問題児がリリカルなのはに来るそうですよ?   作:増殖するX

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リンディ「タイトルは管理局式ジョークよ♪」
なのフェイクロノ「え」



ようこそ!超ホワイト組織時空管理局へ!

突如問題児の投降宣言で大小あれど其の場の全員が驚くも、これ以上の荒事が回避出来るならと了承。

クロノからしても先程の一撃やデタラメな言動から十六夜と争うのは危険と即座に判断していたので一安心である。

因みにフェイトとアルフの関しては十六夜曰く。

 

「あの二人なら何処に逃げたか知らないぞ。忠犬アル公も巻き込みそうで邪魔だったから"適当"の方向にぶん投げたし」

「忠犬アル公って……ええと彼女の使い魔の事だろうか?……其の言葉に嘘偽りはないと?」

「ハッ、疑いが晴れねえならどうぞ好きに捜索してくれて構わないぜ。勿論俺は止めないし邪魔もしないと誓ってやるよ」

 

実際のところフェイトは金糸雀から『回収した』としか伝達されてなく、アルフに至っても大雑把な方角へ無責任に飛ばしたので一応嘘は言っていない。

尤も十中八九滞在地は孤児院だろうと予測は付くも態々教える義理も義務も無いとは十六夜の腹積もりだが、アルフへの散々な呼び名に同情が過ぎるクロノも胡散臭そうに懐疑の視線を送る。

それでも当の問題児は飄々とした態度を崩さず身を端に寄せて進路まで空けてやり。

 

「………其の件はアースラに戻ってじっくり捜査する事にするよ」

(……どうせ金糸雀の事だから見つからない様にしてるんだろうけどな)

 

嘆息を吐いたクロノはこの事柄を一先ず傍に置き。

 

「あのー……わたし達はどうすれば…?」

「ん?ああ、其方についても先ずは艦に同行して貰う。事情が事情だけに強制にはなるが……」

「いえ大丈夫ですよ。僕としても管理局と事を構えるつもりは毛頭無いので。……彼の場合は此方に危害が加わったのでやむなく応戦しましたが」

 

二人が口を閉ざし漸く話しに入れる機会が回って来たなのはが片手を上げ遠慮がちに処遇を尋ね。

其れに申し訳無さそうに応答するクロノにユーノが心情を吐露すると貨物を背凭れに伸びている元凶を白い目で見る。

 

「───んん……」

 

そこで丁度意識を取り戻した翔駒が目を開けると冷めた視線を送るなのはやユーノ、クロノの様を把握出来ず不可思議に思い。

 

「……あれれ?どういう状況…?」

「自覚が無いようでしたら胸に手を当ててよーーく思い返した方がいいですよ」

「………?……あ………」

 

しかも何故か敬語に戻っているなのはに軽蔑する眼差しと底知れぬ距離感を覚え、聞き分け良く心臓に掌を乗せると次いだ行動は迅速だった。

 

「調子に乗って大変すみませんでしたァア!!」

 

唐突に飛び上がったと思えば地面に着くなり一回転してなのはの前で両手をダンッ!と土の上に直に坐り平伏して額も地に擦り付け。

見事なジャンピング土下座である。

 

「なあオイ、管理局って結局どういう奴等なんだ?」

「簡単に言うと魔法関係の事件を取り締って解決する組織かな。この世界で例えるなら警察みたいなモノだね」

「ふぅん。…ならコイツも?」

「……………一応そうなる」

 

ユーノの隣へとポケットに両手を入れたまま徐に歩み寄る十六夜が尋ねると要約して説明し、其れで大体は理解した十六夜が目線を細めながら土下座中の翔駒を指差し。

すると今度は近くに居たクロノが額に手を置き肩を落としては遺憾そうな顔で十六夜の質問に肯定。

 

「組織の沽券に関わりそうなのに採用基準がこんなのでいいのか?」

「言わないでくれ。彼ともう1人、キミと戦っていたのは特別入隊というか……」

「……?ああ、要するにコネってワケか」

「恐らくはね」

 

