十六夜達がカナリアファミリーホームに向かう中、一部始終を見届けたエルが気配を絶って向かったのは海鳴から一つ街を跨いだ海辺付近の廃倉庫。
その最奥の一室を開いたエルは周囲に気を配り、問題無しと判断すれば設置型の転移魔法陣に乗り、視界は廃倉庫から機械仕掛けの一室に様変わりし。
「どわあああ〜!?」
すると直ぐ横で驚愕の声が上がり視線を移せば、車椅子に乗る茶髪の少女が写った写真を片手に持っている男を捉えて目を細め。
「え、なに?………その手に持ってるのって───ロ、ロリコンだぁー!?」
「いや違ッ…!ここ、これは故郷の思い出に耽ってただけだから!!」
その後ドタバタ騒ぎがあったが割愛し。
「まあ今回はいきなり転移してきた僕にも非があるけど……流石に少女の写真片手に黄昏てるとか何処の
「ぐぬっ、否定要素が無くて心が痛い…!」
「なんなら自家発電開始前かと」
「しねえよ!?……それで、何か動きはあったのか?」
「ああ、うん。ジュエルシードを四つ回収したから今までのと合わせて確認して貰おうと思って」
話題を断つ為にも自分から本筋を促し。
首肯して応答するエルが管理局から用意された映像記録機器の不可視化を解除し、手に持つと椅子を一つ拝借して座りながら再生準備に掛かり、翔駒も改めて隣へ胡座をかいてベッドに座り直す。
「いやー民間協力者って事で、すんなり時空管理局の技術に肖れて至れり尽くせりだ」
「……あれだけ言葉巧みに思考誘導されればそりゃあね」
あの時のクロノ執務官の苦い顔は今思い出しただけでも同情するとは翔駒の談。
組織でも上の立場にある提督の意向もあって簡単に潜入が成功し、自室に転移陣を設置した事で特に監視態勢も無く正にやりたい放題であるが、後程必要な事柄は報告するので問題視はされず。
「そのお陰で二重スパイみたいな真似が出来てるんだから、翔駒も感謝しつつ自分の役割をちゃんと果たしてよ?」
「はいはい、分かってますよ。エルの協力が有難いのは確かだし」
初対面時のギスギスした空気も無く、気安く呼び合い若干冗談も混えながら映像を出すと改めてエルが要点を伝え。
「翔駒の知識から気になる点を割り出して、もし疑わしい人が居たら教えて欲しい」
「了解!こっちもTV版か劇場版かわかるいい機会だ」
軽い感じの言動だがいざ再生が始まると途端に食い入る様真剣な顔で拝見し始め、内容が少年少女がメインなので解っていても引き気味のエルだが構わず集中し。
翔駒自身も年齢が14と少年の部類だが、十六夜が12歳に対して少女側が両9歳、ユーノは詳細を聞いていないもなのはとの会話から近い年齢で、エルに関しては身体年齢的に9歳相当かそれ以下と結構アウトな絵面である。
当の翔駒はおそらくアニメ鑑賞気分なのだろうが。前にエルが現実との差異に違和感が無いのか気になり尋ねたが、特に感じないとの返答だったので認識及び視覚に何らかの影響を受けてると訝る。
尤も本人は疑念や煩わしさ等も持ってない為これといった問題は無さそうだが、早々画面に釘付けで拝見してる最中も情景に機敏なリアクションを示し。
「なんだこの狐っ子!?どっかで見覚えがある気するけど……まさか転生者か!?」
「ん?ああ、彼女は久遠って言って……カナリアの古い知り合いだから違うと思うよ?というか何でもかんでも転生者に見える病にでも掛かってない?」
「もうユーノの人バレイベント済んでるだと!?しかもアルフを平気で忠犬呼ばわり、流石は十六夜さんパネェっす!そこに痺れる憧れるぅ!」
「テンションおかしいなあ!?」
「………なあエル、チョロすぎね?」
「……否定は出来ない」
大抵は興奮しながら無意識に実況解説を発し、時折指摘を交えて鑑賞会を終えるとお互いに一息つき。
「それで、見た感想はどうだい?」
