上里ひなとはts勇者である   作:エフさん

23 / 56
更新ペース落ちたぁ
あ、諸々含めていつも通りです。
今回いつもより長いです。
ほぼ原作ぅ...


第8話 戦う理由

若葉視点...?

目を開けると、視界に白い天井が広がっていた。

わかばは一瞬自分がどこにいるのかわからなくなった。

周囲を見渡し、「ああ、ここは病院だった」と思い出す。

 

「目を覚ましましたか、若葉ちゃん」

 

わかばが横たわっているベットの隣に、ひなたが座っていた。

過去最大規模のバーテックス侵攻の後、勇者たちは治療と身体検査のため入院することとなった。若葉を含めて全員が戦いで傷を負ってたし、勇者の力を長時間使った影響を調べる必要があったからだ。

若葉の体にそこまで目立った外傷はなかったが、筋肉や間接の各所が炎症を起こし、一部に疲労骨折も起こっていたため、しばらく運動は控えなければならないといわれた。

中学生も言う年齢では、肉体は大人ほど出来上がっていないのだ。神樹の力で強化しているとはいえ、体の酷使は本来良いことではない。

若葉はベッドから身を起こす。

 

「何か食べますか?」

 

ひなたは『勇者様へのお見舞い』として市民から送られた果物の中から、リンゴを手に取り、ナイフで皮を剥いていく。櫛形に切られたリンゴに爪楊枝を挿して、若葉に差し出した。

リンゴを2、3個食べさせてもらった後、若葉はベッドから下りる。

 

「ひなとの様子を見に行かないと」

 

「...そうですね」

 

僅かためらうような間があって、ひなたは頷いた。

歩こうとするとふらつく若葉の肩を、ひなたが支える。

一歩進むごとに、若葉は身体の内側が痛んだ

 

ひなたの肩を借りて、若葉は特別治療医療室の前にやってきた。

杏と珠子もそこにいた。珠子は廊下に置かれた長椅子に腰かけ、うなだれている。杏はそんな珠子の横に座り、どうすればいいのか迷うように視線を彷徨わせていた。

 

「あ、若葉さん」

 

杏はわかばがやってきたことに気づき、声をかける。

 

「ひなと様子は...どうだ?」

 

重い口調の若葉の問いに、杏は若葉の目を見て答える。

 

「身体には右腕が傷ついてるくらいで他はなんともないようです...ただ、精霊の使いすぎか、まだ意識が戻らりません。」

 

「そうか...」

 

ガラス窓越しに、治療室の中でベッドに横たわるひなとの姿が見える。右腕に包帯をつけており、反対の腕に点滴が刺されている。

 

「それにしてもただ目を覚まさないくらいでなぜ特別治療室なんでしょう...?」

 

ひなたが不思議そうに言う。

いつも騒がしい珠子も今は何も言えないでいる。

治療室の前に残された4人は、みんな何を話せばいいのか迷うように言葉に詰まっていた。

無言の時間がどれほど過ぎただろうか。

点滴スタンドを押しながら、友奈と千景が姿を現した。

千景は口をつぐんだまま若葉の横を通り過ぎ、ガラス窓の向こうのひなとの姿を見る。そして悔しげに唇をかみ締めた。友奈はそんな千景と若葉を不安そうな目で見ている。

 

「どうして...こんなことに...」

 

自分の無力さを嘆くように。

この世界を呪うように。

千景はつぶやいた。

そして若葉に視線を向ける。泣いているのか、寝不足なのか、千景の目は赤くなっていた。

 

「これが...あなたの引き起こした結果よ...」

 

若葉は無言で千景の責めを受ける。ひなとがここまで意識が戻らない責任を、若葉も自覚していた。

 

「何故こんなことになったのか...あなたは分かっているの...?」

 

「分かっている。私の突出と無策が全ての原因だ...」

 

暴走とも言える単独行動。それがこの結果をもたらした。

 

違う...!

