全身を押し潰さんとばかりに襲い来る、サイキックの拘束。それに辛うじて君が耐えきれたのは、ひとえに君が選んだ形態が『シズク』だったからだろう。防御にすべてのリソースを割いた『閃刀』の力はまさに絶対の防壁となり、君の生身の体を極限まで守り抜いた。
そしてもうひとつが、昼間……目の前の存在を小型化したような敵対存在と応戦し同じく拘束を受けた際に博士から聞いたアドバイスだった。
「この、『シズク』を強制的に、解除……っ!すれ、ば……!」
『急に行き場を無くしたことで外に出ようとするエネルギーが発生する。両者の力を拮抗させれば、ほんのわずかにだが隙が生まれるはずだ』
記憶の中の博士の言葉が、苦痛に耐える君の頭にこだまする。無論、リスクは大きい。君が今辛うじてこの力に抵抗できているのは、ひとえに『シズク』の力ありきのことだ。それを解除し、もし失敗したらどうなるかは想像に難くない。
それでも君に、躊躇いはなかった。仲間を信じる。それは君にとって呼吸するよりもたやすいことだから。
「『閃刀姫-シズク』、強制、解除……!」
青い装甲が一斉に弾け飛ぼうとして満遍なく押さえつけられ、それでも抑えきれないエネルギーが再び弾けようとする。ごくわずかに体中にかかる拘束が緩んだその瞬間を、君は見逃しはしなかった。
「今っ!」
あらん限りのエネルギーをすべて推進力に回し、力場から一気に脱出する。歪んだ視界が元に戻ると同時に、背後では取り残された『シズク』の青い装甲が捻じ曲げられ潰されて爆発を起こした。爆風に背中を押されながらも姿勢制御する君の耳に、温かい声が届く。
「よくやったぞ、レイ!やはり私の見立ては間違ってはいなかったっ!」
「もう、素直に無事でよかったって言ったげなさいよ、博士。言わないなら私が言っちゃうわよ?無事でよかったわ、レイちゃん」
「2人とも……はい!」
しかし、このささやかな勝利に浸る余裕はない。この生き物が全身に抱えた致命的な欠陥など知る由もない君たちにとって、目の前の怪物はいまだ無傷の存在。『ミスト』に託された言葉も、まずはこの決戦を制さなければどんな形であれ果たせそうにないのだから。
「しっかしどう攻めようかしらねー、このでっかいの」
「あの、それなんですが」
「うん?」
オペレーターの言葉に、ひらひらと宙を舞い小型の力場や降り注ぐ雷光を巧みに回避しながら君が返す。彼女としては横の博士に振ったつもりの話題に当の本人が返してきたことにやや驚きつつも、すぐさま興味がそちらに移った。なにしろ、映像とデータで眼前の戦闘を捉えている彼女たちとは違い君が見ているのは生の戦場なのだ。
「ひとつ、思いついたかもしれません。ただ、どうしても今のままだとパワーが不安なんです。博士、さっきの『JRGD』ってもう1回使えませんか?」
「パワー不足、か。確認だが、足りないものは純粋な火力なんだな?」
「は、はい……」
「結論から言えば、あれはもう使えない。使い捨てのシステムだからな。だがパワー不足、純粋な火力不足、か。ふふふ、レイ。まったく、愉快な注文をしてくれるじゃないか」
妙に弾んだ同僚の声にオペレーターは恐る恐る横を見て、密かにぎょっとした。これだけほくそ笑んでる博士の顔を見たのは、彼女たちが友人になってからでも初めての出来事だったからである。
生き物は、すぐに『敵』の動きに違和感を覚えた。最初の拘束から逃れて以降、生き物に比べはるかに小さな体と身のこなしを武器に攻撃を回避し続けていた……その動きが、明らかに変化し始めたのだ。目的のないその場凌ぎとも取れるものから、明確に何かのタイミングをうかがっているような。まるで、狩られるものから一転して自分が狩るものとなったかのような。そんな例えが生き物の頭をよぎったのは、『ビースト』の遺した動物としての知恵や本能ゆえだろう。
しかしその自ら想起した例えは、一層生き物の苛立ちと激昂を強くした。生き物は、その考えを振り払った。
すでに、生き物の精神は壊れかけていた。無理な改造を重ねた結果強引に手に入れた、無理のある肉体。その肉の枷に引きずられる形で、生き物自身も気づかぬうちにその精神は変貌していた。
そもそも生き物が戦うことを決意したのは自らの種を、そして細胞を同じくする仲間を守るためだった。『ビースト』、『アームズ』の死を通して復讐という新たな目標が加わりはしたが、それでも根幹は変わらなかった。