「生金糸雀に感動、十六夜は子供でもメチャクチャだなあ、フェイトも何故かはっちゃけてるし、なのはとアルフは強く生きて、くらいか?最後カノンモード使ってたのもこの世界がTV版か劇場版のどっち軸なのか気になる点はあったけど……あと思い出したけど、最初の狐っ子も多分"原作の人"だわ。つまり怪しい人とかはこれといって居なかったな」
「そっか〜…」
魂魄の定着不足等、箱庭関係の事はかなり曖昧な翔駒も金糸雀を認識している辺り、姿を見れば多少は思い出すのだろう。そこに不可思議は無いもののご都合主義だなと秘かに思うエル。
進展状況が芳しくない結果に残念そうに肩を竦めて、翔駒も気まずいそうに視線を横に向け。
「ごめんな、ロクに役に立たなくて…」
「いや気にしなくていいよ。それにこれを乗り切らないと僕もキミに"真の意味"で協力出来ないんだろう?お互い様さ」
「そ、そうか?」
首を横に振って気に留めていない旨を伝えるも中々態度が緩和しない翔駒に溜息を一つ、そんなエルが場の空気を変える様に提案する。
「まあ今後の進展に期待って事で、ここからは翔駒についてとこの世界についてを話そうか」
「……おう、頼んだ」
気を遣われたのが理解している翔駒も首肯して姿勢を整えエルの正面に向き直り。
「先ずはこの世界から。前にも言った立体交差並行世界と
「えっと…異なる事象が日常で起きても、転換期に於ける重要点や事件は収束されるだっけ?」
「うーん、……まあ立体交差並行世界は概ねそれでOK。転換期は、人類を含む生命体単位で観測される節目、例えば大規模な戦争や生態系が変わる規模の天変地異等が起こる時期だね。ただ大きな歴史の転換期が起きるのは17世紀前後までが最盛期で、特に19世紀以後は様々な可能性が多岐に亘って分割、可能性が収束されにくくなってるんだ。歴史の転換期は三種類あるけど…これ以上語ると翔駒の頭がオーバーヒートしそうだから一先ずこれくらいで」
立体交差並行世界論を詳しく語ると一日では足りなくなるのでかなり省いて肯定する。
これは箱庭で重要な世界観の一つとなり、神霊や悪魔などの霊格や多種多様の"
但し2000年代、つまり現在いる時間軸では転換期の観測は不確定になっていて神霊や悪魔の誕生もほぼ皆無。飽く迄箱庭に於いて重要な歴史の転換期で、技術的面等もあるが今は割愛。
「な、なるほど…?……そういえばなのはの事を
理解したのか微妙な反応で目を回している。そこで以前エルが時空管理局の本局へ現れた際に和解後の説明で出た呼称を思い出し翔駒が問い掛け。
「そっちは難しい、というより僕自身もイザッちの能力やなのはっちのソレは殆ど理解してないんだ。力の一端って意味の推測なら、彼女が個人単位で持つ収束点が多岐に亘って、独立し切れていない各世界線上を越えて集約されるんじゃないか。とかね」
「えーーっと……?」
エルの曖昧な説明にイマイチ要領を得ず。
「例えば翔駒がさっき気になったTV版と劇場版の世界軸、仮定としてその物語が『高町なのは』の人生として本当にあったとしたら、それらも一定の条件下で収束されるんじゃないかって意味」
「ああ、そういう事か!」
要約しつつ解説し直して漸く合点がいき。
適当な枠組み下で考えている数学的対象が『定義されない』『よく振舞わない』等を理由に除外される事や物、及びその基準である特異性、其れを示す点を特異点という。一般解では無く特異解の点、基準や手順に対して『—に於ける特異点』『—に関する特異点』という呼び方をし、本来は数学・物理学に用いられる用語。
数学的観点を捨て"点"を"物質体"や"生命体"等、則ち人物に置き換えるといった場合の考え方も一応可能ではある。
翔駒の場合はSF等で用いられる文字通り特異な存在という意味で解釈したのか、またエルもなのはの能力から建てた憶測を恩恵の一つとして例えただけに過ぎず、本質的な解は不透明のまま。然し、ではつまり、エルと金糸雀はなのはの収束能力を"唯の魔力収束"と認識していない事になるが。
