俺らは小学校へと入学した。だが特にお姉ちゃんとの関係は変わっていない。いや少し近くなったか?お風呂も一週間に一回じゃなくて三日に一回になったし、毎日同じ布団で寝てるし...
あ、あと小学校特有の全員さん付けで呼べという謎ルールのせいで俺は若葉のことを若葉さんと呼ぶ羽目になっており、結局それが定着されてしまった。姉弟だったらそのルールは適応されなかったため、お姉ちゃんのことをお姉ちゃんと呼べている。よかった...学校がお姉ちゃんの逆鱗に触れなくて。
そう言えば少し前に俺らは誕生日を迎えた。俺とお姉ちゃんの誕生日は十日しか違わないので、一緒に祝うことになった。来年は俺の誕生日でやるらしい。さすがに半年も一緒の家で暮らしていれば俺も慣れることができて、今ではお父さんやお母さんにため口で話すことができている。逆にお姉ちゃんの敬語と落ち着きさは変わらんけど。ちなみに誕生日プレゼントにお姉ちゃんはカメラをもらっていた。その結果お姉ちゃんはいつもカメラを持っており、隙あらば盗撮をしてくる。そのうち消させるかと若葉と話したが実行できる気がしない。俺?俺は適当にwiiを頼んどいた。え?3DSじゃないのかだって?別にいいだろ。
たまに若葉さんに稽古に付き合わされるが、成長してないことを教えるために毎回同じ方法で斬りかかり反撃を喰らっている。
そしてそのまま何事も起こらずに時は二年生の冬休みとなった。
「えー!お母さん転勤するんですか⁉」
「そうなの...なんか急に転勤になって...」
「場所はどこなの?」
「高知らしいわ」
「高知...」
「う~ん取り敢えず家建てるか」
「なぜそうなる⁉」
「まぁ一応お金あるし...転勤した後は戻れないらしいし...」
「そういうものなんですね...」
ある程度会話が終わった後、俺はお父さんに話しかけた。
「ねぇお父さん」
「なんだい?」
「俺も高知に行きたい」
高知に行けば例の人物に会えると思ったからだ。
「...正気か?」
「うん」
「ひなたに会えなくなるんだぞ?」
「別にいい」
「友達もう一回作り直しだぞ?」
「若葉さんしかいないからいい」
「悲しいなおい...なぁひなと、俺がお前を引き取ろうとしたときに言ったことを覚えているか?」
「...お姉ちゃんの弟にさせようとしていた」
「そうだ。それなのにお前が今していることはなんだ?姉から離れることじゃないか」
「...」
「...ただ」
「?」
「ひなたにも弟離れは必要だな」
「!じゃぁ!」
「ああ、高知に行ってもいいぞ...ひなたへの理由は、そうだなぁ...適当にお母さんが一人で可哀そうだからにでもしておけ」
「うん!ありがとう!お父さん!」
「あ、ひなたには自分から伝えておけよ?俺から伝えたらこの後の暮らしに響きそうだ」
「うんわかった!」
俺はそう言いお姉ちゃんのところにいった。お姉ちゃんは部屋で勉強をしていた。
「ねぇ、お姉ちゃん」
「なんですか?」
お姉ちゃんはペンを走らせながら返事をした。
「俺もお母さんと高知に行くことにした」
俺がそういった瞬間お姉ちゃんはペンを置きゆっくりとこちらを見た。
「どういうことですか...?」
「言った通りだよ?俺はお母さんと一緒に高知に行くことにしたんだ!お母さんが一人で可哀そうだったし」
「私を一人にすることに関しては何の情もわかないんですね」
「え、お姉ちゃんには若葉さんとお父さんがいるでしょ?」
するとお姉ちゃんは椅子から転がり落ちるように離れて、這いずって俺の方へ来た。そして俺の両肩を掴み物凄く揺さぶった。
「この部屋では一人じゃないですか!なんではなれちゃうんですか~?お姉ちゃんは...私はずっとひなとといたいんです!」
「...たまにはお姉ちゃんと離れて暮らしてみたいな~って...」
「.......................................私が何かしましたか?」
「いや?」
「じゃぁ!どうして離れたいなんて言ったんですか!」
「高知に行ってみたいと思ったから」
「じゃぁ休日にお母さんに会いに行けばいいじゃないですか!」
「休日にお母さんほぼいないじゃん」
「そうですけど!でも夜には帰ってくるじゃないですか!」
「それに俺は高知で暮らしてみたいとも思うんだ」
「ああ...そうですか...」
それだけ言ってお姉ちゃんはずっと俺のことを見るだけになって何にも言葉を発しなくなった。
「ひなたーひなとーご飯だぞー...ひなと...お前どうやって伝えた...?」
俺らのことを呼びに来たお父さんがお姉ちゃんのことを見てそう言ってきた。
「かくかくしかじか」
「...うん...まぁしょうがないか?...大丈夫かな...立ち直れるかな...」
みんなで食事をしている時もお姉ちゃんは一言も言葉を発さずに、俺を見ながら淡々と食事をしていた。なんか怖い...
