いつも通りです。
いや番外編だからいつも通りじゃないです。
薄暗い社殿の中で蠟燭の炎が揺れる。唯一の光源は、集まった者たちの姿を薄闇の中で照らしていた。
ここに円座似て集まった者たちは、主に大赦所属の神官である。特に発言力の高い者たちだけが集められていた。
だが、それほど高位の神官たちが集められていても、今この場を支配しているのは彼らではない。まだ中学生に過ぎない一人の少女...上里ひなたであった。
今日、神官たちを招集したのはひなたである。彼女は、非常に重要な要件があると言った。
神官たちは緊張に包まれていた。
一人の勇者を導き、もう一人の勇者の姉と言う実績かどうかわからんがとりあえず実績を持っているため、今や上里ひなたの発言力は強力なものとなっている。加えて昨今、彼女は安芸真鈴をはじめとした有力な巫女たちをまとめ、大赦内で大きな勢力を成し始めていた。よくよく考えれば二人の勇者を導いたやつがいるのにひなたの方が発言力が強いというのは少しおかしいような気もするが、まぁいいか。
巫女の最高権威たる少女は、大人たちに囲まれながらも、ただ静かに目を閉じ、正座をしていた。少女の無言の姿は社殿内に厳かな沈黙をもたらし、空気はまるで重みをもっているかのように神官たちを押さえつける。彼らは、自分よりもはるかに年下の少女が放つ威厳に、完全に支配されていた。
神官たち全員の前には、紙の束が置かれている。
ゆらゆらと揺れる蠟燭の炎。
呼吸さえ止まっているような静寂。
質量すら持っていそうな重圧感。
神官たちは巫女の少女を見つめ、その言葉を待つ。
やがて上里ひなたはゆっくり目を開け、話し始めた。
「それでは企画書の一ページ目をご覧ください。本日の議題は、勇者システムのアップデートに際し、新たなイノベーションをもたらすメソッドのご提案となります。題して『初代勇者応援プロジェクト』。続いて二ページ目をご覧ください」
ひなたの言葉を受け、神官たちは目の前に置かれた企画書の表紙ページを、厳かにめくった。
同時に、プロジェクターからスクリーンに、プレゼンテーションソフトで作成された映像が映し出される。
一部の高齢の神官はコンピューターに疎く、アニメーションで動くスクリーン上の文字に感嘆の吐息を漏らした。
ひなたは企画の概要を語り始める。
「本プロジェクトは勇者のメンタル面の保全に対し、大きな効果をコミットするもので...」
時は二日前に逆上する。
「勇者システムの強化案...ですか?」
食堂でうどんを食べている時、若葉が勇者システムについて提案してきたのだ。
「ああ、少しでも未来の勇者たちの手助けになればと思ってな。基礎的な戦闘能力の強化だけでなく、心理的な面でもサポートできるシステムを咥えられないだろうか」
勇者の戦いにおいて、精神面は重要である。人間を超越した身体能力を持つ勇者であっても、心はただの少女に過ぎない。傷つきやすく、脆く、壊れやすい。精神面の無防備こそが、千景がひなとを殺そうとすることに発展したのだ。少し関係なさそうだけど...
