閃刀の銀、変異の黒   作:久本誠一

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11,戦い済んで

 君が目を覚ました時、視界は白かった。目を刺すような光ではなく、包み込むような優しい白色。

 

「う、ん……」

 

 自分が倒れていたことに気が付いてよろよろと立ち上がりふと見降ろすと、そこにあったのは決して、断じてなだらかなわけではないがオペレーターのような大人の女性とまでは言い難い自身の体の起伏……ではなく、何色にも染まっていない基本の『閃刀』スーツ。先の激突で『カガリ』は大破したのだろう、そこまで思い至ったところで、君の意識はようやく明瞭になった。

 

「……っ!そうだ、皆さん!」

 

 通信機に呼びかけるも、ハーキュリーベースからの応答はない。どうやら激突の衝撃で通信機そのものが駄目になってしまったようで、いくら耳を澄ませても断続的なノイズ音しか返ってはこない。辺りを見回すと、折よくそのタイミングで視界を遮っていた土煙も風に流れていった。深い意味もなく後ろを振り返り、

 

「っ!?」

 

 その場に硬直する。その真後ろにあったのは、自分よりもはるかに大きな死体。力なく倒れたその上半身は無残に吹き飛んでおり、よく見ればあたり一面にまだぴくぴくと断末魔の痙攣を行う触手だったものや吹き飛ばされてとうに光をなくした眼球が転がっている。ところどころに赤いものが見えるのは血ではなく、『カガリ』の装甲の破片だろう。その輝きは失われ、既にくすみかかっている。

 だが、君が注目したのはそこではない。もちろんそれ自体もおぞましいと形容するに相応しい死骸ではあるが、軍人としてある程度の精神耐性をつける訓練は積まされている。君の目を奪ったのは、その大半が吹き飛んだ頭部の最奥。分厚い筋肉、脂肪、骨、神経……およそ生体であることしか理解できないものが混ざり合った部位によって厳重にくるまれた、こんな状況でもなければ決して表に露出することはなかったであろうもの。

 

「目……?」

 

 他の箇所とは明らかに違う硬質さを備えた黒色の、長細く尖った細胞の塊。それが単なる内臓や何かとは異なるものであるという証拠は、その中央に開いたまぶたのない一つ目だった。体内深くに存在する器官に、そんなものは必要ない。そしてその声に反応してか君の方を向いたその視線が絡み合った時、君は理屈ではなく直感で理解した。

 あれだ。あれこそが、この巨大な生物の本体……人類と出会った最初の『ミュートリア』、『変異体ミュートリア』なのだと。

 もはや体中がボロボロで、『カガリ』もすでに解除されている。『閃刀機』や『術式』も、恐らくは使用不可能だろう。それでも、君は最後の力を振り絞り死体の山を登り始めた。樹皮のような肌に足をかけ、逆立った鱗に手をかけ、力なくたるんだ肉を次の足掛かりに、時には羽毛に覆われた箇所へ『閃刀』を突き刺して強引に。サバイバル訓練でも優秀だった君にとって何種もの生物の特徴がでたらめに発現したせいでたくさんの手がかりがあるその体はさほど危険な道のりではなかったが、それでも吹き飛んだ先端に到達するまでには相応の時間がかかっていた。

 

「はあ、はあっ……!あな、たをっ……!」

 

 息を整えながら『閃刀』を逆手に握り、断面からのぞく『変異体』に向けて正確に構える。自分の置かれた状況が分かっているのかいないのか、それでも『変異体』は抵抗の意思を見せなかった。ただ君の顔をじっと見る瞳には、何の感情も読み取れない。

 そもそもはるばる登って、この動かない生き物に『閃刀』を突き立てて、一体何をしようというのか。それは、君自身にも事ここに至るまで分かっていなかったのだろう。この戦場に飛び出してはじめて、その切っ先が迷いに震えた。この国と人々を愛する君にとって、『ミュートリア』の危険性はよく身に染みている。安全策を取るならば、ここでまだ生きている『変異体』にとどめを刺して全てを終わらせるべきだろう。軍人としての君も、その考えを肯定していた。『究極体』は恐ろしい敵で、もう1度戦えば君だって勝てるかどうか確実ではない。この僥倖とも言うべき勝利を掴んでいるうちに、全てを終わらせるべきだと。

 それでも君は、迷っていた。『ミスト』の言葉が、幾度も蘇る。

 