「...ひなた、大丈夫かしら...」
「ひなとに任せるか」
なんか両親はこのお姉ちゃんを俺に押し付けるつもりらしい。
そしてお姉ちゃんは何をするにしても俺についてきた。トイレに行こうとしてもついてくるし(さすがに中に入れなかったが)、お風呂無理やり入ってくるし、お姉ちゃんがトイレに行っている間に隠れたがなんかすぐに見つかったし、寝るときは抱き枕にされた。
そうしているうちに夜が明け新しい1日が来る。
「ねぇひなと」
お姉ちゃんは朝起きてやっと声を出した。
「なに?」
「私、昨日ひなとと一緒にいて考えたんです」
「何を?」
「ひなとが高知に行くことに関してですよ」
「ほえー」
「...私は毎日ひなとの声さえ聴ければいいのではないかと考えました」
「ほう...」
「ですので、ひなとが毎日高知であったことを言ってくれればおそらく大丈夫です」
「じゃぁ...」
「はい、ひなとが私を置き去りにして高知に行くことにまだ嫌な気持ちはありますが別に許可はしていいくらいはその気持ちも落ち着きました」
「よかった...このままお姉ちゃんが監禁してきたらどうしようかと思ったよ...」
「監禁...!その手がありましたか!じゃさっき言ったことはなしです!」
「ひなた~?それは少しダメなんじゃないかな~?」
「!お母さん...聞いていたんですね」
「うん...でもまぁひなたが納得してくれてよかったわ」
「お母さん、私はまだ納得していませんよ。もっといい方法が思いついたのですから!」
「犯罪はやめようね~あ、ひなと」
お母さんがお姉ちゃんに向かって呆れたような顔をした後に俺の方を向いた。
「なに?」
「土地代を安くするために、私の職場の隣町の田舎の村で過ごすことになったわ。それでも大丈夫?」
「!うん!全然大丈夫!むしろ田舎みたいなきれいなところがいい!」
「そう...ならよかった。ちなみに高知に行くのは春休みからだからそれまでにやれることはやっておきなさいね」
「はーい」
「...ひなと!」
「な、何⁉」
お姉ちゃんは俺が返事をしたかと思ったら、急に俺を押し倒してきた。
「これからは毎日お風呂に入りますし、いたるところでひなとといますからね!」
すごい目力で行ってくるお姉ちゃんに、俺は
「少し怖いよ...」
と呟くことしかできなかった。
宣言通りお姉ちゃんは四六時中俺に付きまとった。
「ああ...なんか大変だな...」
若葉さんが俺を見ながらそんなことを言ってきたことがあった。
「...俺が高知に行ったら次は若葉さんの番ですよ?」
「...頼む。行かないでくれ」
「お断りです」
「...本当にこれが私に降り注ぐのか?」
「いいじゃないですか。愛している幼馴染からの永遠の愛ですよ?」
「いや周りから変な目で見られるではないか...お前らクラスメイトから本当にやばいやつって見られているぞ」
「知らんがな。と言うか若葉さんは友達いないじゃないですか」
「な..!い、いるわ!ひなたとかひなととかひなたとかひなととか!」
「結局俺らじゃないですか...」
「う、うるさい!私は量より質なんだ!」
「まぁ...嬉しい...私たち若葉ちゃんにとっていい友達だそうですよ?」
ちなみに今更であるが、若葉たちは普通に名前に関してのルールを破っている。その他のルールは守っているんだけどね。
「...あ、やっぱり友達はひなただけかもしれない」