 

千景は絞り出すように叫んだ。

 

「やっぱりあなたは分かっていない...!一番の問題は、戦う理由なのよ...!」

 

「戦う、理由...?」

 

彼女の言葉の意味が、若葉には分からない。

 

あなたはいつも、バーテックスへの復讐のためだけに戦っている...!だから...怒りで我を忘れてしまう...!自分が周りの人間を危険に晒しても、気づきさえしない!!

 

「.....」

 

千景の言葉が病院の廊下に響き渡る。

珠子にもその声は聞こえているだろうが、何も言わず俯いたままだった。彼女も今は、若葉を擁護することは出来ないのだろう。

 

「あなたに...私たちのリーダーとしての資格なんて、ない...!あなたが戦うことで、ひなと君は傷ついた...きっとこれからも、同じことが起こる!だったら...もうー」

 

言い過ぎです!

 

千景の声を止めたのは杏だった。

 

「若葉さんは、今までずっと先頭に立って戦ってきたんですよ。そのやり方が強引でも...全てを否定するのは間違っています」

 

「...っ!」

 

千景が杏のそばに歩いていこうとすると

 

友奈さん!?

 

と、突然ひなたの叫び声があがる。

友奈が倒れそうになっていたのだ。慌ててひなたは駆け寄って支える。

 

あはは...ごめんヒナちゃん...もう大丈夫...

 

そんなことがあってか皆頭が冷えたのかそれから誰も話すことなく、それぞれ自分の病室に戻っていった。

千景と友奈だけが特別治療室の前に残っていた。

 

「乃木さん...あなたがこのまま変わらなければ...もう私は、あなたと一緒に戦うことは出来ない...」

 

ひなとの姿を見つめながら、千景は若葉にそう告げた。

そんな千景を友奈は心配そうな顔で見ていた。

 

就寝時間が過ぎても若葉は寝ることができず、ずっと病室の天井を見つめていた。

昼間、千景に言われた言葉が、何度も何度も頭をよぎる。

 

(復讐のためだけに戦っている、か)

 

敵に報いを与えること

 

それが若葉の行動原理だった。殺され、苦しめられた人々の怒りと悲しみをバーテックスに返す。その一心で己を塗りつぶし、戦場にたっていたのだ。

それを否定されては...一体これから、どうやって戦っていけばいいのか。

分からない。

今の若葉は、足元さえおぼつかない子供のようなものだった。自分の立ち位置が見えなくなり、どこへ向かえばいいのかもわからず、ただその場に立ち尽くしている。

 

翌日、検査と治療が終わった若葉たちは、退院することになった。

ただ友奈は退院できなかった。昨日倒れかけたから、検査が続くことになったのだ。

勇者としての訓練はまだ出来ないが、日常生活に支障はない。

しかし未だにひなとは意識を取り戻していなかった。そして若葉は、自分の心のうちにある迷いをどうすればいいのか、答えを出せずにいた。

珠子、杏、千景も退院して学校に戻ったが、以前とは空気が違っていた。休み時間や昼食時間、誰もが言葉が少ない。いつも、うどん食えという相手がいないことに寂しさを感じる。

もしこの場に友奈がいれば、彼女がみんなの中を取り持ち、この重い空気を消してくれていただろう。しかしここに友奈はいない。本来であれば、この空気を変える役目はリーダーである若葉がやるべきだろうが、彼女はそんなことが出来るほど器用ではなかった。

 

その夜、若葉はひなたの部屋を訪れた。

不安を握りしめるように、枕を抱えて。

部屋のドアを開けると、ひなたが忙しなくバックに服やノートなどを詰め込んでいた。

 

「何をやっているんだ、ひなた?」

 

「ああ、若葉ちゃん、いらっしゃい。今、ちょっと荷物をまとめているんです。」

 

「...?なんでそんなことをしている?」

 

ひなたは荷物を詰め終わったバッグのファスナーを閉めながら、答える。

 

「明日、この寮を出ます」

 

え!?な、何があったんだ!?