十六夜の容赦も遠慮も無い指摘に釈明を述べるとお互い認識が共有出来てクロノも安堵し表情を幾分か柔らげる。

其の直後背後から声が聞こえ。

 

「その言い草は酷いなあ。彼はともかく僕には立派な大義名分が在って管理局に付き合ったんだよ?」

 

苦言を呈するエルに十六夜達が振り返る。

 

「ならその大義名分とやらを言ってみろよ」

「僕もいい加減聞く権利はあると思うが。言えないならコネ入隊を撤回する気は無いぞ」

「うーん、それはね……。…秘密だよ♪」

 

藪蛇かと思えば軽やかに流され尚更胡散臭さを増し、基より相手にしても無意味と直ぐに言及を辞めた二人は溜息を吐いて。

因みに現在も土下座中の翔駒は何も言い返さず無言を貫き不動に徹している。

 

「あのなのはお嬢様、そろそろお許し下さいましたでしょうか?」

「……そもそもわたしの名前、何で知ってるの?十六夜君の話しからしてエル君に聞いて知った、とかじゃないよね?」

 

痺れを切らした翔駒が恐縮した面持ちで尋ねると直後なのはから鋭い質問が投げられギクッ!と肩を跳ねさせ。

 

「おお、そいつはいい質問だ。お前が尾行者の類じゃないなら迷い無く答えられるはずだぜ」

「そうだね。十六夜の言う通り、さっきの行動も含めて洗いざらい話してくれるよね?」

 

更に便乗して十六夜が右側から悪い顔で圧を、左からユーノの追及も在ってたった三人に右往左往するハメに陥り。

上官のクロノからしても静観、なのはも絶対零度な眼差しを変わらず送り続け。

 

『はいはい、お話しは其れくらいにして。続きはアースラに戻ってからでも出来るでしょう?』

 

丁度其の時、クロノ達の目の前に魔法陣が現れ円を描いた紋様に囲われた中心部には翠髪の女性が伺え。なのは達も其方に意識を向ける。

難を逃れた翔駒は心中で遠隔通信魔法を使用した女性リンディに感謝を述べてリンディさんマジ天使などと調子の良い心象を一方的に感じ。

 

「ッ!すみません、つい話し込んでしまって。それに片方も逃してしまい……」

 

慌てて対応するクロノといつの間にか翔駒も立ち上がり敬礼し、この辺りの常識は備えているようだ。

 

『う〜ん、まあ大丈夫よ。それよりも彼女達の話しも聞きたいから共にアースラに帰還してくれるかしら?』

「ハッ!了解しました!」

「元より其のつもりです。直ぐに対応します」

 

柔らかい声音ながらも凛々しい風貌で告げると翔駒は殊更姿勢を正し、其れに比例してクロノは何処か落ち着いた様子。

然しその場で無遠慮且つ礼儀知らずな暴君が一名。

 

「アンタがコイツらの上役か?意外と若いんだな、オバサン」

「「「ちょ…!?」」」

『オバ……ッ!?』

 

十六夜の物言いに驚くなのはとユーノと翔駒、そして絶句するリンディ。

 

「お、おいキミ!」

『わ、私はまだ───ゴホンっ!失礼しました。ですが若いと言っておきながらオバサンとは酷いですね……逆廻十六夜君』

「……へえ?大方白黒チビから聞いたのか?」

 

咎めようとするクロノを遮り年齢を明かそうとするも理由が在るのか喉から出掛かった言葉を飲み込み咳払いを一つ。

だが返ってきたのはまるで"十六夜が金糸雀と初めて出逢った時の会話の一部始終"に酷似していて、問題児は彼女の心象を気に入ったのか悪戯心を諫めるも然し己の名を呼ばれると途端に機嫌を損ねて鋭い眼光で推測を述べる。

其処になのはが慌てて割って入り。

 