「心理面のサポートですか...確かにそれができればいざと言うときに役に立ちそうですが...」
心とは複雑なもの。どうすれば心を健全に保てるか、正解はないだろう。
「私も具体的に確信のある案は出せないが...本の一手間でいいんだ。そうだ、こういうのはどうだろう?変身すると、私の声がどこからともなく聞こえてくるんだ」
「最悪ね」
「何を言ってるんですか千景さん!素敵すぎるじゃありませんか!」
「だろう!...千景はなんだ?私の声が出るのが嫌なのか?ならお前の声も収録すればいい!」
「もっと嫌よ!」
「え、じゃあタマの声も使えるのか?」
「ああ!何ならみんなでやらないか?」
「私はいいわ...」
「俺も」
「私もいいかな...」
「ですね...」
「どうしてですか⁉別にいいじゃないですか⁉声の一声や二声くらい!」
「と言うかそれ必要なの?使われた機能なの?」
千景がそういった瞬間、視線はひなとに集まった。
「ん~...使われていなかったような............あ!俺の記憶している限り一回だけ使われてたわ!」
「ほらな?やっぱり必要なんだ!」
「やりましょう!音声を再生するだけですからきっと実現可能です!」
「よーし!早速組み込むぞ!」
「「「「えー」」」」
「そ、そえで...皆さんはどんなことをしゃべるんですか?」
期待を込めて、ひなたは若葉を見つめる。
若葉と球子はかなり長く熟考した後、意気揚々と答えた。
「負けるな!立て!頑張れ!とか、ポジティブなことを言い続けるんだ!」
「あと、日本の太陽神が言っていいたようなことも言うんだ!」
「逆にやる気がなくなりそうね...」
「ちーちゃんさすがにそれは言い過ぎのような...」
「...考えてみなさい?ひなと君がサイヤ人?だっけ?とりあえず尻尾が生えていた時に乃木さんのそんな言葉が聞こえたらどう思う?」
「...端末をぶん殴る自信がある...」
「でしょ?」
「二人とも意外とひどい...」
「確かに人によってはポジティブな言葉で傷つく人もいますからね...」
そんな四人の意見をスルーし、若葉と球子の言葉...いや若葉の言葉か、にひなたは目を輝かせる。
「まあまあ、なんて素敵な...!」
「「だろう!」」
「きっと未来の勇者たちも元気づけられて、くじけたりすることはなくなるでしょう!」
「うんうん!我ながら名案かもしれないぞ!」
「この人たち...なんで人の意見を聞かないんでしょうね...」
「一時的にナルシになってるか、酔っぱらってるんでしょ」
「早速、大赦に提案しましょう!今から企画書を作ります!徹夜です!徹夜で企画書を仕上げるんです!」
四人はやる気のなさそうにうどんを食べ、三人は乗りに乗っていた。
ひなたはパソコンで企画書を作り始め、翌朝までに数十枚にも及ぶ企画書を作り上げた。そのまま一睡もせず丸亀城を出立して、大赦に向かった。
その間、球子と若葉はどんな言葉を未来の勇者たちに告げようか、鍛錬をしている時と同じくらいの真剣さで考え続けていた。ほかの人はゲームをしたり本を読んだり武道をしたりと各々好きなことをやっていた。
そしてひなたは今、大赦の神官たちにプレゼンしているわけである。
企画書の最後のページまで語り終えたひなたは、神官たちの頭を下げた。
「私からのご提案は異常になります。勇者システムのグランドデザインにおいて、重要な要素であると断言します。ご検討のほど、よろしくお願いします」
翌日、ひなたは丸亀城に帰還した。
非常にがっかりした顔で。
「ボツになりました...」
「「何ぃっ⁉なぜだっ⁉」」
「そりゃ...そうだ」
「逆に没になってくれないとこちらが困るわ...」
若葉と球子は未来の勇者に向けて吹き込む言葉を、すでに原稿用紙五十枚分は書き連ねていた。『初陣の時』『戦いが優勢の時』『技を出すとき』『敵の隙を突いたとき』『強大な敵に恐怖してしまった時』『他人へ憎しみを抱いてしまった時』『気分が落ち込んでいる時』『仲間のことを考えずに飛び出そうとしている時』『お腹が減った時』など、状況ごとに応援の言葉を変えて吹き込むつもりだった。