 

若葉は動揺して枕を握りしめる。なぜひなたが寮を出て行くのか?まさか『勇者付き添いの巫女』という立場が変わってしまったのか?いや、そもそも巫女の本来の役割は勇者の付き添いではないのだから、今までずっとひなたがこの学校にいたのがおかしかったのではないか?だとしたら、ひなたは本来の巫女の御役目に戻るだけでありー

ぐるぐると若葉の思考が回っていると、ひなたは安心させるようにクスリと笑う。

 

「若葉ちゃん、動揺しすぎです。別にずっとこの寮からいなくなるわけじゃないですよ。ほんの少しの間だけです。大社の本部に呼び出されてしまって」

 

若葉はホッとしてため息をついた。

 

「そ、そうか...。しかし、いったいなぜ突然?」

 

大社からの呼び出しなど、滅多にあるものでは無い。若葉たちの学校に大社の職員が出入りしているのだから、たいていの用事は、彼らを通じてやり取りすればいいからだ。

ひなたの表情が少し曇る。

 

「理由は聞かせて貰えませんでした。ですが、年が明けてから色々ありましたからね...前回のバーテックスの襲撃は今までとは比べ物にならないほど大規模でしたし、重傷者も出てしまいましたから...」

 

バーテックスの四国への侵攻が始まってから数ヶ月ー今、何かが大きく動こうとしているのかもしれない。バーテックス側も、人間側も...

 

「ところで、若葉ちゃんは何か用事でもあったんですか?こんな夜中に...ひなとだったら怖い夢見たーとか寝れないから来るとかの時間ですけど...」

 

「あ、う、そうだな...」

 

わかばは言い出しづらそうに口ごもる。

幼なじみのその姿を見て、ひなたはベットに腰かけ、ポンポンと自分の膝を叩いた。

 

若葉はひなたに膝枕してもらいながら、ぽつぽつと話し始める。

千景に言われたこと。

自分がこれからどう戦えばいいのか分からなくなったこと。

今までの自分が間違っていたのかという迷いー

話してるうちに、若葉の目に涙が浮かんだ。幼い頃から、若葉が他人に涙を見せることはまったくなかった。しかし、ひなたに対してだけは別だ。彼女の前だけは、若葉は身も心も無防備になる。

 

「私はどうすればいいんだろうか...?」

 

「...」

 

ひなたは若葉の問いに、答えることが出来ずにいた。

若葉はいつだって、迷った時にはひなたに頼ってきた。ひなたは、いつもそれに応えてきた。

世界を守る勇者という重責を負う若葉に対しーそして幼い時からずっと一緒に過ごしてきた一番の親友に対し、できる限りの事はしてあげたいと思う。自分だけは素直に頼ってきてくれる若葉を、愛しいと思う。

しかし、今ここで若葉に答えを教えることが、本当に正しいのだろうか?

若葉が抱える問題点と、その解決法を、ひなたが言葉で教えることは出来る。そして飲み込みの早い若葉は、すぐに状況を改善できるだろう。

ーその方法は本当に正しいのだろうか?

表面的に問題をなくすことはできたとしても、若葉の内面はきっと変わらない。ひなた以外の誰も気づいていない、若葉の精神的脆さは消えないままだ。それはいずれ、若葉の命を危険に晒すことになるかもしれない。

 

「...」

 

若葉はひなたの言葉を待つ。

だか、ひなたは若葉に、答えを与えることはなかった。

 

「今、若葉ちゃんが抱える問題は、自分で答えを探して、自分で乗り越えるしかありません」

 

「え...」

 

若葉は耳を疑った。ひなたの言葉はー口調こそ優しかったが、若葉を突き放すものだ。

ひなたはハンカチで幼なじみの涙を拭う。

 

「ほら、もう泣かないでください。泣き顔、撮っちゃいますよ」

 

スマホを取り出して、若葉に向ける。

 

「...勝手に取ればいいだろう」

 

不貞腐れるように言う若葉

ひなたはスマホのカメラのシャッターボタンを押した。

 