「...そっか...そうだよね...だってストーカーを押し付けてるもんね...でもそのストーカーを友達だって言ってくれているんだから別にいいよね...まぁ俺は友達だと思ったけど...まぁ自称友達からの最後のお願いと言うことでお姉ちゃんよろしくね...」
俺は少しテンションを落としながら言った。
「あ、ちょ!ま、待てひなと!嘘だ!嘘だからそんなに落ち込まないでくれ!お前は本当にごくまれだが鍛錬に付き合ってくれるからな、後ひなたについての会話もできるし...しっかり友達だと思っているぞ!」
「本当?」
「ああ、本当だ!この話はもうやめにしよう!...それにしても驚いたな...あんなにお姉ちゃんお姉ちゃん言ってたやつが急に離れるなんて...」
「まぁ心境の変化だね...あと心では繋がってますし」
「ひなと...」
「やっぱり離れないほうが良いんじゃないか?」
うっとりとしているお姉ちゃんを見ながら若葉は言った。
「まぁお姉ちゃんにも弟離れが必要ってことで」
「弟離れ...?私は若葉ちゃんともひなととも絶対に離れませんよ?」
「「...」」
お姉ちゃんが急に真顔で言っているのを俺らは黙ってみていた。
そしてお姉ちゃんと一緒にいる最後の春休みとなった。思い出作りと言うことで、俺らは遊園地に来ていた。ちなみに引っ越す三日前である。
「わ~!意外とでかいですね~!」
「うん...そうだね」
俺らの目の前ではやけにでかい観覧車だったり、やけに角度がついているジェットコースターが見えていた。
「まぁ俺らの身長じゃあ乗れないものが多そうだけど...」
「別にそれでもいいじゃないですか...ああ、若葉ちゃんも来ればよかったのに...そしたら幸せ空間がもっと幸せ空間になったのに」
「家族の思い出作りだからね、ショウガナイネ」
俺らがそう言っているとチケットを買いに行っていたお父さんがこちらに戻ってきた。
「意外と並んでて遅くなった」
「春休みだからね~」
「はい、ひなたひなと。これチケットね。乗り放題の買ってきたからたくさん乗りなさい。お父さんたちは見てるから」
「はい。ありがとうございます。ではひなと、早速入りましょう」
「ん」
そうして俺らは遊園地へ入場した。
「ねぇひなと、せっかくお父さんが乗り放題を買ってくれたんです。すべての乗り物に乗りましょうね?」
「うん」
そう俺が返事をするとお姉ちゃんは手を引っ張り、目の前にあったアトラクションへ向かった。
最初はメリーゴーランドであった。遊園地自体が大きいため、メリーゴーランドもそこそこの大きさであった。
「これに乗りましょう!」
お姉ちゃんはやけにハイテンションであった。
「いいけどどっちに乗るの?」
メリーゴーランドと言うのは座席に座るタイプと馬に乗るタイプの二種類が存在する。
「う~ん...どっちに乗りましょう...普通は馬に乗るんでしょうがそれだとひなとと乗っている気がしないですね...」
「隣で乗れば一緒に乗ってる感は出そうだけど...」
「そうですね...では隣同士で乗りましょう」
そうして俺らはメリーゴーランドに乗った。まぁ特にハプニングとかはなく、単純によくわかんない音楽を聴きながら回っただけであった。
そして俺らはいろんなところへ行った。まぁ行っただけで、身長制限がかかって乗れなかったものがほとんどなんだけど...
