上里ひなとはts勇者である   作:エフさん

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①とは書きましたが、正直これで終わりなきもします。と言うかなんか思いつかない限り終わりです。
あ、ハッピーニューイヤー。
文字数が四倍くらいですが俺の文章力はいつも通りです。


第33話外伝①

 花本美香。ミカではなく、よしか。

 でも私は友達から正しい名前で呼ばれたことがほとんどない。

 幼稚園時代、他の園児たちは私のことを「ミカ」と呼んだ。保育士が私の名前を勘違いしてみかと呼んでおり、それが他の園児たちに広がってしまったのだ。両親は私の名前が間違われていることに気づき、よしかだと訂正したが、園児たちにはすでにミカと言う呼び方が定着していた。彼女たちは悪気がなく、私のことをミカと呼び続けた。

 小学校に入っても、私はミカと呼ばれ続けた。幼稚園時代の知り合いは、引き続き私をミカと呼び、それが周囲に広がっていった。また、小学校になれば漢字を読めるものも増えてくるが、私の美香と言う名前は、普通に読めばよしかではなくミカだった。

 だから私はミカと呼ばれ続けた。

 悲観的な気分になった。私はこれから先も、ずっと他人に本当の名前を呼んでもらえないのだろうか。

 名前を呼ばれない。些末なことかもしれないけれど、私自身の存在がなくなってしまう気がして、ひどく悲しかった。

 

 

 

 

 しかし二〇一五年七月三〇日、私は彼女たちに会った。

 日本全国にバーテックスが現れたその夜、私は自分でも理解のできない衝動に動かされ自転車で家を飛び出した。今思えば、あれも神樹の神託の一つだったのかもしれない。私体がいた地域は偶然にもバーテックスは出現しておらず、危険なく移動することができた。時々強い地震が起きて足止めされることもあったが、私は何かに導かれるように自転車を走らせ続けた。

 たどり着いたのは、管理をする者がいなくなり、荒れ放題になった小さな神社の社。私の家も神社だからわかるが、このように管理者のいない神社は全国的に少ない。

 社は地震のせいで倒壊していた。そして壊れた社の前に、錆びた刃物のようなものを持った少女と、それを見て少し険しい顔をしている少年がいた。どちらも私と同じ年齢くらいであろうか。

 黒髪の少女は月明かりの下に立っていて、その光景は現実離れして見えた。整った容姿でありながら、手に持っていた錆びた刃物が、幼い女の子と言う存在に対してアンバランスだったからだろうか。

 けれど...その姿は美しかった。

 私は言葉を失った。目の前にいる女の子が現実の存在ではなく、神か天使のように思え、声を発した瞬間に消えてしまいそうな気がした。体が緊張してうまく呼吸ができない。

 私が呆然としていると近くにいた少年が話しかけてきた。

 

「はなもとよしか...さん......えっと...呼吸止まって少し顔色悪そうですけど...大丈夫ですか...?」

 

 どうして私の名前が分かったのだろう?この人は目の前にいる神様の眷属なのであろうか。そうに違いない!人は神などの前に立った時、その存在に畏怖して平静ではいられなくなるという。だからこんなに緊張するし、心臓がどきどきするし、呼吸もうまくできなくなるのだ。私がそんなことを思っていると目の前の神も私の方を見た。

 

「はなもと...よしか、さん...?よしか、みか、よしよし、みよし...どう読むのが正しいのかしら...?私は...よしかだと思ったけど...」

 

 私は神に話しかけられた歓喜に声を震わせながら、やっと答えた。

 

「よ、よしかです!私は花本美香です!」

 

「そう...わたしも...美香が一番いいと思うわ...。ありふれた名前じゃないし...奇をてらいすぎてもいないから...」

 

 初対面で本当の名前を呼んでもらえたのは、生まれて初めてだろう。

 しかも神様みたいな人とその眷属みたいな人に!

 たったそれだけのことで、今までクラスメイトの誰にも正しい名前を呼んでもらえなかったことが、すべて帳消しになったように思えた。

 報われた。私は報われたのだ。

 

「か...神様!それにその眷属の人!どうして私の本当の名前が分かったんですか⁉」

 

「「...は?神(眷属)?」...と言うか俺無視されてんのかと思ったわ」

 

 彼女とその近くにいた男は怪訝そうな顔で見合わせた後、私の自転車を同時に指差した。前輪のカバーに、持ち主...つまり私の名前が書かれていた。

 

「それ...あなたの名前でしょう?」

 

 名前を当てられたとは神通力ではなかったようだ。でも眷属の方は自転車を見てなかったような気もした。それでもよしかと読むことができたのは、やはり奇跡の御業だろう。

 

「どうして、名前の読み方が分かったんですか?」

 

「私は...よく自分の名前を間違えられるの...。だから他人の名前はできるだけ...間違えないようにしている。いくつかのパターンを考えて...あなたに聞いて、正しい名前が分かったわ...花本美香さん」

 

「俺は、前ふざけて名前を間違えたらいろんな形でボコボコにされたからな...それ以降は間違えないようにしてる...ちなみに勘」

 

 

 

 

 私があの夜に会った神秘的な少女は郡千景と言う名前で、その付き添いの少年は上里ひなとと言う名前だった。二人は神様でも眷属でもなかったが、勇者と言う特別な力を持つ人間だった。

 勇者である彼女たちは大社と呼ばれる組織に保護された。そして私は、勇者・郡千景、上里ひなとを見出した巫女と言う立場になった。

 私の家は小さな神社だから、巫女としての仕事にやり方を親から教わったことはある。しかし大社の言う巫女とは、神社で舞を舞ったりする巫女ではなかった。神の声、すなわち神託を聞く女性のことだという。

 私が郡千景様と上里ひなた様を見出すことができたのは、巫女としての力のお陰だったらしい。

 その後私は、巫女として大社に入るように要請された。だが父は私が大社に入るかどうかを、私自身に選ばせてくれた。もし大社に入ることが嫌ならば断わっても構わない、と言ってくれた。

 

「入るわ。大社に」

 

 わずかの迷いもなかった。大社に入れば郡様達に少しでも近づくことができるからだ。

 

 

 

 

 けれど、巫女は大社内の施設で暮らし、勇者様は丸亀城で暮らすことになっていた。普段の生活の中で、巫女と勇者様の間に接点はなかった。

 ただし、巫女として勇者様たちをサポートするため、六人の勇者様のプロフィールや生い立ちなどを教えてもらうことができた。特に私は郡様と上里様の巫女と言う立場だから、彼女たちに関して大社が持つ情報はすべて知らさせてもらえた。

 郡様が生まれてきた環境は、吐き気を催すほどひどいものであった。

 父親は子供がそのまま大人になったしまったようなくずで、家族を蔑ろにした。母親は不倫し、娘を捨てた。そんな家庭の状況を知った周囲の大人たちは、郡様を蔑み、嘲笑し、忌み嫌った。学校ではひどいいじめを受け、心身ともに虐げられた。

 地獄だ。

 しかしそんな地獄にも一本の糸が現れた。ひなと様である。彼は五歳の時に両親を事故で亡くし、上里家に引き取られた。そしてそこからニ、三年たった時に母親が転勤で高知に引っ越すことになり、その時にひなた様もついていき郡様の村に引っ越してきた。そしてそこから郡様をかばい、一緒にいじめられることになったという。まぁほぼ返り討ちにしたそうだが...とにかく、ひなと様は眷属ではなく神様とともに地獄を一緒に過ごす守護神的な人だったのだ。そんな人を軽くスルーしてしまったと気づいたときに私は少しだけめまいがした。ちなみにひなと様には義理の姉がいるらしく私と同じ巫女らしい。そして郡様の親権はクズではなく上里家が今持っているそうだ。

 今までの人生が苦痛に塗られていた分、これからの郡様はひなと様と苦痛に耐える生活ではなく、幸せな生活を送る生活にならなければならない。彼女たちは勇者と言う選ばれた存在になったのだから、これからは過去の不幸を補うほどの、幸福になる権利はあるはずだ。

 これから郡様たちは、勇者として栄光に満ちた道を歩まれるのだろう。私はその手助けをしたい。

 けれど私は、その後郡様達に合わないまま...三年以上も過ぎてしまった。

 

 

 

 

「上里ちゃんが受けた神託の四国の危機ってまだ来ないわね」

 

