連休に入り友人や家族絡みの旅行に嬉々とする面々。
成人換算七人は乗車可能なワゴン車、アリサを中心に両隣にはすずかとなのはが座して和気藹々と駄弁りその車を運転する父親の士郎、後方の高町兄が見栄と奮発で購入した…否、購入したかったが予算の都合で断念し結局月村家外車で彼女の忍に運転を任せる恭也と月村家メンドの二人衆を乗せた外車が目的地の温泉旅館へ走る。
ワゴン車の助手席には士郎の妻にしてなのはの母桃子が、最後尾を子供組が陣取っている事もあり中央席にはなのはの実姉美由希とバスケット籠。本来なら金髪の問題児が座る予定の座席を眺めながらどこか黄昏れるなのはは同じく金髪の先週遭遇した少女を想う。
「───最近いつも二人の事考えてるな…」
片や頻繁に交流するも本日のように突拍子もない行動など目立つ掴みどころがない少年。対して一度顔を合わせたキリで然し脳内では一層気になっている少女。
ふと無意識に呟いた言葉も傍らで賑わう親友の声に消えて車内に溶け込み。
「ねえ!なのはも温泉楽しみよね!」
「へ?…あっ、うん!もう着くのが待ち遠しいよ!」
考え事でついいきなり振られた話しに反応が遅れるも直ぐに頷いて声を掛けてきたアリサと満開の笑顔を向け合う。
魔法の相棒であるユーノにも忠告された通り今日だけは歳相応にこの旅行を満喫しようと改めて自分に言い聞かせるなのはだった。
*
温泉宿の駐車場に着けば車内から飛び出すのが歳相応の子供。
「わあ〜〜綺麗…」
「ファンタスティック♪」
立派な旅館の前の庭園の池へ向かいテンションを上げる友人二人から離れた並木道でなのはも伸びをすると自然溢れる新鮮な空気を吸い込み、目の前の先客を見ると直ぐ無表情に。
「ふぅ……それで一体どうやって来たのかな?」
「跳んで走って来たんですよ、っと。チンタラ走ってる車より速いし、なんなら新幹線ですら俺の足元にも及ばねえって言い切れるぜ」
一体彼は何と競っていて何処を目指しているのだろうと十六夜のデタラメっぷりに頭を抱え、定位置な肩に乗るユーノも呆れた様子。
まさか目の前の少年がニューメキシコ州のホロマン空軍基地でマッハ9超えを叩き出した実験用列車ロケットスレッドと競争して勝ったなどと言ってもピンと来ないだろうし、十六夜自身も比較として挙げる気は毛頭無く。
「……あのさユーノ君、わたし思ったんだけど。今度ジュエルシード見つけたら自分で飛んで行くより十六夜君に負ぶってもらった方が速いよね」
「なのは!?」
「ハハッ、マジかよ。なら今度背負ってやるから期待しとけよ」
ヤハハ、と笑って挑発的な視線を向ける。
一方のなのはは興味本位からキラキラ瞳を輝かせていて、段々と十六夜に毒されている事にユーノは気付き始める。
「おーいなのはー!とアンタ、十六夜だっけ?も早く来なさい!みんな部屋に荷物置いてから温泉行こうだってー!」
溌剌とした声に促され振り向けば大きく手を振って呼び掛けるアリサと隣で小さく手招くすずかに意識を移し、周りの大人陣が既に旅館の中へと向かうのが見えて。
「隣のお嬢様が月村すずかなのはわかるが……誰だ?あの元気っ子」
「アリサちゃんだよ!?もう!だから車で行けば少しは親交が深められるって思ったのにー!」
「それならさっきも言っただろ。走る方が速かったって」
頓珍漢なやり取りをしながらも招かれる方へ歩み出す問題児と優等生。
そんな二人を訝しげに見る視線(すずか&恭也)もあるが一先ずそれぞれが各自荷物を置いて温泉前の脱衣所とを遮る廊下にて一悶着あり。
《そう言えばユーノ君は温泉入った事ある?》
《公衆浴場ならあるけど、特にこういう現地産の温泉は初めてかな》
《そうなんだ?えへへー温泉はいいよ〜》
《?─────ハッ!》
そんな訳で小動物フェレットなユーノが十六夜の肩に飛び乗って。
頬を真っ赤に角まで誘導すると「あん?」と不可思議な目線を送るもそれでも必死な形相にやむなく集団から少し離脱。
周囲がこの一連の流れに首を傾げるも気にせず、公衆浴場ならぬ公衆便所の前まで来ると何故か念話の通じぬ十六夜に耳元で本題を語り出し。
「助けて欲しい!十六夜から僕をそっちに連れて行くようお願いしてくれないかな!?」
「…ふぅん。お前ってもしかしなくとも雄?」
「YES!YES!そんな僕が女の子と混浴とか不味いだろう!?」