『オリジナルを、止めてほしい』

『もし、オリジナルがもっと平和な形で世に出ていたならば……』

 

 『ミュートリア』は、元々害意や敵意があったわけではない。それを呼び起こしたのは、他でもない人間の側だ。その事実を知らないままでいられれば、この切っ先を突き下ろすことにも躊躇を感じずに済んだだろう。

 しかし君は、もう知っている。知ってしまっている。その事実が、君にあと一歩を踏み出させない。誰かに助けを求めようにもハーキュリーベースとの通信は切れているし、そもそも『ミスト』の話を聞いていたのは君だけだ。本当に自分が、これを振り下ろしていいんだろうか。この無力な存在に戻った『変異体』を、殺す権利がどこにあるのだろう。

 君にとっては永遠にも、そしてほんの1瞬にも思える時間が過ぎた。ゆっくりと息を吸い、吐き出す。その切っ先は、再び震えることなく掲げられていた。

 

「ごめんなさいとは、言いません。これは、私のエゴです」

 

 そして出した結論は、ここですべてを終わらせること。もみ消すこともできないこれだけの被害をもたらしてしまった以上、もはや『ミュートリア』という種が安息の地を得ることはない。どれほど君が望もうと、『閃刀姫』に匹敵する戦力を生身でありながら可能とするその戦術的な価値は計り知れないものがある。たとえ自分と肩を並べ列強と戦う存在としても、君はこの生物が本来関係のない人間どうしの戦争に巻き込まれることを良しとしなかった。

 

 

 

 

 

 なるほど、なるほど。それ自体、君の優しさゆえに出した結論だとはよくわかる。戦場がどんなものかを一騎当千の姫君としてこの国の誰よりもよく知る君だからこそ出せた結論、そうだろう。消えない罪の意識と後悔を今後抱き続け、言葉だけの薄っぺらな謝罪という逃げ道すらも自分の手で塞いだそれが、どれほど大きな覚悟をもっての結論かもわかる。

 でも君はひとつ、見落としていることがある。ヒーローが突然やって来て全てを助けてくれる……それはさすがに甘すぎる考え、メルヘンチックにもほどがあるというものだ。生か死かの戦場を生きる君に、そんな考えを捨て去ったのも当然。

 

 ……だけど、だけどね。私たちの仕事は、まさにそのメルヘンチックを作ること。突然やってきたヒーローではないけれど、私たちはずっと君の任務を、そして『変異体』たちの生きざまを見てきたじゃあないか、そうだろう?

 さて、ようやく私も名乗れる時だ。変異体側には、まだ1枚ずつ伏せカードと手札がある。それを、今こそ表に返すとき。それでは皆さん、ご覧あれ。世界中があっと驚く、スペシャル&アメイジングなショーをお見せいたしましょう!

 

 閃刀姫-レイの攻撃宣言時にセットされたトラップ発動、(アメイズ)(アトラクション)RR(ラピッドレーシング)!そしてトラップの発動をトリガーとしてこの私、驚楽園の支配人(アメイズメント・アドミニストレーター)∀rlechino(アルレキーノ)>を手札より特殊召喚!

 

「だ、誰ですか……!?」

 

 君の第一声は、それだった。まあ無理もない、自分たち以外には誰の気配もなかったはずのこの場所に、突如として私のようなものが現れば驚くのも道理というもの。

 

「君にとってはお初にお目にかかります、私は驚楽園(アメイズメント)の支配人を務めております∀rlechino……どうぞお気軽に、アルレキーノとお呼びください」

 

 深く腰を曲げて一礼しても、君の警戒態勢は解けなかった。さて、どうするべきだろう。君にはすでに驚楽園仕込みのアトラクションが装備されている。

 おっと、今回はもう私、アルレキーノ先生の決闘☆解説コーナーは行われないから、今のうちに説明しておこう。前回の続きから、まず攻撃表示のカガリと究極体ミュートリアスが戦闘し、相打ちになった。ここまでは覚えているかな?本来は究極体側にも効果があるけれど、ここで重要なのはカガリが戦闘によって破壊された、という点。墓地の閃刀姫-レイはその戦闘破壊をトリガーとして蘇生され、今こうしてバトルフェイズ中の追撃の権利を使い残りライフ1500の変異体側にジャストキルでとどめを刺そうとしていた。そこに私、そしてこの当園自慢のアトラクションがひとつ、RRをもって割って入ったというわけさ。