 食堂で夕食を食べながら、私は安芸先輩は話していた。安芸先輩とは私より一つ上の巫女で、勇者・土居珠子、伊予島杏を見出した人だ。

 今は二〇一九年の四月、もう桜が満開になっている季節だ。上里さんがまもなく四国に危機が訪れるという神託を受けてから、しばらく時間が経ってしまった。その間、バーテックス襲来は一度も起こっていない。

 

「JKのあたしとしては、いつ危機が来るのかって不安だわ。やっぱりJKだから、色々なことを考えないといけないしjk」

 

 安芸先輩の語尾が変になっていた。ついでに最後のはめんどくさそうな感じだ。

 

「jkと言いたいだけでしょう、安芸先輩は...」

 

「だって環境は変わらないし、周りにいる人たちも同じだし、ぜんぜんそつぎょうしたってかんじがしないのよぉ!せめて女子高校生だけってことだけでも強調させて!」

 

 四月になったため、私たちの学年は一つ上がった。私は中学三年生になり、安芸先輩は高校一年生だ。

 しかし高校生になったからと言って、何かが変わるわけではない。同じ授業を受けて、巫女として修業をするだけだ。教室は変わらないし、生活する宿舎も変わらないし、新しい巫女が入ってくることもないから周囲の人間も変わらない。

 

「そういえばさ、花本ちゃんのお父さんって、大社の神官なんだっけ?」

 

「ええ、そうですよ」

 

 私の家は小さな神社で、父はそこの宮司をやっていた。大社は神職で構成された組織だから、私が巫女として大赦に入るように求められた時に父にも声がかかったのだ。

 

「結構重要な役職だったりする?なんたって勇者の巫女の父親だし」

 

「いえ、全く要職ではないです。大社の神官なんて向いていないんですよ、父には」

 

「うわ、お父さんに対しても花本ちゃんは毒舌だね」

 

「父自身が向いていないと言っていたんです。父は神職としては優れた人です。だからこそ、大社には合わないんです...どうして私の父のことを聞くんですか?」

 

「いやー、もし花本ちゃんのお父さんが偉い人だったら、あたしが知らない情報も知っているんじゃないかと思って。上里ちゃんの神託のことで、四国に何か危険な兆候があるのとかさ」

 

「だったら、上里本人に聞いてみればいい」

 

 突然、背後から声を掛けられ、私たちは振り返る。

 たまたま通りかかったのか、今日も白衣の烏丸先生が立っていた。

 

「上里が明日、大社に来るらしいからな。新しい神託があったのか、何かバーテックスとの戦いに変化があったのか聞いてみたらどうだ?特にバーテックスとの戦いに関して言えば、樹海化のせいで、勇者にしかわからないことも多い。勇者の近くにいる上里だけが持っている情報もあるだろう」

 

「明日上里ちゃん来るんだ」

 

 安芸先輩の声が明るくなる。上里様は、安芸先輩はもちろん巫女の皆から好かれているので、彼女訪問を楽しみにしているものは多い。

 しかし安芸先輩とは対照的に、烏丸先生の表情は少し険しかった。

 

「今回の上里の訪問は、あまり喜べることじゃないかもしれないぞ。よくない報告があるらしい」

 

 

 

 

 翌日の朝、上里様が大社に到着した。まずは大社の大人たちに勇者様の現状報告と相談を行い、何かを話しているようだった。

 夕方になり、やっと彼女は解放された。

 烏丸先生が言っていた喜べることじゃないかもしれないという言葉が気になり、私と安芸先輩は上里さんの部屋に行ってみた。

 

「いらっしゃいませ、安芸さんに花本さんも」

 

 上里様が笑顔で出迎えてくれる。

 

「上里ちゃんも大変だよね、朝早くに丸亀城からここまでやって来て、すぐに何時間もぶっ通しで会議ってさ」

 

 安芸先輩は部屋に入ってくるなり、上里様の許可もとらずにベットに腰掛ける。しかし上里様はそれを咎めることもなく、穏やかな笑顔のままだ。

 

「ふふ、確かに大変です。ですが、正確に勇者の皆さんのことを大社に伝えておかなければ、いざと言うときに問題が起こるかもしれませんから。少しでも勇者の皆さんたちの助けになるなら、私一人の苦労なんて大したことではありません」

 

 そう言いながら上里様は私に座布団を出してくれた。

 

「花本さんも座ってください。お茶でも入れましょう」

 

 上里様は部屋から出ていき、急須とポットと湯呑を持って戻ってきた。

 

「上里様、そんなに気を使わないでください...」

 

「いえいえ。花本さんも座っていてください。よい香川茶が出に入りましたから、おみあげに持ってきたんです」

 

 上里さんは急須でお茶を三人分入れる。

 振る舞いと言い、雰囲気と言い、彼女合大人びているし、できた人間だと思う。さすが、守護神の姉だ。どこかの誰かさんとは大違いだ...と思いながら、私は安芸先輩を見る。

 

「ん?」

 

 安芸先輩は私の視線に気づき、

 

「何かね、花本ちゃん。jk真鈴の大人びた魅力に目を奪われたのかな?」

 

「いえ、まったく」

 

「奪われたって言いなさいよーっ⁉」

 

 そんな私と安芸先輩のやり取りを、上里様は微笑ましげに見ている。上里様と接していると、やっぱり私は彼女を嫌いになることはできないと思った。

 

 

 

 

 三年半以上前、巫女になることを承諾した私は、大社にやってきた。郡様達と一緒にいられないことは不満だったが、一般人と勇者様たちとの距離を考えれば、まだ私の方が郡様に近いといえる。

 私の他にも巫女は何人もいて、そのん下でも上里様は特別な存在感を放っていた。小学生とは思えない落ち着きと聡明さで、すぐに巫女たちの中心になってしまった。私が本当の名前で呼んでもらえない脇役だとしたら、彼女は間違いなく主人公だ。

 

 大赦に巫女たちが揃った後、神官が

 

「この中の誰か一人に、勇者たちと共に生活するお目付け役になってもらいます」

 

 と告げた。

 

 お目付け役は巫女として能力が高いもの...上里様、安芸先輩、私、烏丸先生の誰かが適任だという。

 烏丸先生は

 

「面倒だ。ほかの誰かがやってくれ」

 

 と即答で断り、安芸先輩はどうしようかと迷っているようだった。

 その場で手を挙げたのは、私と上里様だ。

 

 

 

 

 

 上里様は勇者の乃木様と家族のように仲が良いし、後で分かったことだがひなと様の姉だから、そばで彼女たちを支えてあげたかったのだろう。私は私で、少しでも郡様の近くにいたかった。

 数日後、結局上里様がお目付け役に決まった。巫女としての能力は上里さんの方が高かったし、精神面でも彼女の方が安定していると判断されたらしい。

 私は悔しかった。郡様達に近づくチャンスが失われたのだ。

 そんなこともあり、始め私は上里様のことを嫌っていた。劣等感を抱いていたともいえる。

 しかし、今では上里様がお目付け役に決まって良かったと思う。大社に来るたびに巫女たちの問題を自分を犠牲にしてでも解決していくのだ。上里様はすごい人だと思った。いつの間にか私は彼女のことを嫌うどころかひなと様の姉と言うこともあり尊敬していた。

 

 

 

 

 

 

 

「烏丸先生が言ってたんだけど、何かあんまりよくない報告があるんだって?」

 

 みかんをお茶漬けに、上里様が入れてくれたお茶を飲みながら、安芸先輩が尋ねた。みかんは安芸先輩の愛媛の実家から送られてきたものだ。

 上里様はためらいがちに答える。

 

「そうですね...今日私が大社に来たのも、その報告のためでした」

 

「何かあったのですか?もしかしてこの前、上里様に神託があった四国の危機のことでしょうか?」

 

「いえ。...先日の結界外遠征の後から、勇者たちの様子に少し異変が見られるんです」

 

「異変?」

 

 私は聞き返し、安芸先輩も上里様に目をむける。

 

「はい。球子さんは原因不明の不調を訴えています。不調と言っても、何か体に変な感じがある...という曖昧なもので、はっきりとした症状が出たわけではありません...医者の検査でも体は健康だということでした」

 

「...球子が...」

 

 安芸先輩は考え込み、黙り込む。

 

「他の勇者たちはどうなの?郡様とひなと様は」

 

「球子さんと同じ症状を訴えている人はいませんが...千景さんは精神的に弱っているようです」

 

