上里ひなとはts勇者である   作:エフさん

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この小説が神様転生だとのわゆが大体終わるまで気づかなかったエフさんです。いつも通りのポンコツです。今回のポンコツは続け書こうと思ってたら新規で書いてたことです。


第32話 ひと時で仮初の平和

「ん~...」

 

(見慣れた天井だ...)

 

 俺がバーテックスとの戦いから目を覚ました時、まず見えたものは見慣れたくなかった病院の天井であった。

 

(あ~良かった...戦いは終わったんだな...)

 

 そう思い俺の視界はぼやけた。

 

「ひなと⁉どこか痛いところでもあったのですか⁉と言うか目が覚めたんですね...!よかった...」

 

「あ、お姉ちゃん...」

 

 一番最後に見た記憶が一緒に吹き飛ばされて死んでいる姿の人が横に座っていた。生きている姿をみて俺は涙の量を増やした。

 

「え!ちょっ⁉やっぱりひなともなくんですね...」

 

「?ぐす...俺も?」

 

「そうですよ!ひなとよりも皆さんの方が早く退院しましてね。あ、皆さんは検査で一日だけ入院してたんですけど、私に合った瞬間みんな泣いちゃったんですよ!若葉ちゃんなんてギャン泣きで...まぁそのおかげで他の人は泣き止んだんですけどね...今思えば撮っとけばよかったです...それでひなとは何で泣いてたんですか?」

 

「お姉ちゃんに合えたのが...ぐす、嬉しくて...」

 

 そう言った瞬間お姉ちゃんは俺に抱き着いてきた。

 

「そうですか...相変わらずかわいいですね...大丈夫ですよ...私はずっと一緒にいますから」

 

 しばらく無言のまま抱かれているとドアがゆっくり開いた。

 

「...!ひなと君...!目を覚ましたのね...!よかった...」

 

「あ、ちーちゃん...うん。今さっきね」

 

 お姉ちゃんと抱き合うのをやめ、ちーちゃんの顔を見て話す。

 

「そう...ひなと君三日も寝てたのよ?」

 

「あ、結構短かったね」

 

 俺の体に傷はなくただの疲労で倒れただけなので、それにしては長いような気もするがまぁよし!

 

「あ、そー言えば他の皆は?」

 

「花を買いに行っているわ...ひなたさんはここから一歩も動かないような勢いだったし...私も早く...会いたかったから行ってないけど...」

 

「そっかー...」

 

「?どうかしたんですか?」

 

「いやどうせならみんな揃った時に目を覚ましたかったなーって...」

 

「あら?浮気かしら...?気持ちはわからなくないけど...」

 

「?樹海の中でなんかあったんですか?いつもの千景さんなら気持ちはわからなくないなんて言わないと思いますが...」

 

「あ...ひなたさんには話していなかったわね...実はかくかくしかじかで...」

 

「えっ⁉ひなと死んだんですか⁉私も⁉と言うかみんなも⁉」

 

「うん...何回も...やり直して、やっとうまくいったんだ」

 

 俺が例の手が出てこないか確かめるためにゆっくり言うが大丈夫らしい。

 

「まぁ...そんなことだから...全員が揃っているか確かめたい気持ちもわかるわ...」

 

「そうですか...大変でしたね」

 

 そう言ってお姉ちゃんは頭をなでてくる。

 

「...姉弟だからと言うことで今まで無視していたけど...()()ひなと君にくっつきすぎじゃないかしら?ひなたさんには乃木さんがいるじゃない...」

 

 そう言って反対側で俺の頭をなで始めるちーちゃん。

 

「あら?あらあらあらあら、いつから千景さんのものになったんですか?ひなとは()()物ですよ?それに、千景さんには友奈さんがいるじゃないですか」

 

「...いつかは弟離れが必要だとおもうわ...ひなたさん?ちょうど今がその時だと思わない?」

 

(いたいいたい!この人たち頭を強くなですぎだろ...!めっちゃ痛いしめっちゃ頭が揺れているんですが⁉)

 

「...」

 

「...」

 

 静寂な空気が続く中そこに新たな音が追加された。そうドアを開ける音である。

 

「遅くなった...ひなと起きたのか!」

 

「え⁉ひなと君目を覚ましたんですか?」

 

「と言うかすごい状況だね...」

 

「タマも混ぜろー!」

 