「戦闘中ずっと声が聞こえているなんて、集中できないだろう...と言われました」
「う...!確かにそうかもしれない...」
「そもそも勇者に選ばれる者たちは、応援されなくても戦えるくらいガッツはあるはずだ、と」
「...」
球子は静かに千景の方を見た。
「なんでそこで私を見るのよ...⁉」
「確かにちーちゃんは初陣の時にあれだったけどガッツはあるよ」
ひなとは千景の肩を掴みながら言った。
「うん!ぐんちゃんは一番最初は動けてなかったけどやっぱりガッツはあるよ!」
「二人とも慰めるのならもうちょっとましなことを...」
若葉は大きくため息をついた。
「ふう...仕方ない、諦めるか」
「だな」
「ええ、それが賢明よ...」
「いいえ‼諦める必要はありません‼」
ひなたは前のめりで叫ぶ。
「えー、まだ何かやるの?」
「当然です!と言うか必要と言ったのはひなとですよ?」
「必要といっておらんわ」
ひなたは無視して話し始める。
「ボツになりましたが、初代勇者が励ますシステムは決して悪いことじゃないと思います!若葉ちゃんからこの案を聞いたとき、私ビビビッと来ましたから!」
「おお、ひなたもそう思ってくれるか!」
「もちろんです。そこで、より有用に深いところで役立つプランを考えました」
「...それはどういうものだ?」
球子が興味津々でひなたに尋ねる。若葉も期待を込めた目でひなたを見ている。
「精霊システムですよ」
その言葉にひなたひなと以外の勇者の顔が訝しげになる。
「精霊を体の中に入れるのは危険だから、その機能はなくすはずですが...」
「はい。でも人造の精霊...もどきならが害はないかと」
ひなたが言わんとすることを、若葉はすぐに察した。
「そうか!私が義経のような精霊になるのか。なるほどなるほど、だったら未来の勇者たちとともにずっと戦い続けることができるぞ!」
精霊になった自分の姿を、若葉は想像した。もっとも、精霊は勇者たちにも見えていないから、あくまでも想像である。未来の勇者の傍らに、守護霊のように威風堂々と立つ自分の姿を思い描いた。
...約三百年後に誕生する、目に見える形の『精霊』がマスコットキャラクターのような姿だと知っているひなとはわざと黙っていた。
「うむ、かっこいいかもしれないな!そして同じ勇者である私がそばにいることで、未来の勇者たちも心強く感じるだろう。一人で戦っているのではない、と。よし、やろう!」
「なんだかよくわかんないけど、面白そうだしタマもやるぞ!」
「いえ、残念ですが、狙って精霊になる技術なんてありません」
「む、そうなのか...」
「逆にあると思ったのかしら...」
「な」
「二人の機嫌が悪くなっていく...」
即答で否定され、再び落ち込む若葉球子。
「ただ疑似的なことならできるかもしれません。能力を持つ精霊ではなく、あくまでビデオ映像のような、再生専用の精霊でしたら」
「再生専用...?」
「今での戦いを思い出してください。精霊のせいでたまった穢れは内側から、ネガティブな言葉や映像を出してきましたよね?若葉ちゃんの疑似精霊は、内側からポジティブな声や映像を出すんです」
「声や映像...だけか?」
「それだけあれば十分でしょ...」
「はい。おそらくそれが限界です」
「でも結局邪魔になるんじゃないか?」
球子の疑問に、ひなたはにっこりと笑って答える。
「ですから、邪魔にならない時に限定します。例えば精神攻撃で、心が砕けた勇者。戦いのせいで、心を病んでしまった勇者。そういう勇者に対して、若葉ちゃん達の疑似精霊が現れて、元気づけるんです」
「それならば戦いの邪魔にはならないな」
「さらっと達をつけやがった」
「ええ。そう言った人の心になら、若葉ちゃんの疑似精霊が現れるよう、インプットできそうです。...まぁ、心の隙に入り込むといったら聞こえが悪いですが」
