
唐突なデコピン。続いて、凄まじい脱力感。
ティエラさんに額を軽く小突かれた途端、体中から力が抜けていく。指先も、舌も、うまく動かない。唯一無事な目を動かして周囲の様子を伺うと、他のみんなも同じような状況にあるらしかった。
「ごめんなさい。治療魔術の応用で、体を強制的に休ませています。あ、当然ですけど害はないので安心してくださいね」
なんだろう、この違和感は。
なんだか、凄く凄く嫌な予感がする。
ティエラさんを引き留めねばならない――理由は分からないけれど、そう強く想うのだ。
「あとはオレに任せてください」
やめてと叫びたい。止まってと手を引きたい。任せてと踏み出したい。
けれど、僕の舌も、手も、足もちっとも思い通りに動いてはくれなくて。
「わざわざ待ってくださるなんて、悪辣の名が廃るのでないですか?」
『いえいえいえいえ。公演に妥協をしないのが、ワタシの主義! 最高のショーの為には手間は惜しみませんとも!』
「そうですか。ならオレも大トリとして、とっておきを見せるとしましょうか」
『…………大トリ? 貴方が?』
「えぇ。これで閉幕、フィナーレです」
それだけ言うと、ティエラさんは。
愛用の双剣を重ねるようにして持つと。
その刃を――クルリと
そのまま少しの躊躇もなく、