「本当に撮った...」

 

若葉はひなたにジト目を向ける。

 

「明日から、少しの間ですが、若葉ちゃんに会えませんからね。若葉ちゃん分の補充が必要なんです」

 

ひなたはスマホに写った若葉の写真を見る。

この泣き顔が、大社から戻ってきた時には、前向きな顔になっていますようにー

そう願う。

 

「若葉ちゃんならきっと、今抱えている問題を自分で乗り越えることができます...私は、そう信じています」

 

 

 

 

翌日早朝、まだ日も昇らない薄明のうちに、ひなたは大社の使者に連れられて寮を出た。出発の時間は誰にも教えていなかったため、ひなたを見送るものはいなかった。

彼女は途中、何度も丸亀城の方を振り返った。

若葉のことも、険悪な空気になったままの勇者たちを残していくのも、不安だった。

しかし、大社管理下に置かれている巫女のひなたに、招集を拒否する権利はない。

後ろ髪引かれる思いでひなたは寮を去る。

そんな彼女の姿を、たまたま朝早く目を覚ました杏が、寮の窓から見下ろしていた。

 

「ひなたさん...」

 

遠目にだが、ひなたの表情は見える。若葉を含めた今の勇者たちの状態を考えれば、ひなたが抱えている不安が何なのか、杏にも想像はできた。

 

 

 

 

その日、学校が始まっても若葉はずっと沈みこんでいた。授業中も休み時間も、席から一歩も動かず、俯いたまま動かない。まるで陰キャのようだ。しかも時々、ものすごい深いため息をつく。

 

「はぁぁぁ〜...」

 

昼休みはいつも全員で一緒に食堂へ行くことになっているが、珠子が何度若葉に呼びかけても返事がない。

 

「屍かっ!」

 

と珠子がツッコミを入れるも、若葉は気づきもせずにスルーしてしまった。

 

「ダメだありゃ。完全に魂が抜けてやがる」

 

「...仕方ないよ。ひなと君の件があって、今はひなたさんもいないんだから...」

 

「しっかし、あのままにしておくのも、なぁ...」

 

楽天家の珠子も、今の若葉はさすがに放っておけないようだった。

 

 

 

 

結局、若葉は放課後まで誰とも話すことなく、ずっと俯いて過ごしていた。

 

(私はひなたにも愛想をつかされてしまったのだろうか...)

 

今朝、若葉が目を覚ました時、ひなたはもう寮からいなくなっていた。既に大社本部へと行ってしまったらしい。見送りさえできなかった。

どうしてひなたは、出発する時間を教えてくれなかったのだろう。今までの彼女であれば、少なくとも若葉だけには、時間を教えてくれたはずだ。昨夜のこともあり、若葉はひなたに拒絶されてしまったように感じていた。

 

(仕方ないか...私は勇者のリーダーでありながら、ほかの勇者を助けるどころか、危険に晒してしまったのだ。しかもひなたがとても愛している弟をだ。もはや市中引き回し、鞭打ち、磔、獄門...どんな処罰でも受けようフフフ...)

 

そんなことまで考えてしまっていた時、杏が若葉の机の前に立った。

 

「若葉さん」

 

「...なんだ?」

 

かおをあげ、覇気のない表情で杏を見る若葉。

 

「ちょっと出かけましょう!」

 

 

 

 

杏に引っ張られるようにして、若葉は学校から町へ出た。

丸亀城周辺は古くから城下町として栄え、現在でも市街地として多くの人が生活している。バーテックスが出現した3年前以降、四国の外から移住してきた人も多い。

(急に外に連れ出して、どういうつもりだ...?)