 だが、まだ一手足りない。一礼を解いて再び目線を上げながら三日月模様と翼そして当園のシンボルマークのあしらわれた自慢のシルクハットを軽くつまんで持ち上げる。

 

「墓地の仁王立ち、2つ目の効果を発動。自軍の1体を対象として墓地のこのカードを除外することで、このターン相手モンスターは選択した相手にしか攻撃ができない。私は、私自身を選ばせてもらう」

「……?」

 

 ははは、何を言っているのかわからない、という顔をしているね。ならば君たちだけに説明しておくとつい先日も実践された通り、閃刀姫-レイには自身をリリースすることでフリーチェーンで閃刀姫リンクモンスターを特殊召喚する効果がある。せっかく私が壁として現れたのにダイレクトアタッカーのハヤテを出されてはたまったものではないから、一足先に牽制させてもらったよ。もっとも今の消耗した君に、『ハヤテ』の緊急換装が可能なほどの精神力が残っているかは未知数だけれども。

 

「さて、麗しいお客様。突然の無礼をお詫び申し上げますが、その刀……『閃刀』を、一度収めていただくわけにはいかないでしょうか?」

「『閃刀』を知って……!まさかあなた、列強の兵士ですか?」

 

 ふうむ、どうやら迂闊に情報を喋ってしまったのは逆効果だった様子。私は戦争には興味がなく、ただ純粋にある目的があってこの任務を見守り、そして経過とタイミングを見計らったうえで口を挟んだだけなのだけれども。少々失敗してしまったようだ。両手を頭の上で開き、敵意がないことをアピールする。

 ……ああよし、ホールドアップの意味するところは万国共通。いまだ警戒しながらも、とりあえず問答無用で斬りかかってくることはなさそうだ。

 

「もう話しても大丈夫でしょうか?あいにくですが私は列強国の人間でも、あなたの国のものでもありません。先ほどもお話しした通り、私は驚楽園の支配人。こことは異なる時空の狭間、そこに浮かぶ巨大で!スペクタクルで!アメイジングで!スーパーな!素晴らしき夢に溢れた国、誰もが日常を忘れいつまでも、いつまでもお楽しみいただける最高の遊園地!それが驚楽園であり……」

「やはりこうなりましたか、支配人。申し訳ありませんお客様、当園の支配人の無駄話にお付き合いいただいて」

 

 つい夢中になって驚楽園のすばらしさについて熱く語っていると、さあいよいよこれからというところで地獄の底から届いたような冷たい声が背後から響いた。突然の第3者の出現に君は目を丸くするが、私はどうだろう。うんざりした顔が表に出ていなければいいのだが。何せその声は私のよく知る人間、いや、アンドロイドのものだった。ちらりと振り返ればそこにいたのはやはり金髪のショートヘアに自身の頭文字でもある「C」をあしらったヘッドホンやアクセサリーがトレードマークの理知的で端正な顔立ちの女性。

 

「おやおやどうしたんだいComica(コミカ)君、そちらで留守番していると言ったじゃないか」

「支配人のことですから、恐らくはまたお客様を差し置いて1人で盛り上がってらっしゃるだろうと判断しましたので。そして申し遅れました、私はComica。お気軽にコミカ、とお呼びください。見ての通りのアンドロイドで、驚楽園では案内人(アテンダント)を務めさせていただいております」

「あなたも、そちらの人の仲間、ですか」

「はい、そのようなものです。突然の非礼をお許しください、当園の支配人は、その……少々個性的な方なうえに常日頃から説明が足りないところがございますので」

「ひどいじゃないかコミカ君」

 

 優雅に一礼しつつもこちらの不平の声はひと睨みでばっさりと切り捨て、さりげなく私の前に出つつ君と向かい合うコミカ君。どうやらこれ以上は私に話をさせろということらしい。

 

「突然のことで混乱もごもっともですが、私どもは今回お客様がこなしてきた任務を次元の向こう側、驚楽園の世界より観察しておりました。まず、こうして事後承諾を得る形となってしまった非礼についてお詫び申し上げます」

「私の任務を、ですか?」

「はい。というのもそちら、『ミュートリア』ですね。当園からは数多くの世界へと行き来することができるのですが、そちらの生物、それも『変異体』と称される個体についてはその数多くの世界にあっても目撃例が極めて少ない希少な種でして」