首をブゥンブゥン!と縦に振る。
我ながら良くここまで動かせると密かに己が首の頭半棘筋と頭頸板状筋に感謝しながらの肯定と主張に、要求した後から嫌にニヤついた十六夜を見上げるユーノ。
「念の為聞くがそれはなのは達に対してか、それとも女ども全員に対してか?返答次第で気分が変わるけど」
「……勿論、全員だよッ!」
「アハハそうかそうか全員か!凹凸も少なそうなチンチクリンを対象に男女間を意識するとは随分マセてんなおい!珍獣改め淫獣って呼んでやっても一向に構わないんだぜ?」
「ファッ!?」
問いに対してユーノは間もなく答え。突如腹を抱えて爆笑と共に十六夜は謂う。
因みにこの時の返答における正解例を挙げるならば忍や美由希達、つまり大人組の女性限定を該当するなのだが、選択肢すら比較的分かりやすく提出したとは後の十六夜談。
出題した当人は逆に満足したようにいつしかトイレ前の壁に片腕を置いて口許を手で覆う。恐らく漸く収まった爆笑を控え後、男ユーノの命運を告げる。
「じゃあ逝ってこい」
「ちょっ、え、ちょ……!?」
あまり長居してもという建前に女性陣前に戻ると一層いい笑みでなのはの肩にユーノを戻して男湯の暖簾を潜り消える十六夜。その間に既に恭也という唯一味方になり得た男は既に姿なく。
後はなのはの肩に揺られ意志とは関係なく女湯の暖簾を潜り。
「どうしたのユーノ君?早く入ろう?」
「あ、うん……………………ヒェ」
この瞬間ユーノは全てを諦めた。
結果バスタオルすらほぼ巻いていない女の花園へ突入させられた彼は思い返して十六夜の意図や悪巧みに気付くもそんなものは些細だと目の前の桃色空間に悩ませ。
右を見ればなのは達の、左前後を見れば高町と月村の全裸攻撃に息も荒くなる。
「で、結局アイツとはどういう関係なの!?」
「十六夜君はただのお友達だよ!?」
「…ふぅーん十六夜君、ね。なのはちゃんも隠さなくていいのに…」
「違うからーーー!!!!!」
因みにユーノがノックダウン(色香)した後にこんな会話が繰り広げられたがいざ知らず、完全に誤解したすずかとアリサの質問攻めに湯あたりしたよう真っ赤な顔のなのはが弁解するも手応えは如何なものか。この時のすずかの妖艶な表情は記憶から拭えなくなる。
一方隣は視線を感じながらも湯船を堪能した十六夜は浴衣ではなく普段着に身を整え以降姿を消していた。
然し荒唐無稽はいつもの事と割り切ったなのはは友人達との時間を優先して湯上がりの浴衣姿で暖簾を抜けてアリサとすずか二人と卓球でもと向かい歩むすぐの頃。
《優しくしてくれるだけの人達に囲まれてぬくぬくしてるだけのガキンチョにしては中々いい魔力を持ってるね》
(………え!?)
突如頭に直接響く声に視線を彷徨わせると庭で佇む燈色の大型犬を視界に捉え。
間違いなく獣から発せられている事実に驚愕する。
《ふーん…キミがウチの子をアレしちゃってくれた"もう一人"の子だね…一応忠告しとくよ。子供はいい子でお家で遊んでなさい?また邪魔するならガブっといくわよ》
「…………」
一方的に告げられる念話に目を見開くもその内容が不思議と直ぐ理解出来て警戒の眼差しを向けるも。
「なのは?何してるのよ」
「どうしたの?」
立ち止まった事によるアリサとすずかの呼び掛けに即座に振り返り、なんでもないよう答える。
「ううん。ちょっと湯あたりしてボーっとしたかも」
《なのは、さっきの》
《分かってる。でも今は……》
首を傾げるアリサとすずかに対応しながら念話で話しを続けるなのはとユーノ、気付けば既に居ない魔力の痕跡を残した獣を尻目に何事も無かったよう歩き出し。
その後は予定通りアリサとすずかと卓球で遊び。
「十六夜君は目を離したら居なくなるよね!ねっ!?」
「ヤハハ、ちょっと所用があったんだよ」
更に数刻後、入浴組とは別で散歩していた士郎と桃子に連れられる形で戻ってきた十六夜を見て安堵するなのは。何をしていたかまでは教えて貰えなかったが今までの鬱憤も淡さっているのか普段より強気に訴える。
「へえ…卓球やってたのか。折角だから一試合付き合えよなのは」
「え……十六夜君と、卓球…?」
「いいわね、次はアンタの実力も見せなさいよ。なのは、やっちゃえ!」
唐突の提案にさっきの勇みが霧散し戦慄、その間にもノリ気なアリサに促され卓球台の前へ。
(───絶対、殺られる…!!)