(僕としては"枠組みに囚われない"とカナリアが言っていた"極"がヒントな気がするけど……)
箱庭には現存の生命位を超越した英傑や種族、神魔、精霊と其の頂点たる星霊まで存在する。
当初こそ星霊やそれに近い存在と暫定し掛けたが、高町なのはが"生命体としては間違いなく人類"であると見抜けたエルは即座に"ソレ"を否定した。
今の思案に関してもおそらく"特異点の極"と同義では無いだろうと想察するが、ならば尚更正体どころか全容の一端すら掴めず。
「あれ?でもさ、十六夜の能力って"正体不明"じゃなかったか?」
ふとそこで翔駒の何気ない発言に、この問答はなのはの事以上にノーヒントなエルが顔を顰める。
「だから彼についてもわからないってさっき言ったじゃないか。判明してるのは人類の
「いやいや!そうじゃなくて能力名、──つまりギフトネームが正体不明・コードアンノウンなんだって!」
「─────なに?」
然し力強い語気で告げられた内容に無意識に低い声が出て、対する翔駒は思わず一瞬絶句し。
彼の"知識"を事象や行動原理ではアテにしていないエルだが、それでも間違い無く有用で在る部分がある。例えば今言った能力名等がその一つで、なのはの武具がインテリジェントデバイスのレイジングハートで使用する魔法名がディバインシューターまたはバスター、フェイトも同様で悉く当たっている事から信用に値すると認めていて。
加えてまだ教えていないギフトネームという単語を使ったのなら、其れが言葉通りで無く彼の齎された知識の話しになる。
これが意味するところはつまり───。
(全知である"ラプラスの紙片"でも測れない……或いはギフトが
力の無効化系能力なら然程珍しくも無いが、例として外付け装置やテクノロジー系以外で魔導を封じる場合、発動主も性質上魔法や準じる力が自動的に相殺し合って無効化される。その上これは限定的能力に対しての事で、それこそ"全能の無効化"なら単一の能力として特化した場合に限ってしまう。
まして逆廻十六夜のようなデタラメで奇跡にも等しい力を宿しておきながら、奇跡を打ち消す御技まで宿しては矛盾が大き過ぎる。それこそ翔駒が最初頻繁に述べた超絶チートで理不尽の塊であっても余りに常軌を逸していて、ならばラプラスの紙片側にエラーが起きた方がまだ納得出来るが……。
「エル?」
(……でもイザッちは僕の"眼"でも人類という生命情報すら不確定だった。なら或いは……それそのモノが"
そこでエルは胸元の裏ポケットから取り出した自身のピュアホワイトな"ギフトカード"を見つめ思考に耽て、翔駒の呼び掛けにも反応せず。
「……?おーい、エルネスティアー」
「あ、…ごめんごめん!ついうっかり……でもさーそれって、結局は正体不明で何一つ分からないって事じゃないか」
「うぐっ…それを云ったらおしまいだよエル君。…冗談だから睨まないでくれ」
次いで愛称外で呼ばれると漸く戻ってきたエルが誤魔化す様に事実を指摘し、翔駒がネタで繰り出すも「なんだ青タ◯キ擬き」との返しと此方は知見が在るのか瞼を下げて、まさか通じるとは思わなかったので冷や汗を流す。
「まったく。…話しを戻すよ?次は翔駒の居た世界だ。
「おう、勿論だ!寧ろ知らないヤツおる?ってくらいだぜ」
「…………へえ、そう。随分と得意気みたいだし、ならお浚いも合わせようか?」
話題の脱線を修正すべく次の話しを切り出すエルとドヤ顔&親指立てで首肯する翔駒。
「つまり立体交差並行世界は共通点を生む交差軸が存在しているのに対し、並行世界軸は常に平行線上だからお互いの世界は決して交わらない。まず原則として大まかに例えればAさんは居ないかもしれないし、仮に存在していたとしても異性だったり動物だったり、それは遺伝子から何まで全く異なる別人の可能性があるって事。同様に映画やドラマやアニメ等なっている創作物語、生態系から歴史や発展文化も各世界で相違点が出てくる…その中でも先程言った収束点のある伝説や伝承等は確約されるワケで、此処までが観測宇宙領域の要約した有り様で立体交差並行世界論。では並行軸で進む