「精神的に...って?」

 

「口数が少なり、険しい表情を浮かべていることが多くなりました。現状に不安を抱いているのかもしれません。...きっと結界外の遠征で、四国の外を見てしまったからだと思います...」

 

「あたしは...結界外の話を聞いただけでもものすごくショックだった...実際に見た勇者の皆はもっと絶望的だっただろうね...郡ちゃんや球子さん達の不調は、その時のショックが原因かもしれないわね...」

 

 安芸先輩の言葉に、上里様はためらうような間をおいて、頷いた

 

「それもあると思います...ただ、ひなとがこんなことを言っていました。俺は現状、球子と杏以外の精霊の疲労や、もしデメリットがあったときにデメリットを肩代わりできると」

 

「なんであの子たちのはできないの?」

 

「カードがないそうです...でもひなとはこれまで多摩湖産以外の勇者の精霊を肩代わりしましたが球子さんの症状は出ませんでした...でももしかしたら球子さんのは精霊のデメリットと言う可能性もあります」

 

「そっか...」

 

 三人の間に沈黙が落ちる。

 勇者たちのためにないかできることはないだろうか。私はお目付け役と言う立場になれなかったが、それでも郡様達のためにできることは何でもしたい。

 大社は戦争に関しては素人だ。戦場に出る者たちのメンタル面のサポートは、十分にできていない可能性がある。私も戦争に関して素人なのは同じだが、大社の大人たちよりも勇者様に年齢が近い分、彼女たちに寄り添うことができるはずだ。何かできることがあるはずだ。

 

「勇者たちの精神的な落ち込みが不調の原因なら...何か気晴らしになることができればいいのでしょうか?」

 

 私が言うと、ひなた様は少し表情を和らげた。

 

「そうですね、結局はそれが一番いいのかもしれません。先日も、若葉ちゃんの提案でレクリエーションとして勇者全員で模擬戦を行ったのですが、皆さん楽しんでいたようですから」

 

 上里様が言うには、乃木様も勇者様たちの間に流れるくらい空気を払拭するため、全員でレクリエーションをしようと思いついたらしい。そしてそのレクリエーションとは、バトルロワイヤル形式の模擬戦だったとか。

 

「レクリエーションがバトルロワイヤルって...うーん、乃木ちゃんならではって思い付きだね。それ、結局優勝したのは乃木ちゃんかひなと君じゃない?戦わせたらそこらへんが一番強いでしょ?」

 

「いえ、勝ったのは杏さんでした。彼女の作戦勝ちです。ちなみにひなとは四対一でリンチにされてました」

 

「えぇ、あの子が?どんな作戦、使ったのよ...そしてひなと君地味にかわいそうね...」

 

 安芸先輩が意外そうな声をあげる。

 伊予島杏様は争うことが得意な人ではないから、戦力としては勇者様の中でやや劣るほうだ。その代わり、勇者様全体の指揮を取ったり、作戦行動を立案したりなど、参謀としてやや大きな功績をあげてきた。

 

「杏さんがどんな策を使ったのかは秘密です」

 

 上里様は微笑み、なぜか答えずに話題を変えた。

 

「でも花本さんの言う通り、気晴らしをすることが一番かもしれませんね。遊びでも何でもいいんです。そうすることで、少しでも悪い雰囲気が紛れれば...」

 

 

 

 

 上里様はその後まもなく丸亀城に帰っていった。今回は大社に泊まっていかないらしい。勇者様たちの精神状態に変調が見られるため、丸亀城から離れている時間を極力減らそうと思っているのだろう。

 上里さんが帰った後、私と安芸先輩で、さっきの勇者たちの気晴らしについて具体的に何ができるのか話し合った。

 

「お花見とかどう?」

 

 と安芸先輩が提案する。

 

「なるほど珍しく良いことを言いましたね。私はてっきりまた麻雀をしようとか言いだすのかと思いましたよ」

 

「花本ちゃん、あたしを麻雀狂かなんかだと思ってない⁉」

 

 思ってます。

 

「ともかく、確かに丸亀城は桜の名所です。一般市民が立ち入りできた頃には、お花見客も多かったと聞きます」

 

 私は高知出身だが、かつては毎年四月になるとTVなどで丸亀城の桜の様子が特集されていた。だから絶好のお花見スポットであることは知っている。

 

「そうだ!勇者と巫女たち全員で合同お花見会を開くのよ!」

 

 安芸先輩は名案だとばかりに言った。私たちは烏丸先生に許可などの問題を押し付けた。

 

 

 

 

 翌日は日曜日。

 日曜は、授業も巫女の修業もない休日になっている。

 けれど私はいつもと同じ時間に起きた。安芸先輩に死ぬほど気は進まないが料理を教わるためだ。

 安芸先輩に料理を教わっている時に郡様達の話題が出た。

 

「そういえば花本ちゃんって、郡ちゃんとひなと君とはよく会ってるの?」

 

 料理の手順を見守りながら、安芸先輩が尋ねる。

 

「バーテックスが出現したときには、お会いしました」

 

「その後は?」

 

「...一度も会っていません」

 

「そっか...どうして会わないの?花本ちゃん、郡ちゃんとひなと君のこと大好きなのに」

 

「安芸先輩、前々から思っていますが、私の郡様達に対する感情を好きと言うより、最大限の敬愛です。巫女が勇者を敬愛するのは当然でしょう?それに、お二人はお付き合いしてると言ってお過言ではありませんから」

 

「それはともかくさ、なんで会わないの?」

 

 勇者と巫女は暮らしている場所こそ離れているが、全く会えないわけではない。大社の許可が下りれば、連休などにお互いの予定を合わせて会うこともできる。実際、安芸先輩は一年に一回くらいは土居様、伊予島様とあっているらしい。

 けれど私は、バーテックスが初めて現れた日以降、一度も郡様に会っていない。最初は勇者様たちのい目付け役になってでも傍にいようと思っていたのに。

 

(どうしてだろう...)

 

 自分でもよくわからない。

 

「私は郡様達の連絡先を知りませんから、予定を合わせることができないですし...」

 

「上里ちゃんから頼めば、間を取り合ってくれるんじゃない?」

 

 安芸先輩の言う通りだ。さっき言ったことは後付けの言い訳だ。

 本当は...

 

「...勇気が、出なかったからかも」

 

「勇気?」

 

「はい...」

 

 私は俯いた。料理をしていた手が止まる。

 

「...私は郡様とひなと様を見出した巫女と言うことになっていますが、上里様と乃木様のように昔からの知り合いと言うわけではありません。バーテックスが現れた日に初めて会って、ほんの少しだけ話をしただけなんです。ひなと様に関してはいないかのように扱っていましたし...私にとって郡様やひなと様は特別でも、きっと郡様達にとって私はどこにでもいる記憶にも残らない程度の人間です...。そう思い知らされるのが...怖かったのかもしれません...」

 

「...」

 

「私は上里様のように巫女の力が強いわけでも、人間性が優れているわけでもない凡庸な人間です。あってしまったら、嫌われるかもしれないですし...」

 

 勇者様のお目付け役になろうと手を挙げた時、私は自分が巫女として特別になったのだと思いあがっていた。興奮状態で冷静に物事を見ていなかった。しかしお目付け役の選考に落とされ、自分は結局凡庸な人間なのだと改めて突き付けられた。

 そしたら...もう、会う勇気がなくなってしまった。

 いつ郡様達に会っても話題に困らないように、上里様から郡様達の様々な話を聞いて、郡様がやっているのと同じゲームをプレーしたりもしていたけど...その知識が役立つことはなさそうだとうすうす思いながら、それでも情報収集を続けていた。

 安芸先輩は私の背中をとんっと叩いた。そして笑顔で言う、

 

「だったら、これから会うようにすればいいじゃない。このお花見をきっかけにしてさ。大丈夫よ、これでおいしい料理を作っていけば、きっと仲良くなれるって。人間はおいしいものをくれる人には好感を抱くものよ」

 

「そうでしょうか...でも胃袋を掴むのはひなと様がやっていたような...」

 

「大丈夫!ひなと君もかつお料理はさすがに作れないわ!多分!私が保証するわ!」

 

 安芸先輩は何の確証もないことを、自信たっぷりに肯定する。けれど、その言葉は私に、ほんの少しだけ前向きな気持ちと、勇気を与えてくれた。

 

 

 

 

 その夜私を含める多数の巫女が神託を受けた。バーテックスが襲ってくる感じのやつであった。

 

 

 

 

 数日後の夜、私と安芸先輩は烏丸先生の部屋に呼び出された。

 

「今日の午後に、勇者と巫女の合同お花見会の許可が下りたよ」

 

 烏丸先生は不思議なほど淡々とそう言った。

 

「本当ですか⁉」

 

 安芸先輩が嬉々として身を乗り出す。

 

「ああ。ちょうど勇者側からも花見をやりたいという意見が出たそうでな、それが決め手になった。伊予島と土居が、丸亀城は桜の名所だから花見をしたいと言い出したらしい」

 

「球子と杏ちゃんか!お花見と言うあたしと同じ考えにたどり着くとは、やっぱりあたしたち、通じ合ってるわね」

 

 お花見が決定となったようなので、安芸先輩は嬉しそうだ。

 烏丸先生は無表情に淡々と言葉を続ける。

 

「だが、ついさっき花見は中止に変更された」

 

「え⁉なんで⁉」

 

 安芸先輩が訊き返す。

 

 私は嫌な予感がした。先生の口調も表情も何もかもがおかしい気が...