 そう言って球は駆け寄ってきた。そして頭をなでるのではなく胸をなでてきた。お前またかよ。どんだけ俺のおっぱい好きなんだよ。

 

「球子さん?時と場合を考えてください?」

 

「そうよ土居さん」

 

「タマっち先輩さいて―...と言うかひなとくんが寝ている時も起きないかなーとか言って触ってなかったっけ?」

 

「さすがにこれは...」

 

「たまちゃん?相手の気持ちも考えないと...ね?」

 

 ものすごく空気の悪くなる病室...その空気に対し俺は

 

「お、俺は別に...いいよ...」

 

「「「「「「え?」」」」」」

 

 俺以外の全員が素っ頓狂な声をあげる。

 

「だからいいよっていったんだよ...好きなだけ...触ればいいじゃん...」

 

「ひなと...前まで嫌がっていたのにいいんですか?と言うか最近球子さんに甘くありませんか?」

 

 お姉ちゃんが不思議そうに聞いてくる。

 

「そう?別にこのくらいならもう何でもいいかな...元気でいる姿を見せてくれれば俺は何でもいいんだー。だから...別にこのくらいのサービスもしてやらんこともない」

 

 そう言って俺は現在進行形で胸を揉んでいる球子の後頭部を抱え、顔面を胸に押し付ける。

 

「フゴフゴ⁉」

 

 いきなりでびっくりしたのか球子が少し暴れたが、次第におとなしくなっていった。

 

「それに...この嫌な空気になるくらいなら...この程度に犠牲でこの空気が収まるなら...それにみんなが仲良くないと俺が戦ってた意味が七十パー位無駄になっちゃうから...」

 

「そっか...そうだよね...ごめんねひなとくん。わたしひなとくんが触られてるのを見てなんかぐんちゃんがひなとくん以外の人、特に若葉ちゃんとかと一緒にいるときと同じ感じになっちゃって、空気が悪いとか特に気にしてなかった...」

 

「た、高嶋さん...」

 

 ちーちゃんが複雑な顔をしながら少しうれしそうにつぶやく。これもうどっちが浮気してるかわかんねぇな()

 

「おほん...さて話を真面目にしますので皆さんしっかりと聞いてくださいね。球子さんももうそれ、やめてください?皆さんのおかげで四国の防衛は成功しました。よって明日結界の強化の作業に入るそうです。なので明日皆さんは血を抜かれる準備をしといてください」

 

「う、私注射苦手かも」

 

「友奈さんとひなとくんが一番血を抜かれなきゃならないんですよね...」

 

「俺起きたばかりなんだけど...」

 

「大丈夫です!きっと何とかなります!ならなかったとしても私がつきっきりで看病しますので安心してください!」

 

「あ、ひなた。そこはタマたちもやるからつっききりにならなくてもいい。タマ達に任せタマえ」

 

「そうですよひなたさん!自分一人で何とかしようとしないでください!」

 

「いえいえお構いなく...」

 

「「「「「「「...」」」」」」」

 

 この後女たちはずっとにらみ合っていた。俺は怖くなって寝たふりをした。

 

 

 

 

翌日...

 

 俺らは少し大きめの病室に来ていた。

 

「と言うわけで規定の量よりとりすぎてしまった場合はこのランプが鳴りますので取った後でもしっかり動けるはずです」

 

 と目の前にいる前に俺にちーちゃんについての歴史をなくせとか言ってきた大社のやつが言ってきた。

 

(あいつ医者の資格持ってたのかよ...と言うか物凄く嫌な予感がするな)

 

 そう思いつつ、みんなが血を抜かれている様子を見張っていたが特に問題がなく、ちーちゃんもほかの人も抜かれる量は変わらなかった。何なら必要量の多い友奈の方が吸われていたぐらいだ。

 

「次はひなとの番ですよ」

 

 目を見ると若葉が注射した後に張られる絆創膏を張っているところだった。

 

「次...どうぞ」

 

『BRAVERIDE 山桜!』

 

 大社のごみ...いや、もしかしたら改心したかもしれないから職員でいいか...が呼びかけたので俺は友奈の姿になってから席に着く。そして消毒だか、ただただ濡れているのかは知らんが濡れている布で左腕のひじの内側を拭かれる。そして管のついた針を俺の腕にさしてきた。赤い液体が管を通して血をためるところに入っていくのを一瞬見てから俺は張りとは真逆の方向を見た。その方向にはお姉ちゃんたちがいて俺がそっちを見た瞬間少しだけ微笑んだ。勇者になった俺の再生能力はすごいらしく、三十分採血されても何ともなかった。ちなみに勇者の状態なのに針が刺さったのはご都合的なあれである。

 

 

 

 

そのまた一時間三十分後...