「ちょ、待っ……!…〜〜〜、ススストップストッ──────全然わからん!」
果たしてドヤ顔がイラッときたのか面倒になったのか、捲し立てる説明に翔駒が遮ろうとするも止まらず結果はご覧の通り。
「──やれやれ…これでもかなり省いて説明してるつもりなんだよ?まあ翔駒の困り顔が見たくて態と区切らなかった思惑はあるけど」
「この意地悪小僧……っ、それにだ、区切らなくても後半はわからなかったと思う!」
「……そんな自信満々に言われても…」
呆れ返るエルの歯を着せぬ物言いにベッドの枕を噛んで応える辺りノリの良さでは負けていないも、断言した翔駒に苦笑して銀の後ろ髪を掻くと脱力し。
「現実は小説より奇なり…。加えてキミが云う創作物が僕らからしたら現実で、逆に翔駒の身の回りや世界がなのはっち達からしたら創作物の可能性もあり……物事は慎重に、だよ」
「わ、分かったような分からないような…」
今度こそ完全に要約され。
遂には
「それとカナリアからメールで『万が一今の話しを十六夜君達に振るなら二人ともとっちめちゃうぞ♪』だってさ……いやあ、流石"
「えっ、怖!?なにそれ怖すぎ!」
「こっちは僕宛?……ってこれ、"護法十二天"じゃないか!なんで外界のそれも日本に!?しかもなのはっち達が起こした衝撃が監督不行き届け扱いで僕の所為になってるし、もしかしてヘマしたらマジでとっちめられちゃうんじゃ…!?」
直後告げられた物騒な報告に2人の脳裏でバキュン、という仕草を人差し指でする金糸雀に物理的に胸を撃ち抜かれるイメージが過ぎり其の胸を押さえ、翔駒にいたっては顔面蒼白。
然し続け様に画面に添付された画像に写る銀髪褐色肌とポニテスーツ姿の女性2人を目にしたエルが今度は驚愕で声を荒げ。
「護法十二天…?なんだそりゃ」
「ん?あーそっちは知らないんだ。または記憶阻害の影響かな?………ねえ翔駒、僕達"運命共同体"だよね?」
「………とりあえずヤバいのは分かった。あと俺、実は神様とか信じない主義だから……じゃ」
「なっ、卑怯者ー!」
「………君達は何をやってるんだ」
仮に十六夜が聞かされていれば、其の知識で天部の諸尊12種の総称である『十二天』や護法善神に思考が辿り着いただろうが、残念ながら翔駒にその手の知識は無い模様。
何の捻りもない天使の如き笑顔で振り返ったエルに、此方も早速さに自室から出て行こうとする翔駒。口惜しそうに其の腰にしがみ付き、タイミング良く現れたクロノが現状を見て呆然とし。
そんな錚々たる面々を乗せたL級次元巡航船アースラはまもなく地球へ向けて出航する事になる。
*
金糸雀の懇意でこの世界での自身を証明する書類やカードを受け取ったフェイトは念の為病院に赴き、手の治療を施して数刻後、自分にジュエルシード回収を頼んだ実質雇い主である母親に報告へ行く旨を付き添ったなのはや十六夜に伝え。
現在はフェイト、アルフ、そして僅かに離れた位置から見送るなのは、十六夜、ユーノが高層ビルの屋上に立つ。
このビルがフェイト達の仮住まいで、十六夜だけは以前に一度訪れているので把握していたがなのはユーノコンビは初見であり、貸家でも物件が高そうな事に感心を示す。
余談だが貸賃契約の名義はフェイトの母らしく、其れを今日知った十六夜は娘の国籍を用意してない事実に疑念を抱いたが今のところは黙認な様子。
「うん、お土産も買ったし準備万端」
「フェイトちゃん、本当に大丈夫?やっぱりわたし達もついて行った方が…」
「心配ないよなのは。今は余裕が無いだけで、母さん本当は優しいんだから」