杏の意図が分からないまま、若葉は歩く。

そして杏は、ある民家の前で立ち止まった。

 

「ーこの家の住む大学生のお姉さんは、3年前、広島の大学に通っていました。バーテックスが現れた日...四国に避難することは出来ましたが、天空恐怖症候群を発症。ご家族も本人もずっと苦しんでいました。でも、勇者がバーテックスに勝ったというニュースを聞いた日から、少しずつ心が安定して症状が改善しているそうです」

 

若葉は杏の意図が掴めないまま、その言葉を聞いていた。

杏は再び歩き出し、また別の家の前で立ち止まる。

 

「この家のご家族は、ずーっと昔から丸亀市で暮らし、地元に強い愛情を持っています。もし勇者が四国を守ってくれていなかったら、大切な故郷を失ってしまったていただろうと言っていたそうです」

 

そしてまた歩き出し、今度はあるアパートの前で立ち止まった。

 

「ここに住んでいるのは、ほとんどが本州や九州から移り住んできた方たちです。四国外から避難してきた人の多くは、バーテックスのせいでご家族を亡くし、仕事も家も失って生きる気力を失っていました。自殺しようとする人もたくさんいました。でも、勇者の戦う姿を見て、前向きさを取り戻していっているそうです」

 

四国に住む人々は、全て三年前の悲劇を経験している。そして間接的にしろ直接的にしろ、四国を守る勇者のお陰で、今を生き長らえているのだ。

 

「私、時々町の中を散歩したりするんです。そしたら、町の人がどんな暮らしをしているか、声が聞こえてきて。私が勇者だって気づいて、話しかけてきてくれる人もいます」

 

「そうなのか...」

 

若葉は町に出ることがほとんどない。丸亀城と寮だけで生活は完結するし、若葉は勇者の中でも特に市民から顔を知られているから、外出は極力避けるよう言われていた。

杏は歩きながら、しばしば立ち止まっては、町で暮らす人々の生活を語る。

途中、ベビーカーを押して歩く女性と出会った。

彼女は若葉の顔を見て立ち止まり、驚いた表情を浮かべる。

 

「あの...もしかして、乃木若葉様ですか?」

 

若葉が戸惑いながら頷くと、ベビーカーの女性は頭を下げ、

 

「ありがとうございます」

 

と告げた。心からそう言っていることが伝わってくる口調だった。

 

「私は、...三年前、島根の神社に乃木様と共に避難していたものです。」

 

彼女とその夫は、若葉が島根から四国へ避難者を連れて戻った時に同行していたのだという。

若葉のお陰で命を救われたのだ。

そして3年が過ぎた今、若葉が救った二つの命から、また新たな命が生まれた。

 

「この子には『若葉』と名づけました。勇者様の名前にちなんで...。本当にありがとうございました。やっと...直にお礼を言うことができました」

 

若葉は赤ん坊を抱かせてもらった。

生命の温かさと重さを感じる。

女性は目に涙を浮かべながら、何度も感謝の言葉を口にした。

そして女性が去った後、杏は若葉に告げる。

 

「これが、若葉さんが守っているものです」

 

「私が...守っているもの」

 

杏の言葉を、若葉は呆然と繰り返す。

何かがー

何かが、若葉の心の中で変わっていくような気がした。

(そうか…)

若葉は瞼を閉じる。

バーテックス襲来の日の光景は、今でも鮮明に思い出せる。脳裏に焼き付いている。

目の前で食われていく人々。

変わり果てた姿になったクラスメイト。

動く化け物たちの姿。

荒廃した国土。

その記憶は長い時間が経っても、悪夢のように若葉の体に染み付いている。

(...あの日の記憶に、ずっと囚われていた…)

トラウマだったのだ。

3年前の惨劇は、幼かった若葉の心に、深い傷を与えた。

どんなに気丈に振舞っても、化け物たちを一掃できるほど強くなっても、その傷は残り続けていた。

傷は若葉に、死者の復讐を求め続けた。

バーテックスを前にして怒りに我を忘れてしまうのも、復讐にこだわりすぎるのも、その傷が深く深く残っているから。

(だが...もう、乗り越えなければ)

 

いつまでも過去に囚われては行けない。若葉は今、多くの人々の生命を背負っている。

死者のためでなく、生者のために戦わなければわならない。

いなくなった者ではなく、側にいる者に目を向けなければならない。

 