「あ、あのごめんなさい!この人肝心な時は冷静で知的でちょっとカッコいいのに普段は好奇心旺盛なお馬鹿さんと言いますか!」

「待てやコラ。好奇心旺盛なのは否定しないけど一体何処の誰が馬鹿だって?」

「十六夜君だよ!大体目上に対する接し方をもう少し学んだ方が良いと思うよ!但だでさえ問題児さんなんだから…」

「ハッ、嫌だね。何故なら俺の座右の銘が『天は俺の上に人を作らず』だからだ」

「何その凄く横暴な主張!?」

「……つーか何だよ、ヤケにこのオバサンの肩持つじゃねえか?」

「ああもう、またオバサンって……めっ、だよ!」

 

最後に前屈みで人差し指を突き立てる。

第三者からするとただイチャイチャしてるだけの会話に聞こえるが実態は普通に咎めているなのはと単に反抗してる十六夜。

 

(いやオカンかい!てか、えっ何?もしかして高町なのはってユーノとじゃなくてそっち!?……ニヤリ)

 

現に蛇推する翔駒が悪戯心を芽生えさせるも十六夜相手だと不用意な言葉一つで返り討ちに遭うのが目に見えている。なので邪な考えは疑惑も合わせて再びなのはに向く事になるのだが……。

 

『オバサン……オバサン……』

 

そしてリンディは完全に落ち込み項垂れており。

威厳を保ちつつ笑顔で対応しようという思惑は十六夜の所為で台無しである。

 

 

 

 

 

           *

 

 

 

 

 

あの後クロノが場を収めて地球からアースラまで転移してきた面々。

薄暗い雰囲気の艦内通路をクロノを先頭に促される儘歩みながら興味深そうに周囲へ視線を這わせて闊歩する十六夜と何処か緊張が抜けないなのは。

この道中何やら十六夜とエルがコソコソとやり取りをしていたのがクロノは気掛かりに思うが現在の様子から不審な点は見当たらず。

 

「正にSFって感じだな。まあ乗艦してる奴等はファンタジー染みてるみたいだが」

「イザッちの好奇心が天井知らずな件」

 

ヤハハと軽薄に笑う十六夜の物怖じとは無縁な様子に苦笑するクロノとユーノだがエルも似たり寄ったりな感じで。

すっかり警戒心を解かされて肩を竦ます。

 

「十六夜君達は呑気だな〜…」

「だって着く間暇だし?なら観察に徹するしかないだろ」

「うーん………あっ!そう言えばわたしの学校の二年生に今ちょっと噂になってる子が転校して来たんだよ!」

 

呆れるなのはだが其の心情が分からない事も無いのか緊張を紛わす為にもと急に話題を持ち出すが要領得ない十六夜。

 

「確かにこんな時期に転入生ってのは珍しいな。けど其れがどうしたんだよ?」

「ふふーん。実はその子、劉備ちゃんって名前の人らしいんだ。歴史上の人と同姓らしいけど」

「……は?劉だと…?」

「違う違う、劉備だよ。劉備灯迦(りゅうび とうか)ちゃん!」

 

訝る相手に得意気にドヤ顔で告ぐなのは。

だが然し、其の名を聞いて驚かずにはいられぬ十六夜は途端に目線を鋭く細め聞き返すと応答の内容に肩を竦める。

 

「言いたい事は何となく分かったがそりゃ偶然だ。そもそも劉太公や劉邦の子孫である昭烈帝"劉備"劉玄徳は男だし延熹4年、つまり西暦160年代の人物だぞ。本人とは無関係───…いや、血統の可能性は否定出来ないのか?だとしたら何代かで改姓したかはたまた偶々か……」

「そ、そうなの?」

「劉備の子孫は八王の乱でほぼ壊滅したらしいからな。唯一生き残った劉玄もチベット系民族の一派が建国した成蜀に身を寄せた史実が残されているってくらいか」

「へえ〜…相変わらず詳しいね」

「ヤハハ、まあ兎に角そんな姓名なら知ってる奴は特に教員陣を始めとして憶測の嵐だろうな。で、其の有名人様はどんな奴なんだよ?」

「最近転校してきたから詳しくは知らないけど、一目見た時の印象はピンク髪が綺麗だったかな。噂だと良く図書室に居るらしいけど…」

 