 

「はぁ...はぁ...」

 

(や、やばい...そろそろきついかも)

 

 視界が暗く染まったり色が見えなくなったりと、なんかくらくらした。

 

(頭痛がいたい...)

 

「あの、すいません。そろそろひなと君やばそうなんですけど...まだ続けるんですか?」

 

「ん?だってまだランプついてないですよね?」

 

「それは規定量を超えたときに出るものであってとっている人のが危険な状況になったときを知らせるものではないですよ」

 

「あ~...伊予島様は勇者の力を低く見ているんですねー。大丈夫ですよこのくらい」

 

「あなたが過信しすぎているんですよ?いいから早く終わらしてください」

 

「いいんですか?まだ規定量に達していないですが?もしかしたら結界の強化が失敗してしまうかもしれませんよ?」

 

「そもそも規定量なんてありませんよね?確か人一人分の血液が必要と言っていましたがもうその分はとれているはずです。そしてそれで救えなかった場合、私は...いえ私たちは仲間を失ってまでこの世界を救いたいとは思いません」

 

「あ~そ~ですか...」

 

 そう言って大社のごみは針を乱暴に抜いた。その瞬間俺は限界を迎えたのかその瞬間俺の変身は解けいつもの姿になり、椅子から落ちそうになる。

 

「うおっ⁉あっぶな!」

 

 球子がすぐに駆け寄ってきて椅子から落ちることはなかったが自力で立てるほどの気力はなかった。

 

「おい!絆創膏は⁉」

 

「そんな小さな傷勇者ならいらないでしょう?資源は大切にしないと...それでは部屋で安静にしていてくださいね。もう帰って大丈夫ですよ」

 

「はぁ...?この状況で...帰らせるの...?」

 

「当然ですよ。たかが貧血で病院の一室があけられるはずないじゃないですか」

 

「いい加減にしてください!それが世界を救った人に対する態度ですか⁉」

 

「それを支えたのは私たちでしょう?と言うかあなたこそあまり勇者の役に立っていないのでは?そもそも世界を救ったといいますが、反逆者もいるしまだ救ってないですよね?」

 

「っ!」

 

「ぐんちゃん、気にしなくていいよ」

 

「...早く帰るぞ」

 

「若葉さん⁉いいんですか⁉」

 

「いいんだ。こんなやつがいるところにひなとは任しておけない」

 

「それもそうですけど...」

 

 若葉はこちらの方に来て俺を抱きかかえた。

 

「わ...かば...」

 

「大丈夫だぞ...ひなと...」

 

 その言葉を聞いた瞬間俺は意識を落とした。

 

 

 

 

「あの医者もどき...私が大社を牛耳ったら覚えておくんですね...」

 

「ひなちゃんがめっちゃ怒ってる...当然だけど...」

 

「とりあえず今日から...レバーかしら...?」

 

「レバーもいいですがバランスの良い食事も大事ですね...あと手料理なのもいいかもしれません...じゃぁ私が作りますね」

 

「杏料理できたのか?まぁできるとかできないとか関係ないなタマも手伝うからな!」

 

「その次は私が作りますね。若葉ちゃんも一緒に作りますか?」

 

「ああ、そうすることにしよう」

 

「ぐんちゃん一緒に作ろ?」

 

「いいわよ...高嶋さん...」

 

 

 

 

 俺がきづいたときにはもう部屋の中にいてベッドの中だった。

 

(体がめっちゃ重い)

 

『なぁひなと』

 

(なんだ?)

 

『俺らもうお別れじゃねーか』

 

(そうですね)

 

『分けれる前にあの医者殴ってきてよいか?』

 

(俺を人殺しにするな?)

 

『その位勇者の力なら許されるじゃろ』

 

(だとしてもね?俺はなるべく穏便に事を勧めたいんだよ...もう勇者とも認識されたくないんだ。なんか日常が欲しい...)

 

『それが百合まみれの日常ならもっと素敵ね...』

 

(黙れや...)

