実のところ十六夜は街の彼方此方を内緒で捜索していた。手分けして探す手もあったがその必要性を感じなく、それも彼の驚異的な跳躍力が成せる業でありその気になれば軽く"時速数万km"を超えて移動する事も可能だが、踏み抜いた先がビルだったり倒壊の恐れがある場所だと大惨事を引き起こしてしまう為ビルとビルの屋上を飛んで跨いぐ場合は加減が必須。しかし自己の認識ほど十六夜は加減が上手いと問われれば否。
自称大陸など世界の端から端まで直ぐに移動できると豪語する割になのは達みたいに飛行能力がある訳でもなく、太平洋横断なんて偉業は無理なので実は彼の発言にあまり信憑性はない。
短い距離くらいなら幅跳び感覚で難なく着地できるが、これが高度などがある場合うっかり踏む抜いてしまうなんて頻繁にある───兎に角そんな才能を先天的に持つのが十六夜という少年である。
今回はそんなうっかりも無く無事標的を発見できたようで漸く見つけたフェイト達と鍋を堪能した後、ちょっとした提案をした次第だがそこは色良い返事は貰えず、残念ではあるが然れど気にした様子もなく十六夜は自由奔放に夜の通り道を歩く。
住宅街に差し掛かった辺りでこれまた偶々高町の表札がある家の前に来るもどこもかしこも灯りは消えており相当遅い時間の筈が、一戸建ての二階に気を取られふと気付くと目の前に小さな人影が歩み寄ってきた。
別にこの時間帯の通行人がおかしいなんて事はないも一戸建て住宅が並ぶ人通りが比較的少なげな場で、会社帰りの大人ならいざ知らず"自分より下そうな"子供が居るのは異様だと己を棚に上げして思う十六夜。
「あまり"外界"で暴れられたら困るな、少年」
「俺より背の低いガキに少年呼ばわりされる謂れはねぇんだけど」
すれ違う真際で独り言の様に発せられた声に意識を向ければ視界に映るのは肩まで伸びた銀色の髪。
十六夜の目線に相手の頭頂部がある事から自分より低身長なのが伺え、そんな者から少年呼ばわりされれば十六夜はその子供を睨み付ける。
「……女?」
暗がりでもまるで輝いているようによく見える白い肌、透き通るくらい綺麗な薄い蒼眼。
半袖の肩口が開いた前身頃中央はファスナー付きの開ける式で衿から下へ一直線にブルーラインが引かれた全体的に白い上着、ファスナーは胸郭まで下ろしており首まで覆う黒いノースリーブのインナーシャツが見え、背後から見たら脹脛も少し隠れそうな程長い白の腰巻、腰周りに緩めで巻かれた垂れベルトと上着と同じく青ラインの入ったグローブと太腿上まで丈のあるロングブーツと半ズボンはいずれも黒がメイン色。
白と黒を織り交ぜた異国風な服装の浮世離れした"どことなくあの
「ああ、これは失礼─────って君の方が失礼だなあ!?僕は歴とした男だよ!」
どうやら童顔で小柄な中性的顔立ちの少女みたいな"少年"らしい。
「と、ともかく!僕の言っている意味分かるよね?」
「さあな。なんの事だかさっぱり───」
「君がやり過ぎると世界にとって悪影響は与えるかもしれないんだ。例えばそう……この大陸を粉砕したりね」
「…………」
仕切り直すとまるで語り手の如く紡がれ先程より存在感を増すように告げる。
その通りに強まった存在感が身に染み。比喩にしても大陸を砕くとは大袈裟すぎる、そんな事が出来るかと否定的に内心思うも言葉を詰まらせ。ならばせめてもの反発とばかりにゆっくり口を開き。
「…で、だからどうした」
「アハハ、だ・か・ら…加減してね?」
高圧的な態度に物怖じ気せず人差し指を立てると片目を閉じて可愛らしく返す少年。
「ハッ、なら言われるまでもないね。なんせ俺は常に手抜きしてるんだからよ」
「んーホントかなあ…」
言い切るも十六夜の言葉からは不満がありありと伝わり、銀髪の子は肩を竦めて苦笑する。
暫し目線を交わし合い冷静さを取り戻した十六夜が最初に言われた"外界"とはどういう事だろう?と疑問を抱いた瞬間、いつの間にか家の二階の電気が付いているのに気付き。
「うう……凄く苦しい感じがしたけど、いったいナニ……………あれ、十六夜、君?」
二階部屋の方へ振り向けば今まさに空いた窓から寝惚け半分で髪を下ろしたパジャマ姿の高町なのはが顔を出し、表札から大方予想していたのか特に驚く事なく。