其れを聞いた十六夜は様々な違和感を覚え。

上杉謙信の女性説は有名だが、台湾で一時期流れた劉備女性説はかなり信憑性の薄い半ば冗談だと云われている。或いは三国志演義の人物を女性に擬えて登場される物語が各種創作物には在り、この方面は翔駒が詳しいだろう。

更に完全な桜色髪など現実離れした髪色で、先程通信魔法で見た女性等異世界人なら一切の説明不要で納得出来るが。もし其の歳で染髪に手を出したなら是非とも親の顔を拝みたいと自分の髪色を棚に上げた十六夜だが、流石に其の所業は度外視でも良いだろうとも思う。そもそも其の程度なら姓の件も含めて親が余程頭お花畑で終わる事柄。

そして其れを聞き耳立てていた翔駒も矢張り内心は驚天動地で。

 

(おいマジかよ?名前と髪色からしてあの"桃香(とうか)"に近いけど図書室に入り浸ってるワードが気になる!一体"どっち"だ?せめてもう少しkwsk!)

 

憶測が脳裏を飛び交い──其の疑念が杞憂に終わるのか否か。これは十六夜達と彼女との対面を含めてまだ先の事象。

そんな彼と珍しくなのはの言葉に興味津々な十六夜の思いも虚しくクロノは目的地の入口扉前に着いて振り返り。

 

「よし。着いたよ」

「ちょっ、タイミング…!」

「……ま、続きは後で機会があれば追々だな」

 

心底残念がる翔駒の焦らされた感、逆に十六夜はあっさりと食い下がり、なのはも苦笑気味。

其の様子にクロノやユーノは何事かと訝るもこれ以上上司を待たすワケにもいかず機械仕掛けの扉前に一歩進むと自動式な扉が開かれ。

 

「皆さんいらっしゃい。遠路遥々ありがとう。さ、遠慮せず座って座って」

 

扉の先の光景は機械的な室内の一角で暖色系の敷物に座り、大きめな紅色の京和傘の下ニコニコとスタンバイしていたリンディが。

周囲には所々に和。

棚に飾られた盆栽なんて何処から見ても異世界や高度なテクノロジーのイメージを覆しである。

 

「ほら、出番だぞなのは」

「なんの!?」

「決まってるだろ?ツッコミ」

「あ───…な、何で和風なんですかあ!?」

「なのは……」

 

肩にポンっと手を置く十六夜の要求に素直に応じるなのはへ呆れ顔で溜息を吐くユーノ。

 

「ふふ、賑やかでいいですねえ。貴方達はもしかしてお笑いグループでも目指してるのですか?」

「なっ、目指してません!」

「目指します!」

「目指しません!!」

「緊急でボケが必要になったら僕に任せてね!」

「い・ら・な・い!あんまりしつこいといい加減に怒るよ!?」

「馬鹿だな。怒らせてるんだよ」

 

爽やかな笑みで問うリンディになのはの否定を皮切りに十六夜の逆張り肯定→なのは再否定→エル参戦→キレなのはと忙しないボケツッコミの応酬が繰り広げられ、仕舞いに十六夜の煽りを受けては最近習得したレイジングハートの先端部を桜色の魔力で生成した対問題児用ハリセン型にして十六夜の頭に勢いよくスパァーン!

密かに実家の道場で練習した成果を発揮した。

 

「…?何だ、必死に否定する割には確りと準備をしているじゃないか」

「デバイスをハリセンとして使う人、僕は初めて見たよ……」

「へ!?こ、これは十六夜君がトンデモない問題児のお馬鹿さんだから…!」

 

クロノとユーノの指摘を受けては慌てて言い訳を訴えるなのは。そんな少女の胃を実は心配する翔駒が心中で「南無」の一言を。

 

「まあコイツで遊ぶのも程々にして……、要望通り来てやったぞ艦長様。もしつまらない用件だったら徒じゃ済まさねえから覚えとけよ」

「ふふ、とても重要な事だからつまるつまらないじゃ無いの。だからちゃんと聞いて下さいね?」

 