ー遠くばかりじゃなくて、もっと近くを...自分の周りの人のことを見てあげた方がいいのかも知れません。

 

あの夜ひなたが言っていた言葉の意味が、ようやく若葉にも分かった。

 

「だから、ひなたは私を突き放したのだな...」

 

自分が抱えている弱さには、自分で気づかなければ意味が無い。ひなたは若葉を思いやるからこそ、何も言わなかったのだ。

杏は頷いて、微笑んだ。

 

「寮を出て行く時のひなたさんを、たまたま見かけたんです。すごく心配そうな顔をしていました。きっと若葉さんのことを気にかけていたんだと思います。だから、私何とかしないとって思って」

 

「ありがとう...。杏、お前は...良い奴だな」

 

「どういたしまして。私、勇者としては少し頼りないですけど、仲間ですから!」

 

杏は胸を張って言う。

 

「...頼りないなんてことは無い。杏の射撃の精密さは誰もが認めるところだし、長距離からの援護に助けられることも多い。それに、前のバーテックスと戦いの時には、杏の機転があったからこそ勝利できたんだ」

 

「う...若葉さんに褒められると、すごく照れます…」

 

そんなふうに若葉と杏が並んで歩きながら話していると、突然二人の間からにょっきりと珠子が顔を出す。

 

「二人だけで何楽しそうにしてるんだよー、タマも混ぜろよー」

 

「タマっち先輩?なんでここに?」

 

杏が驚いていると、珠子は唇を尖らせる。

 

「あんずと若葉が深刻そうな顔して学校を出て行ったから、心配して後を追って来たんだ。もしかしたら、喧嘩でもするんじゃないかって。そしたら、喧嘩どころか、なんか二人で楽しそうに話してるしっ!」

 

「...すまない、心配させてしまったようだ」

 

「べ、別に謝って欲しいわけじゃねーけどさっ!」

 

むしろ謝られてきまりが悪いのか、珠子はそっぽを向く。

 

「珠子は私たちのことを心配してくれたのだな…。珠子は勢いのある戦い方でみんなの士気を高めている上に、そんなふうにほかの仲間の気配りもできる。お前は、本当に掛け替えのない仲間だ」

 

「はぁ!?な、なんだよっ、急にっ!褒め殺してなにか企んでやがるのかって!?た、タマはそんな心理的駆け引きに騙されたりはしないんだからなっ!」

 

珠子は顔を赤くして、若葉に向かって謎の拳法っぽい構えを取る。

 

「いやー、タマっち先輩はすぐに騙されそう...」

 

と小声でつぶやく杏。

 

「...何か言ったか?あんず」

 

「いえいえ、何も」

 

「いや、絶対に言ったっ!すごく失礼なこと言った気がするっ!」

 

言い争う二人を見ながら、若葉は思う。

自分の傍らには、頼りになる、温かい仲間がいるのだと。

この仲間たちがいれば、きっと過去の傷にも打ち克つことができる。

 

「珠子、杏」

 

若葉は共に戦う仲間である二人に、頭を下げた。

 

「お前達が側にいてくれれば、もう私は自分の弱さに負けて暴走などしない。だから...まだ一緒に戦ってくれるか」

 

若葉の言葉に、珠子と杏は頷く。

 

「もちろんです、若葉さんはリーダーですから!」

 

「当然!タマにまかせタマえっ!」

 

 

 

 

その夜。

若葉は千景の部屋で、彼女と正座して向き合っていた。

 

「...」

 

「...」

 

二人とも無言で、時間が過ぎていく。

やがて―

 

「すまなかった、千景」

 

若葉は深く頭を下げた。

 

「私は思い上がっていたのだと思う。自分だけで戦っているつもりになっていた。一人だけでバーテックスを倒すのに充分だと思っていた。過去に囚われていたせいで、周りの者に目を向けることもできず、怒りに我を忘れることもあった。これはー私の心の弱さが招いたことだ」

 