ついさっきまでのやり取りですっかり冷めた視線を向けるとその威圧感にゾクっとなのはが身震いし僅かに目が覚める。
「ともかく今言った事は肝に銘じて」
「あん?────チッ、あいつ…」
「ん、と……夜のお散歩中…?」
最後に耳元で囁かれ振り返ると既に銀髪の姿はなく、明らかに不機嫌そうな雰囲気に怖気付くなのはが躊躇いがちに声を掛け。
「まあそんなところだ」
端的に肯定して話題を切り上げる。
「なにかあったの?」
「いいや、なんでもねえ。こんな夜中に悪かったな」
「え?う、ううん…気にしないで…」
短く弁解するとズボンのポケットに両手を入れて淡々と立ち去る十六夜を呆然と見送るなのは。
上下黒い服でシャツのみ黄色と明るめの柄だが背後からは見えず早々に裸眼では姿を確認しづらくなった少年へ疑念を拭えぬも、明日も平日で学校があり朝早いので仕方なく就寝に戻る。
その時ふと十六夜は学校はどうするのだろう?など心配したが後日学校には通っていない事を明かされ驚くのだった。
逆廻十六夜は地球という一般人からすれば広大で自身には狭苦しい世界の軋轢に苛まれ日頃から窮屈な思いをしていた。少し力を出せば建造物など直ぐに木っ端微塵にでき、流石に実証する気も実践するワケにもいかなかったが本気になれば街一つ秒で破壊して回れる自信もあり。
それが例え故意でなくとも行動してしまえばそういう結果が残るだけでそれ以上でも以下でもなく、ただ十六夜には破壊衝動も破滅願望も勿論無いので精々己を利用しようとしたり指図されたりと、その時感情が昂って振り上げそうな腕を抑えるのに懸命な程度だ。
それでも利用してくる者は犯罪履歴の検挙等の弱味を握り精神を徹底的に潰していったが。
それも今では慣れが染み付いてきたのか、或いはその方面が無感症になったのかは十六夜の知る所ではないが、処世術としては困りものだが他人との接点を(自分目線で関わりたいと思う者以外)オミットする事により少なからず衝動は湧いてこなく、以降無難な選択を続けていた。
しかし最近になって魔法なんていう奇怪で愉快なモノを扱う人種が現れて当然無視など出来ず、積極的に介入し暴れる事はあったがそれも別段力など殆ど入れてなく軽く一捻り、直ぐに飽きた十六夜が次に目を付けたのはユーノ達が探すジュエルシード集めで何処にあるのか不明なヒントも乏しい宝探しにロマンを感じ有無も聞かず関わっていき現在に到る。
結局屋敷に帰るのも憚られて億劫な身体をあの日のように今度は木の根本に、背中を預けて野宿した翌朝。目が覚めれば既に陽は昇り其処彼処に居る登校中の学生もまばらで相当早く起きたか寝過ごしたか、公園の時計台で時刻確認すると伸びをしてる最中頭上に影がさして見上げれば黒髪で黒のロングコートの顔立ちは日本人感バリバリなパッとしない男が視界に入る。
「見つけたぞ!」
歳の頃は13〜14歳くらいと予測できる見た目の全身真っ黒な少年が威勢よく叫ぶ。
「……人違いじゃねえか?」
「高町なのはに近付いて何の真似だ!?」
「OK、まずは他人の話しを聞けるようになってから出直してこい」
全く心当たりの無い相手に指摘するも一方的に話され、遮られた事に若干イラッとしつつも呆れが勝り最近知り合った少女の名が上がった気もするが、呆れ気味に要領を得ない質問をあしらうように立ち上がり苦言を呈する。
「勝負しろ!」
「勝負だ?生憎ただの"一般市民"には手を出すなって
「た、ただの一般市民…だと?ナメるな小僧!出でよ聖剣、エクスカリバーセットアップ!」
相変わらず会話にならぬ相手に律儀に返答すれば癪に障ったのか漸くまともな反応が返ってきて、かと思えば首から提げたチェーン付きエメラルドグリーンのペンダントトップサイズな剣を胸元から出して片手に握り。
その直後彼の手にエメラルドグリーンの片手用直剣が握られていた。その動作はつい最近見覚えあり高揚感が湧く。
「……へえ、お前も"魔導師"ってやつか。いや、この場合剣士って事になるのか?」
「うおおおおおおおおッ!!」
十六夜の言葉も聞く耳持たぬよう、恐らく彼からすれば渾身の一撃だろう。
直剣を片手に振り上げ襲い掛かってくるが。
「遅ぇよ」
