詳しくは本編で(笑)
ジュエルシードの気配になのはが目を覚ました時には空は既に暗く然し明るい。そんな対照的な事象が起きる程だと周りで意識を失ったよう眠り込む身内を背に起きては元凶に向け駆け出す。
旅館の部屋を窓から飛び出すと直後白いバリアジャケットに身を包んで、飛翔する魔法少女は誰も認識していない空の雷鳴と金色の巨大魔法陣に内心で阿鼻叫喚とし現実逃避したい気分に。結界内に突入すれば岩場の少年を見つけて着陸。
「ハァ、ハァ、ハァ……もう!十六夜君なにしてるの!?」
「あ?なんだなのはか。何って、ジュエルシードを見つけたら黒マントっ娘が喧嘩売ってきたから売り返しただけだぞ」
振り返った十六夜もなのはを見ると、喫茶店で言った通りといい笑顔で応える。
河の橋の前で問うと再び上空の巨大魔法陣が生成されているのを目に青ざめるなのはと肩のユーノ。
「まだ…まだ勝負は終わったないよ!小僧ォ!」
すると水面を巻き上げて現れた女性が人型から大型犬に姿を変えたことへ眼を剥きその存在が一連の人物と同じ事を認識する。
「あの時の!…ってどうやったら二人をこんなに怒らせられるの!?」
漸く現実を受け止めるなのはも、言う通り憤怒な表情のアルフと本気のフェイトを見て驚愕。
「なんか俺が見つけたモノを横取りしようとした上に、『試練』がどうの素敵な事を言ってきたからよ。俺を試せるのか試させてもらってるのさ!」
実際は試練とは言ってないが試す=試練と同義にしたのか応える十六夜に高密度な魔力を塊に圧縮して、そんなフェイトの準備を待つ様にアルフは猛攻を仕掛ける。
「付け上がるんじゃないよ!あたしがこの程度でやられると思ってるのかい!?」
「すっこんでろ。用があるのはテメェじゃねえ!」
「くっ!な、なんだこの馬鹿ヂカラッ……うぁあああっ!?」
目の前まで獣の速度で迫り接敵時に人型へ、連打の拳を軽く受け流し最後の魔力弾をアルフごと弾き返す。頭上で高まる魔力に高揚感を増す十六夜は同じく詠唱中のフェイトに手を出さず攻撃が完成するのを待ち侘び。
「まずい、十六夜下がって!」
「何を言ってやがる、下がるのはテメェらだろうが魔導師!これは俺が売って、奴が買った喧嘩だ!」
最早人智を超越した魔力に思わずユーノは動物状態で叫ぶも返ってきたのは本気の殺気が篭もる声音。
「心意気は買ってあげる。それに免じてこの一撃を凌いだらキミを認めてあげるよ!」
「寝言は寝て言え。決闘ってのは勝者を決めて終わるんじゃない、敗者を決めて終わるんだよ!」
傲慢極まる十六夜の返しにフェイトは吠える。
「……その
詠唱や魔力充電、その他全てを終えたフェイトが文字通り全力を超えて魔法陣へ片手のバルディッシュを叩き付け、広域で落ちる数多の雷鳴を蒼雷にして十六夜に集中砲火し同時に金の魔力弾も数発、その派生で渦巻くトルネードもメイルストロムの如く十六夜に迫り。更にダメ押しで掌に描いた魔法陣から雷光の砲撃を全力で掃射。
「十六夜!」
「十六夜君!」
この世の終わりかと思う熟練魔導師の猛攻に一般人など塵芥。
レイジングハートを砲撃モードに構えそんな想いを叫ぶなのはと肩に乗るユーノだが加勢するにはもう遅い。
「───ハッ───しゃらくせえ!!」
然し十六夜は右で振るった拳一つで全ての猛攻を吹き消す。
「うそ!?」
「そんな馬鹿な!?」
「なっ、あり得ない!!」
三者三様で誰だか判明できない反応。
少なくとも攻撃を放った側のフェイトは霧散した光景を信じられず呆然、次いで岩場を跳んで踏み砕いた爆音と目の前の十六夜に気付き、防御結界の魔法を魔力の残る限り全力で展開。
それを確認した十六夜は躊躇なく飛び蹴り。
「ま、中々だったぜオマエ」
身に蹴りは届かずも結界は木っ端微塵に砕かれ"加減"したキックの余波だけで川に墜ち、鋭い落下に既にフェードアウトしていたアルフが同じく堕とされた地点から支えるも二人して水没。