 

ガチャ

 

 精霊たちと話していると突然ドアが開き料理を持った杏が出てきた。

 

「あ、ひなと君起きたんですね」

 

「タマたちが作った飯だ!残さず食えよ?」

 

 料理を見てみると様々な野菜、少し大きめのレバー、大盛りのご飯、そしてキノコの入ったみそ汁?があった。

 

「あの...大変申し上げにくいのですが、寝起きと言うか起きたばかりで体がだるく食欲が...」

 

「大丈夫です!ゆっくり食べればいいんです!ほら食べさせてあげますから何から食べたいか言ってください」

 

「え、いやいいよ。自分で食べれるよ?」

 

「まぁ念のためだ!タマに任せタマえ!」

 

「え~...じゃ野菜」

 

「野菜ですね...はいあーん」

 

 杏はフォークで野菜を突き刺し俺に向けてきた。

 

 

 

 

 なんやかんやあって何とか完食することができた。そしてローテーションしているらしく、杏たちの次はちーちゃんと友奈が来て、その次はお姉ちゃんと若葉が来た。全部俺から食べるということはなかった。

 

 

 

 

三日後...

 

 俺らは瀬戸内海の壁の上に立っていた。大社曰く、結界の外のバーテックスに常時と異なる動きがみられるから調査してこいとのこと。侵攻ではなく、何らかの未知の事象が起ころうとしているらしい。

 以前、壁の外の超巨大バーテックスの調査任務があったとき、お姉ちゃんは俺たちの足手まといになるからと言って同行しなかったが、お姉ちゃんが”外の世界も見ておきたい”といったので一緒に行くことになった。

 俺の目の前には神樹の作った偽物の景色が見えている。

 

「行くぞ、ひなた。ひどい光景だから、きっと見るのがつらいと思うが...」

 

「大丈夫です。覚悟はできていますから...それにものすごく大きなバーテックスは倒したのでしょう?そんなことよりひなとの方が心配です」

 

 そう言いながらお姉ちゃんは俺の方を見る。俺の体調は完全に回復していない。それのせいで壁に飛び乗るとき周りより跳躍力が足りなく壁に激突してしまったりしてしまった。

 

「うん...多分...大丈夫」

 

「ひなと君...無理しなくていいわ...やばくなったら肩...貸すからいつでも言ってね...」

 

「あ、うん...ありがと...」

 

 そうして俺らは壁の外側へ足を踏み出す。壁上のある位置を越えたところで視界に映る光景が変わった。前、超巨大バーテックスがいたところを見るとそこには大橋があるだけだった。

 

「あ...あれ...」

 

 杏が絶望したようなかすれた声を出しながら上空を指差した。みんなが上を見上げるとはるか上空に超巨大バーテックスがいるのが見えた。

 

「え...何かいるんですか?」

 

 勇者の視力でやっと見えるところにいるので見ることのできないお姉ちゃんは不思議そうに聞いてくる。

 

「あー、ちょっと待ってね」

 

 俺はお姉ちゃんの目の前に魔方陣を作ってお姉ちゃんに魔法をかけた。そして俺は再び超巨大バーテックスを見た。

 

「???左目だけ変なのが見えます...」

 

「あれ?片目だけなの?両目にかけるつもりだったのに...えっとね...今お姉ちゃんにかけた魔法は俺の見ているものをお姉ちゃんにも見えるようにするって魔法。原理は知らん」

 

 超巨大バーテックスは中身が詰まっているのか透明ではなかった。でも御霊は入ってなさそうだった。

 

「あんなに...苦労して倒したのに...バーテックスは無限に発生し続けるというの...?」

 

―!

 

―!

 

―!

 

 突如、おぞましい音が上空にいる超巨大バーテックスから響き始めた。前聞いた不快な音よりかは大きくないし不快でもないが、それでも不快で人類が出せないような音だった。同時に上にいるバーテックスが妖しく輝いた。規則性がなく、次々と色を変えながら明滅を繰り返していた。

 

「おー⁉なんだなんだ⁉」

 

「うおっ⁉」

 

 急なめまいとともに立っていることが難しいほどの振動が襲ってきて俺は壁から落ちそうになった。

 

「ひなと君⁉」

 

 近くにいたちーちゃんが慌てて支えてくれたので落ちることはなかった。お姉ちゃんは大丈夫かなと思って見てみると若葉につかまっていた。

 