 先生は言葉を続ける、

 

「今日の夕刻、バーテックスと勇者たちの交戦があった」

 

 勇者たちの戦いは勇者様にしか認識できない。

 

「襲来したバーテックスの数は、前回の丸亀城の戦いよりも少なかった」

 

 巫女たちもその戦いを知ることはできない。

 

「だが、過去に出現例のない、大型で力を持ったバーテックスが出現した」

 

 私たちの知らないところで戦いは始まり、知らないうちに終わる。

 

「勇者たちは最善を尽くしたが、敵は強力で」

 

 だから...

 

「土居珠子と伊予島杏が瀕死の状況だ」

 

 私たちは勇者様が死んだことにさえ...

 

「死んではいないんですね」

 

「花本ちゃん⁉なんてことを言うの⁉」

 

「ああ。上里ひなとが最高位の精霊を使ったからな」

 

 どちらにしろ勇者様がどんな状況になっていることさえ気づけない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 球子たちが入院して数日後、あたしこと安芸真鈴は大社にお見舞いに行く許可をもらい球子たちの病室の目に来ていた。

 病室のドアを開けると、二つの隣り合わせのベッドにあの子たちが包帯ぐるぐる巻きの状態で寝ていた。そしてその近くには、背はちっちゃいくせに大きい女子が座っていた。

 その少女は私の方を見て

 

「安芸...真鈴さん...だっけ?」

 

 と聞いてきた。

 

「うん...」

 

「...俺は邪魔だろうからお暇したほうが良いかな?」

 

 そう言いながらその少女席を立とうとした。

 

「いや、いい。何ならいてほしいわ」

 

「そうか」

 

 そこから向こうは会話を続ける気が見えなかったのであたしは球子たちの方へ行き、持っていたみかんの入ったバスケットをそれぞれの近くにおいて、少女...上里ひなとの隣に座った。

 

「球子たちは、本来なら元気な姿を見せられないほどのけがを負っている」

 

 座った瞬間、ひなと君が語りだしたのであたしは黙って聞いていた。

 

「でもなぜか俺が初めて見舞いに行ったときに元気な姿を見せて、まるで怪我なんてなかったかのように笑顔を見せていた」

 

 あたしはそれを聞いて少し安心した。

 

「でも、その代わり活動時間が赤ちゃんのようになった。体を回復させるためか、元気でいられる時間を増やすためかは知らないが、一日に三時間ほどしか起きていない。あとは寝ている」

 

「それって大丈夫なの?」

 

「わからない。でもまぁ大丈夫なんだろ」

 

「そんなてきとうな...」

 

「わからないものはわからないんだから仕方がないだろ...だが謝りはする。護れなくてすまない」

 

 ひなと君はこちらを向き深々と頭を下げてきた。

 

「なんでひなと君が謝るのよ...ひなと君がいなかったらもっとひどいことになっていたんでしょう?」

 

「それは...わからない」

 

「...まぁ命が助かっていればいいのよ!でも...お花見はしたかったなぁ」

 

「巫女でもお花見する話が出てたのか」

 

「?いやあんたたち勇者と巫女で一緒にするやつよ」

 

「え、何それ聞いてない」

 

「まぁ中止になったから気にしないでいいわ」

 

「と言うか巫女と勇者だけだったら男子一人だけなんだけど...」

 

「よくよく考えたらそうね。まぁそうなったらハーレムになっていいじゃない!」

 

「よくねぇ...」

 

 そんなことを話しながらあたしはひなと君の顔より少し下の方を見ていた。でかい...上里ちゃんよりでかいのではないだろうか?男のくせにずるい。

 

「安芸さん?」

 

「なにかしら?」

 

「俺の顔はそこについていないんですが...」

 

「...」

 

「ん...ん~」

 

 私が無言を貫いているとベッドの方向から声が聞こえた。球子が目を覚ましたのである。

 

「ん...?おお!真鈴!ひっさしぶりだな!」

 

「うん!球子も無事そうではないけど元気そうでよかった!はいこれ!愛媛のミカン!」

 

「サンキュー!」

 

 球子は自分で何かを食べるということができなかったため、あたしがミカンを剥いて食べさせてあげた。球子はそれはおいしそうに他食べてくれたので持ってきたこちらもうれしくなった。

 しかし、今日は杏ちゃんが起きることはなかった。いつもは球子と大体同じタイミングで起きるそうなのだが、起きなかった。

 面会時間が終わるまであたしは球子たちと一緒にいて、終わったらひなと君と一緒に病院を出た。

 

「そういえば毎日お見舞いに来ているの?」

 

「ああ。俺がもうちょっと早く来ていればなかった怪我だからな」

 

「...そう。でもひなと君のお陰であの子たちが助かったのも事実よ。だからあたしにできることなら何でも言ってほしいわ!」

 

「だったら...お姉ちゃんが困っていたらなるべく協力してほしい。お姉ちゃんがやろうと思ったことに対して味方でいてほしい。ただそれだけ」

 

「わかったわ!これまで以上に上里ちゃんのサポートをしていくわ!」

 

 今日は結局杏ちゃんとは話せなかった。だから私はまたお見舞いに行こうと思った。大社か許可が出ないかもしれないがそれでも何とかして来ようと思った。

 

 

 

 

 数週間後、ある日教室に入ると、黒板に

 

私は休む。自習で。

 

 と書かれていた。あたしは近く似た年少の巫女に尋ねる。

 

「烏丸先生、なんで休んでるの?」

 

「大社の人たちみんなで、会議をしているみたいです...」

 

「何かあったの?」

 

「私たちもよくわからないんですけど」

 

 彼女は一瞬隣にいる花本ちゃんをちらっと見てからためらうように口をつぐんだ後、

 

「郡千景様が上里ひなと様を殺そうとしたらしいんです」

 

「は?」

 

 突然花本ちゃんがこちらを向き声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「郡千景様が上里ひなと様を殺そうとしたらしいんです」

 

「は?」

 

 意味不明の文が聞こえた瞬間私は思わず声を出してしまった。

 

「どういうこと...?郡様がひなと様を...?」

 

「私は本当によくわからないんです」

 

 目の前の巫女が少し怖がりながらそんなことを言う

 

「花本ちゃん、怖がらせたらダメだよ」

 

「...そうですね、ごめんなさい」

 

(どういうことなんだろう...とりあえず烏丸先生か上里様に聞くしかないわね)

 

 そしてその日に烏丸先生は帰ってきて、私を部屋に呼び出した。

 

「ほれ、花本。何か私に質問があるんじゃないか?」

 

「すべてです。知っていることをすべて教えてください」

 

「それは質問になっていないが、まぁいいだろう。まず郡が上里を殺そうとしたことだが、事実だ」

 

「そんな...」

 

「だがこれは精霊のせいとされている」

 

「...」

 

「だが、郡千景を勇者としてみないという考え方もできてきている。神樹から見放されたからな」

 

「どうしてそうなるのよ!」

 

 それを聞いた瞬間、頭に血が上った。ほとんど反射的に、私は烏丸先生に掴みかかっていた。しかし私は彼女に腕を取られ、関節を極められて壁に押し付けられていた。関節を極められていることと、壁に圧迫されているせいで動けない。

 

