あれから二日が経過して。各々が私生活を充実させながらジュエルシード捜索にも尽力を惜しまず、それでも残念なことにまだ一つも回収出来ていなくて次第にフェイトが焦りを感じ始めた矢先の事。
今まで一向に反応を示さなかったのに対して三日後の昼時、一斉に4個ものジュエルシードを察知したとの報告が届き。生真面目な高町なのはは心痛むも体調不良と偽って学校を早退して今現在。
「早速複数体制が活きたね!」
「ああ。…で、当初の予定通り分担でいいか?」
「それで大丈夫。組み合わせはなのはと僕で、フェイトはアルフと、そして十六夜は単身の3チームでそれぞれ捜索しようと考えてるよ。十六夜はこの辺りを探ってほしい」
翠屋の店前に集合した面々が人目のつかない路地裏まで移動し、学校へ偽装早退は痛いがそれでもこの面々での初の共同態勢に嬉しそうに言うと方針の軽い打ち合わせへ。
十六夜の問いに頷いたユーノ。
「まあ俺の場合は虱潰しするしかないしな」
「…寧ろそれで見つけられる方が驚きだけど」
「わたしはもう、十六夜君が何をしても驚かないと思う」
苦笑するユーノと十六夜のデタラメ加減に慣れてきたなのはの感情にヤハハ、と当人は笑って済まさせ。
「……キミはどうするの?」
銀髪の白黒が目立つ服装の少年をジトッと訝しげに見据えながらフェイトが問い、十六夜も同趣の視線を送る。
「そうだねー。イザッちが独りだときっと寂しいだろうし、じゃあ僕は彼と行動しようかな!可憐な少女二人にはもう御目付け役が居るしね」
「うわ超要らねえ…あとその言い方もなんか変態くさいぞ。…なんで白黒チビが居るんだよ」
依然として胡散臭い笑顔で答える銀の少年エル。
あの十六夜でもげんなりする少年でフェイトも油断ならぬ相手と既に認識しているのか、同行しない事へホッとした様子。
金糸雀が孤児院の用事で居ないのを理由に彼の言った通り御目付役として派遣されたのがこの中性的な顔立ちの少年なのだが。
「それは勿論カナリアの代理さ。………因みに僕なんかより余程ロリ好きの変態もいるからな?例えば燕尾服を着た男と淫獣には要注意ってね」
「妙に具体的だね…あと淫獣って誰のことかな?」
急遽飛び火してユーノまでもジト目になるが獣姿で視認しづらく、エルの剽軽な笑みでスルーされる。
最近はなのはが十六夜に毒されてきている事もあり気苦労が絶えないと内心愚痴を漏らすも此処で反応する時点で自覚が有るようだ。
「そういえばお前は人化しないのか?」
ふと疑問が過ぎった十六夜の何気ない言葉が周囲の視線を集める。
「え?」
「え?じゃねえだろ。いや、久遠って小狐やそこの忠犬アル公が出来るならお前も出来ると思ったんだが」
「忠犬アル公……」
「……………あ、ああ!そうだった!!」
最初は何を言われているのか理解が遅れたものの、次から次へと渾名が付くアルフの最早指摘する気さえ霧散した様な嘆き声中も間を空けるとなのはの肩に乗ったユーノが理解を得て二足立ちで前足で手を叩き。
漸く得心して一旦飛び下り、今度はなのはの隣へ着地するユーノへ視線が集まると眼を閉じた直後身を覆う薄い黄緑の光に包まれた。
「んん?………へっ?あ、ぇ…」
それが治まるとフェレットの姿は何処にも無く、代わりに跪いた姿勢で変化して金髪碧眼に民族衣装みたいな服を纏う少年が現れ。
それを見たなのはが奇声を発す。
「は〜〜───……なのはにこの姿を見せるのは久しぶりになるのか、な…?」
「ふえぇぇぇぇぇぇえええええええ!?」
立ち上がったユーノに堪え切れずなのはの絶叫。
「は!?え……えっとなのは、僕達が最初に遭った時って僕はこの姿じゃ?」
「ユーノ君!?ユーノ君だよね!?違う違う!最初からずっとフェレットの姿だったよ!!…………周りを考えたら今更だけど…」
「だ、だよねぇ……って、ああ!?確かに!」