「「悪すぎだろ!」」
「冗談です。ただし期待しないでほしいのは、あくまで若葉ちゃん達の記録が励ますだけです。ぬくもりのある励ましができるとは思いますが、それ以上は何もできません。その声も映像も、決してすべてをそのまま伝えられるとは限りませんし、抽象的なイメージのようになるのかもしれません。...結局、心折れた勇者が立ち直れるかどうかは本人次第です」
ひなたの言葉に、若葉は頷いていう。
「構わない。少しでも手助けになれる可能性があるなら...それでいい」
こうして勇者疑似精霊化計画はまとまり、大赦からも許可が出た。大赦からは一部、効果を疑問視する声も出たが、それでもやらせてほしいとひなたは強く訴えたのだ。
大赦から許可が下りた翌日、ひなたが丸亀城の教室に行くと、まだ誰も登校していなかった。いつもなら若葉が先に来て、黒板のチョークの準備をしたり、花瓶の水を変えたりしているのだが。
ひなたはぼうっとしながら、朝の教室で一人、過ごしていた。
やがて時間は十分、十五分...と過ぎていく。
「...おかしい...」
もうすぐホームルームが始まる時間だというのに、誰も来ない。こんなことは一度もなかった。
ひなたは急に不安になり始めた。そう言えば、朝の食堂でも誰の姿も見なかった。誰かしらいるだろうと思ったが寝坊しているか先に学校に行ったのだろうと、その時はあまり気にもしなかった。一応ひなとの部屋に行ったが、不在で珍しく早く起きて先に行っているのかと思っていた。
昨夜、みんなに「おやすみなさい」と言って別れてから、ひなたは彼女たちに合っていない。最後に若葉に会ってから、すでに十時間以上は経っている。
それだけの時間があれば、どんなことだって起こり得るだろう。
もしかしたら、突然バーテックスが攻めてきたのではないか。バーテックスの侵攻の間、ひなたは勇者が戦っていることにさえ気づけない。ひなたにはわからないが彼女たちは戦いの中で何回も命を落としている。そして今回も命を落として時が戻っていなかったら?
そんなことを考えているうちにひなたは絶対に怒らないであろう事故も想像していた。
「...‼」
ひなたは椅子を弾き飛ばすような勢いで立ち上がり、教室の出入り口へ駆けだす。
(嫌だっ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だっ!みんながいなくなるなんて...!)
なぜ昨夜皆と別れてしまったのか。よくよく思い出せばみんなは昨夜ずっと一緒にいそうな雰囲気であった。勇者として何か話すのかなと思って巫女の自分は離れてしまったが、ずっと一緒にいればよかった。自分にはわからなかったが、全員が一日で命を落とした。そうなってしまえば...一人だけになってしまう。
そんなことになったら、もう生きていける自信がない。
「わかばちゃ」
「うあ!」
ひなたがドアを開けた瞬間、目の前にひなとが立っていた。ちょうどドアを開けようとしたところだったのか、ひなとは驚き隣にいた千景の腕をつかんでいた。さすがセミで驚く男、面構えが違う。
「どうしたんだ、ひなた?真っ青だぞ」
「わ...若葉、ちゃん...皆...さん」
ひなたの声が震えていることに、若葉は気づかない。
「よかた、まだ朝礼前か。未来の勇者たちに伝える言葉を考えていたら、徹夜しても終わらなくてな」
「なぜか全員で考えることになったのよね...」
「それなのに何でこんなにかかったんだろうな」
「二人がゲームを始めて若葉さんが切れたからですよ」
「「私(ちーちゃん)の部屋でやろうとするのが悪い」」
「あのーみんな?ひなちゃん見なくていいの?」
「?ひなたがどうかしたのか?」
球子がそういいつつひなたを見ると、ひなたは静かに泣いていた。
「お、おい、ひなた?どうしたんだ...?」
急にひなたが泣いたため、若葉は困惑の表情を浮かべた。