「うぅっ...!」

 

 烏丸先生は護身術でもやっていたのだろうか。武術のたしなみがある人間の動きだ。

 

「ついでに、郡の心をおかしくした精霊、玉藻の前を上里が取り込んだ。大社の一部はその妖術のエキスパートの玉藻の前の力を使い郡が最初からいなかったことにできるのではとも考えている」

 

「今まで命を懸けて戦っていた勇者の失敗一つに対しての行動がそれかぁ⁉」

 

「落ち着け。やるかやらないかを決めるのは上里だ。どうせやらないだろう」

 

 烏丸先生がそう言ったのでは私は少し冷静になったが、大社に対しての怒りはずっと残ったままだった。

 

 

 

 

 数日後、また私は烏丸先生に呼び出された。

 

「まだ決まってもいないのに上里に郡をいなかったことにしてほしいと言って輩がいた」

 

「...それで?」

 

 私は怒りをこらえてただただそう言った。

 

「結果を先に言うと、そいつは怯えて会議に出席した」

 

「つまり?」

 

「上里が変身して脅したらしい。今後そういうことを言ったら上層部を皆殺しにしてやるから覚悟しろとのことだそうだ。私からすれば面白そうだからぜひともそうしてくれとも思うがな」

 

「...とりあえず郡様の件はひとまず解決したということでしょうか?」

 

「そうだな。そのうち郡にも勇者システムが返ってくるそうだ」

 

「よかった...」

 

 やっぱりひなと様は郡様の守護神様だと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二〇一九年、秋

 

 私は大社の会議室で、神官たちにある報告を行っていた。

 

「...以上が、私が結界外の外で見てきた光景です」

 

 昨日、私は若葉ちゃん達とともの結界の外に出て、世界の様子をこの目で確かめてきた。

 夏の戦いで若葉ちゃん達が倒した大型バーテックスが、一体だけ全く同じものが生まれておりバーテックスはいくら倒しても無限に再生するのだという絶望的な事実が判明した。

 けれど、一番大きな報告は、結界外の世界そのものが、作り変えられてしまったことだ。

 それまでの結界外の世界は、バーテックスが蔓延って荒廃したとはいえ、あくまで私たちが生きてきた日本と言う国土に違いはなかった。

 しかし私と若葉ちゃん達が結界外に出た、まさにその瞬間、言葉では言い表し難い現象が起こった。幻だったのか現自治に起こったことなのかわからないが太陽が落ちてきて大地を飲み込み、大地は溶岩に包まれ、地獄のような状態に変わってしまったのだ。時間は昼なのに、空は夜のように暗く、太陽も青空もどこにも見えない。そこに存在していたのはもはや私たちが生きていた世界とは全く違う、異界だった。

 私は自分が結界外で目にしたことをすべて、神官たちに話した。

 

「神々は攻撃の手を緩めるつもりはない...ということでしょうな」

 

 年老いた神官の一人が、私の報告を聞いた後、重々しくそう言った。

 

「しかし、結界は強化されたから」

 

「いやそれもいつまで持つかわからんでしょう」

 

「勇者は前回の戦いで何回も死んだらしい。万が一強化された結界を通れるバーテックスが現れたら今度もうまくいくとは限らんでしょう」

 

「新たな勇者が発見されたという報告はないのか」

 

 神官たちはざわざわと無秩序に話すが、追い詰められた現状を打開する両案は出てこなかった。

 やがて、神官の一人が苦渋を滲ませた声で言う、

 

「やはり...奉火災を執り行うしかないのでは...」

 

 その言葉によって、誰もが黙ってしまった。

 

「犠牲の重さを理解して言っているのでしょうね?」

 

 会議に参加していた烏丸先生が、奉火災と言う単語を出した神官に鋭い視線を向けた。

 奉火災。

 大社の最終手段として、前から検討されていた儀式だ。天の神と、その尖兵たるバーテックスに対抗する手段ではなく、完全な降伏宣言。

 六人の巫女を犠牲にし、赦しを乞う言葉を天に届ける。人類は敗北を認め、これ以上の攻撃をやめてもらおうという儀式だ。

 

「奉火災によって天に赦しを乞う...それ自体は賛成です。降伏して人々を守れるなら、これ以上の戦いをしないで済むなら、屈辱的でも敗北を宣言して赦しを乞うべきです。ですが...」

 

 問題は六人の巫女が犠牲にならなければならない...と言うことだ。

 

「上里様...あなたのご判断次第です」

 

 神官たちは私を見つめ、頭を垂れた。

 私は何も答えられなかった。

 

 

 

 

 丸亀城へ帰った後、私は奉火災を行うべきか否か、悩み続けていた。

 教室の窓から城郭を見ると、みんなが懸命に訓練している姿が見えた。

 結界の外を見に行った後から、みんなは今まで以上に激しい鍛錬を自分たちに課すようになった。本来のひなとの話ならもう若葉ちゃんが戦うはずはないからもう休んでもいいはずなのに。彼女たちは自分自身を痛めつけているかのように見える。諏訪を犠牲にしたのにもかかわらず自分たちは領地を取り戻すことができず逆にもっとひどい状況にしてしまったから...

 ひなとの記憶の中で私が死んだときみんなは泣いてくれた。今私が死んでしまったらもっとひどいことになってしまうのではないか?壊れてしまうのではないか?そうなったらひなとの言う私が大社を牛耳るという話はどこへ行くのだろう?

 

「...みんなの心を守るために...私は死ぬわけにはいきません...」

 

 私は外に出て若葉ちゃん達の傍に行った。

 

「あまり無茶しちぃけませんよ」

 

「ああ、わかっている。だが、他の土地が書き換えられてしまったからな。白鳥さんが命を懸けてくれたんだ。私たちも命を懸けなければ」

 

 若葉ちゃん達は世界を書き換えられて焦っているのか、ひなとの前に言ったことを忘れているようだった。

 天の神の戦力は圧倒的だし、前回の戦いだってたくさん死んだらしい。肉体は復活するとしても、心は復活しないだろう。このままみんなを死なせながら戦わせるわけにはいかない。みんなほもう十分に命をかけて戦った。もう休ませるべきだろう。

 みんなを休ませるには...生かすには、戦いを終わらせなければならない。

私は...

 

 

 

 

「奉火災を行いましょう」

 

 翌日、私は大社へ行き、会議室で神官たちにそう提言した。

 神官たちの視線が私に集中している。

 

「犠牲となる巫女の筆頭は上里様と安芸様と花本様になりますが、よろしいのですね?」

 

 と老神官が尋ねる。

 

「安芸さんと花本さんに関しては、彼女たちの意見を尊重してください。私が犠牲になることは受け入れます」

 

 神官たちは私に頭を下げる。

 

「承知しました。それでは上里様以外に天の神へささげる巫女の選別をはじめ...」

 

「その必要はありません」

 

 神官の言葉を遮る声と同時に、巫女たちが扉を開けて会議室に入ってきた。

 巫女たちの先頭に立っているのは大和田さんだ。彼女は一枚の紙を老神官の前に置いた。

 

「私たち巫女全員で話し合い、奉火災の犠牲となるものを選びました。皆、了承しています」

 

 大和田さんが提出して神には六人の巫女の名前が載っていた。

 

「え...」

 

 私は戸惑う。彼女たちは奉火災のことを知っていた?いつの間に?

 そのうえ紙に書かれた六人の中には、私の名前も安芸さんの名前も花本さんの名前もなかった。

 神官の一人が反発する、

 

「これでは駄目だ。少なくとも上里様の犠牲は必要だ!上里様を残せば、天の神に服従心を疑われるかもしれない。古来、神は人の心を疑い、試すもの。服従すると決めたのならば、我々は全力で服従の意を示さなければならない!」

 

「上里様を犠牲にするというなら」

 

 大和田さんの目には強い意志がこもっていた。

 

「我々巫女は、誰一人として奉火災の犠牲になることを了承しません。そうなれば奉火災を行うこと自体、不可能です」

 

 大和田さんについてきた巫女全員が、頑なな表情で神官たちを見つめていた。

 

「それができるのであれば」

 

 一人の神官が声をあげる。

 

「上里ひなとただ一人を犠牲にするということでもいいのでは?」

 

「どういうことですか?奉火災は六人の巫女が必要なのでしょう?」

 

 私は思わず聞いた。ここで怒りの感情が出なかったのは私に奉火災の生贄にならせようとしていると思ったからだ。

 

「上里ひなとには勇者の資格もありながら覡だか何だかの適性もあります。ここで思い出してほしいのは上里ひなとはこっちの最高戦力で、一番とまではいきませんが天の神に一番反抗しているといってもいい人物ともいえますし、彼自身で言っていましたが、彼は天の神の力を使っているそうです。ですので、自分の力を使っている敵を差し出し、その人物が覡の才もあり、一番強いとなったら服従の意を示せますし、ここの巫女の言うことも聞かなくていいですよ?」

 

 絶句した。巫女たちが優勢かと思われたこの場はいつの間にか神官側がペースを握っていた。そのとんでもないことを言ってきた神官を見てみるとこの間ひなとの血を抜きまくった神官であった。神官たちはもうそれでいいのではと言う雰囲気になっていた。

 

(まずいまずいまずい・・・何とかしなくては...私はみんながもう戦わないために奉火災をしようと思ったのにこのままでは若葉ちゃん達の戦う相手が神の下僕ではなく人になってしまう...)