 

 つ、と手で指し示したのは、これまたこちらを窺っている……ように見えなくもない『変異体』。ああ、私もこの目でこうして同じ世界に立ち、直接見るのは初めてだ。思わずといった様子で君も『変異体』に視線を送ったところで、再びコミカ君の静かな声が響く。

 

「お客様、どうかお願い申し上げます。そちらの『変異体』、我々驚楽園にお譲りいただくわけにはいきませんか?」

「……へっ?」

 

 何を言われるのかと、よほど緊張していたのだろう。よほど予想外だったらしい答えに思わずつんのめりそうになったらしくバランスを崩しかけたのを堪え、大きく開いた目をぱちくりと瞬かせる。

 そんな素晴らしいリアクションに対し、コミカ君と来たら完全にスルーを決め込んで。これが妹のDelia(ディライア)君や我らがマスコットのBufo(ブーフォ)君ならばもう少し愉快な対応をしてくれたのだろうが、あいにく彼女らは驚楽園でアトラクションの整備に忙しい。コミカ君も本当はその仕事をしているはずだったのだが、まさか私の方に付いてきていたとはね。仕事をサボるような子ではないから、すでに担当箇所は整備が終わっているのだろうが、全く。

 ここはどうやら、私の出番のようだ。大きく前に踏み出し、コミカ君を後ろに下がらせる。

 

「……あの、支配人?」

「まあまあまあ、ここは私に任せておきたまえ。さてお客様、お聞きになったとおり私どもの願いはひとつ、その『被検体』です。見れば、お客様はこの小さな命を奪うことで戦争から遠ざけようとしていたご様子。ならばその命、私どもに預けていただくわけにはいかないでしょうか?」

「あなたは!」

 

 またしても言葉の選択を間違えてしまったか、君はそう聞いた瞬間にきっと私を睨みつける。若さゆえの強い怒りの爆発を寸前でこらえているのだろう、その小さな肩はかすかに震えていた。もっとも私が震えたいのは、背後からそれだけで突き刺しに来ていることが振り返らずともわかるコミカ君の冷たい視線のせいだったが。

 

「……あなたは、この生き物をどうするつもりなんですか?」

 

 だから質問の言葉がそう続いたときには、正直なところほっとする思いだった。もちろん君の気持ちも理解できるとも、突然現れてわかったような口をきき、あげくあれだけ真剣に考え抜いて出した『変異体』の命を奪うという結論にさえ口を出そうとする。背後の視線に「どの口が?」という趣旨の力が加わったことには目をつむっておこう。

 と、話がだいぶそれてしまった。コミカ君のことは置いておいて、ここで重要なのは君が私に、私ならどうするのかと聞いてきたという事実。聞いてきたということは、答えを聞く準備が君にはあるということ。それはつまり、まだ会話の意思があるという何よりの証拠だ。そして私としても、ここで退くわけにはいかない理由がある。

 えへんと大きく咳払いし、シルクハットを軽くつまんで位置を直す。

 

「スカウトですよ、お客様」

 

 沈黙。沈黙。……もひとつおまけに沈黙。ふうむ、私はそんなにおかしなことを言っただろうか?後ろに視線を送るも、恐らくこの結果が予想できていたのだろう当園の案内人にはうまいこと視線を逸らされてしまう。

 

「スカ、ウト……?」

「そうですとも!」

 

 さっきまでの怒りも吹き飛んでしまったのか、すっかり毒気が抜けたのはいいが今度こそ本当に何も理解できない異星人を見るような目で1歩後ずさられる。もっとも一言だけでは言葉が足りていないのもその通り、大仰に手を広げて畳みかけるように口を動かす。

 

「周りのものから影響を受け、爆発的に進化し、機械、魔法、生体なんでもござれの万能生物。しかも知性も高くコミュニケーション可能、実に素晴らしいではありませんか。あなたならば、我々とともに驚楽園をもっともっと盛り上げていくことができる!」

「え、ええと、遊園地……なんですよね?」

「もちろんですともお客様、彼ならば素晴らしい仲間になれる、そう見込んだうえでのスカウトです。我々に足りないものを補ってもらい、我々が足りないものを補う。それがキャストであり、仲間であり、家族の一員!」

「我々驚楽園は、園内の規則を守っていただくならばいかなる存在に対しても差別を行いません。皆が等しく幸せに、いつまでも楽しくいられる場所。お客様の居場所であり、帰る場所でもあるように。それが、我々の願いです」