「だって、だって...皆が...来なくって...ひっく、...いなくなっちゃったかって...うぅ...うあああっ‼」
「お姉ちゃん...」
泣きじゃくるひなたの姿を、勇者たちは少し驚いて見つめる。今までひなたがこんなに人前で感情を爆発させたことがなかったからだ。
「うう、ひっく...ううう...」
「...すまない。少し心配させてしまったな」
若葉がひなたの頭を優しく撫でる。
「そうです...ひっく、心配、したんです...」
「大丈夫よ...ひなたさんがこんなに泣いたんだものもう、乃木さんやひなと君が過保護になるわ...」
「言い方...まぁそうだね。俺はいなくならないから」
「もちろん私たちもね!」
「はい...ずっと一緒にいてください...」
「ああ。学校を卒業しても、大人になっても、おばあさんになっても、ずっと一緒だ」
「トイレやお風呂の時もか?」
「タマっち先輩、しっ!」」
「絶対...絶対ですよ...」
「約束する」
「誓いの言葉、病めるときも、健やかなるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、死がふたりを分かつまで、俺はお姉ちゃんと一緒にいることを誓います」
「なにそれ...」
「少しヤンデレみたいですね...」
ひなたが泣き止むまで、みんなはひなたの傍にいた。
その日の放課後、若葉たちは放送室にいた。未来の勇者に託す言葉を、ひとまず録音するためだ。若葉たちの音声データは、のちに大赦内で霊的な処理が施され、勇者システムに組み込まれることになる。
正座する若葉の前にマイクが置かれ、マイクはノートパソコンに繋がっている。ひなたはパソコンに向かい、録音ソフトを調整していた。
「しかし、ひなたがあんなに泣くのを見たのは、初めてだな」
「ねー」
「...!もう言わないでください、恥ずかしいんですから...」
パソコンを操作しながらひなたは赤面する。
「せっかくだから写真を取っとくべきだったな」
「そんな若葉のためにとっておいたぞ」
ひなとはそういい、スリープ状態のスマホを取り出した。するとその瞬間ひなたが立ち上がり、ひなとのスマホをぶんどって窓から投げた。
「お姉ちゃん?自分が嫌なことは人にしちゃいけないんだよ?」
「さぁ?何のことでしょう?」
「...ごめんお姉ちゃんの部屋行ってくるわ」
「...ああ!もう!さっき誓いの言葉したばかりでしょ⁉ひなちゃんも嫌だからって投げちゃだめだよ?ほら姉弟仲良く!」
そう言って友奈は扉に向かっていたひなとの手とそのひなとを見ていたひなたの手を取りお互いの体を密着させた。
回りが早く仲直りをしろと言う空気であった。
「「...」」
「...ごめん」
「いえ、こちらこそ...次からは控えますね」
「やめてはくれないのね」
「はい...明日一緒に新しいスマホ買いに行きましょうか...」
「うん...ちなみに写真撮ったのは冗談だよ?」
「...好きな写真一枚だけ消させてあげます」
「じゃ、私の...」
「乃木さんは一回黙ってなさい」
「いやいいよ...その代わりカバーとかかってね」
「それでいいのであれば」
若葉は咳ばらいをして話を戻した。
「...このマイクを使うのは久しぶりだ。白鳥さんと通信していた時は毎日のように使っていたのだが」
「そうですね...随分と昔のことのように感じます」
「私たちは使っていないわね...」
「ねー、一度は使いたかったな...」
そして録音ソフトの調整が終わり、準備が整った。
「はぁ...私たちもしゃべらなきゃならないのよね...」
「しょうがないですよ...だってしゃべるってことになっちゃったんだから」
「こうなったらもうがんばろー」
「俺もしゃべるのか...」
「別にいいだろ声だけなんだから」
「球子さんの言う通りですよ?生ける限り、私たちは歩き続けなければなりません...。ね、若葉ちゃん」
「ああ、そうだとも」
「初めまして、未来の勇者よ。私は乃木若葉」