 

 私が何か反論を出そうとしたところで声が上がる。

 

「仮に」

 

 烏丸先生であった。

 

「上里ひなとを奉火災に出すとしよう。それで失敗した場合、誰がここを守るんだ?」

 

「この間勇者たちは何回もやり直したらしい。次回もそれで行けるはずだ」

 

「六人ですら苦戦した戦いを五人でやれと?御冗談を...それにそのやり直しは誰がやったというのですか?」

 

「それはもちろん神樹様であろう」

 

「...なるほど。だが、私は違うと思いますがね」

 

「じゃあ誰がやったと?」

 

「上里ひなとですよ。今回天の神は世界を書き換えました。そしてそれほどの力があるのならば世界を都合の良い形に変えられることができるでしょう。例えば...勇者が死ななかった世界...とか」

 

「じゃぁ、なんだね、君は上里ひなとが天の神の力を使っているから上里ひなとがやり直しをやっているとでも言いたいのかね」

 

「この答えを言わなくても結論はもう出ているでしょう?」

 

「だったらどうするというんだ⁉」

 

 神官はキレながら机をたたいた。

 

「だから答えは出ているではないですか。あなた達は先ほど巫女は六人いなければならないという法則と上里ひなたを出すという意見をを崩しました。ということは別に巫女は上里ひなたでなくてもいいということになります。それならば奉火災に出ることを志願する巫女が出ればいいでしょう?」

 

「そうです。上里さんを除いた奉火災でも、失敗するとは限らないでしょう。その可能性にかけることです」

 

 大和田さんは二人の大人の会話に割り込みそう言った。

 

 

 

 

 会議は終わり、奉火災は神に名前を書かれた巫女を犠牲にして執り行うと決まった。

 私はとにかく困惑していた。奉火災に名乗りを上げた巫女は、大和田さん、巽さん、史紀さん、真鍋さん、千葉さん、香西さんの六人。みんな私と仲の良い人ばかりだ。

 

「...やっぱり人選を考え直しましょう。私が犠牲になれば、少なくとも一人は犠牲になる人が減る」

 

「これでいいんですよ、ひなたお姉様。この六人が犠牲になるのが一番いいんです」

 

 そう言いながら、巽さんは穏やかに微笑んでいる。

 

「どうして...」

 

「犠牲者となることを了承した六人の巫女は、私含めて、みんな自分から立候補したんです。私たち六人は、身寄りのないものばかりですから、死んでも悲しむ人は少ないです」

 

 犠牲となる六人は全員、バーテックスによって家族を失った人か、四国外からたった一人逃げ延びた人だった。

 けれど...

 言葉が出に私に、大和田さんは少し困ったように言う。

 

「巽ちゃんは一番年下だからね、私もこんな子が犠牲になるべきじゃないと思うんだけど」

 

「だったら...私が...」

 

 私の言葉を巽さんが遮る、

 

「ひなたお姉様は生きていてください。私は顔も知らない大勢の人々のために死ねるほど、人間ができていません。でも、ひなたお姉様のためだと思えば...私が死ぬのはお姉様を生かすためだと思えば、奉火災に挑む勇気が出ます。だからお姉様は生きていてください」

 

 こんな悲しい決断の仕方は...ないでしょう。

 大和田さんが私の肩を叩いて、冗談っぽい口調で言う。

 

「それにさ、上里さんを犠牲にしたなんて言ったら、勇者の皆さん大激怒間違いなしじゃない!大社の人間は皆殺しだー、なんて言い出しかねないよ。実際上里君は言い出しているわけだし...勇者の皆には特に乃木さんと上里君には上里さんが必要だから」

 

 最後の彼女の声は震えていた。

 

「あたしは...」

 

 何にも言葉を言えず俯いていた安芸さんが、ポツリと声を漏らす。

 本来なら彼女も巫女適性の高さから、奉火災の犠牲になるはずだった。

 

「安芸さんも生きてないとだめだよ、花本さんもね。あんたたちがいなくなっても土居さんや伊予島さん、郡さんに上里君...この子ほんとに地雷ね...が上里さんの時の乃木ちゃんみたいになっちゃうだろうから」

 

「でも私は郡様達と別に...」

 

「それでもだよ。郡さんも、勇者はこの世界のために戦ってくれた。そんな勇者のことを語り継げる人は、一人でも多く残さないといけないんだよ。...上里ちゃん死ぬ前にお願いがあるんだけど...」

 

「なんですか?」

 

「上里君に合わせてくれないかな?言っておきたいことがあるんだ」

 

「わかりました...すぐに呼び出します」

 

 そうして私は携帯を出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が一人部屋でごろごろしていた頃、携帯が突然鳴り響いた。みると、お姉ちゃんからの着信であった。

 

「はいもしもし」

 

『ひなと、今すぐ来てください』

 

 それだけ言ってお姉ちゃんは電話を切った。

 なんだよ...

 と思いながら俺は変身し、お姉ちゃんのところに行きたいという念を出しながら瞬間移動をした。

 

 

 

 

 瞬間移動をしたところにはお姉ちゃんの他に安芸さんや、花本さん、その他多数の巫女たちがいた。みんな俺のことを見てきて怖い。

 

「ああ。ひなと来ましたか」

 

「うん。すぐ来いって言ったからすぐ来たけど...ってここ土足ダメじゃん。やべー...玄関はどちら?この靴を置いてから話すでも大丈夫?」

 

 俺は地面を見てそう聞いた。

 

「大和田さん、大丈夫ですか?」

 

「だ、大丈夫だよ...」

 

「だそうです。ちなみに玄関はそこをまがってずっと歩いていればつきます」

 

「ん」

 

 それを聞き俺は宙に浮き、玄関に向かった。そして玄関に靴を置いてから変身を解除して、ダッシュで戻った。戻ってきたら花本さんが雑巾で俺のいたところを拭いていた。

 

「ごめん...ありがとう」

 

「い、いえ!これくらい大丈夫です!」

 

 そう言いながら安芸さんの少し後ろに行ってしまった。何かしてしまったのだろうか...

 

「大和田さん。とりあえずひなとにすべて説明していいでしょうか?」

 

「いいよー」

 

 お姉ちゃんは後ろにいる巫女、大和田さんと少しだけ話してから再びこちらを向いた。

 

「ひなとは奉火災をしたほうが良いと思いますか?」

 

「...それを何でおれに聞くの?」

 

「だって、それは...」

 

 お姉ちゃんが何か言う前に俺な少しわかってしまった。

 

「ん、あ、なるほど。いいよ」

 

「?何がいいんですか?」

 

 お姉ちゃんが本当に何を言っているかわからない顔をする。

 

「え?奉火災に俺を生贄にするんじゃないの?」

 

「は?」

 

 大和田さんがそんな反応をするが気にしないことにする。

 

「え、だってそうでしょ?俺に聞くてことはそういうことなんじゃないの?まだ生贄決まってないんじゃないの?そう思ったからそう言ったんだけど...俺はたぶん一人で生贄にされても多分大丈夫だよ?」

 

ドンッ

 

 俺が言い切った瞬間俺の頬に衝撃が加わった。お姉ちゃんが俺を殴ったのである。

 

「少しは話を聞いてください」

 

「...話を聞いてほしくて殴るは違くね?」

 

「...」

 

「...」

 