「アハハ!キミ達の中でどうやら見解の相違があったみたいだけど、認識が合って良かったじゃないか」
ユーノからして予想外な反応に驚愕し恐る恐る尋ねてみればカタカタとロボットの様な動作で指さしながら全力全開で否定されると漸く記憶が一致し声を上げるユーノ。
二人のやり取りを面白がって見ていたエルが爆笑して、他人事な口振りになのはとユーノは肩を竦める。
「気が緩んでるのは構わねえけど、お前等もそろそろ向かう準備とかしなくていいのか?」
「…今回ばかりはイザヨイに同じく」
発端を作る発言をした自覚があるのか悪いけどと前置きし、何時迄も行動開始が整わない空気に指摘を。
仮にも危険が伴うのを忘却した様な喧噪に十六夜が諭すと珍しくフェイトも便乗して抗議の眼差しを送る。矢張りジュエルシード絡みになると性急気味になる彼女は既にデバイスの起動とバリアジャケットを纏っており、傍のアルフも既に広域結界を展開していてお陰で場の雰囲気が転換。
「ッ!?ご、ごめん!………うん、十六夜とフェイトの言う通りだ。…じゃあなのは、僕らもそろそろ行こうか」
「うん。じゃあ…セットアップ!」
人型形態のユーノもアルフに倣う様に結界強化等でサポートをし、口には出さないがこの場の担当人物を鑑みた暗黙の了解である。
その間なのはも改めて気を引き締めると胸元から紐で繋いだ紅玉を取り出してレイジングハートを起動。白いバリアジャケットを装着完了。
「レイジングハート、お願い!」
『Flier fin』
専用ブーツから桜色の魔力で生成した翼を両2翼ずつ広げると飛翔し。
其れに続いてユーノも浮遊すると地上の十六夜とエルを残して宙で待機していたフェイトとアルフに並ぶ。
「わたし達はあっちの森林の方だね」
「うん、私とアルフは向こう側」
最終確認を取ると自然となのはとフェイトが微笑み合い。
逸る気持ちはあれど、フェイトもなんだかんだで使い魔以外の友達候補な仲間との共同任務に初めて感じた想いと気分が高揚しているのが見て取れる。尤も相手がなのはだからという原拠も在ろうが。
アルフは依然とその変化に安堵し。
「じゃあ各自、一個ずつ回収したら海鳴臨海公園で落ち合おう」
ユーノの指示を最後に先ずはそれぞれ首肯すると、なのはとフェイトが地上へと振り返って途端。
「十六夜君、くれぐれも建物とか道路とか自然とか壊さないでね!?」
「イザヨイ、自重して」
「それはお前もだろ黒ずくめ魔法使い。つーか言われずとも注意はするさ」
総勧告で一同苦笑、十六夜以外は心象が完全一致している証拠である。
然し前科紛いのあるフェイトには言われたくないと憎たれ口を叩き合うも何時もの光景と、主になのはとユーノとアルフが本気で心配する気持ちを残して二組が飛び去って行く。
「だってさ?」
「ハハ、つくづく信用が無くて参ったな」
エルの声と目線の指摘に笑うだけで声音に真剣みを感じない十六夜。揶揄うつもりが返しの反応で銀の少年も本格的に憂わしくなり。
「ともかく先刻言った通りにね。それで、先ずどうするかは決まってるのかい?」
恐らく深夜の高町家前で忠告した事を再注意してるのだろうが、お手上げ状態の仕草で一度念を押してから次の行動を尋ね。
「おう、ちゃんと考えはあるぜ。……ところで白黒チビ、お前って足場みたいなの作れたりしないか?具体的にはある程度の衝撃を耐えれる地面への緩衝材代わりなヤツで」
「え?あー……氷塊でいいなら可能だけど」
十六夜の要求に暫し指を回して思索した後、適切な能力を抜擢したのか肯定して手を翳すと小さな水素の塊が派生し水流となると宙を操作した様に奔り瞬時に立方体の氷塊を道路沿いの真上に形成し。
「へえ…。つまり白黒チビも魔導師ってワケだ」
「………あ、しまった!?つい自然の流れで───カマかけなんて酷いよイザッち!くっそ今のはホントにしてやられたよ!!」
