キヴォトスヤンデレ録   作:ゆっくりいんⅡ

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 拙作『大阪から来た』と並行で投稿していきます。こちらは原作と同じ『先生』となります。

 今回は先生の初めての女、早瀬ユウカ。計算を得意とする彼女は、先生にどんな愛を向けるのか?

 


あなたの全ては計算通りに(早瀬ユウカ)

 最近、ユウカによく会う気がする。それがどうという訳ではないんだけど。

 

「あ、先生! こんにちは、偶然ですね」

「こんにちは、ユウカ。何だか最近よく会うね?」

「そうですか? 私としては、先生の顔をよく見れて嬉しいですが……」

「うん、私もユウカに会えて嬉しいよ」

「! そうですか、それなら良かったです!」

 

 ゲヘナの用事からの帰り道。一人で歩いていたところで出会ったユウカは、不安げなものから一転、ツーテールに結んだ髪を揺らしながら微笑んでいる。

 最近は素直に笑ってくれるなあと、彼女の笑顔に動悸が上がることを悟らせないよう、私も笑みを浮かべる。キヴォトスで生徒と先生の恋愛に制限がないとはいえ、やっていいかは別問題だからね。

 

(でも、実際妙なくらい会うんだよなあ)

 

 最低でも二日に一回、多ければ一日三回は彼女の顔を見ることもある。

 最初はコタマみたいに盗聴器でも付けているのかと思ったけど、ユウカがそんなことをするとは思えなーー

 

「むにゃ。な、なふぃ?」

「せーんーせーいー? 私が目の前にいるのに、他の子のことを考えているのは酷くないですか?」

「ご、ごみぇんユウファ」

「ちょっと引っ張ったら許してあげます。……わ、先生ほっぺ柔らかいですね」

 

 それ許してないんじゃ、と言う間もなく、縦縦横横丸書いてちょんされた。赤くなってないといいんだけど。

 

「あいたたた……そんなに分かりやすかった? 私」

「女の子はそういうのに敏感なんですし、先生とは付き合いが長いですから。次からは気を付けてくださいね?」

「考えることまで読まれたらどうしようもないんだけど……まあ、頑張ってみるよ」

「努力してくださるだけでもありがたいです。もちろん、結果を出していただけるのが一番ですが」

「手厳しいなあ、ユウカは」

「ふふ。じゃあ頑張る先生のご褒美に、シャーレまで送りますね。

 ……戻ったら休憩も兼ねて、膝枕してあげましょうか?」

「い、いや、そこまでして貰わなくても……それに、帰ったら書類仕事が残ってるし」

「ダメですよ。ここ最近は急な任務ばかりで、ろくに休めていないんですから。

 先生が忙しいのは重々承知してますが、こういう時こそきちんと休みを取ってから仕事に臨む方が合理的です」

「う、まあ、そうかもだけど……」

 

 実際ここ数日は睡眠時間を削って働いていたため、ユウカの提案は魅力的過ぎる。膝枕は恥ずかしいけど、上手く説得できるだろうか。

 

(……あれ? 私、ユウカにスケジュール教えたっけ?)

 

 ここ最近は当番も回ってきてないし、偶然会う時以外一緒に行動することも無かったはずなんだけど。

 

「他の生徒から話を聞いて情報を統合した結果ですよ。先生、頑張るのもいいですけど、無理までして欲しいとは思っていませんよ?」

「……私、口に出してた?」

「ふふ、さあどうですかね? ほら先生、時間は有限なんですから行きましょう?」

「わ、わ。ユウカ、そんな引っ張らないでって!」

 

 

 その後、ユウカの説得に疲れで頭が鈍っていた私は断り切れず、膝枕されながらの休憩を取ることになった。

 

「ふふ。先生、気持ちいいですか?」

「う、うん。ありがとう、ユウカ」

 

 頭を撫でてくれるユウカは凄い優しい顔をしていたが、太腿の柔らかさや彼女の匂いに包まれて、安らぎはしたが落ち着けなかったのは言うまでもない。

 

 

 

 また別の日。久々の当番でシャーレに来てくれたユウカの手には、バスケットが握られていた。

 

「先生、こんにちは。お仕事は順調ですか?」

「あれ? こんにちは、ユウカ。セミナーの仕事は大丈夫なの?」

「はい、予定より早く終わったので。……途中妨害になるトラブルもありませんでしたし」

「あー……そうだね、それは良かった」

 

 ちょっと遠い目をするユウカに、私も同調して頷く。キヴォトスの子達は元気がいい(控えめな表現)ため、予定が予定通り進まないことの方が大半だ。

 そして、その分の皺寄せは大体各学園の一番上に来る。ミレニアムならセミナーに、という訳だ。

 

「ま、まあ終わったなら良かったよ。一段落したらお願いすることをまとめるから、座って待って」

「その前に先生。お昼の時間を過ぎてますけど、ちゃんと食べましたか?」

「え?」

 

