ソシャゲで人気投票1位にならないと帰れない!   作:夢泉

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2話 少なくとも、宗教ではない

 

 食事=サプリメント女の口が紡いだ、「ラーメンが食べたい」という言葉。それは圧倒的な破壊力でもって、俺の思考に空白を生み出した。

 ……ラーメン。ラーメンと言ったか。しかも、食べたいと。え、この女が? どういうこと?

 待て。落ち着け。冷静になるんだ、パドロン・ザルフェダール。

 ラーメン。ラーメンと言えば、そうだ。俺は確かに、あの最終決戦の時にラーメンの魅力を語った。十分に語りきれずに忸怩たる思いを抱いたのだ。良く覚えているとも。

 ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………なるほど。そういうことか。完璧に理解した。

 つまり、俺は。

 パドロン・ザルフェダールは。

 今この時この瞬間。

 この世に生を受けて初めて。

 

 

 

 「推し」の布教を成し遂げたのであるッ!!

 

 

 

◆◆◆

 

 

 つくづく思うが、ヒトとは不思議な生き物である。

 例えば、過酷な大自然の中に息づく獣たち。こんこんと湧き出る清らかな泉を見つけた時、彼らはどうするだろうか? どっさりの栄養満点で美味な木の実を、彼らはどうするか? それらが完全に手つかずであるならば――決まっている。独り占めする。自分が生きる為に喉を潤して腹を膨らませ、そこを縄張りと定めるだろう。

 生物の種類や状況によっては、(つがい)や子や、群れの仲間に分け与えるかもしれない――が、逆に言えば、家族でも何でもない「同じ種族である」というだけの奴が泉に近づこうものなら、獣は全力で追い返そうとするだろう。

 何故なら、彼らの根底にあるのは生存本能である。己の血を絶やさぬため、より栄えるため――詰まる所は生きるため。唯そのために、彼らは最善の選択をする。

 翻って、ヒトはどうか。

 無論、ヒトだって独り占めはする。というか、私腹を肥やすことばかり考えている。強欲の代名詞みたいな生き物だ。

 けれど、時折。俺たちヒトは――何を血迷ったのか――他者と喜びを分かち合いたくなることがある。

 自分が良いと知っているモノ、その存在を、その素晴らしさを。他者に、より多くの者に知ってほしいと(こいねが)う。シェアしたい、拡散したいと、魂が求めて止まぬことがある。

 その対象は驚くべきことに、友達でも家族でも恋人でも恩人でも知人でも隣人でも宿敵でも何でもない――およそ自分の人生には何の関わりもない赤の他人にさえ及ぶ。

 自分の好きな物を、他者も好きだと言っていると嬉しく、逆に誰かが口汚く罵っていると凄まじく不快な気持ちになる。

 

 実のところ、この感情に利点など少ない。

 例えば、せっかく見つけた穴場の定食屋も、人気に火が付けば最後、並ばなければ食べられなくなる。静かな音楽の流れるガラガラのカフェも、満席になれば落ち着く場所ではなくなってしまう。朝のルーティンに組み込まれたお気に入りの茶葉も、買い占められれば手に入らない。

 それでも。

 それでも、ヒトは。共感を探して他者を求めてしまう。

 その不可思議で愚かしい感情こそが――

 

 ――「推し」を布教したいと考える感情である。

 

 俺は、その感情を知っていた。為政者を目指す者としては当然だ。

 経済の分野で、あるいは世論の醸成や操作の場面において、この感情は実に有用である。

 しかし、いや、だからこそ。

 俺はこの感情を知識として“知っている”だけだった。それを今ハッキリと認識した。

 俺の感情が伝播していく。植物の種が渡り鳥に運ばれ、遠い遠い異国で芽吹くように。生まれも思想も異なる相手に、ラーメンの魅力が広がる。

 それが、それだけのことが。こんなにも喜びに満ち溢れたことだとは思わなかった。知らなかった。

 

「成程ラーメンか。いいぜ、そういうことなら早速ティエ……」

 

 ティエラさんに頼んで作ってもらおう。

 そこまで言いかけて、はたと気付く。

 はたして、それで本当に良いのか――――?

 

 

◆◆◆

 

 

 俺は確かにラーメンを知っている。一度ティエラさんが作ってくれて、それを食べたのだから当然だ。

 だが、それは本当に“知っている”と言えるのか。

 たった一度。たった一度だけ味わった。それだけで俺はラーメンの全てを知っていると豪語して良いのか。

 一度食べたことがある。その条件であれば、あの蛮族猫さえ俺と同じ立場にいる。このままリミエントがラーメンを食べれば、彼女も俺と同じ領域に足を踏み入れてしまう。

 無論、同士が増えることは歓迎すべきことだ。その想いに偽りはない。ラーメンを啜った時の感動を、より多くの人に、この広いカオス全ての生命に知ってほしいと思う。

 これでリミエントがラーメンの魅力に目覚め、機械都市限定のご当地ラーメンが爆誕するのなら、こんなに嬉しいことはない。

 けれど、それはそれとして古参の意地というものがある。ぶっちゃけ、今の「俺だけは知っている」という優越感も捨てがたいのだ。

 だが、だが! しかし!

 この優越感を守るためだけに、新規ファンを拒絶するような狭量な男にはなりたくない。それは俺が目指す領主の在り方ではない。

 ならば――為すべきことは1つ。俺自身が、もっともっとラーメンを深く知ればいい。あのドンブリの深淵に。コク深い黄金のスープの奥底へと、深く深く潜っていけば良いのだ。

 

 要するに。

 俺は、「そうか、お前も知ることができたのか。良かったな」と心の底から祝福しつつ、「でも、俺はもっと知ってるけどな」と後方で腕を組んで仁王立ちしたい。それだけのことなのだ。

 

 だから――

 

「ティエラさん! 伏して頼む! この俺に究極のラーメンを伝授してくれ!!」

「え? パドロン何て? 今そういう空気じゃなくない?」

「ラーメンの道は麺のように長く、スープのコクのように奥深い。――オレの修行は厳しいですよ?」

「ティエラさん!?」

 

 だから――――

 

 

◆◆◆

 

 

「……というわけで、第一回『チキチキ☆ラーメン王はオレだ!カオス杯』を始めます!」

 

 ティエラさんの宣誓は、新たな戦争の狼煙となって――あれ? どうしてこうなった?

 

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