◇◇◇
広い広い宇宙の中に、地球という星がある。
青と緑の美しい星。魔法のない、「普通」の世界だ。
故に、であろうか。その星の上に住む人間という生き物は、よくよく「異世界」に想いを馳せた。古今東西、多くの人間がそうであった。
それを『 』は悪い事とは思わない。空想する力、未知への渇望、永遠の向上心……それらは人間という生き物の特徴であり、人間が地上の支配者となった所以である。海を制覇し、空を行き来し、宙にすら届いた原動力であった。
それ故。
決して悪いことではない。寧ろ素晴らしいことだ。
ただ、少し。
ほんの少しだけ。
胸が痛むというだけで。
◇◇◇
大剣を正面に。切っ先の延長線上に、デカいだけの蛇を捉える。
ふと、思い出す。いつだったか、「人間」が言っていた。
――詠唱は男のロマン! あった方が絶対に格好良い!
…と。
実の所、格好良いやら何やらの人間の価値基準は未だに判然としない。詠唱というのも良く分からん。地球には魔法なぞ存在しないからな。
但し、“歌”ならば別。せせらぎや葉擦れの声、あるいは嵐の叫び。人間は自然の音を音楽に落とし込み、その逆に音楽を自然へと捧げてきた。その営みを知るからこそ、歌については一定の理解ができる。
故に、唄おう。
ただ攻撃を放つだけならば、この行為は全くの無意味。
然れど、「ティエラ・アス」としては、きっと、それが正しいことだとのはずだから。
◇◇◇
Du läßt mich lang allein
Ich suche Ruhe für mein einsam Herz
Ich wandle nach der Heimat, meiner Stätte
Ich werde niemals in die Ferne schweifen
Still ist mein Herz und harret seiner Stunde
ist mehr wert als alle Reiche dieser Erde
Das Firmament blaut ewig, und die Erde wird lange fest steh’n
bis der Mond erglänzt am schwarzen Firmament
「混沌に輝け――」
ewig blauen licht die Fernen
「――遥か彼方の蒼き光」
◇◇◇
下ろされた剣から、極彩色の極光が迸る。
地を這って進む稲妻のように。或いは、気紛れな風に揺れるカーテンのように。山脈と見紛う規模の
飲み込まれた蛇は断末魔の叫びすら上げることを許されず、元の機械と樹に別たれている。まるで初めから何も起きていなかったかのように。唯の一振りで全てが終わっていた。
呆然と眺める「カオス」の者たちは知る由も無いことだが。
魔法と見紛う光は、オーロラと呼ばれる自然現象に酷似している。
その現象は、ある星の極地にて発生する――1つの奇跡に他ならない。
◇◇◇
――さて。
元来、星の意思などという曖昧な代物。ここまで維持されていることが奇跡に等しかったのだ。
とはいえ。いずれ必ず訪れる別離が、少しだけ早まっただけのこと。
何も為せず消えるのではなく、こうして“見せ場”を残して終わるのならば重畳。
あの「人間」と「精霊」であれば、必ずや悲願を果たすと信じることもできる。
思い残すことなどない。本来の在り方へと戻るだけ。
この人格の行く末を暗示するかのように、先に大剣が砕けた。
余計な部分が蒼と朱の粒子となって消え、元の双剣となって地に落ちる。
「…………」
本来の「星」の役目を優先するのであれば。
ここで再び“キズナ”に「帰りたくはないか」と問いを投げかけるべきである。
或いは、残り僅かな力を振り絞り、あの首を刎ねて正しい輪廻へと戻すことも可能だ。
故に――
「こうして直接言葉を交わすのは……二度目、か? 否、構わぬか。その辺りは拘泥しても面倒なだけだ。どうせ最期なのだしな。後腐れの無い方が良い」
――流石の『 』にも、その選択が間違いであることくらい分かる。
「精霊」風に言えば、「KY」……か?
確かに、対象は身動きが出来ない状況であり、邪魔する者も居ない。実行は可能だ。
然れど、それは「人間」や「精霊」の歩みを否定することになる。無粋極まりない。
「抗う者達よ。歩みを止めるな。進み続けろ、抗い続けろ。――その旅路に幸多からんことを願う」
ならば、せめて。
キズナたちが口もきけぬことを良いことに、一方的に語っていく。
「それと、まぁ……なんだ。勝手な話だが、ティエラ・アスのことを宜しく頼む。基本、いざという時の思い切りが良すぎるのだアレは。目を離せば破滅するまで突っ走りかねない」
こういうことを言っておけば、絡みが増え、出番や台詞も増えることだろう。
……さて。もう時間がない。『 』に出来ることは、ここまでだ。
「――キズナ。ティエラを託す。掴んだ手は離さぬようにな」
彼からすれば、唐突で理解不能な状況であろう。
首肯することも、言葉を発することも出来ず。肉体の疲労も限界をとうに超えている。
然れど、少年は確かに、強い意志を込めて見返してきた。
黒い双眸に宿るのは「当然だ」と言わんばかりの肯定の意。
その眼をしかと焼き付け、『 』は――――掻き消えた。
◇◇◇
「……ほう。見送りとは、殊勝な心掛けだな」
「勘違いしないでください。「
「そのようなこと一言も問うては無いが?」
「邪魔なお星さまが居なくなって清々しますよ。これでキズナ君と「
「その発言、まさに閨狂い淫奔精霊の面目躍如だな」
「な!? い、いいいい淫奔って何ですか! なんかビッチよりエッチぃじゃないですか!」
「……で? さっきからベショベショ泣いて顔が凄まじいことになっている事には触れていいのか?」
「うがー! そういうのは! 見逃す! もんでしょうが!」
「くくっ」
「今、笑いましたね!? 流石の「私」も堪忍袋の緒が切れました! 今日という今日は生かしてはおきませんよ!」
「もう消滅するがな」
「びぇええええええええええ!!!!」
「遂に決壊したか。相変わらず不細工な泣き顔で見るに堪えない」
「お星さまだって! 泣いてるじゃないですか!」
「泣いてない」
「絶対に泣いてます!」
「泣いてない」
「泣いてる!」
「は? 殺すぞ」
(閑話休題)
「さらばだ、想念の精霊。……“ティエラ・アス”を頼むぞ」
「お疲れさまでした、星の精霊……いえ、“ティエラ・アス”。あとのことは任せてください」
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まだ意識が…人格がある?
待て。
この白一色の空間は、確か……。
「はい正座。ボクが怒っている理由、分かるよね?」
「生憎だが、皆目見当がつかない」
【後書き】
歌詞はグスタフ・マーラー『LIED VON DER ERDE DAS(大地の歌)』より抜粋。
日本語部分は作者によるフィーリング。意訳と拡大解釈ばかりです。
著作権切れてるはずなので使用に問題はないはずですが……何か問題がある場合は教えてください。修正します。