 しばらく不協和音と不気味な明滅を見聞きしていると上空がいきなり明るくくなった。超巨大バーテックスが第二の太陽になったのだ。第二の太陽は少し大きくなった後、ゆっくりと落下を始めた。

 

「...さっさと結界に入るぞ...」

 

「え...見なくていいんですか?」

 

「見て何になるんだ...ただ太陽が落ちてきて破壊されている様子を見ていろと?」

 

「いやそうじゃなくて...止めないんですか」

 

「杏...お前俺を何だと思ってるんだ...止められるわけなかろう...ものすごく頑張ればなんか行けそうな気もするけど今の状態なら無理、絶対無理」

 

 俺がそういうと全員結界の中に入った。

 

「なんだったんだろう...さっきの...」

 

 友奈は青ざめながらつぶやいた。と言うかみんな顔色が悪かった。

 

「わからないわ...でも今は...出ないほうが良いと思うわ...」

 

「...」

 

 みんな力が抜けてしまい結界の上で膝をついたり、体育座りをしたりした。

 

 

 

 

しばらく時間がたった後...

 

「そろそろ出ても大丈夫でしょうか...」

 

「わからないですが、出ないことには状況は変わらないでしょう...それにひなとも余裕そうですしね」

 

「体調の方は最悪だけどね」

 

「帰ったらまた寝かせるわ...」

 

「うん!そしてまたお料理作ってあげるね!」

 

「あ、お構いなく...」

 

 

 

 

 他愛もな会話を少しだけしてから全員でためらいながら結界の外に出た。

 

「...‼」

 

 そこに広がっているのは、以前と全く異なる世界だった。天地が赤く不気味に脈打ちていて以前の地球の姿は、もう跡形も残っていなかった。

 

「世界が...壊された...?」

 

「いえ...破壊なんてものじゃありませんこれは、世界の理そのものが書き替えられたんです...!」

 

 すでにこの世界には、人類が遺してきたものが存在しなかった。人類が暮らしていた民家も、大都市のビルも、白鳥さんが守ってきたところも、俺の両親が俺を育てたであろうところも...

 すべて失われてしまったのだ。まぁ時が止まっているだけだから生き残りはぎりぎりいるかもしれないけど...

 

「人類の再起の可能性を...徹底的につぶしているんですね...」

 

「そんなことあって、いいのかよ...」

 

「あ...私の生まれた場所...まだ...形だけは...あったのに...」

 

「高嶋さん...」

 

 ちーちゃんが友奈を抱きしめて背中をさすっている。

 

「ひなと君...」

 

「なに?」

 

「このこともわかっていたんですか?」

 

「まぁね」

 

「...そうですか」

 

「く...そ...」

 

 若葉は歯を食いしばりながら壁を叩いた。

 すべてを知ってながら黙っていた俺は目をそらした。

 

「ひなと」

 

「なんだ」

 

「これが...この世界は...!本当に三百年後に復刻できるのか...?」

 

「できるよ...それは間違いない」

 

「そうか...」

 

 若葉はそれだけ言って結界の中に入った。

 

 

 

 

 丸亀時に戻ってきた後、お姉ちゃんと一緒に大社に結界の外で起こった出来事を報告した。

 世界が書き替えられたのと同時刻にほかの巫女たちも神託を受けており、大社も事態を把握していた。

 結界の強化が間に合ったお陰で、何とか四国は崩壊を免れたらしい。と言うかあれで結界を守るの成功したんだな。

 

 

 

 

 結界外の調査任務を終えた後、みんなはこれまで以上に鍛錬に打ち込むようになった。俺の言った最後の戦いと言う言葉を忘れているようであった。無駄だとわかっていても一応俺も参加しといた。

 俺らが鍛錬をしている間に大社は大型バーテックスに名前を付けた。便利ではあるがのんきな奴らである。

 

 

 

それは鍛錬を続けていたある日のことであった...