家庭の内情に口を挟むのは憚られるが、事前にアルフから聞かされた内容から察するに狂気じみていて逆に同行を断られたくらいだ。
其のアルフも「或いは保険で十六夜だけでも……」と一時思い掛けたが幾ら彼でもそこまで迷惑は掛けられないと、他にも心許ない事柄から
それでも不安気ななのはの申し出もフェイトは柔らかい笑みで丁重に断り、ケーキの入った箱を胸元で大切そうに持ち。
「ま、それだけ持って行けば癇癪起こす可能性も減るだろ。ついでに今度仲間を紹介する約束でも取り付けてくれば───」
「うん!なのはの事、落ち着いたら是非紹介したい!……イザヨイは気が向いたらで」
十六夜が指差す先、フェイトの周囲を囲むジュエルシード群。その数は計14個で、なのは達が回収した分も合わせている。当初は自分の分だけ持って行こうとしたフェイトを十六夜が呼び止めて提言した結果だが、当然ユーノは渋り。然しもし数の少なさで機嫌を損ねたり逆上されたりと万一を考慮した安全策がこれで、元から不安ななのはは何度も頷き賛同と共に遠慮する相手に半ば強引に持たせた上、互いのデバイス間でもとんとん拍子で譲渡が行われて阻む暇すら与えられず。
今のも十六夜は自分達を指して奨めたが、何故かなのは限定で普段から淡々としてるフェイトがそれはもう元気はつらつと食い気味に応え、ユーノに関しては名前すら上がらないと彼は泣いていい。
「……これだけ能天気なら安心だよな?」
「にゃはは……」
十六夜の呆れ混じりな声音に苦笑するなのは。
因みにフェイトの十六夜を兄さん呼びは彼女が光速で飽きてしまい結局いつも通りに戻っていて。
「フェイト、そろそろ」
「あ、そうだね。………次元転移」
アルフの催促で真剣な顔に、フェイトの言葉に呼応する様足下に魔法陣が展開される。
「次元座標『876C4419 3312D699 3583A1460 779F3125』……開け、誘いの扉。時の庭園、テスタロッサの主の元へ───」
両目を閉じて座標を口頭で囁くと次第に淡い光の魔力が輝きを増していき、最後の言葉と共にフェイトとアルフを包む金色の光の柱が天まで伸び。其の光が収まる頃には既に2人の姿は無く。
「……いっちゃったね」
「まあいつまでも気にしてても仕方ないよ。それより十六夜、ちょっといいかな?」
「藪から棒になんだよ?別に構わねえけど」
しゅんと縮こまるなのはにユーノが肩に手を置き慰めの言葉を投げ、それから振り返ると今度は十六夜へ向けて声を掛け、ぶっきらぼうな態度で怪訝そうに尋ね。
「率直に聞きたい。十六夜はフェイトの……その母親のジュエルシードを集める目的はなんだと思う?」
「本当に率直でいきなりだな。……飽く迄予想でいいなら話すけど、それでもいいのか?」
「構わない。僕も少し思うところがあるから、他の意見も参考にしたいしね」
真剣な眼で飛んできた質問。意見を問うユーノに呆れ顔で対応し、直後真面目顔に変わり目線を合わせて腕を組みながら承諾する十六夜に首肯で返し。
急に空気が一転してなのはも真剣な表情で2人の挙動と伺い十六夜の言葉を待ち。
「まず前提として、アイツの親はジュエルシードなんてオーバーテクノロジーに頼らざるを得ない状況くらいは分かるよな?」
「うん、そこは間違いないだろうけど…」
「それが欲目なら多額の富や、過剰な質量兵器でやれ戦争だ侵略だの糞つまらねえ理由は幾らでもあるが……アイツの話しや様子から察するに、どちらかと言うと焦燥や錯乱状態に近い可能性が高い」
「なるほど…尤もジュエルシードがそんな器用に、しかも欲望や不逞の感情を叶えるとは思えないけど。性質を知らないなら可能性はあるね……だとすると目的の方は?」
「…正直確証を持って言えないが、母親の目的を知らされていない──フェイトには言えない何か隠し事がある様に俺は思ってる。例えば何らかの禁忌を犯す必要があるってワケだ。時間移動から死者の蘇生、果ては神になりたいとかな」