そして俺にとっての悲劇は突然起きた。
「次はあれに行きましょう」
そうしてお姉ちゃんが差したものはお化け屋敷であった。しかもこれまたでかいし怖そうである。
「やだ」
「はい?」
「いやです行きたくないです」
俺は少し後ずさりながらそう言った。
「全部乗るって言ったじゃないですか」
お姉ちゃんは笑いながら少しずつ近づいてくる。
「いやだー!」
俺は少し大きな声で拒否りながら逃げようとした。
しかし
「こらこらどこ行くんですか」
お姉ちゃんが俺の腕をつかみ逃走できなくした。
「いやなもんは嫌だ。はなせ!と言うか何でそんな力強いんだよ!」
「ふふふ、なぜか妙に力があふれてくるんですよ」
お姉ちゃんによって困った時俺は両親を見るようにしている。なので俺はいつものように両親を見た。
しかし返ってきたのはいつものほほえみであった。畜生。
「ほ~ら、時間は有限ですよ。さっさと行きますよ」
そう言ってお姉ちゃんは俺を引きずってお化け屋敷の真ん前まで連れていった。お化け屋敷に近づいた瞬間。あたりの空気気が冷たくなり、不安な気持ちになった。
「泣くほど嫌なんですか?」
俺は無意識に泣いていたらしい。
「...うん」
「じゃあ、抱き着いてきていいですから一緒に行きましょう?」
「ううん」
「じゃ一人で行ってくださいね」
「あ...や、やだ...お願いだから一緒に行って...」
と言う感じで流された気がしなくもないが俺らはお化け屋敷に入ることになった。
「ひっ!」
お化け屋敷に入った瞬間とてつもない恐怖に襲われ、俺は目をお姉ちゃんの腕に押し付けた。そしてお姉ちゃんの腕を抱きしめた。
「ひなとがこんなにもホラーに弱かったなんて驚きです...」
そして俺はお化け役の人が驚かしてくる音を聞いては悲鳴を上げた。なんだかお姉ちゃんにも驚かせ役の人にも笑われている気がした。お化け屋敷からだ出した後も俺はずっとお姉ちゃんの腕にしがみついていた。落ち着いて腕を話したときにはお姉ちゃんの袖はしわくちゃになっていて一部分が濡れていた。
「ごめん...」
「いいですよこのくらい。ひなとの弱点も発見しましたし」
「それをついたら俺は一週間...三日...一日...うん一日話さないから...」
「...わかりました。肝に銘じておきます」
まぁそこからは特に何もなくただただ楽しんで帰った。
翌日...
「ひなとー、一緒に映画見ましょう?」
そう言ってお姉ちゃんはDVDと書かれたパッケージを持ちながらそう言ってきた。特に断る理由もなかったので一緒に見ることにした。
そう言えば結構前に机とタンスぐらいしかなかった部屋にテレビが追加された。子供が寝るところにテレビを置くのがどうかと思うのだが、まぁいいか。
お姉ちゃんがDVDをセットしている間に俺は座布団を敷いて先に座っていた。お姉ちゃんが隣に座った瞬間
カシャ
と何かの音がした瞬間手に少しだけ違和感を感じた。見ると俺とお姉ちゃんに手錠がかかっていた。
「え...?なにしてるの?」
「手錠をかけたんですよ?」
「いや見ればわかる...」
「ほらそんなことより映画が始まりますよ?」
お姉ちゃんがこんなことまでして俺に映画を見せようとしているのだ。もう嫌な予感しかしない。と言うか予想通りホラーだったよ。
「お姉ちゃん...言ったよね?もう話さないよ?」
「話さないなら...抱き着くこともできませんよね?もし今日私と話さないつもりなら...私を頼らないでくださいね?」
「ううぅ...ずるい!悪魔!鬼!」
「...映画はもう一本用意してありますよ」
お姉ちゃんは笑顔だけど笑顔じゃない顔で言った。
「ごめんなさい...」
俺はただただそう言って、姉の腕に二時間ほど抱き着いていた。
翌日...
「ひなと、一緒に散歩にでも行きませんか?」
お姉ちゃんが話しかけてきたが俺は無視して部屋に向かった。
「ひなと?何で無視するんですか?」
お姉ちゃんが部屋までついてきて話しかけてきたが俺は無視してテレビを見始めた。
「ひなとー、怒ってるんですかー?撮っちゃいますよー?」
お姉ちゃんがカメラを向けながらそんなことを言ってきたので、俺は隣にあった座布団をお姉ちゃんの腹あたりに軽く投げて、あてた。そしてテレビの音量を上げた。
「...」
お姉ちゃんは何も言わず下へ向かっていった。
「お母さんどうしましょう⁉ひなとが無視してきます!」
「自業自得ね...」
「お父さん!」
「...」
ひなたが母親に冷たくされたため、父親に助けを求めたが父親は目をそらし無視をした。
「......もう一回ひなとに会ってきます」
そうしてひなたは再びひなとのいるところに戻った。
「あの子も切れることがあるのね...」
「まぁ、やめてと言った後すぐにそういうことをしてきたからな...」
「ひなと~、謝りますから機嫌直してくださいよ~」
下に行ったかと思ったらすぐ戻ってきたお姉ちゃんがしつこく、また言ってきた。
「...」
「若葉ちゃんのところに行っちゃいますよー?」
勝手に行けばいいと思う。思うのだが...