 

 いつものように夕方になるまで訓練して疲労で足や腕が動かなくなってきた頃、お姉ちゃんが姿を現した。

 

「今日も訓練しているんですね」

 

「ああ。いつバーテックスが来るかわからないからな...」

 

「せめて...諏訪...それが無理なら奈良までは...取り戻さないと...」

 

「ぐんちゃん...私はもう大丈夫だよ」

 

「だとしても少しは反逆しないといけないだろ?」

 

「...」

 

 杏が俺を見てくるが俺は気にせずにお姉ちゃんを見た。

 お姉ちゃんがみんなを見つめる。その瞳には、どこか感情の読めない冷たさがあり、俺は身震いした。

 

「...少し話があります。皆さんはもう、戦う必要はなくなりました」

 

「...そんなことはない!」

 

「そうですよ!まだいろいろやることが...」

 

 他の皆も何かを言おうとしていたが、お姉ちゃんはそれを遮るように淡々と言葉を続ける。

 

「今は結界で持ちこたえていても、神樹様の力が尽きた時、私たちは炎の海に飲まれ、すべてが終わります。もはや人類の根絶は完了したといえます。そう...ここまで絶望的だからこそ...活路があったのです」

 

「どういうこと...?」

 

 ちーちゃんの疑問に答えることなく、お姉ちゃんちゃんは感情を消した声で語り続ける。

 

「大社は祭りを行ったのです。壁の外で...そして、天に話し、願ったのです。今後、この力でないことを条件に、侵攻を赦してもらいたい、と」

 

「話...?そんなことができるの」

 

「神代の時、それで許されたという前例があります。...この葦原中国は、命のまにまに既に献らむ。(略)...かつて土地神の王が、天の神にそう誓ったことがあります。自らの住処から出ないことを代償に、その地を不可侵にして赦してほしい、と。今私たちはその模倣をしたのです。地に棲まうものたち...つまり我々の根絶こそが、おそらく敵の目的。それがほぼ成就している今、このタイミングだからこそ、可能だったんです。私たち巫女は神託を受け取るもの。神の声を聞き得るもの。その巫女たちにこちらの話を届けてもらいました...天に」

 

「...どうやったんですか...?」

 

「...炎の海の中へ」

 

「「「「「...⁉」」」」」

 

「六人の巫女が、選ばれました」

 

「まさか、生贄にしたというのか...⁉」

 

「若葉ちゃん達が絶対に反対するだろうから、こうして終わった後に私が話しているんです」

 

 無感情に、淡々と、ひなたは言葉を続ける。

 

「ひなと...お前このことも知っていたのか...?」

 

「うん...」

 

 そう言った瞬間若葉は俺の胸ぐらをつかみ持ち上げ右手で殴りかかろうとした。が、やろうとしたところで止まり俺を地面に放した。

 

「いいの?」

 

「...殴ってももう意味はないからな...それに私はお前を殴りたくはない」

 

 俺は若葉の悲しそうな背中を見て思わずつぶやく。

 

俺が生贄になったほうがよかったかな...俺一人で済むだろうし...

 

 そうつぶやいた瞬間若葉が一瞬で反転し右手で俺の顔を殴った。殴りたくないって言ったやん...

 

二度と嘘でもそんなことを言うな!わかったな?」

 

「うん...」

 

 俺は殴られたところをさすりながら返事をした。周りの目は冷たかった。

 

「話を戻しますね...本来は私も生贄に選ばれるはずでした」

 

「な...っ⁉」

 

「でもうまく立ち回って、人選から外れることができました。死ぬのは嫌ですし。ずるいんです、私は」

 

 お姉ちゃんはそう言って、薄い笑みを浮かべた。

 普段俺を優しく時には厳しく見てくる目ではなかった。でもそれは作っているものであるというのは若葉より長い付き合いではないがわかってしまった。

 

「...俺のせいだよね?俺が時間を戻れるから...発動条件はわからないけど...それで俺が戻って変わったり、戻りすぎてうまくいったものがなくなるのを防いだんだよね...?」

 

「それもありますが...皆が目覚めて私を見た時に涙を流しているのを見て、私が死んだら大社にカチコミし、暴れるかもとも思ったんです。それじゃ私も死に切れませんしね...それに皆さんにもう戦わせるわけにはいきませんし...敵も強くなりすぎていますから...。今までは、勇者が頑張ってきました。だから今度は巫女が頑張ったんです。儀式が終わった後...神託が来ました。この地から出ずに、上里ひなと以外の勇者の力を放棄し、上里ひなとが結界外で力を使わなければもう攻められることはない、と」

 

「力を...放棄...」

 

「人が神の力を使うことは禁忌...と言うことでしょう。彼らからすれば。なぜひなとが大丈夫なのかは知らないですが」

 

「くっ...!」

 

 みんなは何も言えない様子だった。ほかに方法はなかったのだから。自分たちに人々を守る力がない以上、何も言う資格はない。

 