「...」

 

千景は若葉の言葉を、無言で聞き続けていた。

若葉は顔を上げ、千景の目を真剣に見つめる。

 

「これからは、一人で戦っているなどと思い上がったりはしない。死者よりも生きる者を想って戦う...。だから、これからも私と共に戦ってほしい」

 

千景はしばらく沈黙してーやがて、ゆっくりと口を開いた。

 

「...あなたが何を言っても、意味なんてないわ...。言葉では...あなたが本当に変わることが出来るのかどうか...分からないもの...」

 

「...」

 

「だから...行動で示して。私は...それを側で見ていてあげるわ」

 

「...!それは、つまり―」

 

千景も若葉と共にまだ戦ってくれるということだ。

 

「私も...少し言い過ぎたかもしれないから...」

 

千景は気恥しそうに若葉から目をそらし、そう言った。

 

 

 

 

友奈が退院し、ひなとが目を覚まし、一般病棟の個室に移されたのは、その翌日の事だった。

目を開けると見慣れない天井が見えた。

(え〜っと俺何してたんだっけ...?)

そう思いながら、記憶を探る。

(あー確か七人ミサキ使いすぎて倒れたんだっけ...ということはここは病院か...)

状況確認が終わったあとぼーっとしてたら、病室のドアが開く。そちらの方を見てみると、ちーちゃんがいた。その瞬間、ちょっとしたイタズラを思いついたので実行してみた。

 

「こんにちは。あたくし、今目が覚めまして、ほんのすこし記憶が曖昧なんでございます。そういう訳でして、貴方様がだれなのか聞いてもいいかしら?」

 

そう言った瞬間ちーちゃんが抱きついてきた。抱きつきながら泣いていたので、

 

「ま、待って!ごめん!冗談だから!ほんとごめん!まさかそんな反応するとは思わなくて...」

 

それを言ってる途中で、ちーちゃんは離れこっちを睨んできた。ちーちゃんが腕を上げたかと思うと。

 

(  '-' )ノ)`-' )ぺしっと頬を叩いてきた。そして泣きながら睨んできて

 

「二度とそんな冗談言わないで」

 

と言ってきたので、真面目な顔をして

 

「わかりました。ほんとすいませんでした」

 

と言って謝罪をした。するとちーちゃんが

 

「私...今日高嶋さんが退院して...そっちの方見てくるから...もう行くね...」

 

と言ってきた。友奈は、とっくのとうに退院していると思ってた俺は驚きながら

 

「え!?あいつ退院してなかったの!?」

 

と言う。正直、友奈いるからギスギスしないだろう!って安心しきってたのに...

 

「えぇ...少し倒れてたりしたから検査してたらしいわ...」

 

「なるほど」

 

空気に耐えられなかったか...

 

「まぁ...私はもう行くね...また来るわ」

 

「あ、うんバイバイ」

 

そう言って俺は手を振る。

 

次に来たのは、若葉だった。

 

俺は若葉の方を見ながら、

 

「お、次は若葉か。てっきりお姉ちゃんが来ると思ってたぜ」

 

と言うと、若葉は苦笑いしながら

 

「ひなたの方が良かったか?」

 

と言った。

 

「いや、別にぃ〜。それにしても顔つき変わったな。なんかあった?」

 

「ああ、頼もしい仲間たちが私の行くべき道を示してくれたよ...」

 

そう若葉が言ったので俺は安心しながら、

 

「そうか...それは良かった...」

 

と言った。

 

「さて、ひなとは病み上がりだから、あんまり長居するのはいけないな。そろそろお暇しよう」

 

と若葉が帰ろうとしてたので、俺は若葉の裾を引っ張り、

 

「待って、まだ面会時間はあるだろ?暇だから俺の話し相手になって。そして面白いこと話して」

 

そして俺たちは面会時間が来るまで、お姉ちゃんの愚痴を言ったり、世間話をした。




主人公の意識がある限りこんな形(ほぼ原作)になることはないと思います...多分
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。