 ユウカに言われて時計を見てみると、短針が頂点を過ぎていた。うわ、いつの間にかこんな時間になっていたのか。

 

「……はあ。そんな気がしましたので、お昼は用意してきました。先生、一緒に食べましょう」

「あはは……ごめん、ありがと。じゃあ食べながら」

「仕事の手は止めてくださいね? どうせ朝から休憩取ってないでしょうし」

「……えっと、はい。仰る通りです」

 

 だって仕事が間に合わないんだもんと目を向けてみるが、眼光が鋭くなったので口を噤むことにした。まあ、健康を損なっていい理由にはならないよね。

 

「はい、それじゃあ作業の手を止めましょう。すぐ準備するので、先生はテーブルに座って待っていてください」

「いや、テーブル拭くくらいは手伝わせてよ。ユウカにばっかり任せるのはちょっと、ね?」

「……先生も強情ですね。じゃあ、お願いします」

 

 苦笑しながらユウカが布巾を渡してくれる。これじゃあどっちが年上か分からないな。

 そうしてユウカが持ってきてくれた昼食――数種類のサンドイッチと、水筒に入れてきたスープを頂いていく。濃すぎない味付けが優しく入っていき、私の胃を満たしてくれる。

 

「ごちそうさま、美味しかったよ。うん、これならこの後も頑張れそうだ」

「それなら良かったです」

 

 程良くお腹が膨れて満足した私に、ユウカは頬杖を突いてこちらをニコニコと見やっている。何だか優しい視線がむずがゆい。

 

「そういえばユウカ。わざわざお昼作ってくれてありがとうね。ただでさえセミナーの仕事が忙しいだろうし、大変だったでしょ?」

「いえ、先生がまともにご飯食べてない状況だというのは計算出来ていましたから。空いた時間で作っておいたので、負担にはなっていませんよ。

 万が一予測が外れていても、夕ご飯にしてもらえば良かったですし」

「ユウカには何でもお見通しだね。もしかしたら、全部知られてるんじゃないかな?」

「それじゃあ、先生のスケジュールも全部管理してあげましょうか?」

「はは、それはすごい助かるし、ユウカ相手ならいいかもしれないね」

 

 私としては、軽口に答えただけのつもりだった。つもりだったのだが、

 

「ーーーーっ」

「ユウカ?」

 

 ユウカは息を吞み、肩を大きく震わせる。妙な反応に椅子から立ち上がろうとするが、

 

「ねえ、先生」

 

 テーブル越しにユウカは手を伸ばし、両手で私の頬を掴んでくる。まるで逃がさないと言わんばかりに。

 

「本当に、本当に」

 

 瞬きもせず、私を見つめる彼女の綺麗な瞳に濁ったものを感じ取り、思わず声を上げようとするが、

 

 

 

 全部、私が管理して、見てて上げていいんですか?

 

 

 

「ユウ、カ?」

 

 幾重もの、不吉なものを思わせる感情が混じり合った言葉に、私は喉を詰まらせてしまう。

 冷や汗が流れていき、見つめ合わせられたままどれくらいの時が流れただろうか。

 

「――なんて、冗談ですよ」

「え?」

 

 苦笑しながら、あっさりと離れてくれたユウカ。その瞳に、先程の濁った色は欠片も残っていない。

 

「すいません、驚かせてしまって。先生のだらしない所は管理させていただきますけど、自由意志までは奪いませんよ。

 さっきのはちょっとした脅しです。私だって、先生の全部を見るほど暇じゃありませんから」

「そ、そっか。……心臓に悪いよ、ユウカ」

「いつも頼ってくるんですし、ちょっとしたイタズラですよ。」

 

 そう言われると、こちらとしては返す言葉がない。苦笑する私に対して指を立てるユウカの姿は、すっかりいつも通りのものだった。

 

「さて、それじゃあお仕事を始める前に――新作ゲームの出費についてちょっと話し合いましょうか、先生?」

「……仕事の後にしない?」

「ダメです」

 

 あ、これは逃げられないな。笑顔で領収書を突き付けるユウカに、私は項垂れて降参の意を示した。

 

 

 

Side:ユウカ

「……危なかった」

 

 シャーレの仕事と先生へのお説教を終えて、帰路の最中。誰もいない公園のベンチで私は一息吐いていた。

 夜風が湯だった頭を冷やしてくれて心地良く、同時に自分のやらかしたことを冷静に、振り返らせてくれる。

 

 『先生の全てを知りたい、見ていたい』。そう思うようになったのはいつからだろうか。

 好意を持っているとはいえ、異常なことだというのは自覚出来たし、自制するべきだという理性は持ち合わせているつもりだったけど――私はその欲求を、抑えられなかった。

 だから、計算したのだ。先生の行動パターンを数値化し、近日中の情報を組み合わせて予測する。

 そうして、私は先生の行動を予測し、『偶然』遭遇できるタイミングを計っている。多少違和感は感じるが、ストーカー紛いのこれが他の生徒、そして先生にバレない程度の頻度で。