「ううう...うううううぅ、うああああああああああああああああああああああっ‼」

 

 若葉が膝から崩折れ、叫び...泣いた。他の皆もなき方は違えど目から雫が出ていることは確かだった。

 

「ひなとは泣かないんですね...」

 

「俺になく資格はないよ...だって俺は最初からあきらめて戦ってたんだもん...三百年後があるだからここでバーテックスを完全に倒す必要はない、土地を取り戻す必要もないって。俺はみんなが生きてればいいとしか思っていなかった。努力だって俺はしていない...だから俺には...」

 

「そうですか...」

 

「そういうお姉ちゃんは泣かないの?」

 

「私は戦っていませんから...私も泣く資格はありません...」

 

「...同じだね」

 

「そうですね...」

 

『ひなと...』

 

『我らはもうおぬしの傍にはいられん...もともと我らはひなとの力ではなく神樹の力だからな...』

 

『本当は奉火災が終わった後にすぐ離れる予定じゃったが』

 

『少しだけ猶予が与えられたのよね』

 

『と言うわけだ...短い間だったがお前との生活...主に小説だが、楽しかったぜ』

 

(おい)

 

『もう少し酒が飲めるようになっておくのじゃよ』

 

『我らは離れるが神樹から見守っている』

 

『だからずっと女の姿でいなさい...私の百合のためにね...』

 

『じゃあな』

 

 そうして俺の体は軽くなった。

 

(最後まで私欲まみれのやつらだったな...あ、大天狗は違ったか...あれがまとめてくれればもっと良かったのにな...ありがとうぐらいは伝えたかったな)

 

 

 

 

 

 

 みんなは長時間泣き続けた。

 俺とお姉ちゃんはそんなみんなをずっと見ていた。

 日が落ちて、夜になって。

 みんなの涙と声は枯れ果てた。

 そしていつの間にか夜は明け、部屋の窓から朝日が差し始めていた。

 俺らは丸亀城本丸に立っていた。

 朝焼けと、人々の住む町、その向こうには瀬戸内海があった。

 みんなの顔には絶望も悲哀もなかった。

 

「私たちは多くのものを失った...」

 

「そうね...だけど...ここにいた人たちの命は守ることはできたわ...そして日常も...」

 

「そうですね...でも、まだ戦いは終わっていません」

 

「そうだな!」

 

「...でも今の状況ってどんな感じだっけ?」

 

「敵は神だな、天の神。...目的は人間を滅ぼすこと...理由は知らん。ゆゆゆの永久の謎だ。ただ言えることは人が神の力を使うのを嫌っているだとか、人間が神に近づいたからとか言われてるな。知らんがな。じゃ、なんで人に学習能力を与えたんですかね...」

 

「ひなと、論点がずれています。そして味方も神様です。こちらは地の神ですね。それが集まったのが、神樹様...」

 

「四年前...運命の七月。天変地異が起こった時、天の神と土地の神は戦っていた。そして土地神は敗北した...結果勝者である天の神がバーテックスを降らせた。土地神たちは力を合わせて神樹となり、人に神の力を与えた。なんかひなとは生まれてきたときから持っていたらしいが、そこは考えないものとする」

 

「うん!だんだんわかってきたよ。そのバーテックスに対抗できるのが...私たち勇者だよね?」

 

「そうだな!それでタマたちはバーテックスと戦ってたけど、向こうが無理やり突破してきたんだよな!善戦はしてたのに...」

 

「多分私たちが善戦をしたから向こうが焦ってこんなことをしてきたんだと思います...圧倒的劣勢ですね...でも、他地方の人たちや巫女の人たちの犠牲を経て...私たちは命をつなぎました」

 

「でも...これは一時的なものに過ぎないわ...一度は完膚なきまでに叩きのめされたとしても...力を蓄え...いつかはそいつを倒す...ゲームでもよくある展開だわ...歴史にしてもね...今の私たちでは火力とかいろいろなものが足りない...だから勝てる力をつけなくてはいけないわ...」

 

「ええ。私もこう見えて怒ってますから。絶対に挽回しましょう。神樹様が消えれば四国は消えるとはいえ、三百年後には勝てているんです。その間に勝つための対抗策を見つけ出すんです」

 

「そうだな」

 

「問題は、この流れだとひなと以外勇者システムを放棄しなければならない、ということ...そしてひなとのはひなとしか操れないし、いじることもできないということ」

 