完成した立派なオブジェにふふんとドヤ顔して、十六夜はコンコンとその氷塊を叩き強度確認しながら得意気エルを見ると邪悪な笑顔を浮かべて確言し、吐かれた言葉にハッ!として身を引き。
直後駄々を捏ねた見た目相応な子供の様に苦言すると次第に語気が下り。
「うーん…………魔導師では無いんだけど、困ったなー…と、とりあえずしがない魔術師って事で…ね?」
言い淀む様から正体を明かすつもりは無いと分かり。
勿論魔導師と名乗っても良かっただろうが本物が知人に大勢居る上その道の熟練者まで揃っていてはバレるのは秒差だろうと思ったのか、身分を偽ったのは口振りで明白。
然し十六夜は肩を竦めるのみ。
「まあ今はしがない魔術師って事にしておいてやるよ。そもそも白黒チビが"何者か"なんて情報は現時点では重要じゃないしな」
追及する意思が全くみられず安堵するエルを他所に氷の上に乗って。
「ふぅう……「とりあえず足場サンキュ」……って、は?──────」
次の瞬間には十六夜の姿は無く、ズドォオンッ!と鳴り響くと共に自慢の氷塊が目の前で砕けていた。
*
駅前から飛び出したフェイトとアルフは目的地である海鳴市から北に向かい離れた森林地区へと到着した。
「此処の何処かに……」
「……フェイト、最近すっかり変わったね」
「え…?」
辺り一帯は木々に覆われて自然豊かな場所。
比較的海鳴市の北西側は都心部から離れていて人気も殆ど無く、認識阻害或いは遮断魔法だけで一目は誤魔化せる為木の上からフェイトが周囲に気を配る。
アルフも真下から異変を探りながらふと自らの主人へ心中を吐露し、急な問い掛けに当人は最初要領を得ず。
「あの子達と一緒に行動する内に前よりずっと明るくなってる気がする…そりゃあいい事だと思うよ?でも───」
「…………」
そして明確に述べられアルフが何を言いたいか分かると返しに困ったのか一時的に沈黙、直後口を開きかけた瞬間直ぐ近場の森の中から朱色の大きな鳥が飛び出す。
「…!アルフッ!」
「ああ、分かってる!」
状況判断も手早く思考を切り替えるとエリア結界を展開し、フェイトもデバイスを構えて臨戦態勢へ。
体躯を一般的な車並みに巨大化させた怪鳥に向かい飛翔し。
『Scythe slash』
「KYU I I I I I I I!!」
「……ッ!?は、速い…」
金の魔力刃を鎌状に近付くも翼を広げ突進してきた怪鳥の動きに咄嗟に横へ飛び退いて避けると目を見張る。
「アルフ、回り込んで!」
「あいよ!」
瞬時に指示を出すとアルフは人間形態から狼形態へと姿を変えて駆け出し、フェイトも空中で停滞し旋回して再び此方へ飛び掛かろうとする暴走鳥を迎撃態勢へ。
『Arc Saber』
「はああああ!!」
そのままバルディッシュを横薙ぎに振って魔力で形成した光刃をブーメランの様に飛来させ射出し、狙い目の足下へ牽制すれば、突撃した怪鳥は警戒心を剥き出しに身体を急停止させて隙が生まれた。
予測地点へ向かったアルフが飛び上がると再び人間形態へ、背後から魔力弾を単発射撃して其れを捉えた怪鳥は回避するも完全に態勢が崩れる。
「KYU I I I I I I III!?」
「……ごめんね。すぐに解放してあげる…───はあ!」
『Sealing form』
根は心優しい少女だというのが伝わる呟き後、魔力刃が消えた杖の矛先を向けて、そこから数多の雷撃を威力控えめで放つとフェイトの目論見通り帯電した怪鳥が痺れで動きをかなり鈍らせて完封、核となっているジュエルシードを感知。
「ジュエルシード、シリアルVIII…封印!」
4枚の魔力翼を矛先下に発生させるとチカラを込め、雷撃を受けた怪鳥の体躯が光に覆われると元の姿であろう小鳥の姿を取り戻す。
「おっと、…フェイトーこっちは大丈夫だよー!」
「うん。こっちも問題無い…」
