キヴォトスヤンデレ録   作:ゆっくりいんⅡ

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欲しくて欲しくてたまらない貴方に

「誕生日に欲しいもの、ですか?」

 

 トリニティにあるテラスの一つ。私に水を向けられたティーパーティーのホスト、ナギサは目を瞬かせてオウム返しに聞いてくる。

 

「うん。私に出来る範囲のものなら、何でもいいよ?」

「……先生から何でも、と言われてしまえば、逆に迷ってしまいますね……」

 

 紅茶を飲みつつ、私の提案に真剣な顔で悩みだすナギサに苦笑する。自分の誕生日なんだし、もっと気楽に考えてもいいと思うんだけどな。

 

(まあ、ナギサならそんな無茶は言わないだろーー)

「そうですね……なら、先生が欲しい、というのはどうでしょうか?」

「うん、それじゃあわたーーえ? 

 ……ナギサ、冗談だよね?」

「ふふ。冗談だと、思いますか?」

 

 ティーカップを置いて立ち上がり、歩み寄ってきたナギサは私の頬に、柔らかな指先を添える。

 可愛いより綺麗、美人と呼べる端正な顔立ちが間近に迫り。笑みを浮かべて私を見下ろす彼女の瞳から見える色に、何か違和感を感じる。

 

「ナギ、サ?」

「先生。先生は疑わしきは罰せよの精神で補修授業部の皆さんを陥れた私を許してくださり、幼馴染のミカさんも救ってくれました。

 そんな私、いいえ、私達のために身を削ってでも救ってくれた素敵な殿方を、好きになるのはおかしなことでしょうか?」

 

 笑顔で饒舌に、明確な好意を伝えてくるナギサ。その顔は徐々に近付いてくる。

 魅入られたように動けない私は、お互いの距離が0になるーー

 

「むぐっ」

 

 直前、頬を撫でていた指が私の口に添えられ、薄いが確かな障害となって阻んでくれた。

 

「冗談です。驚いてくださいましたか、先生?」

「ナギサ……心臓に悪いよ……」

「ふふ、すいません。先生の珍しい顔がかわいらしかったもので、つい。

 あ、感謝をしているのは本当ですよ?」

「……そっちだけ、受け取っておくよ。あと、大人をからかうものじゃありません」

「はい、気を付けます」

 

 指を口に当てながら上品に笑うナギサに、私は憮然とした表情を装って紅茶を口に含む。

 思い出したように早鐘を打つ動悸と顔の赤みに関しては、気づかれていないと願いたい。

 

「私は今こうして、先生と一緒にいられるだけでも十分ですが……それでは納得されないでしょうし、決まったら連絡させていただきますね」

「……うん、分かったよ。待ってるからね」

「はい、ありがとうございます。

 ところで先生、顔が赤いのですが……」

「……分かってて聞いてるでしょ?」

「ふふ、何のことでしょうか」

 

 去っていく私の姿を、ナギサは笑顔で見送ってくれた。何だか完全に、敗北した気分だ。

 余談だが、あの時のナギサの顔がしばらく浮かぶようになり。思い出す度羞恥と罪悪感で悶えていたのは、大分恥ずかしい話である。

 

 

Side:ナギサ

「……良かった。脈あり、ですね」

 

 一人になったテラスにて。私、桐藤ナギサは落ち着くために残った紅茶を一気に飲み干す。大分はしたないことをしたという自覚がある故に、せめて所作だけは礼儀を維持したままで。

 

「先生も、あんな顔をするんですね。……かわいい」

 

 本人が聞いたら、大人に対して言うことじゃないでしょと否定されるだろうが。私の言動で露骨にうろたえ、固まっていた先生の姿は、胸に来るものがあった。

 

(押せば行ける気はしますが……)

 

 寧ろ押し倒すべきか? と、はしたないを通り越して品のない思考に首を振る。

 いずれそうなりたいとは思うが、いくらなんでも強引すぎるし、それで溝が生まれてしまったら生きた心地がしないし、何より。

 

「……ミカさん」

 

 浮かぶのは、先生の尽力によって許され、また一緒に歩けるようになった幼馴染の姿。

 誤魔化してはいるが、会話の端々から私と同じように先生へ好意を持っていることは明白である。

 