酷い物言いで十六夜が話しを切り出すと靴だけは確りと脱いで、然しドカドカと粗暴に上がり込み。

其れに今度は臆さず微笑を浮かべた儘対応してみせるリンディで、…どうやらオバサン呼びだけが相当ショックだった模様。

他の四人も続いて靴を脱ぎで敷物の敷かれた畳に上がり台目切を中央になのはとユーノは十六夜の隣、クロノと翔駒はリンディを中心に両隣へ、客組と局員組で対面して座り込み。

 

「ああ、僕は他にやる事があるから話し合いはキミ達だけで頼むよ」

 

入室時は態々同伴していたエルが言うが早いか直様退室するも、行動が奇抜且つ突発なのは既に周知で各々特に構わず見送り。

但し最後十六夜とエルがアイコンタクトを取ったのだが誰も其の事に気付いた様子は無く。

 

「ささ、二人も緊急は解いて楽にして?」

「あ……ハイ」

 

其の後は互いに軽い自己紹介を済ませ。

目の前に差し出された羊羹なる和菓子と緑茶に困惑するなのはだが、先ずは佇まいを正したユーノが件のジュエルシードの経緯を打ち明ける。

此れは翔駒も事前知識でしか無い為改めて拝聴する事になり。

要約すると既に文明が滅んだ無人世界から民族柄で遺跡の発掘を生業とするユーノが発見したのが蒼い宝石、即ちジュエルシードである。

 

「───其れで、僕が回収しようと」

「……立派だわ」

「だけど同時に無謀でもある!」

 

それから輸送艦の事故で排出した経緯から此れまでのあらましを説明すれば感銘を受けたリンディと叱責を加えるクロノ。

ユーノは正座でズボンを握る拳を締め。

 

「あの…ロストロギアって何なんですか?」

「まあ、遺失世界の遺産……って言っても解らないわね。えっ、と……」

 

居た堪れない雰囲気のユーノを傍目に思わず助け舟を出したなのは。

其れに目線を逸らしたリンディから改まって説明が為される。

先ずは遺失世界。此れは幾つかの次元壁で遮られた世界、その中にごく稀に現存の化学技術より遥かに突出した世界が存在し、進化し過ぎた末に臨界点等の限界を超えて滅んだ世界である事。

そんな世界で取り残された技術を凝縮したアイテムが遺産だと、そしてジュエルシードも恐らく其の一つである事。其れを総称して遺失遺産(ロストロギア)と呼ぶ。

 

「使用法は不明だが、使い様によっては世界どころか次元空間さえ滅す危険な技術……」

「然るべき手続きを以て、然るべき場所に保管されていなければいけない危険な品物。貴方達が探してるジュエルシードは次元干渉型のエネルギー結晶体で…幾つか集めて起動させた場合、最悪は次元断層をも引き起こす危険物───」

「次元断層って要は天変地異、つまり弩級巨大津波や破局的大噴火(ウルトラヴォルケイノ)が人為的に即起きる事なのか?」

 

腕を組んで言うクロノに続けてリンディの念押し。其れに唯一胡座をかいて今まで静聴していた十六夜が唐突に問い掛け。

 

「……?いや、正確には次元断層が起きた世界と隣接する世界で其の影響下に曝されたのがキミの言う崩壊現象だと思うが」

「ああ、旧暦で起きた事件ですね…」

「なるほどね。じゃあ次に次元断層ってのは、例えばジュエルシードを全部起動させれば直ぐに起こるか如何かだ」

 

答えるクロノと補足するユーノは苦々しい顔だが気にせず十六夜は更なる疑問を投げ。

 

「そうですね。先ず初動に貴方達の世界でも起きた次元震を引き起こすと思いますが…」

「あの光の柱の事か?」

「あら、知っていたのですか?」

「まさか。ただアンタの言葉と、俺達が最近遭った現象を重ねて確認した」

 

其の言葉にリンディは驚く。

見た目の歳から不相応な発言の連続で予測は出来たが、其れでも十六夜という少年が聡い事を再認識するには十分だった。

 

「そうですか……ですが飽く迄これは一例。下手をすれば虚数空間と繋がる場合も───」

「……あっ」

「……虚数空間?」

 