「うわ、なんか凄い飛躍したなあ。……でもそれなら───えっと………人殺し、とかは思い浮かばないの?」
なのはに聞かれるのを躊躇したユーノが耳許で囁き、対する十六夜は嘲笑で返し。
「ハッ、それこそ過剰戦力だろ。第一その場合だと前提条件からも外れてるぞ」
「……なら、自分の力ではどうしても勝てない相手とか。神になるとかよりは十分可能性があると思うけど…?」
「そんなヤツが居るなら先ずは俺と
「ええ!?いや、そもそもそれを僕に言われても知らないよッ!」
「ふえ!?」
唐突な強気発言に焦りユーノの声量も突然上がった事により、静聴していたなのはがビクッと驚き肩を跳ねさせる。
「……まあいいや。つまり殺人行為がお前の懸念点なんだな?」
「ッ、…その一つではあるね」
「へ?………さ、殺人!?」
そして聞き耳をたてたなのはが殺人なる物騒極まりない言葉に驚き目を見開く。
とても小学生の女子に聞かせる用語では無く、その事に今度はユーノが肩をビクッと跳ねて、十六夜も面倒そうに苦笑を浮かべてフォローを加え。
「例え話しだ、確定じゃねえ。それよりも俺は幻や古の大地へ行こうなんてロマンのある方が余程好みに合ってるね」
「あ、……それもそうだ!なのはもそっちの方がいいと思うよね!?」
ユーノも便乗して半ば強引に方向転換を試み。
「う、うん。それは勿論そうだけど……2人とも凄い話ししてて驚いちゃったな」
「ヤハハ、そりゃ悪かった」
胸元を抑えて落ち着きを取り戻したなのはに飄々とした態度で謝罪しながらもユーノへ視線で話題を切り替えろと訴える十六夜。
まるで確かに自分の台詞が聞かれたが先に話しを振ったのはお前だろとでも言わんばかりで、当人も自覚しているのか頷くとふと、それこそ負い目が無くとも思い浮かんだ伝承を口にし。
「そういえば十六夜が言った予想や幻の大地で思い出したけど、遥か昔に伝わる伝説の都なんて話しがあったなあ」
「……へえ、伝説の都か。そっちの世界にもアトランティス大陸みたいなのがあるんだな」
「伝説の都?どんな所なんだろう?」
その言葉にいの一番に興味を示したのは十六夜だった。尤も彼の境遇を鑑みて伝説の都なんて地が出れば───ジブラルタル海峡、ヘラクレスの柱の向こうに世界の果てやアトランティス大陸を羨望と夢想で求めた彼ならば其の心情は当然だが。
だが地球の知識があまり無いユーノは首を傾げ、一先ずなのはの疑問に応える。
「伝説の都は現在だと遺失世界の忘れられし都なんて呼ばれているんだけど、多説では次元断層に落ちたと云われてる。時を操り死者も蘇らせる秘術にして大魔法さえ行使可能と謳われた都───その名をアルハザードという」
目を瞑り語るユーノに2人は真剣に拝聴し。
「……多説って言うからには、それはお前達の世界の、要は次元世界ってやつの世論では有名な伝承なのか?」
「割とそうかな。僕みたいな民族出身でも耳にするくらいだし、次元世界では御伽話には思っても逸話じゃ通らないと思うよ」
真っ先に十六夜が最初思ったのは好奇心から行ってみたい、だが次には別の懸念が生まれたのか一歩前に出て問い質し。
相変わらず気迫の在る雰囲気に聞かれたユーノは臆すも質問には確りと首肯を交えて応える。
「つまり伝説の名残りと忘却の都市がアルハザードか。………ハハ、予想以上に面白くなってきたぞオイ。他にも知ってる事を教えやがれ」
「ヴェッ!?」
其の言に地獄を垣間見たユーノと静観するしかないなのは、結局洗いざらいとまではいかずとも多弁を強いられたのだった。
*
その頃フェイトは転移して母が拠点とする高次元空間に在する時の庭園へと到着していた。
尤も本来の時の庭園と比べれば相違する程禍々しく刺々しい外景で、其の全容は岩石の様で違った特殊物質から構成された、中央の紅い宝玉が特徴の核石が浮き出た見た目は要塞其のモノ。