「でも、私は……」

 

 恋と戦争は手段を選ばないというが、幼馴染を出し抜くことに罪悪感はある。

 だからといって、ミカさんといえど先生を奪われることに我慢出来るほど、私は人間が出来ていない。

 

(先生を私のものにしたい、などとは言いません)

 

 誰かを手に入れる、などというには、私は罪を重ね過ぎた。先生は許してくれたが、それで何もかも終わるわけではない。

 だから、今思うのは逆だ。

 

 

(私は、先生のものになりたい……)

 

 

 先生になら、どんなことをされてもいい。だって、そのすべてをいとしく感じてしまうのだから。

 

「先生……」

 

 向かい側のティーカップ、先生が飲んでいたものを手に取り、あの人が飲んでいた場所に唇を当て、残って冷めた紅茶を口にする。

 

「はあ……」

 

 客観的に自分の所業はどうかと思うが、間接とはいえ唇が触れ合うという状況に、私は脳が痺れるような感覚を味わう。

 

「先生、お慕いしています……」

 

 空気に溶けていく告白の言葉に、私は自嘲してしまう。先生に伝わらなければ、意味はないだろうに。

 

 

 

√突入

「ナギサ、本当に誕生日プレセントが買物に付き合う、で良かったの?」

「はい。先生の時間をいただく、これ以上のプレセントは私にはありませんから」

「あはは、大袈裟だなあ。事前に言ってくれれば、いつでも付き合うのに」

「……ダメですよ。お互い忙しい身ですし、頻繁に行ってしまったら、特別な感覚が無くなってしまいます」

 

 シャーレ付近のショッピング街。いつもの制服とは違う、ゆったりとした暖色のブラウスにフレアスカートという私服姿のナギサと並んで歩く。

 

「な、ナギサ。ちょ、ちょっと近いんじゃないかな?」

「そうですか? ふふ、少し舞い上がっているのかもしれません。

 こんな風に、先生と一緒にいられる時間が、愛しくて、愛しくて……本当に、仕方ないんです」

「ーーえ。ナギサ、それって……」

「ふふふ」

 

 腕を取ったナギサは、妖しく笑うのみで明確な答えは出さない。

 

「先生」

「う、うん。何? ナギサ」

「明確なお返事を、私はすぐ求めているわけではありません。

 ただ、一緒にいる時はーー私だけを見て、私だけを考えて欲しいです」

「っ、う、うん。出来るだけ、努力するよ……」

「はい、ありがとうございます。出来ないことを出来ると嘘を吐かれるより、そう言われた方が気楽ですから。

 あ、お返事は私が卒業するまでにいただければ大丈夫ですよ?」

「あ、あはは……ナギサ、随分積極的だね?」

「誕生日ですから。今日くらいは、こんな私でも許されると思いませんか?」

 

 冗談めかして言うナギサだが、その目は間違いなく真剣なものだった。その奥に潜む、押し殺した好意の形も。

 

(……ちゃんと、考えないとな)

「……本当に、私のことを考えてくれるだけでも嬉しいんですよ。先生」

 

 その後、ペアリングを買って身に着けた私を見て、嬉しそうなナギサを見て。可愛いなと思ってしまう私は、大分絆されてしまっているのかもしれない。

 

 

 




後書き
 結ばれるまでは至らず。それでも、二人の間には確かに離れがたいものが築かれた。

桐藤ナギサ
排除・崇拝型
 直接的な暴力や排除ではなく、用事やスケジュールの調整で二人だけの時間を作り出す。害はないため、気付かれる可能性は低い。
コンセプト:『からかう姿の奥に潜む本気、短くとも二人だけの時間を』
 先生をからかいはすれども、何かはしない。ただ、二人きりの時だけは、他の邪魔が入らないように徹底する。
 全ては、愛しい人と過ごす時間のために。



PS
 Pixivへ誕生日に掲載したのに、ハーメルンへの掲載を忘れた愚かな作者は私です。
 桐藤ナギサ様、マジでごめんなさ( ゚д゚)もごぉ!?
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