思考を悟られない様に"緑茶に砂糖を入れて"誤魔化すが其れにギョッとして目を見開くなのはと構わず聞き返す十六夜。

 

「…兎に角。これよりロストロギア、ジュエルシードの回収については時空管理局が全権を持ちます」

「「え…」」

「キミ達は今回の事は忘れて、それぞれの世界に戻って元通りに暮らすといい」

 

然し強引に話しを終わらせようと畳み掛けるリンディとクロノに対して戸惑うなのはとユーノ。

そんな一時の静寂の中、我先に膝に手の乗せて立ち上がった十六夜は壁に拳を握り構え───。

 

「ならこの艦壊すか、速やかに」

「……は?」

 

今度はクロノから困惑の声音。

 

「オイオイ、俺の話し聞いてなかったのかよ?つまらねえ用件で終わらすなら徒じゃ済まさないって事前に予告しただろ」

「そ、それはそうだが…。アースラを破壊するなんて……正気か!?」

「取り敢えず動力部からぶっ壊せばいいか……ああそうだ、死にたくなかったらユーノはなのはと転移しとけ。後は何とかなる」

「いやいやいや!何とかならないよ!?」

 

デバイスを向けて吠えるクロノを無視して内心呆れ切った思いを顔で表す十六夜が指示するもユーノは当然の如く焦り。

因みになのはは絶句で、翔駒は先程から話しに入り込めず今の事態に陥り白目を剥いて。彼の最後の言葉は「あ、これゲームオーバーですわ」だった。

十六夜は決してリスク管理を怠る性格では無いのにこの無謀っぷり。つまり普通にキレているのは自明の理で、其れを朧気に知る翔駒は彼が本気でアースラを沈めに掛かっているのと実際其れが朝飯前なのは確実な事だけは理解している。

 

「馬鹿な真似はやめるんだ!」

「まあ冗談だけどな」

「………は、はあ!?」

「いや沈めるワケ無いだろ普通に考えて。その場合、俺はどうやってこの何処で停まってるかも解らない船から脱出するんだよ?」

「それはその通りだが……とても冗談には聞こえなかったぞ…」

 

途端に飄々と述べる十六夜が拳を下ろして向き直ると阿鼻叫喚だった翔駒が己が予想の斜め上の出来事にハッと起き上がり、クロノもS2Uを仕舞うと未だ残る動揺を隠さず。

 

「そうか?確かにムカつきはしたから脅かしに掛かったけど、少なくともお前らの艦長は気付いてたみたいだぜ?」

 

徐に視線を向けた先にはリンディが落ち着いた面持ちで茶を啜る姿が其処に。

余計に呆気に取られるクロノ。

 

「当然でしょう?聡明そうな貴方がまさか後先考えないとも思いませんし。それに凄く面白そうな表情をしているのだもの……それからなのはさんが言う事もよーく理解出来ましたよ。問題児の十六夜君」

「ハハ、そいつは悪かった。次からは悟られない様に気を付けないとな」

 

是非次回が無い事を願うリンディは引き攣った笑みを浮かべ、十六夜は再度座り直すとここで初めて茶を口にする。

 

「そんな貴方なら私達の言っている事も分かると思うけれど…」

「そうだな。魔法が使えるとはいえどう考えてもガキの手には余るし、本来なら素直に従うべきなんだろう……だがコイツ等は途中で投げ出す気は無いみたいだぞ」

「え…?」

 

視線に促されて振り向けば十六夜の言葉に固い決意の篭った双眸で首肯するなのは達二人を見て。

ユーノとの約束も理由の一つだがなのはが想起したのは必死な形相のフェイト、彼女と其の母が諦めるとは思えずまた無理をするのではと不安で放っては於けず。

 

「お願いします。僕達も協力させて下さい」

「あの、…わたしも心配な子が居るんです。このままじゃフェイトちゃんが……」

「フェイト?……ああ、あの黒衣の魔導師か。然し彼女の目的が解らない以上は…」

 