氾濫した川の雨もなのは達ごと濡らしながら。
(魔法を使わず…いや、魔法を持たない人が使い魔持ちの魔導師を倒した?そんなデタラメがーーーー)
呆然と佇むも気付けば橋に放られ倒れたアルフと気絶したフェイトを水面から抱えて橋に戻る十六夜を見てユーノは内心呟くも美しくも気高い光景はまるで幻想的で見開く。
「ったく、びしょ濡れだ。風邪引かない内に温泉と洒落込もうぜ」
*
ここは湯の町、そう温泉旅館なのだ。
当然その施設を利用しない手は無く、周囲の影響を最小限に捉えた簡易範囲の空間結界でほぼ貸切状態にして十六夜は勝利の美酒の如く娯楽を満喫中。
「て事で勝利者の特権を早速利用中だ」
「なんでわたしまで!?」
十六夜の背中を洗うという奉仕活動を律儀に手を止めず行いながらの訴えは勿論無視し、意図も容易くスルーされて絶句するなのはは一応バスタオルを巻いていて健全空間を辛うじて保っているが。そして隣には同じく十六夜の背中を洗う金髪の少女。
「なんで私もこんな……」
「おいおい敗者のテメェは何を言ってやがる。敗者ならソレらしく敬い勝者を讃えて従順奉仕するのが道理だろ?しかも約束通り石はくれてやったんだ。まさか反故にする気じゃないよなあ?」
ギロリと睨み圧を与えるも尚不満気なフェイト。
「こんな事に何の意味が…」
「景品や報酬内容に意味があるかどうかを決めるのは貰う側で、献上する側が気にする事じゃねぇ」
事の発端はフェイトが目を覚ましてからジュエルシードをどうするか。
協議と十六夜の独断の結果今回はフェイトに譲るがそれだと勝利者に得が無いと主張、どうせ全員濡れてて風呂行きは逃れられないのなら背中を流す様指示して今に至る。
因みにユーノとアルフは動物形態で前者は監視、後者は監視も兼ねた罰で座らされている。
「それにこの子はあの勝負とは関係ないはず…」
「ん?ああ、それについては完全にモノのついでだな。コイツがお前と話しがしたいってよ」
「……話し?」
訝しげに隣で自分と同じく奉仕活動する茶髪の少女を見て。
「…先ずは初めましてだよね。わたしなのは!高町なのは、私立聖祥大附属小学3年生で…貴方と同じジュエルシードを集めてる魔導師なの!」
巻き添えを受けた事に不満を露したが意図を理解すれば心で十六夜に感謝を述べて一旦背中から手を離し、フェイトの横顔に向き直ると丁寧にお辞儀しながら自己紹介と目的を告げ。
「…フェイト・テスタロッサ。悪いけどジュエルシードは渡せないよ」
「あ、それならユーノ君と相談して無理に取り上げないようにって」
「………僕はまだ納得してないけど」
これに関してはユーノ本人は乗り気でなく危険を伴うと何度も忠告したが折れないなのはに根負けした。
「それにわたし達は回収が目的でその後何かに使うかとかは決めてなかったから。だから…フェイトちゃんって呼ばせて貰うね?フェイトちゃんに事情があるなら、最後にはちゃんとユーノ君に返してあげられるなら一時譲ってもいいかなってなったの」
「……えっ?で、でも…キミにそうするだけの理由は」
この申し出には流石に躊躇し、思わずなのはに振り向いて今度はフェイトが絶句する。
幾らなんでも虫が良すぎる提案だ。
「じゃあ、もしこれが終わって落ち着いたら、わたしとお友達になってくれないかな?」
そんなフェイトに躊躇無くなのはは言う。
「友、だち?」
「うん!わたし以外に魔法が使える女の子ともっとお話ししてみたいなって。だからジュエルシード集め中はお試し期間で、仲間として!もしお互い友達になりたい気持ちが変わらず有ったら今度は理由とか関係無しで一緒にいよう?」
「ーーーッ」
その曇り無き太陽のような笑顔にドキッと胸を高鳴らし思わず心臓に手を添える。覚えている限り初めての感情に戸惑いを隠せず。
実のところ今のなのはの提案は十六夜の入れ知恵が裏であったのだが最早本心から想いを告げていて野暮だろう。