「...もうしない?」
「...!はい!しません!」
「そっか...じゃ、散歩にでも行こうか」
「はい!」
玄関から出る前に一応親に散歩しに行くと伝えた。
「そう...行ってらっしゃい」
ただそれだけ言われた。
「あの子たち仲直り早いわね」
「ひなとがめんどくさくなって許したんだろ」
「どうかしら?」
「違う意見でもあるのかい」
「ふふ、うちの子たちは両思いだと思うのよ」
「ほう」
「だからひなともひなたと話せなかったから許したんじゃないかしら?それに一応今日で最後だしね...」
「そういえばそうだったな」
外に出た後、俺らは自然と手をつないでいた。まぁお姉ちゃんが無理やりつながせてきただけなんですけど。
「まずは若葉ちゃんちに行きましょう。ひなとは今日で最後になるかもしれないですからね」
「そうだね」
適当に歩いていたらすぐに若葉さんの家に着いた。インターフォンを押して家の敷地に入り、道場の方へ向かった。そこにはいつものように刀を振っている若葉さんがいた。
若葉は俺らが入ってきたのに気づくと素振りをやめた。
「おっす!」
「こんにちは、若葉ちゃん」
「ああ、今日来ると聞いてなかったが...」
若葉は少し不思議そうに首を傾けた。
「何を言っているんですか、今日でひなといなくなるんですよ?」
「え...今日だったのか⁉」
「そうですよ」
「な、なぁもうちょっとここにいないか?」
「いやですよ...と言うか無理です」
「...明日からのひなたが大変なことになる...」
「頑張ってください...」
「お前のせいなんだがな?...そうだ、お前私の鍛錬に付き合え。今日で最後なんだ。このくらいいいだろ?」
「まぁそのくらいなら...」
そう言って俺は奥にあった竹刀を取り出し、若葉さんと相まみえる。
やることは変わらない。斬りかかって反撃されるだけ。俺は一歩踏み込み、縦に竹刀を振った。
若葉さんはいつものように受け流し、こつんと俺の頭に当てた。
「...お前は何というか...成長しないな」
「たまに横に切りましたよ?」
「そうじゃないんだ。まぁいい、次来たら本格的に教えてやる」
「そりゃ、どうも」
「ひなとが若葉ちゃんの相手をできるようになったら、私としてもかなりうれしいので頑張ってくださいね!」
「...そろそろ行く?」
このまま長居してもまた鍛錬とか言いだしそうな空気だったため、俺はお姉ちゃんにそう聞いた。
「そうですね、散歩する時間も無くなってしまいそうですしそろそろお暇するとしましょう」
「行ってしまうのか...」
「うん。タマに戻ってくるかもしれないからそんな顔しないでください」
「あ、私はいますので。毎日会いに行きますね!」
「ああ」
若葉さんは嬉しそうで少し複雑な顔をしていた。
そうして俺らは乃木家を離れた。そして今適当なところをぶらついている。
「桜がきれいですね...」
「そうだね」
俺らが適当に桜を見て適当に感嘆している時であった。
「見てあの子たち、手をつないでてかわいい!」
「そうだね...姉弟なのかな?」
そう言った声が後ろらへんから聞こえてきた。お姉ちゃんもその声を聞いたのか手を握る力を強めてきた。俺がこんなことを周りに言われたら手を離すというのを学んだためであった。
「桜も見ましたし、そろそろ帰りますか」
「そうだね、結構歩いてきたしこれ以上行って帰れなくなったら困るし」
「そうですね」
「あ、ここ」
お姉ちゃんがそう声を発した場所は、若葉さんと初めて会った場所...つまり初めてのお使いの時の帰路の横断歩道であった。
「ひなとがいきなり止めるもんですからびっくりしましたよ」
「それは...お姉ちゃんが信号を見ていないのが悪い」
「でも点滅ですよ?」
「点滅は赤と一緒だよ」