頭を下げるユーノと衣服を握る程胸に手を当てて懇願するなのはだがクロノは渋りリンディも双眸を閉じて勘案。

 

「ああ、その件ならそろそろ全容が明らかになると思うぞ?」

 

突如宣う十六夜の発言に全員が驚いて視線を集め。

それと同時に出入り口側から扉の開閉音を耳にすると次いで其方へ注目を移し、来訪者と思わしきエルと更には当艦のクルーである茶髪のショートカットな女性、エイミィ・リミエッタを視界に捉える。

何事かと訝る面々を他所に湯呑みを置いて立ち上がりエルとエイミィの方へ徐に歩み寄る十六夜。

 

「エイミィ!?」

「やっほークロノ君、来ちゃった」

 

クロノの呼び掛けにのほほんとした愛嬌笑いで片手を振るエイミィ。

 

「思ったより速かったな白黒チビ」

「検索対象が絞られてたからね。はい、これがお目当ての情報を纏めた資料」

 

エルが十六夜に紙束を渡す光景に独断専行して何かした事とエイミィが共犯である事、そしてアースラに向かう道中密かにやり取りが在った事柄から先程の茶番が時間稼ぎという事も含めて全て繋がり、理解を得たクロノがエイミィへとジト目を送り恨めがましい声音で。

 

「エ〜イ〜ミィ〜〜〜!」

「ふえ!?だだだだってエル君がどうしても必要って言うんだもん!それに艦長も彼には極力協力してあげてって!」

 

両頬を摘み引っ張られ涙目。

弁解するもこれには流石のリンディも笑顔は絶やさぬも無言の圧でこれでもかと見据えて。

 

「おい其処の凸凹カップル、イチャつくなら自分達の部屋でやれ。こっちは今集中してるんだよ」

「なッ!?ちが…!」

「カカカカップル!?クロノ君と……えへへ」

 

手渡された資料に早速目を通しながら十六夜が苦情を言うと其れを否定しようとするクロノ、対して先程まで抓られた頬に手を当てて腰をくねらせ乙女心を満開に咲かせるエイミィ。

其れを見てニヤニヤする翔駒だがここまで殆ど喋ってなく、周囲から存在が忘れられていそうな事実に本人は気付いて無い。

 

「───チッ、嫌な推理だけは当たってやがる」

 

数枚を早々に読み終えた途端、殺気を漂わせる程の憤激を上げた十六夜にエイミィの緩んだ表情も硬らせ周囲はあのエルでさえ息を呑み。

 

「どうしたの……?」

「……悪い、何でもない」

 

立ち上がって恐る恐る近寄り様子を伺うなのはに囁くくらいの声量で応えると紙束を下ろす。

そんな力無い言動では言い渋る内容だという事はなのはにも容易に解るが。

 

「ユーノ、お前って此処から元居た場所まで転移する事は出来るのか?」

「え?ああ、うん。可能だけど……」

「よし。じゃあ直ぐに帰るぞ」

 

続きは帰宅してからとばかりに他を無視してユーノの首根っこの衣服を掴み闊歩する十六夜。

直ぐ傍に居たなのはも慌てて後に続いて行き。

そんなとんとん拍子で去り行こうとする三人にクロノ達は呆然とするもエルが待ったを掛け。

 

「あーちょっとちょっと!イザッちにもう一つ渡したいモノがあるんだよ!」

「………なんだこれ?」

 

進行を妨げられ不機嫌な顔を隠さず振り向くと駆け寄った十六夜よりも背の低い少年から一枚の紙を差し出され。

其れを乱暴に受け取る仕草から彼が心底怒っているのは明白だ。

 

「記述した人が一番下にあるから、良く見てみて」

「あん?───…ッ!……ハッ、これはまた随分とサービス精神旺盛じゃねえかよ」

「アルハザードの事も調べてって言われて偶々ね。ミィちゃんには口止めしてあるから安心して」

 

耳打ちするエルの視線の先で再びクロノに叱られてしょんぼりしてるエイミィの姿を見ると誰の愛称か納得し。

 