「あーもう!なんでこんなところで剣かをしているんですか!お姉様も、ひなと様もこんなことをするために来たわけじゃないでしょう?」

 

 誰かは知らないが周りと比べると小柄な子が仲裁してくれた。

 

「そうだね。で、なんで呼んだの?」

 

「話をするためです。と言うわけで続きを話させてもらいますね」

 

 お姉ちゃんはこちらの返事を待たないまま話し始めた。

 

「奉火災の生贄に関してはもう決まりました。ここにいる巫女の方々です。そしてこの方たちは私の命の恩人のようなものなんです。なんせ...私の代わりに...生贄になってくれるんですから...」

 

 お姉ちゃんの声はどんどんか細くなっていった。

 

「そして一応ひなとも奉火災に選ばれるリストの中に入っていました。でも何とかしてやめてもらいました。私が嫌だというのもありますし、何よりひなとが死んでやり直し的なものが発動したら面倒ですから...」

 

「...なるほど」

 

「ちなみに勝手に生贄にされそうになってましたよ」

 

 お姉ちゃんは淡々と言った。

 

「やっぱこの組織くそだわ」

 

「ひなと、一応その組織の本部的なところですよ」

 

「そうでした」

 

 俺は周りを見渡したがいるのは巫女だけであった。と言うか俺の制服とお姉ちゃんの制服だけ異装みたいで目立つな...

 

「それで、今回は大和田さん達がひなとと話したいといってきたので呼びました」

 

「え、俺と?話すことあるの?」

 

 そう言いながら大和田さんを見ると大和田さんは前に出てきた。

 

「やっと本題に入れるよ。ほんと、姉弟喧嘩をしたときにはどうしようかと思ったよ」

 

「すまない」

 

「いやべつにいいよ。じゃ、本題ね。私たちは、上里さんに生きてほしいから奉火災の生贄に志願したの。だから君をかばった理由...と言うか庇ったのは私たちでもない気がするけど...理由は、上里さんを自殺に追い込みたくないからだよ」

 

「君たち六人じゃお姉ちゃんが自殺しないとでも?」

 

 俺は少し意地悪かもしれない質問をした。

 

「うん」

 

 即答だった。

 

「だって家族と友達じゃ大きさが違うでしょ?」

 

「そうか」

 

「そうだよ。...話を戻すね。で、私たちは上里さんに幸せになってほしいのです。で、上里さんは勇者の人...特に君と若葉ちゃんを愛しているわけですよ。だから、さ?上里さんとお付き合いなり結婚だったりして上里さんを幸せにしてね?それができれば私たちは安心して生贄になれる」

 

「は?なにをいって」

 

「花本ちゃん今は一回黙ってよ?」

 

「え、結婚?お付き合い?俺ら姉弟だよ?」

 

「血はつながっていないでしょ?」

 

「なんで知って...ってお姉ちゃんが言ったのか」

 

「けっこ周知の事実だよ?」

 

「...でも無理だよ...お付き合いとかは...」

 

「...じゃあ幸せにはできるの?」

 

「それもなんとも...」

 

 俺は少したじろぎながら言う。

 

「大和田さんこれ以上はもう」

 

「上里さんはだまってて」

 

「えー、おねーちゃんも一応当事者のような...」

 

 俺は少しだけ反論したが、当然ながらスルーされた。

 

「なんでお付き合いできないの?上里さんもかなりかわいいよ?」

 

「えっ...!」

 

「いやそうなんだけど」

 

「~!」

 

「もうやめて上里ちゃんのライフは...ゼロではないわね」

 

「おれちーちゃん...郡千景と付き合ってるし」

 

「~!」

 

「あ、今度は花本ちゃんが...」

 

「だったら勇者の皆と付き合えばいいじゃない!そしたらみんな幸せになれるじゃん」

 

「あほか!ちーちゃんに殺されるわ!」

 

「だとしても上里さんは幸せになれる!私たちはただそれを望んでいる!だからそれだけをしてくれればいい」

 

「ひでぇ、自己完結しやがった」

 

 そのあと巫女たちは全員俺に向けて一礼した。

 

 

 

 

 数日後、おそらく俺に呪詛を放ってきやがった人たちは死んだ。そしてお姉ちゃんから奉火災が行われたことをみんなで聞いた。

 そしてお姉ちゃんはこれからは神樹がうんぬんかんぬんと言う嘘をついて大社を乗っ取った。お姉ちゃんは改革を軌道に乗せるまで大社を離れることができず、丸亀城に戻ってくることはなかった。

 俺は勇者としての存在をお姉ちゃんに取られていたため、若葉たちが勇者としての公務があったとしても参加ることができず。俺はただただ暇な時間を送っていた。あまりにも暇だったため俺はお姉ちゃんの手伝いと言うか雑用をしていた。

 

「あー暇だよー」

 

「そんなこと言ってるより早く手を動かしてください」

 

「はーい」

 

「ひなと様...その作業は私がやりましょうか?」

 

「花本さん?ひなとを甘やかさないでください」

 

「そうだよ~花本ちゃん。ひなと君を甘やかしたらひなと君は女にされて恥ずかしい格好をさせられちゃうんだから」

 

「あのひなと様は至高でした。郡様に渡したらものすごく喜んでくれました」

 

「おーいおいおい?何渡してるの?」

 

「すいません...ひなと様より郡様の方が優先度が高いのですので...」

 

「はい皆さん、手を動かしてください」

 

「「「はい」」」

 

 俺らはお姉ちゃんの圧によって雑談を中止した。

 

 

 

 

 新世紀となって二度目の春。

 俺たちは丸亀城の桜の木々の下を歩いていた。

 空中を舞い散る花びらの先に、彼女たちが立っている。

 隣にいるお姉ちゃんは微笑みながら声をかけた。

 

「皆さん背が伸びましたか?若葉ちゃんは顔つきも大人びて、もともとかっこよかったのが、もっとかっこよくなりましたね」

 

「ふふ、ありがとう」

 

「なーなータマは?」

 

「球子さんは...背が少し高くなりましたね」

 

「それだけかよ!」

 

「...ひなと君も少しだけ身長が伸びたわね」

 

「そう⁉」

 

「...ものすごく喜んでますね...」

 

「と言うかひなと君はずっと女の子なんだね」

 

 少し身長が上がって斜めのポニーテールが普通のポニーテールになった友奈が言ってきた。

 

「...ひなとが仕事をさぼるから強制的に変身させて着せ替え人形にしていたんです」

 

「えー、ひなとの女になっている期間が一か月だから...お前一か月以内にさぼったのか!ひなたが忙しいというのに...」

 

「だっていっつも同じような作業なんだもん...」

 

「だってじゃないわよ...」

 

「戻ってきたということは、もう終わったってことですよね?」

 

「はい」

 

 お姉ちゃんは頷いた。

 

「完全にすべての改革が終わったわけではありませんが、もう反対派に妨げられる心配のない段階まで進みました。これでしばらくは、大赦を人々に寄り添った組織にできると思います。でも組織である以上、長いときを流れた後には、いつかまた腐敗するでしょうか...」

 

「それは...その時代を生きる人たちに任せるしかないわね...」

 

「でも心配はないよ!きっと未来にもいい心を持った人が生まれていい方向に戻してくれるよ!」

 

「そう信じましょう」

 

「あ、私たちはまたこれから丸亀城で暮らします」

 

「そうか!おかえり!ひなたにひなと!」

 

「ああ。ただいま」

 

 

 

 

そこから一年後

 

 俺が変わらずお姉ちゃんのところで雑用をしていた時であった。ちなみに俺はもうさぼらなくなったので男に戻っている。なんか女でいるときも成長は止まっていないらしく、なんか伸びていた。

 

「ひなと様ひなと様」

 

 花本さんが話しかけてきた。

 

「なに?」

 

「もうすぐひなと様も結婚ができる年です。ですので郡様と結婚なさる際は、ぜひ私の神社をご利用ください。ひなと様価格にいたしますので...」

 

「あらあら何を言っているんです?ひなと様はひなた様と結婚なさるんですよ?」

 

「そちらこそ何を言っているのかしら?ひなと様は最初に郡様とお付き合いしておられたのよ?」

 

 ものすごくにらみ合う巫女の二人。俺の周りだけ空気が重くなったので安芸さんに助けを求めたが当然のようにスルーされた。

 

「どうだ上里?ここは間を取って高嶋にしたらどうだ?」

 