「そうなると表立って研究はできなくなりますね...ばれないように細く長く根気よくやっていくしかないのかもしれません...」

 

「そのためには...恭順が必要か...」

 

 若葉が悔しそうにつぶやいた。

 

「そう...だね...」

 

「そうなるとタマたちは何をすればいいんだ?」

 

 タマはお姉ちゃんの方を向いて聞いた。ここからはお姉ちゃんが何とかすると思っているのだろう。

 

「まずは大社の名前を大赦に改めます、赦されたものとしての自覚を表しましょう。そして慎ましく人と生きていくことを示しましょう」

 

「大赦...屈辱的な名称だ。だが、だからこそ忘れないでいられる。敗れたことの絶望を。土地や様々なものを奪われた悲痛を」

 

「はい。そして名前を変えることの最大の目的は、それを口実に組織改革をすることです。今のままでは、あまりに組織としてお粗末すぎます。大事な勇者を大切に使えない人がたくさんいますしね。もっと、秘密をしっかり隠せるような組織を作り上げる必要があります」

 

「う~、なんか難しい話してる?」

 

「大丈夫ですよ、友奈さん。これは私や安芸さん、花本さん...残った巫女たちの仕事ですので。神託を受ける立場として、上手く立ち回って見せましょう。私は、ずるい女ですから」

 

「...だったら私たちの役割は民心の安定ですね...人が生きていく希望だったりなんかになればいいですね。その裏で、私たちは力を蓄える...やることは多いですね。まずは勇者システムの基礎戦闘能力を向上させなければなりませんね。神樹の根が守る世界ならなんとかなりそうです。それでひなと君、三百年後の勇者システムはどんな感じなんですか?」

 

「最終アップデートの一個前だったら...まず死なないでしょ、心臓が止まってても生きるよ」

 

「は...?」

 

「で、俺らが倒してきたやつを基準にして考えると星屑と変わんないだろうね」

 

「はい?」

 

「俺らが最後に倒したやつも精霊の力を身に宿さずに倒せると思う」

 

「...先は長そうですね...でも時間をかければ人間の学習能力で敵を倒すまでにシステムを進化できるのは証明されましたし、世界の理を戻す術だって分かるはずです、こちらには未来人と神様がいますしね」

 

「俺未来人じゃないけどね」

 

「どちらかというとー、預言者?」

 

「転生者だ」

 

「...今は和睦する...だが、必ず...」

 

「タマたち人類が、必ず人々の日常を取り戻す!」

 

「怖いのは...長い間にこの意識が薄れていくことね...まぁ今を生きている私たちが...生きていない時を心配するのも...無駄な気もするけど...」

 

「やれるだけのことはやっておこうよ!未来になんか残したりとか!」

 

子孫とかしか思いつかねー

 

「子孫ですか...」

 

 

 

 

 そうして若葉を中心として勇者は英雄として人類の先頭に立つ。

 バーテックスの侵攻は止み、人類は平和の時を迎えた。

 

 

 

 

神世紀元年...

 生き残ることを赦された人類は、大社を大赦と変更し、年号も神樹を中心とした神世紀へと改めた。

 

 

 

 

神世紀七十二年...

 俺は死んだので分からないが、歴史的にはバーテックスの襲来を実体験した最後の生き残りが老衰で死亡。

 

 

 

 

神世紀百年...

 平和の時代は百年を迎える。神世紀以降、バーテックスの侵攻は皆無。バーテックスや勇者、天空恐怖症候群などと言う言葉は現実感を失い、歴史上の用語としてのみ人々に語られるようになる。

 ただ独特な習慣は続いていた。生まれたときに特定の行動...例えば逆手を打ったりした女子には、大赦から壁を強化するにあたって一番重要な人物、英雄・高嶋友奈のあやかり、『友奈』と言う名前が贈られる。天の神に対するささやかな反骨なのだろう。

 また大赦は新たなる百年を記念し、人々の精神的安寧を守るためにも、バーテックスの驚異をあらゆる記録から削除。危険度の高いウイルスによって四国外は壊滅したという説を流布し、定着させていく。

 しかし。

 人類でさえほとんどのものが知らぬ秘密裏に、勇者システムの研究は続いていた。

 長い年月の後、それが大きな意味を持つことになる。

希望は、未来に託された...




後は外伝と番外編を書いてのわゆは終わる予定です。多分?
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