「まあ何にしても助かった」

「アハハ、こっちも一安心だよ。イザッちに怨まれた儘じゃ、恐ろしくて夜しか寝れないし」

「そりゃあ重畳だったな。このままだと俺も引っ込みが付かないから、地の果てまで追い掛けて完膚なきまで叩き潰そうと思ってたしよ」

 

軽口を叩き合うも最後の言葉は洒落にならないとエルが表情を引き攣らせて一歩退き。

再び密かにやり取りし合う二人にエイミィを叱責し終えたクロノやなのは達も疑念を抱くが半ば諦め気味で資料の件や其の為諸々は一旦有耶無耶に。

 

「ハァ…仕方ないわね。クロノ、あの子達を送ってあげて」

「わかりました。……いいかいキミ達、今回の件は呉々も民間人が安易に手を出さない様に───」

 

嘆息後に献策するリンディに頷くと再度念を押しながら帰路へ誘導するべく先を歩むクロノ。

なのはとユーノは項垂れながらも真面目に聞き入れるが十六夜は右から左に流し、先程エルから受け取った用紙に記載された文字を真剣に一字一句見逃さず読み耽る。

然し歩むペースは乱さずなのはの直ぐ真後ろで。

 

十六夜の双眸が下記の文を這う。

 

 

 

───────────────────────

 

 

      名=A Legendary Alhazred

 

記述に従い道を解き明かせ

 

導き手は物質体(マテリアル)

閉門の虚数体(タキオン)

開錠担いし星辰体(アストラル)

 

アーリアに倣いアストラを識り

汝が女神の代行者と為らん事を願う

 

青き星を守護する彼女は太陽の名の下

十二神の海とゴーゴンの系譜を穿ち───怨敵相対する刃より疾く愛しきタキオンの星を墜とす

 

叩けよさらば開かれん

 

かの地に辿り着きし勇敢なる者ならば、幕引きにて理想郷の虚栄を暴け

 

宣誓 異界の師と祖の名に懸けて、この謎が正当である事を保証する

"オウァイン・グリンドゥール"印

 

出題者=アルハザード最後の末裔

 

 

───────────────────────

 

 

 

十六夜達を見送った後、今度はリンディに御小言を言われているエイミィが其れから逃れるべくエルに疑問を投げ。

 

「そ、そう言えばエル君!最後に渡したのってさ、昔ちょっと話題になった謎解き問題だよね?」

「ん?……ああ、そうなんだ。僕は全く別の事を考えていたんだけど」

 

見識の無い問いに小首を傾げる。

聞けばエイミィ達がまだ管理局に務めるよりも前、各局から民間業者にまで至る要所へ無作為に出所不明のデータが送り付けられ、更にはオリジナルと思しき例の出題文が"羊皮紙"でとあるアイテムと共に本局に届いたという。

また情報漏洩をしているのではと訝るリンディの視線に気付いたエイミィが忙しなく踵を返し。

 

「……あ、あたしは自分の持ち場に戻りますね!」

 

早速さに退室するエイミィ。

 

「まったくもう……それで、一体彼に何を渡したのかしら?」

「おうそうだぞ。幾らエルが"あっち側"のヤツでも好き勝手されたら色々困るんだが……」

 

今度はエルがリンディと翔駒に詰め寄られ困り顔に為ると矢張り態とらしい胡散臭い笑みを繕い。

 

「大した物じゃないよ。そうだなあ……敢えて言うなら彼には"ある人からの挑戦状"を渡したのさ」

「「挑戦状……?」」

 

意味深な発言を残して立ち去るエルに二人は揃って顔を見合わせては疑問符を浮かべ。

勿論此れはエルも預かり知らない事だったが、かの挑戦状が異世界の遊戯。

ギフトゲームに使用される"契約書類(ギアスロール)"に酷似しているならば懸念に思うのも当然だろう。

 

(おそらくは史実や伝承等に則った"真なる意味"でのギアスロールでは無く、伝承を借り受けて観測した事実を結び付けた簡易版だろうけど……はてさて。てか何で"この人"が調印してるの?)

 

其のエルもまた思考の海に耽る。

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