(心配すんなよ。手加減するって)
(それってフラグだよね!?)
目と心で語り合い。
これまでの荒唐無稽な行いから瞬時に身の危険を感じるも既に十六夜は台の向かい側に立ち、すずかからラケットを受け取っていた。
「ほら、サーブ行くぞー」
「ひぃ…ッ!?」
コンッ。
「………へ…?」
然しなのはの懸念とは裏腹に緩やかなサーブで己がコートに卓球ボールがバウンドした事で思わずスルーしてしまい、他三人から声が掛かる。
「…なのは?」
「なのはちゃん?」
「何やってんだ?打ち返せよ」
「えっ、あ…!?ご、ごめん!──えっと、次はわたしからいくね?よーし…それっ」
慌てて謝罪し床に落ちたボールを拾うと台に戻り『流石に卓球くらいでそんな無茶苦茶はしないよね』と安堵して、リラックスした状態で嬉々としてサーブを打つなのは。
「なんだ、皆此処に居たのk」
「てい」
子供組を探しに来たであろう恭也が背後の扉を開いたと同時、十六夜が打ち返した卓球ボールはドゴォォォーン!と超速球で放たれ、なのはと恭也の真横を過ぎて庭を越して森の方まで飛び、遠くで爆音が響く。
「「え…?」」
(……ドンマイ、なのは)
その光景に一同が呆然、恭也に関してはなまじ動体視力の良さで今の豪速球が見えていたのか弾丸超えの暴力に白目を剥いて、ユーノが心の中で励まし。
「あ、すまん。少し力入っちまった」
「ふえええん!やっぱりこうなるよね!?十六夜君のスーパー問題児ぃ!」
幸いすずかとアリサは何が起きたのか理解が及ばず、悪びれもせず飄々と謝る十六夜はこの後なのはからめちゃくちゃ怒られたが、そんな少女の気持ちもお構い無しに夜にはまた部屋を抜け出した。
*
もう陽が落ちて夜の頃。
河の麓で"ソレ"を見つけた十六夜は嘲笑う。
「やっぱり俺の願いは叶えられねえか」
水浸しの身で摘んだ無反応の蒼い石を見据えながら嘆くも、傍らに黒の影が二つ落ちその存在を確認しては鼻で笑い。
「あの時は世話になったけど心境は如何だ?」
「……変化ないよ。それを渡して」
『Photon Lancer』
黒棒は両手で構える少女は金の刃を携える。
「おいおいいきなり攻撃かよ…だが断る。俺の提案が受け入れられないならな!」
対する十六夜は拳を握り、直後集中的に迫る金の弾丸を薙いだ空いている手で軽く弾き。
「はッ!?……それでも、目的を遂行する!」
「ならやろうぜ。全力で掛かってこい!」
「調子に乗るんじゃないよ!」
フォトンランサーを容易くあしらわれ驚いて目を見開くフェイトは警戒を強め、疾り来る獣をポケットにジュエルシードを突っ込みながら一閃、パンチの余波だけで不意打ちしてきた燈色大型犬状態のアルフを弾き受身で飛躍すると上空の少女の元へ、入れ替わるようフェイトは即座に背後に回り殺傷を問わず金の鎌を奮うも裏拳で悉く止められ。
埒が明かず浮遊するアルフの元へ退く。
「全力で来いって言った筈だぜ」
「………分かった。キミが使えるかどうか試してあげる。アルフ、サポートと結界強化をお願い!────アルカス・クルタス・エイギアス。疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ」
フェイトの足下に地上を覆う程の円盤魔法陣が描かれる。
その金の光にニヤリと十六夜は口端を吊り上げると敢えて軌道が読め易い川内の岩場に着地し。
「まさか…フェイト!?チィッ…!」
「煌めきたる天神よ、今覇を顕わして撃ちかかれ……バルエル、ザビエル、ブラウゼル。唸れ轟雷、砕け雷光」
だからとフェイトは魔力のキャパシティを超える詠唱を続け、曇る空にはいつしか雷鳴が魔法陣の側に降りかかる。頭上には金の球体が目を開き。
「いいぜいいぜいいなオイ!いい感じに盛り上がってきたぜ!」
十六夜は再び迫った人間形態へ変わったアルフの拳を片手でいなし川へ投げた。