「...まぁそういう考えもあるでしょう...ひなとが心配性なのもわかりました」
「さいですか」
特にそのあとは何も起きず、単純に一緒に寝ただけだった。まぁお母さんに
「明日は早いから早く起きてね、起きなかったら無理やり車に乗せるけど」
と言われたりしたが、特に何にも変わらなかった。
翌日、俺はお姉ちゃんを起こさないように起きてリビングの方へ向かった。
「お、しっかり起きることができたのね」
下に降りると、お母さんがお父さんの入れたコーヒーを飲んでいた。
「ひなたとは一緒じゃないんだな」
お父さんがコーヒーをこちらに渡しながら言ってきた。
「うん、出発するときに起きてたら少しめんどそうだし」
「誰がめんどくさいんですか」
「それは持ちろンお姉...」
俺は途中で言うのをやめ、後ろを向いた。少し眠そうなお姉ちゃんがいた
「最後だというのにふぁ~...ひどいことを言いますね」
あくびをしながら言うお姉ちゃんに対し俺は
「いや、なんかお姉ちゃんの言葉で俺が心苦しくなるかもしれないという点でめんどくさいだけです」
と言い訳することしかできなかった。
「そうですか、ひなとは私がいると泣き喚くんですね」
「ちげぇよ」
「そんなひなとにいい案を出してあげましょう!」
「だからちげぇ」
俺の言葉を無視してお姉ちゃんは言う。
「ずっとここにいれば「お姉ちゃん」はい?」
俺はお姉ちゃんの話を遮った。
「しつこい」
「っ!な、なんですか!もうお姉ちゃんは必要ないと⁉そういうことですか⁉」
「このくだり何回目...?何回も言うけどそれは違うって。本当に必要ないんだったら高知入った後に連絡絶対しないよ?」
「あ、それは本当にやめてください」
「うんお姉ちゃん好きだからそれはしないよ。でも少しは離れてみたいとも思うから...」
「そうですか...でしたら毎日連絡してくれればいいです...本当に...」
お姉ちゃんは最初の言葉を聞いたからか少しうれしそうであった。
「納得してくれてありがと」
俺はそう言って冷めたコーヒーをちょびちょびと飲んだ。砂糖がふんだんに入っているからかすごく甘かった。と言うかこれコーヒー牛乳や。
「ひなと、そろそろ行くわよ」
俺がコーヒー牛乳を飲み終えたあたりでお母さんが言ってきた。
「うん...じゃ、お姉ちゃん、またね!」
またね...この言葉は便利である。周りの状況、その人の状態、どんな時代になっているのか関係なしに会えはする言葉なんだから。
「はい...電話待ってます」
その言葉を聞いてから俺は車に乗りこんだ。
車が走り出す。
「最後...」
「?」
ハンドル片手に前を向きながらお母さんは話しかけてきた。
「ひなたに告白してたね」
「してない」
「ふふ...でもあなた達は結婚できるわよ?」
「お母さんそれされてうれしい?」
「...どこの馬の骨ともわからないやつに取られるよりは、私たちが育て上げた子に取られるほうが良いわ」
「...まぁ俺はお姉ちゃんとして好きなだけで別に異性として好きなわけじゃないですし」
「薄情ね」
「薄情では無くね」
「でもひなたはそういう心を向けているのにまったく気にしていないじゃない」
「いや、恋心を抱いていないだけで普通にお姉ちゃんは好きだよ。偶に...頻繁に起こる気候は少し嫌いだけど」
「それは...ひなとがそうさせたんじゃないの?」
「いや、俺が来なくても若葉さんでああなっていたと思うよ。俺はそれを早めただけ」
「そう...と言うかなんで若葉ちゃんのことは若葉さんって呼んでるの?」
「学校の名残...ただそれだけ。別に敬意を抱いているわけではない」
「ふーん」
それ以降会話はあまりなかった。
高知への道なりはまだ少し長い...
なんてご都合主義...