「土居珠子だ!」
「伊予島杏です」
「高嶋友奈!」
「郡千景...」
「上里ひなと...」
「私たちは西暦二〇一九年、いや、神世紀元年において、勇者の御役目を担っている者。何十年もしかしたら何百年もの先の貴方に、未来の希望を託したものだ」
そしてマイクは杏に渡された。
「バーテックスが出現した日、私たちは多くの物を奪われました。それを取り返すために、私たちは強大な敵に立ち向かい、戦いました」
マイクが友奈に渡される
「一番初めは白鳥歌野ちゃんと藤森水都ちゃん。その次が私たち、さっき自己紹介した人たちと巫女のひな...上里ひなたちゃん」
球子(略)
「神世紀元年の今、四国は戦いから逃れているけど、この声を聞いている勇者の時代にいたるまで、バーテックスとどれほどの戦いが起こるのか、何人の勇者が生まれるのか、タマたちにはわからない!ほんとはわかるけど...」
千景(略)
「でも...すべての勇者たちが...時に恐怖して、悩んで、苦しんで...守りたいもののために生き、戦っていくのだろうと...信じているわ...」
ひなと略
「俺たちの代の勇者は、白鳥歌野からバトンを引き継いだ。そのバトンはいずれ次の代に渡される」
若葉略
「そして次の次の代へ。その次の代へ。それまた次の代へ。何代でも、何度でも、どれほど時間が経とうと...引き継いで行かれるのだろうと私は思う」
杏
「そのバトンは勇気でもあり、希望とも言い、願いともいいます。今の私たちは未来の貴方に対し、何もしてあげることはできません」
友奈
「こうやって声をかけることしかできないね!でも...信じてほしい!あなたの後ろには、バトンを引き継いできたたくさんの人たちがいる。」
球子
「見回してほしい。お前の隣には、今までお前が一緒に過ごしてきた友達や家族がいる」
千景
「あなたが...一人ではないことを知ってほしい...多分、今の貴方はとても苦しんでいるんだと思う...痛いこと、悲しいこと、絶望すること...頑張って、頑張って、それでも耐えられないくらい、つらいことがあったのでしょう...?だからこそこの声が届いている...」
ひなと
「そんなあなたに、俺らが言いたい言葉は、『もっと戦え』でも『もっと頑張れ』でもない。そんな言葉は足かせにしかならないと思うしな」
そうしてみんながマイクに集まる。
「「「「「「生きろ。ただ生きてほしい」」」」」」
若葉
「大切な人がいるなら、その人のことを思い出してほしい。あなたが生きることを諦めたら、その人が悲しむことを思い出してほしい。私は多くの友達を失った。いや友達になれた人だろうか?嫌、友達だ!あなたの大切な人に、私と同じ思いをさせないでやってくれ。その人のところへ、必ず戻ってあげてくれ」
ふぅ、と若葉はため息をついて、満足げな笑みを浮かべた。
「...これ数週間後に黒歴史になってくるやつじゃね?」
「ひなと君、言ってはダメよ...」
「...ちょっと長くなってしまったが、伝えられたいことは伝えられたな!」
「うふふ、ただの勇者システムを残すだけじゃなくて、隠し味を入れることができましたね」
「いるかどうかはさておき、未来の勇者のためにシステムはもっと強化していきたいですね...」
「ええ。でも敵を欺きながら事を進めるには、慎重を期さねばなりません。基礎能力の向上だけでも途方もない時間がかかると覚悟してください。...危なくなれば...一時的に凍結することもありえます」
「まぁその時は俺が何とかする」
「あんまり無茶するなよ?」
「そうだぞ...長く細く研究していく、と言う話だったしな。これ以上の機能を追加する必要もない」
「はい。何よりも基礎戦闘能力の向上に重きを置く、でしたね」
「スキルだけレベルアップしても素早さだったりが足りてないと死んじゃうしね...」
「急いだって仕方がないね!まずは基礎!どんなことでも一緒だね!」