自然落下してきた小鳥を既に真下にいたアルフがキャッチし掲げて無事を報せ、フェイトも取り出したジュエルシードをデバイス内に取り込み、アルフの許へと着地する。
「ふふん、あたしの自慢のご主人様にかかればこれくらい楽勝だね♪」
「…………さっきの」
気を失った小鳥も外傷の有無を確認して木の陰にそっと置き、一段落つくと誇らしげな顔のアルフ。
暫し俯いて沈黙すると顔を上げて小さく言うフェイトに「ん?」と応じてアルフもそちらへ向き直る。
「なのは達と行動して変わったって件。正直私も良く分かってない…初めての感情だから……。でもなのはの事は好き、だと思う…少なくても惹かれるモノがあって……癪だけどイザヨイも、なのはが大事に思ってるなら認めてあげない事もない…」
語り始めた時は無表情だったのが心中を吐露する毎に変化を見せて時になのはへの感情を紡いだ時など頬に赤みを帯びて紅潮してるのが一目で分かり、だが直後に十六夜の名を口にしただけで一転して無表情より少し破顔気味になり。
「アハハ……十六夜にも困ったモンだね…」
「ホントだよ。直ぐに暴力に愬えるし場を乱す発言と行動は絶えないし、なのはの事を困らせてばっかりだし」
アルフは内心でどれだけ嫌われてんだいと呆れ顔になるも一瞬で驚愕、その理由が苦い顔をしながらも十六夜の愚痴を言う口許には楽しそうに話す仕草が伺え、其の関係もまた決して悪い方では無いのが伝わる。
「…まぁ、あの女達の言いなりよりはマシか……」
ポツリの呟いた言葉もフェイトは聞こえなかった様でこの後特に話題を振り返す事無く二人は海岸公園へ向かう。
*
一方なのはとユーノは海鳴市西部に位置する温泉街と肩を並べる名所の湖に訪れていた。
尤も名所とは嘗ての話しで今は施設も撤退し寂れた場所となっており、当然ながら辺りは閑散としていて自然の発する物音以外は殆ど無く。
「おかしなあ…この辺りの筈なんだけど」
人間形態のユーノが腕組み首を傾げ。
現在なのは達は岩場の高い場所に立って周囲を伺っているが如何せん異変は見当たらず。
「結界内に入ったら感知できなくなっちゃったよね」
「うーん………ごめんなのは、僕が取り逃したばかりに…」
「いいよいいよ!誰にだって失敗はあるから!わたしなんてもう失敗だらけだし……」
急な謝罪に努めて気にしてない気持ちを示す。そもそも暴走状態にあるにも関わらず認識阻害或いは気配遮断なんて高度な類の能力を使われる程、ジュエルシードと適合しているとは夢にも思わないだろう。一旦巌な高台から降りるなのは。
ユーノは魔法陣を宙に生成しそこを足場としてなのはよりも更に高見から辺りを捜索する事暫く。
「……ッ!なのは、後ろ!」
「え?」
突如呼び掛けられ一瞬間の抜けた応答するなのは。
徐に後ろを振り返ると獰猛な四足の獣が額の一角を差し向ける形姿を視界に捉えては慌てて飛び上ろうと試みるも、獣側の方が先手を取って疾走してきて。
「はわわっ!?間に合わ─────」
間合いが詰まっていた事もあり遅れた反応が仇となって、既に突進を受ける覚悟を決めた瞬間、向こう側の光景が獣と共にドガァーン!と弾け。衝撃の風圧でロングスカートとツインテールを靡かせながら目を瞑り驚くなのは。
「なのは大丈夫!?」
「ふえええええええええ!?なになになになになんなのぉ!?」
なんとか片目を開けるもユーノの気遣う声に反応出来ない程に靡くスカートを押さえながら慌てふためく悲鳴浸みた声。
「────チッ、久しぶりで少しばかり飛び過ぎた。着地点が大分ズレてやがる」
土煙が晴れてくると中からある意味常時暴走状態と認識している少年が姿をみせる。
「い、十六夜君!?」
「あん?……なんだ、お前らもこっち方面だったのか」
己を呼ぶ声に振り向く十六夜。
「え、十六夜!?どうして此処に!?」