振り下ろされた剣を蹴り上げて弾き。
「なッ!?」
宙に舞った直剣の柄をキャッチして呆気ない幕引きにガッカリと、前に戦った少女達より手応えの無い男へ興味が失せる。
目の前の相手からすれば一瞬の出来事で反応も出来ず目を見開き、次いで十六夜が剣の切っ先に掌を当てれば押してエクスカリバー(?)の刃をグチャグチャに折り砕いて、直ぐに鍔から先が丸まって長剣からコンパクト化されたモノを見せつけ。
「テメェもこうなりたいか?」
「こ、このガキ化け物か…!?」
脅しにあえなく屈して尻餅をつく。
「おいおい人様に向かって化け物とは随分とご挨拶じゃねぇか。特別に名乗ってやるから耳の穴と鼓膜こじ開けてしっかり聞け───逆廻十六夜様だ!」
「へ?逆廻…いざ、よい……?」
叫び気味に高圧的な名乗りを上げると途端に少年の顔面蒼白に、壊れた剣が光の粒子を発して霧散すると手にしていた素のチェーン付きデバイスの核を持ち主へ放る。
「ああ、よく覚えとけ」
「な、なんで……逆廻十六夜だと!?どういう事だよチクショウ!」
当初の威勢は何処へやら、十六夜の言葉には反応せず十六夜自体に臆して駆け去る者を尻目に唐突な展開に呆然とし。
物足りなそうに彼が去った方向を睨み付け。
「もう終わりかよ…ま、武器ぶっ壊しちまったし仕方ねぇか。……クソッタレ」
吐き捨てて当たるように地面に足を踏み抜けばズドォンッ!とクレーターが土を抉り弾く様外へ、背後の木を起点に周りの木々を巻き込んで倒れる衝撃と余波でまた凄まじい音を響かせ、その中心で苛立つ十六夜は何事も無かったように去る。
辺りからは騒がしい声が聞こえるも構わず誰にも感知される事無く姿を消せば残るのは惨状と化した光景のみで、普段の十六夜ならばこれくらいの瑣末な出来事どうともならなかっただろうが、生憎今日に限って虫の居所が悪かった。
数日が経ちなのはからはジュエルシードが見つかった報せもなく偶に逢ったり連絡しては近状報告と雑談、殆どは彼女の学校での出来事なり向こうから振る話しを適当に聞いているとある時ふと襲撃犯の事を思い出したので尋ねてみた。
『アレって十六夜君の仕業だったの!?』
「ついカッとなってやった。反省はしてない」
あの後一部荒れ果てた公園はちょっとした騒ぎになり自然災害か隕石かとなのはのクラスでも話題になった。そしてその真相と犯人が判明し吃驚した反応に軽いノリで応える十六夜。
『私とユーノ君はてっきりジュエルシードの暴走かもって結構ヒヤヒヤしちゃったんだよ!?』
「ヤハハッ、そりゃ悪かったなー」
電話口で頬を膨らませてるのが想像出来る口振りに中々どうして十六夜はなのはとの会話を楽しむ。
「それで、どうなんだ?似たような武器も持ってたし、あいつもお前らと同じ魔導師ってヤツだと思ったんだが心当たりは────」
『うーーーん…他に魔法を使う人自体あの女の子で初めてだし、男の人の知り合いも家族以外だと十六夜君くらいだしなあ。後はクラスメイトか学校の子だけどそこまで仲良しじゃないし』
茶番も程々に本題に戻すとしばし思索に耽るも、なのはが通う私立聖祥大附属小学校では殆どすずかやアリサと接している上に異性となるとより可能性が薄まってやはり定かではなく。
指でクルクルとペンを回して十六夜の視線は白紙のメモに落ち。
「ならあと考えられる線は熱烈なストーカーか…」
『そ、それこそまさかー……』
一瞬背筋が凍るも首をブンブン振って浮かんでしまった嫌な妄想を払い。
「とりあえず用心しておくに越した事はないだろ。注意だけはしとけよ」
『あれ、もしかして心配してくれてる…?』
「下手にちょっかい出されて俺のお楽しみを邪魔されたら今度は腹に風穴空けそうでさ」
『あ、うん。細心の注意を払います』
注意を促され期待が込もるもそんな感情は直ぐに霧散して物騒極まりない比喩に思わず電話越しで背筋を正し、違う意味でおどろおどろしい妄想をまた払う羽目に。
直後とある事柄を思い出したなのは。
『あ、そうだ。今度のお休みに行く温泉、それはそれで楽しもうね』
「──ああん?温泉って、なんだそれ」
急転換した話しを怪訝に聞き返しながら偶々視線を向けた先、僅かに開いた扉からサムズアップする手が二つ有り目を細める。