 ヴェリタスに頼んで監視カメラや盗聴器を共用すればもっと簡単だったろうが、物証を残したくなかったし、

 

(先生に、嫌われたくない)

 

 優しい先生のことだから、バレても許してくれるとは思うがーー万が一でも、私達の仲に溝が出来るようなことはしたくなかった。

 

 そうしてバレることなく、先生を知るための『管理』を上手くやっていたのだが。自分のやらかしに、思わず溜息が出てしまう。

 

「先生が、あんなこと言うから……」

 

 思い返すのは、昼間の何気ない会話。

 

『それじゃあ、先生のスケジュールも全部管理してあげましょうか?』

 

 願望混じりとはいえ、軽口の類だった。いつもなら『そこまでは勘弁かなあ』とか返してくると予想していたが、

 

『はは、それはすごい助かるし、ユウカ相手ならいいかもしれないね』

 

 気が緩んでいたのか、はたまた私への信頼からか。そんな、望んだ言葉を返された私は、気付いたら暴走してしまっていた。

 

「本当、気を付けないと……」

 

 私は先生の全てを知りたいが、迷惑を掛けたいわけではないし、先生の今を壊したいわけではない。知られない以上問題がないとはいえ、先生のプライベートまで『計算』するような行為に、罪悪感がない訳ではない。

 ただ、抑えきれないのだ。好きで好きでたまらない、異性を好きになるということが、こんなに私をおかしくしてしまうなんて、計算外にも程がある。

 

「先生。本当に許してくれるか、ダメになってしまったら」

 

 もし、もしも。そんな未来が訪れたなら。

 

 

「私が完璧に管理して――全部、愛してあげちゃいますからね?」

 

 

 とても、幸せなんだろうな。

 

 

 

√END

「ゆ、ユウカ。こんなこと、ダメだって」

「ふふ、ダメですよ先生。その言葉も、逃げようとするのも。私の計算通りですよ?」

「……っ」

 

 先生の自室。二人きりの空間で私に押し倒された先生は、私の下で息を呑み、顔の筋肉を引き攣らせている。

 生徒に向けるべきではないと思っているだろう、酷い顔。新しいものを見せてくれたこの人に、愛おしさがより一層増してしまう。

 

「大丈夫です、先生。痛いことはしませんし、先生の自由を奪うようなこともしません。

 ただ、先生のこれからのスケジュールを合理的に、無理が無いよう管理させてもらうだけです」

「そこまで、するのは」

「はい、おかしいです。でも、先生が本気で望んだんですよ? 『私に管理して欲しい』って」

「……それ、は」

  

 疲れていたというのもあるのだろう。ただ、心底から漏らしてしまったこの人の言葉で、私が私自身に課した枷は壊れた。

 

「大丈夫、先生の意思は尊重します。生徒のみんなとは平等に接してもらって大丈夫です。

 だから、私を先生の『特別』にしてください。先生のことを、もっと教えてください」

「……でも、私は生徒とは付き合えないよ。先生、だから」

「そんな言葉じゃ止まらないのは、もう分かってますよね……?」

「ーーっ。ゆ、ユウカ」

 

 首に腕を回し、動けないように抱きしめる。胸を押し付けられると、慣れない感触に顔を赤くしていた。

 

「先生、好き、好きです。ううん、一人の女として、あなたを愛しています。

 もし、これから好きになってくれるならーー私の愛を受け入れてください」

「……」

 

 抱きしめたまま、ゆっくりと顔を近付ける私に。先生は、顔を逸らさなかった。強制とはいえ、『選んでくれた』。

 距離がゼロになり、唇が触れる。激務のせいか、少しだけかさついた先生のと重なっていると意識しているだけで、多幸感と同期でどうにかなってしまいそうだ。

 

「ありがとうございます、先生。これからよろしくお願いしますね♪」

「……うん、よろしくユウカ。ところで、そろそろ離してくれないかな」

「ダメです。今日はもう予定もありませんし、もうちょっとこうさせてください」

「……甘えん坊だね、ユウカは」

 

 まだ引き攣っているけど、それでも笑っている先生は、ゆっくりと私の頭を撫でてくれる。

 ああ、本当に受け入れてくれたんだ、先生が、私を。

 

(完璧に計算通りだけどーーこのドキドキだけは、計算できない……。

 先生、私が今もこの先も、ちゃんと管理してあげますから)

 

「幸せになりましょうね、先生」

 

 

 

 

 




後書き
 純情という名で編まれた、蜘蛛の糸。誘導されたとはいえ、先生は早瀬ユウカという生徒の愛を受け入れた。

PS
早瀬ユウカ
タイプ:ストーカー型
 相手の全てを把握していたいタイプ
コンセプト:『悪役になりきれない悪役』
 愛したい、全部知りたいと思いつつも、降り積もる罪悪感には勝てない。先生が認めない限りは。
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