「ああ、それなんだが……」
「や、やっと追い付いた」
ユーノも十六夜に気付き驚愕と共に事の経緯を尋ねると、応答しようとした言葉を遮る様にエルもフラフラと歩いて来て。
「よ、よくも僕の自信作を壊してくれたな…」
「へえ…随分速いお出ましじゃねえか。まあそれはいいとして、地面とかを破壊するなって散々口五月蝿く言ったのはテメェ等だろ。考慮した末の被害を鑑みた結果ですが?」
恨めしそうな視線を送るも悪びれもせず、それ以前に十六夜の脚力に追い付くのに訝しむが語る気が無いのは熟知している為手をヒラヒラとさせながら淡々と反論。
実は単に空間跳躍を繰り返しただけだが、流石になのは達にまで能力を見られるのは憚られ奥の森林から駆けてきたも、持ち前の体力不足が災いして息切れの模様だ。
「ぐぬぬっ……それはそうだけど…ッ」
言い返さず歯噛みする羽目のエル。
文字通り小規模な人間隕石の如く現れた問題児と銀の少年の対応になのはとユーノは呆然とするも、その間に衝撃で吹き飛ばされた一角獣が起き上がり、然し目眩を起こしてるのか頭を振って再度向かってくる様子も無い。
「ん?………おいおいどういった状況だよこれ。まさか"
「ユニコーン…?───あ、ホントだ!?」
珍しく驚愕顔の十六夜が吐いた言葉に火急故に姿を確り確認しなかったなのはも漸く気付いて驚く。
「獅子の尾に牡山羊の顎鬚、ゾウすらも殺せる螺旋状の角なんか逸話通りじゃねえか」
「ゾウってあのゾウ!?そ、そんなに強いの!?」
ゾウを倒せるという部分に先程の突進を思い出して恐怖心を煽られるなのはだが、既に十六夜は目の前のロマンに"感動に素直になって"いて長舌多弁で語り始めた。
「あくまでスペインの神学者が著した伝承だが、其れを基にイギリスの大英図書館所蔵にある『クイーン・メアリー詩篇集』ではゾウとユニコーンの対峙を挿絵に載せてるくらいだ。加えてユニコーンの角には水や毒素の浄化が備わっているとも云うぞ」
「それは強ち間違いでは無いと思うよ。旧約聖書にも存在を肯定されていて"勇敢"の象徴という言い伝えもあるらしいし」
「…?象徴なら"憤怒"が真っ先に上がると思ったけど……古代ヨーロッパの信仰対象化を始め確かに神聖視される例は多いな」
まるで戦闘中とは思えない談義を十六夜とエルの間で交わすも、なのは自身授業でも受けてるかの様に聞き耳たて。
「紋章としての側面もあったっけ?えーっと…」
「スコットランド王家のか?他にも獅子と共に盾を支えるイギリスの国章にもなってるな」
「……十六夜ってもしかして結構博識?って、危ない!」
意外そうな顔で問うユーノにヤハハと笑う十六夜。そうこうしている内に一角獣が復帰して再び特攻を仕掛け、ユーノが警告の声を上げる。
「ハッ、呑気に雑談してる場合じゃねえってか」
「え?───わわっ、ふあ!?あう……」
咄嗟に傍らのなのはの膝と肩に手を回して抱き上げてから飛び退く事でターゲットを失いそのまま湖へ飛び込む一角獣。
獣を勝る俊敏な動きと着地した後に自分が十六夜にお姫様抱っこされている状態に気付いて、羞恥と混乱が一遍に押し寄せ感情を其の儘声に漏らし。
「俊敏さも起源通りだねえ…どうやって捕獲する?」
エルもいつの間にか退避し若干離れた場から問い。
「ああ、行動は封じないといけないんだったか。グリム童話の『勇ましいちびの仕立て屋』に倣って樹を盾にしてもいいが…突進力で普通に突破されそうだな」
「グリム童話?何処かで聞いた事があるような」
敢えて殴り飛ばす選択をしないのは十六夜の矜持か、少なくともロマンを魅せた願望主に敬意は払っている模様。
応答した内容に地に下ろされ混乱が治まったなのはが気掛かりそうに首傾げる。
「著者グリム兄弟が記録したドイツ昔話だ。なのはも『白雪姫』くらいは聞いた覚えがあるだろ?」