フェイトは迷わず己が母の待つ執務室へ向かい、扉を二度ノック後に入室するも其の際は解錠も無くセキュリティ面は損なう。だが元来此処は隔離空間で転移座標を知る者しか来れない面を含めれば不要な配慮ではあるが。
斯くして対面した母プレシア・テスタロッサは椅子に腰を掛けて机に両肘を立てて両手を組み合わせ、目の前に浮かぶジュエルシードに視線を向け。
「───確かにこれはジュエルシード、間違いないわ……よく頑張ったと褒めてあげたいけど」
「……はい、母さん…」
フェイトはそんな母に萎縮した様子で立ち、俯きながらも上目でプレシアを見て返事し。
「でもねフェイト、私は貴方になんて言ったかしら?…21個のジュエルシードを全て集めてくるよう言ったはずよ。挙句、結構な期間を授けたにも関わらず"たったの14個"って…?」
「ッ………」
だが次には表情を険しくさせたプレシアがフェイトを睨み付け、椅子から立ち上がると徐に歩み寄り。
「まあまあ!それでも残り7個は
気付けば鞭を手にするプレシアを嗜める声。先程から真横に立っていた黒いローブを着込む男がフェイトとの距離を遮る様に移動して剽軽な笑みと態度で介入し、フェイトに接するのとは違いその男を優雅な顔で見て。
「ふん。確かに、それもそうね。……ところでフェイト、それは何かしら?」
「ッ!あの、母さんにと思って…!」
「おお、いいね!もしかしてケーキじゃないかい?丁度調べ事で脳が糖分を欲していたんだ。早速お茶にしよう」
黒髪を払って靡かせるとフェイトが先程から提げる洋菓子の入った箱へ視線を下ろし、その質問にパァッと箱を掲げて顔を上げ応答すると間髪を容れずにまた男が向き直って掌で箱を奪い。
「あ……」と声に漏らしたフェイトは再び俯き、表情や様子から其の男へ、それこそ十六夜とは違い明確な苦手意識を向け、其れも構わず直後怒鳴り声が響く。
「そんな事はどうでもいいの!!……フェイト、早くジュエルシードを集めてきなさい。あれは母さんの研究にどうしても必要なのよ!」
「うあッ!?く…っ、分かりました……必ず」
続け様に鞭を一度振るわれ扉に向かい吹き飛ばされ、事前にバリアジャケットを装着して大したダメージにはならなかったが怯え顔と半ば絶望感を露に、焦って扉を開くフェイトが退室。
「ふむ……あまり手荒な真似はしないでくれよ?壊れたら面倒なんだから。それともキミが直々に出向いてジュエルシードを回収する?」
「…ッ、五月蝿い分かってるわよ!"アリシア"を蘇らせる為に…アルハザードに行く為には一刻も早く必要な事なの!」
「ああそうだ。アルハザードに行く為の必要事項を念頭に……そしてその鍵を確り集めるにはあの"贋作娘"も利用価値がある」
「………ええ、そうね」
フェイトの姿が室内から消え、扉の向こうでアルフと共に立ち去る足跡が聞こえ遠ざかればフードに覆われた箇所へ手を入れ髪を掻く男。
其の忠告に焦燥感が滾ったプレシアが尚も怒鳴るが次には諭されて、床に座り込んで俯く。
フードの奥ではニヤリと含み笑いを浮かべる男にも感知せず、立ち上がり再び執務机へ向かい椅子に座るプレシアは矢張り威勢が消沈した様子で虚を見据える。
「───全てはあの方と私の為に。
そして男は尚もフードの奥で軽薄な笑いで口端を吊り上げ、プレシアの頭に気安く触れて手つきは宥める様に撫で。
*
ユーノと談義を交わす、偶々隣合わせで居たなのはと十六夜の懐に飛び込んだのは直様だった。
「お願いなのは、"十六夜"ッ!母さんを……母さんを助けて!」
「フェイトちゃん!?」
「……思ったよりも還りが早かったな──それよりユーノ、残念だが話しは中断だ。どうやらコイツの母親は俺の予測を斜め上にいくらしい」
突如顕るフェイトを確り受け止めたなのはは驚愕、ユーノの語り部を止めて十六夜を見る。物語は否応無く次のステージへと進み始めた。