では『ミスト』は?『ミスト』は、生きていた。仲間を守るために手に入れた力を完全なものにするため、最後まで残った『ミスト』の自我を自らの思考で塗り潰し、その身を喰らったのは生き物自身だ。そして今度は『ビースト』の遺したものを不要と断じ、切り捨てる。触手を振り回すその姿に、もはやかつての理念は残ってはいない。『ビースト』が、『アームズ』がその身を犠牲にして、『ミスト』が全てを投げ捨ててまで守ろうとしたオリジナルは、もうそこにはいなかった。
「 !」
力任せに空を切った触手が、突如として押さえつけられた。それを可能とするのは、4本もの機械仕掛けの副腕。どれほどの膂力なのか、4本がかりでもなお抱えきれないほどにサイズの異なる触手は、しかし生き物が全力を振り絞ってもピクリとも動こうとはしなかった。
「『閃刀姫-カイナ』……!あなたには、これ以上暴れさせません……!」
両者の力が拮抗しているということは。それは同時に『敵』もまたその場から動けないということだった。すぐさま胴体の一つ目を触手の先端に向け、力場での捕獲にかかる。
だが、それこそが『敵』の狙いだと気が付いたときには、すでに何もかもが遅すぎた。
「かかりましたね!『閃刀姫-カイナ』、強制解除!」
4本の副腕を一斉に切り離し、触手に沿って生き物の胴体へと『敵』がまっすぐに突っ込んでくる。サイキック能力はたった今使ってしまったため、わずかにタイムラグがかかる。他の触手を伸ばし捕らえる、レーザーを放つ、雷を落とす……いずれの手段も、押さえつけられていた触手が邪魔で間に合わない。
そしてついに、巨大な目玉の真正面に『敵』の全身が映った。類のないほど至近距離にまで来たことで、これまでは聞こえなかった『敵』の仲間らしき人間の声をわずかに知覚する。
「さて、化け物君。今レイに頼んで、こちらの音声をスピーカー状態にしてもらったよ。これから君に見せるのは、この私が『閃刀』に搭載した最後の新兵器だ。君には礼を言わせてもらうよ、まさか1度の任務であれだけあった武装全ての実戦データが手に入るとは」
「実際、レイちゃんをここまで追いつめた敵なんて初めてよ。あなたの生まれには私も思う点がないわけじゃないし、お墓ぐらいは作ったげるわ」
「……ええと、そういうことだそうです。すみません、この2人がどうしても最後に一言喋らせてほしいと……そ、それでは!お願いします、博士!」
「任せておけ。レイと『閃刀』が『閃刀姫』として長時間に及ぶ耐久戦を行えば、当然幾度となくモードの入れ替わりが起きる。それこそが『閃刀姫』の最大の強みだからな。そして換装された装甲は粒子となって消えていくが、私はそこに着目した。一定数それが同じ
通信機越しに滔々と語られる言葉の意味は生き物には半分も理解できなかったが、なにかよからぬことが迫っているという感覚だけはあった。それは生物的な本能だったのか、あるいは過去の戦闘の記憶が導き出した経験則だったのか。白銀の『敵』の周辺に、どこからともなく赤、青、黄、緑の光の粒子が漂ってきてはその手にした武器に吸い込まれていく。武器が内部から放つ輝きが、粒子の量が増えるにしたがって次第に濃く強くなっていく。
「化け物君。お前は知らないだろうが、今は少々その『閃刀』の調子がよくなくてな。他の形態に関しては問題ないのだが、ある形態に関しては1度変身してからモードを切り替えるとこちらで再調整をかけるまでもう1度の使用が負荷になるという困った状態だった。だがそれも、このシステムが正常に機能すればもう1度だけ使用することができるようになる」
「博士、前置きはもうわかったから!なんていうんだっけ、その、えっと……?」
「1度戦術的な観点から切り捨てたものを回収し、再利用する貪欲さ。『閃刀』を壺か何かのように、その回収した粒子を詰め直す様。ゆえに私はこのシステムを、こう名付けた。特殊プログラム『貪欲な壺』、起動!」
そう叫ぶと同時に、全ての光の粒子がその武器の中に取り込まれた。生き物の視界に、再び月明かりに照らされた自身と『敵』の姿だけが残る。
「今だ、レイ」
「はい!これで、終わらせましょう……『閃刀姫-カガリ』!」
爆発的な熱量の、そして光度の増加。紅色の光が天を突き、どこまでもまっすぐに夜空を貫いた。掴みかかろうとした触手は燃え上がる炎に遮られ、身を焼く感覚に生き物が怯む。そして始まった時と同じく唐突に、炎は収まった。そこに残るのは広げた機械の翼に炎の皮膜を宿し、真紅の装甲に身を包んだ『敵』。『ビースト』の最後の記憶、そして『アームズ』の記憶にも同じものがあったが、その輝きと熱量はその時の比ではないことを生き物は感覚で理解した。
「はああああっ!」
「 !」