 巫女が争っていると、烏丸さんが火に油を注いできた。前までは興味のなさそうに見るだけだったのだが、ふざけて横手さんと呼んだら毎回油を注いでくるようになりやがったのだ。

 

「結婚って...俺にはまだ早いですよ...」

 

「そうでしょうか?世間や大社はひなと様のことを知りませんから...最近になって勇者のお見合いの話が多く出ているようですよ?」

 

「へー」

 

「へーって何ですか...郡様がとられるのかもしれないんですよ?そんなことはないと思いますけど」

 

「まぁ、別に悪い人につかまらなくて両者が幸せだと思える人なんだったら俺はとられてもいいと思っているけど...所詮俺は小学校の時に助けただけだし...」

 

「はぁ~」

 

 花本さんはため息をつき自分の席に戻っていった。

 

「ひなと様はひなと様のことをどう思っているんですか?」

 

「かわいいお姉ちゃん」

 

 お姉ちゃんからとても幸せなオーラがあふれ出したが無視する。

 

「だったら結婚すればいいじゃないですか」

 

「それとこれは話が別だ」

 

「そうですか...」

 

「じゃあさ、あの子たち引き取ってあげてよ。この間お見合いの話が増えてうんざりしてるって愚痴られたのよ」

 

 今までスルーしていた安芸さんが急に会話に入ってきた。

 

「えー、二人引き取っちゃったら全員と結婚しなくちゃいけないじゃん」

 

「やはりそれがお前にとって一番安牌だと思うぞ。唯一の男だしな」

 

 そう烏丸さんが言った瞬間俺は変身してすぐに解除した。

 

「ふん」

 

「とりあえずこれで結婚の話は先延ばしですね」

 

「ひなと、ふざけてないで仕事をしてください」

 

「うわ、ひでぇ」

 

 なぜか俺だけとばっちりを喰らってしまった。さっきまで機嫌よかったやん。

 

「と言うかそういうお姉ちゃんこそさっきから考えるばかりで何にもやっていないように見えるんだけど...」

 

 さっきからお姉ちゃんはパソコンの画面を睨むだけで、何にもしていないのだ。

 

「いえ、どうしたら大赦が一般人と勇者全員プラス私が結婚することに対しての納得のいく理由を考えているんです」

 

「え、神託でよくね?」

 

 俺がそういうと部屋は静まり返った。そして一刹那の後に

 

「それだー!」

 

 俺を結婚させようとしていたやつらの声がハモッた。そして俺はそのあと

 

(余計なことを言うんじゃなかった...)

 

 と後悔するのであった。

 

 

 

 

 翌日、俺たちはお姉ちゃんに召集をかけられていた。まぁ招集をかけられたのは巫女たちの職場だからいつも言っている俺に関してはただただ出勤をしたようなものだった。

 そして全員集まったかと思ったらお姉ちゃっは突然話し出した。

 

「大赦は最強の勇者を作るために血をまとめることにしました」

 

「...どういうことだ?」

 

 若葉はきいた。

 

「つまりここにいる人で結婚するということですね」

 

「...つまりみんなひなと君と結婚するということですか?」

 

「認めないわ!」

 

 お姉ちゃんが返事を出す前にちーちゃんが声を上げた。

 

「...ひなとはどうですか?」

 

「俺は...」

 

 少し言いかけてから、俺は周りを見る。巫女も、勇者も、そしてちーちゃんも期待を込めた目で俺を見てくる。俺は勝手ながら責任を押し付けることにした。

 

「俺はみんなが納得できればそれでいい。だから...ちーちゃんを説得できるのであればなんでもいいよ」

 

俺ってくずだなー

 

 そう思いながら俺は黙った。

 

「私は...認めるつもりはないわ」

 

「そうです!郡様!」

 

「花本さん。少し黙っていてください?」

 

 お姉ちゃんが花本さんを無表情で見る。だがその目には黙れという念が込められていて、俺は身震いした。しかし花本さんが怖気付くことはなかった。

 

「第一、最強の勇者を作るにあたっての血を合わせるところまでは理解するわ。でも、なぜ巫女である上里様までその中に入ろうとしているかしら?」

 

「一応巫女の素質も入れていた方が便利でしょう?」

 

「...それでも勇者に巫女の素質は入らないと思うけど?」

 

「いいんですか?花本さん、ここでそんなことを言って...ここにいる子たちは皆私の味方ですよ?」

 

 そうお姉ちゃんが言った後、花本さんは周りを見渡した。みんな花本さんやちーちゃんのことを睨んでいる。

 

「まさか、このためにここを選んだのかしら?」

 

「さぁ?」

 

 花本さんはそれ以上何も言わなかった。ちーちゃんに任せるつもりらしい。

 悩んでいるちーちゃんにお姉ちゃんは提案した。

 

「ふむ...そんなにひなとを独り占めしたいのであればこうしましょう。大赦はこの間何とは言いませんが生える薬なるものと埋まる薬なるものを開発しました。人口を増加させるためですね。増加が見込めるかどうかはよくわかりませんが、まぁ止める暇もなく作ってしまったので有効活用させてもらうとしましょう」

 

 一気に話が生々しくなった...。正直聞きたくないが、俺はお姉ちゃんの話を黙って聞いた。

 

「...話を戻しましょう。ひなとが貫くのを千景さんにするという条件ではどうでしょう?」

 

「...つまり?」

 

「私たちは先ほど言った薬を使い、ひなとを貫くってことですね♪ひなとが貫くのは残念ながら千景さんだけです」

 

「ちょっと待って!」

 

 姉がとんでもないことを言ったので俺は会話を一回止めた。

 

「なんですか?」

 

「そうなると俺は六人産むことになるんですが...?」

 

「そうなりますね」

 

 淡々という姉。俺は少し悲しくなってきた。

 

「確かに体は大きくなってきたけど六人はさすがに死んじゃう...」

 

「大丈夫です♪勇者ならなんとかなります」

 

「...」

 

 俺はなんか正論かましてくれよって感じの目で回りを見るがみんな明後日の方向を見やがった。でもこれを俺が了承しないと話が進まないので俺は自分の気持ちを押し殺し

 

「はぁ~、もうそれでいいよ...」

 

 とだけ言った。するとちーちゃんも

 

「...なんかもうそれでよくなってきたわ...ひなと君が可哀そうすぎて...」

 

 ちーちゃんがそういうとお姉ちゃんは手を叩き、

 

「じゃぁ決まりですね!大赦には適当な理由をつけて説得しておきますし、家も物凄く広いのを用意しておきますからそれまで待っていてくださいね」

 

 とだけ言って、席を外した。ものすごく気まずい空気が流れた。

 

「郡様...よかったのですか?それにひなと様も...」

 

 そんな空気を破ったのは花本さんだった。

 

「いいのよ...いいようにされている気もするけどね...」

 

「...死んだらどうしよう...と言うか今更だけど貫くいうなし...」

 

「良かったじゃない!球子に杏ちゃん!お見合いの話がなくなるわよ!」

 

「お!そういえばそうだな!ひなととも一緒にいられるし杏とも一緒にいられるし!案外幸せかもな!」

 

「そうだね、タマっち先輩!」

 

 球子と杏は手を取り合って喜んでいるようであった。

 

「そうか...結婚するのか...みんなと...」

 

 若葉はよくこの場を理解していないようであった。そりゃそうだ。俺だって理解していない。わかるのは俺に死の危機ができたことだ。

 

「高嶋」

 

「あ、烏丸さん」

 

「よかったな、郡ともひなととも一緒にいられるぞ」

 

「...」

 

「お、顔が赤くなってるw」

 

 友奈が烏丸にとびかかっていたが烏丸は大げさに避け、俺のところまで逃げ、俺を盾にしやがった。

 

「ひなとくんどいて!」

 

「無茶言うな。盾にされてるんだからどけるわけないだろ...横...烏丸さんも友奈をからかわないでください」

 

 俺がそういった瞬間俺の脇腹に衝撃が加わった。烏丸がつついたのである。

 

「お前がからかうのをやめろ」

 

 

 

 

 

 そして俺らは全員で家族になったのであった。そこでの生活の話はまた別の話...




一応乃木若葉編完なのでなんか質問やツッコミあったらドぞ...
そう言えば奉火祭の字が奉火災になていましたが、厄災みたいなもんだしエアロ。
...これほんとに完結したんかな?なんかしまりわるぅ
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