どんなに遅い歩みでも、戦う力と牙を必ず未来に残す...それがこの時代の誓いだ。
「ねぇ、皆さん。私も時々は、『鬼』と言う精霊を憑依させてるんですよ」
「いつもじゃなかったのか」
「球子さん?」
「な、なんでもないです」
「...物の例えですけどね。組織を切り盛りする人間は、心を鬼にしなければいけない時もあります。そのために...大切な人がやってきた功績を奪うということをしなければなりません」
「...俺のことか」
「はい。ひなとは今世間的な名前は私の名前を使っていますから...功績を使ったほうがより楽に、そして安全に大赦内で立ち回れることができます」
「...政治家みたいなことを言うわね」
「大赦の権力は強大です。...ですが、その内部にいる人間がすべて聖人君子と言うわけではありません。権力を利用し、身勝手なことをしようとする人も...きっと出てくるでしょう。そのような人たちに、大赦の実権を渡すわけにはいきません。何とか私が立ち回って、大赦と言う組織の健全さを守っていかなければ...」
『大社』と言う組織は『大赦』として新生した。今後、人員整理や社殿の変更・改築なども行われるだろうし、組織としての権力も一層強まっていくだろう。大赦は変わっていく。その過程で堕落が起こらないとも限らない。
ひなたは、大阪地下で見た日記のことを思い出していた。身勝手な人々が起こした悲劇...あのようなことを、もう起こしてはいけないのだ。
「ではひなと、お願いします」
「うん...と言うかさっきの音声おれやらないほうがよかったんじゃない?」
「いえ、それは私が声を変えたということにしておきましょう」
「はぁ...」
「あ、あとひなとと仲のいい人まで記憶を消してはいけないですからね」
「うん分かってる。うまくいくかはわかんないけどね」
そう言ってひなとはディケイドライバーを取り付け、一枚のカードを使う。
『BRAVERIDE 彼岸花!玉藻の前』
ひなとの姿が玉藻の前を宿している時の千景に変化した。そしてひなとは目を閉じ集中する。するとひなとぁら怪しげなオーラが出て世界...四国を包み込んだ。
その瞬間人々は上里ひなとのことを忘れ、上里ひなとだったところには上里ひなたが出るようになった。そして新聞やネットなどに出ていたひなとは一瞬消え、ひなたの姿になった。俺のことを他の人が見れない様な形で書いたものだったり、俺が書いたものは俺が許したもの以外は空白に見えるようになった。そして世界の書き換えが終わった後ひなとは一つのベルトと、表が緑色、裏が黄色のカードを複数持っていた。
「それは?」
「気にしなくていい。ただ勇者適正や端末がなくても変身できるアイテムだ」
「めちゃくちゃ大事なものじゃないですか!」
「厳重に保管ですね...」
「大赦じゃなくて俺らでね?」
「...もしかして女や無垢じゃなくても変身できるんですか?」
「もちろん」
「...ほんとに重要なものじゃない...」
ひなたたちは丸亀城を出て、寮に戻っていく。
本丸の城郭から見える町は夕暮れの茜色に覆われていた。
ひなたが空を見上げる。
四国は今日も平和で、広く高い空が広がっている。
ひなたは空に向かって手を伸ばした。
空はあまりにも高く、人の手には遠すぎる。
「私たち人間は地に住み、天に見下され監視されながら生きていく...でも、人間は弱いですが、だからこそあきらめが悪いんです」
「そうね...長い長い戦いになるのだろうけど...」
「それでも一歩一歩進んでいくんだね!」
「俺は全員一緒にいれば前を向ける。これまでも、これからも」
「そうだな!」
「...これからもよろしく頼む」
「ずっと一緒にいると約束してくれましたし。それに、どんなに困難な目標でも、為せば大抵なんとかなるものです」
「...ひなと君何笑っているの?」
「いや、やっぱりいい言葉だなって」
「?」
西暦時代の終幕。
バーてくっすとの戦いは一時終焉し、しかし勇者と巫女たちの戦いは続いていく...