炎の矢となって、『敵』が空を駆ける。狙いはこの体の中央、目玉から背中を一気に突き破るつもりだろう、そう生き物は分析した。それは、あまりに大きくなりすぎた生き物の体では対応できないほどの距離と速度。しかし、生き物の体は考えるよりも先に自然と動いていた。種の保全。復讐。全てを忘却と忘我の彼方に追いやった生き物にも、ただひとつ覚えていることがあった。
すなわち、目の前の『敵』にだけは負けるわけにはいかないという思い。はじめてその存在を検知した瞬間から抱き続けていた、命を賭けて戦うに相応しい好敵手への意地。
2つの力が、ついにゼロ距離で激突する。炎が、特殊合金の欠片が、サイキックで強化された触手が、霧散した雷が、千切れ、乱れ、弾け飛んでいく。視界が白く染まっていく。思考が染まる。
そして―――――。
???先生の決闘☆解説コーナー
さて。さて、だよ本当に。なるほど、なるほど……いや、失礼。こちらの話、さ。それでは、今回もこのコーナーをやっていこう。ここまで来てくれたんだ、今回もお付き合い願いますよ。
レイ
1,ドロー、スタンバイフェイズ。
2,閃刀姫-レイ(B)素材に閃刀姫-カイナ(B)リンク召喚。
閃刀姫-カイナ 攻1500
3,閃刀姫-カイナ(B)、(1)効果発動。究極体ミュートリアス(A)対象。
4,変異体、究極体ミュートリアス(A)、(1)効果発動。墓地の被検体ミュートリアスGB-88(A)を除外し、その発動を無効にし除外。
以前にも説明したが、カイナの効果は特殊召喚時に相手モンスター1体の攻撃を1ターンの間封じ込める効果。また持久戦に付き合わされることを嫌った変異体はここで究極体の無効効果を切った……が、結果的にはこれがまずかったね。
もちろん、必ずしもプレイングミスというわけではない。この効果を通してしまえば何もなかったとしても1ターン決着が遅れるのはその通りだし、その1ターンで逆転のカードを引かれる可能性もあった。ただ、結果的にはその判断がこの後の展開を招いてしまった……それだけさ。
5,閃刀術式-シザーズクロス(A)発動。墓地の閃刀姫-レイ(B)を対象にとり手札に、追加効果で手札を介さず場に特殊召喚。
閃刀姫-レイ 攻1500
6,おろかな副葬(A)発動。(1)効果でおろかな副葬(B)を墓地へ。
任意の魔法か罠を墓地に遅れるカード、おろかな副葬。これで同名カードを選択することにより、拘束で墓地の魔法カードを増やす……このデュエル開始直後に行われた、トゥーンのもくじ3回連続発動のことを君たちは覚えているだろうか。やっていることはあれと同じ、いかにして墓地の魔法カードを増やすかが生命線ともいえるデッキだからね。ちなみにこの発動は、ちょうどオペレーターの彼女がお墓を作る云々、の話をしていたタイミングにあたる。
7,貪欲な壺(A)発動。墓地の閃刀姫-ハヤテ(A)、閃刀姫-カガリ(A)、閃刀姫-ハヤテ(B)、閃刀姫-カイナ(A)、閃刀姫-シズク(B)をデッキに戻し、2枚ドロー。
そしてこれが博士がたびたび口にしていた最後の新兵器、その名もずばり貪欲な壺だ。実際に何度もリンク1を切り替えて戦うこのデッキには、その総モンスター数の少なさに反し相性はかなりいい魔法カードだと言えるだろう。何よりも現在は使用に制限が付いているカガリ、あれをもう1度使うことができるようになるということの恩恵は大きい。本編ではそのサルベージ効果ではなく、アタッカー適性の方を重視していたけどね。
そしてシザーズクロス、おろかな副葬2枚、貪欲な壺が墓地に送られたことで、今の彼女の墓地に存在する魔法カードの枚数は……。
8,閃刀姫-レイ(B)素材に閃刀姫-カガリ(A)リンク召喚。(1)効果で墓地の閃刀起動-エンゲージ(A)対象に取り手札に、(2)効果で攻撃力上昇。
閃刀姫-カガリ 攻1500→3600→3500
そう、21枚だ。そこからカガリ自身の効果で1枚を回収したことで、その枚数はぴったり20枚。これによりカガリの攻撃力は3500まで上昇し、『究極体』と並ぶほどにまでの力を手に入れた。
9,バトルフェイズ。閃刀姫-カガリ(A)で究極体ミュートリアス(A)に攻撃。
閃刀姫-カガリ 攻3500→究極体ミュートリアス 攻3500
おっと、今回はここまでだ。今回は少々短いようで申し訳ないね、しかし私もスタンバイしておかねばならないんだ。それでは、またすぐに会おうじゃないか。なに、本当にもうすぐさ。
この???先生の正体、頑なに伏字こそ使って隠してはいますが普通に読んでいたら絶対わかるわけないと思ってこちらも書いてます。
もしここまでで彼の正体について推理してくださった人とかいらっしゃれば、今のうちに解けない問題出したことを深く謝罪しておきます。