 

 後ろからコミカ君が、ここぞとばかりのナイスタイミングで援護射撃を放り込んでくる。無論、彼女たちキャストにはすでに今回の目的は伝えてある。今頃は留守番組も、アトラクションの整備を終えてようこそミュートリアの垂れ幕やクラッカー、お祝い用のケーキの用意をしているはずだ。

 そして君は先ほどからちらちらと『変異体』に視線を送っているが、そもそもこの状態にまで戻った『ミュートリア』は、その感情や意識のレベルも限りなく希薄な状態にあるから何らかのアクションを起こすことはないだろう。そしてある程度の感情にさらされたり周りの物質を取り込むことでまたゆっくりと知性を獲得していく、彼らはそういう生物だ。

 続いて君が見つめたのは、私の顔。嘘をついているかどうか確かめようというのならば、いくらだって待とうとも。澄んだ瞳の中を、様々な感情が渦巻いているのがわかる。ためらい、不安、不信……そしてそれと同じくらい大きな、信用したいという気持ち。

 

「お願いします、お客様。私どもに、その命と共に生きる機会を下さい」

 

 おふざけは無し、だ。誠心誠意頭を下げると、コミカ君も同じことをしている気配がした。思えば彼女、ああ見えて今回のスカウトを一番楽しみにしていたっけか。もしかしてこっそり付いてきていたのも……なんて、野暮なことは言いはしないけれど。

 

「あ、頭を上げてください!」

 

 ひどく慌てた声。あまり、こういった態度を取られるのは慣れていないのだろう。優れた軍人ではあるけれど、そういったところはやはり年頃の少女だ。ゆっくりと姿勢を元に戻すと、君もまた『閃刀』をゆっくりと下げていた。

 

「ええと、私には、あなたたちのお話はまだ受け止め切れません。お話しそのものも、その内容も、全部突然すぎて」

 

 最初に否定。ですが、その言葉はそう続いた。

 

「あなたたちが嘘をついていないこと、本当に誰かのためを思っていることは、信じたいと思います。この子は、誰とも戦わなくていいんですよね?」

「はい。当園での殺生、並びに暴行は禁止されております」

「……わかりました。私が許可していいものなのかはわかりませんが、あなたたちを信じます」

 

 そう言って完全に『閃刀』を下ろし、『変異体』からも下がって距離を取ってくれる。ありがとうございます、と改めて一礼し、その場で指を鳴らす。ただそれだけですでに、『変異体』は私の手の中にあった。

 

「失礼、言い忘れておりました。彼らほどではありませんが、私もこれでもサイキッカーの端くれでして。では感謝の意を表して、絢爛花火をこの朝焼けの空に……」

「おやめください支配人。第三者にそれが観測された場合、後々困るのはお客様の方です」

「おっと、そうだったねコミカ君。それでは、私たちはこれで失礼させていただきます」

「お客様の判断に、私からも敬意と感謝を。それでは、またお会いしましょう」

 

 別れの挨拶も済ませ、次元を割いて帰り道を作る。その向こう側に見えるのは、我らがアメイズメント・プレシャスパークの正門。新たな仲間と共にそちらへと踏み出した私たちに、最後にもう一声。

 

「……あの!」

「おや、どうされました?」

「また、お会いできますか?私、まだ答えを……」

 

 答え?一瞬悩んだけれど、すぐに思い出した。私も、伊達に君たちの任務を見守ってきたわけではない。今は亡き『ミスト』との会話にあった、命とは皆が自分のことを生まれたいと願って生まれ出でたわけではないという説への反論のことだろう。私が口を出してもいいのだけれど、こればかりは自力で何らかの結論を得るまで待った方が本人のためになるか。

 

「かしこまりました。では、あなたがその答えを出せるようになったころ、またお会いしましょう」

「はい!」

 

 その返事を最後に、今度こそ次元の裂け目を潜り抜ける。君ならば、きっとそう遠くないうちに答えを出せるだろうという確信があった。

 

「そうそう、ひとつ頼みができたのだがコミカ君」

「アメイジングタイムチケット1枚、ですね。かしこまりました支配人、手配しておきます」

「さすがだよコミカ君、ではよろしく頼む」




まあここまでの情報から正体を読むのは無理だろうなあという人(?)選でした。
正直すまんかった。
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