神世紀三〇〇年、秋。
讃州中学勇者部の面々は、乃木園子の家で本の整理を手伝っていた。小説のネタのために、その子が実家から送ってもらった大量の本だ。
その中に、『勇者御記』と題された本が発見された。
「のぎ...わかば...私のご先祖様~?この人が日記を書いたのなら、ご先祖様は勇者?」
「そのっ地の先祖が勇者御記をかいていた。家むしろ、子孫のそのっちだからこそ日記に同じ名前が付けられた?」
「そんな昔に勇者がすでにいたってことね...悪戯ってわけじゃないでしょうし...おどろしたわね、友奈」
「...」
風に話を振られるも、友奈は何も答えず勇者御記の最後のページに張られた乃木若葉の写真に、じっと見入っていた。まさに『心ここにあらず』といった表情だ。
「友奈、どうしたの?」
再び尋ねられて、やっと友奈は我に返り、口を開いた。
「いえ、なんでもないです」
「?そう...」
「もっと詳しく調べてみましょう」
東郷は真剣な表情でページをめくっていく。
ほかの人も本を覗き込んだ。
「どのページも塗りつぶされているか空白ばかりね...あ、この辺り、まだ文章が残ってる。御記は一人で書いていたわけじゃないみたいね」
めくられていくページの一部を、夏凜が指差した。検閲を逃れた部分には、人名と思われる単語が記されていた。
「土居珠子...伊予島杏...謎の空白...郡千景...高嶋友奈...え、友奈ちゃん?」
東郷は本と友奈を見比べるように、交互に見る。
「私と同じ名前だ...偶然かな」
「ううん、偶然じゃないと思うな~」
「え?」
園子に注目が集まった。
「えっとね~、昔、聞いたことがあるんだ。『友奈』って名前は特別だって。ずっと昔から、生まれてきたときにこ~んなことをした人にあげられる名前なんだよ~」
園子が両手を打ち合わせるような所作をする。
「...?赤ん坊がじゃれてて遊びをしたときに、偶然そんな動作をする...って感じ?縁起がいいことなのね、それ」
「うんうん、そういうこと~。にぼっしー、冴えてる~」
生まれたときに特別な所作をした赤ん坊には、かつての勇者からとった名前が与えられる...一種の縁起担ぎなのだろう。
「『友奈』と言う名前は、この高嶋友奈と言う勇者から端を発し、神世紀の長い歴史の中で受け継がれた名前なのね...」
東郷が歴史に思いを馳せる一方、風雅片目を押さえながら無駄にポーズを取りながら言う。
「そうか...オヌシは、結城友奈とは...友奈因子を持つ、友奈の一人であったか...」
「訳が分からないよ、お姉ちゃん」
みんなが吹き出すように笑った。
東郷は色合わせた勇者御記を見ながら、
「恐らく、この本はかくして残そうとしてくれたんでしょうけど...」
「結局は見つかって検閲されちゃう辺り、おちゃめな初代様ね...でも、残っているわずかな記述だけでも、西暦時代にも大変なことがあったのはわかる。それは伝わった」
かつての勇者たちも、悩み、苦しみ、傷つき...けれど、懸命に生きてきたのだろう。
友奈は自分の手を見つめる。
「私たちの今があるのは、ずーっと昔からの、たくさんの人たちの積み重ねのお陰なんだね。...感謝しないといけないね」
「そういえばこんな昔でもあんたみたいな異質なのはいないのね」
夏凜がからかうように一人の少年を見た。
その少年、髪が黒で右目が赤く左目が黒い少年は
「わかんねーよ?もしかしたらそのあとにいたかもしれないじゃないか」
と言いながら全面白紙のページを見て笑った。
今は自己満の自己満をかいている途中です。
そのうち外伝をかきます。リリナとか友奈が来るまでは書きません。多分
あ、前に若葉しか生存しなかったルート書いたけど、その場合勇者御記からは千景が消えてひなとが出てきます。ついでに謎の男子()も出てきません。