「あ、うん!あるある!白雪姫よく観てたよー♪」
「そういえばさ、ハーメルンの街を題材にしたのもあったよね?」
「そっちもグリム童話枠でいいが、厳密には『ハーメルンの笛吹き男』はグリム童話集と平行して蒐集したグリムドイツ伝説集が正しい───と。悪い、また脱線した」
恐らくなのはが認識しているのは黒鼠マスコットで有名な夢の国の映画だとは思うが概ねその解釈で構わず、続けてエルの質問にも丁寧な説明を披露する十六夜だが話しの方向転換を整え。
ユーノも上空から気配を辿り警戒。
「やっぱりここは代表的なもう一つの方法でいってみる?」
「…ま、それが一番手っ取り早いか。清らかな乙女っていっても此処には一人しかいないけどな」
十六夜とエルが頷き合うとなのはへ向き、尚且つ一度ユーノへ視線を移すも流石に無いだろうと直ぐに戻し、当の二人は何事かと訝しむ。
「えーと、清らかな乙女っていうのはどういう?」
思わず聞いてしまうユーノに十六夜とエルはお互い顔を見合わせ。
「清らかな乙女っていったら」
「そりゃ勿論アレだろ?」
エルの言葉に続けて十六夜が繋ぎ。
「「処女性」」
「ブハァッ!?」
「へ?しょじょせい……って?」
二人が同時に声を完全にハモらせて答え、それを聞いたユーノは盛大に吹き出してしまい、対してなのはは意味が分かっていないのか尚更頭に疑問符を浮かべ頬にも指を添えて再度首を傾げる。
そんな彼女へユーノは心の中でいつまでも清く無垢なままでいてくれと思うも、それはそれで大いに問題アリだろう。
「要するになのはっちが囮になって、ユニコーンを誘き寄せるって事だよ」
「………えええええ!?む、無理だよぉ!」
今此処で保健体育の授業をする気は毛頭無いのか要約してエルが作戦を告げると当たり前だがなのはは驚愕し、砲撃を撃つにも狙いが定まらぬ俊敏の前では自衛も損なわれる自身が囮役など到底務まらないと、両手を前に突き出し横振りしながら拒否。
「何かあっても俺が守ってやるから安心しろ」
「はう…!」
そんななのはの頭に背後から手をポンっと乗せて言う十六夜。其れが諸々な理由から頬を朱に染めて、どこぞの転生者ならフラグが建ったと言うだろう場面だが直後ブレイカーされるに値する言葉が飛ぶ。
「───尤も間に合わなかったら御免だけどな」
「エッ……………ちょっ!?こ、こうなったらやるしか…!レイジングハート!」
『All right, Protection』
まるで大魔王の如き邪悪な笑みを浮かべその場から跳び退いた十六夜と、その場に残されたなのは。
直後湖からは水飛沫を巻き上げ飛び出してきた一角獣はさっきより怒気を強め獰猛さを増し、まだ覚悟も何も決まっていないが杖を両手に構えて、デバイスが呼応すると前方を覆うピンクの魔力が波打つ障壁を展開する。
「一瞬だけ動きは止めてやる。タイミングを外さず捕縛しろよ!」
「わ、分かった!」
身体の水を払って案の定またなのはへ向かい突進する獣。その進路を遮ろうと恐らく十六夜が投げた高威力を誇る石が着弾後に土煙を上げ。
「…よし、今だ!」
怯んだ一角獣が駆ける脚を急停止させればその隙を見逃さず、ユーノが掛け声と共に足下の魔法陣から4本の淡い緑色の魔力鎖を放ち、獣の体躯へ巻き付けて束縛。
更にレイジングハートの先端に生えたなのはの魔力光を顕す桃色の翼、紅の宝玉から数多の魔力帯が獣へと伸びて絡み付く。
『Sealing mode, setup』
「リリカルマジカル!ジュエルシード、シリアルⅨ……封印!」
眩い光を辺り一帯に発すると光輝が収まる頃には一角獣は姿を仔犬と宙に浮く蒼宝石に変えていて、その宝石・ジュエルシードが活性化を留めるとレイジングハートの宝玉に吸い込まれた。
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