まるで恋人の逢瀬かと暫く見つめ合う事で次第にフェイトの頬が朱に染まっていくのは恐らくのぼせただけでは無く、後に「一緒にいよう」のなのはの顔が堪らなくてダメだったと語るのだがそれはまだ先の話でーーー。
「フェイト!それ以上は聞かなくていい!」
「ふぇ!?」
「アルフ…」
そこで漸くフェイトの使い魔が怒声を吠えて遮る。
「優しくしてくれるだけの人に囲まれてぬくぬく育ったガキンチョにあたし達の事情なんてわからないよ!最優先すべきはジュエルシードの捕獲で、友達ごっこじゃないだろう!?」
「ちがっ…そんなつもりじゃ!」
その言葉に目を見開き覚めた様子で表情に陰が落ちるフェイト。
なのはが必死に弁明しようとするが、その空気を言葉ごと裂く桶が飛来してきてユーノとアルフが佇む間を通り過ぎ壁に抉り込まれ、投擲した主の十六夜が口を開く。
「ごちゃごちゃうるせぇぞ。テメェも敗者だって事、まさか忘れたワケじゃないよな?…たく、こっちは加減するのも一苦労なんだ。不要な面倒事を増やすんじゃねぇよ」
「なっ!?コイツ…ッ!」
喧噪を黙らすよう気迫たっぷりと圧を掛けると頭を掻いて。
臨戦態勢ながらも先程の余波で完全に怖気増したアルフが反発。
「いいか、よく聞いとけ。お前が今正に言うジュエルシード最優先ならそれこそ無駄に競ったり争ってる場合じゃないだろ、こっちは破格の条件で協力しようっていうんだ。ならお前らに取れる選択肢は精々後ろから寝首を掻かれないよう注意しながら、その中で俺達を見極めつつ"超最速"で目標を達成するのに粉骨砕身で臨むだけで、寧ろ気にするのは切迫詰まってそうなお前らの雇い主なんじゃねぇのか?」
「「な───!?」」
「え…雇い、主?」
まだ幼いなのはには難しい単語も混じり情報量がキャパオーバーしては首を傾げるも、当人達は的を射続けた挙げ句確信的な最後の発言に驚愕で固まり。
「アンタ…どこまで知って」
「何を不思議がってやがる。こんなのは焦って力加減も誤る主人と────…チッ、説明するのも億劫になってきやがった。兎に角簡単な推理で結びついただけって話しだ」
悪態で返すもそこに微塵の演技も虚言も見られず、思い返せば馬鹿げた力を持つこの少年が回りくどい真似をするだろうか?実際は知恵等を総活用すれば姦計など朝飯前だが、生憎それを行う悪は今この場にはいない。
以降黙ってしまうアルフは傍でさっきの桶ショックで目を回しているユーノに気付き怒気も削がれ。
「まぁ雇い主がどうのは今は心の底からどうでもいい。主人を蔑ろにして決定権を捥ぎ取るのはソイツを傀儡にでもしたい悪徳従者だって疑われても言い逃れ出来ないぞ?」
「アルフはそんな子じゃ無い!!」
それを否定したのはアルフではなくフェイト。初めて彼女が力強く明確な意志を告げる。
今まで無表情で目を細めていた十六夜は急に緩和した顔で背後へ向き直り、それはもう敵意を全力全開に向けた眼差しに臆せず続け。
「なら裁決しろよ。俺達と手を取って仲良くするか、対立して時間も無駄に非効率な行動に出るか」
「……少なくともイザヨイとは仲良く出来る自信は無いけど、この子と協力するのには異存はない」
「ハハッ、仲良くする気はないとか抜かしながら無遠慮に呼び捨てにしてきやがったぜおい!」
「特別にイザヨイもフェイトって呼ぶ事を許してあげる」
いつの間にか上から目線で胸を張り。
十六夜に対するフェイトの苛立ちからくる嫌悪感も初めての感情だった。
然しこの後直ぐになのはへ対しては遠慮した言動に。
「……そ、そういうことなので…宜しくお願いします。…えっと……?」
「なのはだよ。友達でも仲間でも、先ずは目を見合って名前を呼び合おう?そこからきっと、わたし達が始まるから!」
戸惑うフェイトにこの時ばかりは瞬時に察したなのはが、一連の緊迫した状況には動揺していた少女もハッキリ告げて。
「な、のは…?」
「うん、フェイトちゃん…」
「なのは……」
「フェイトちゃん」
「なのは。うん、なのは…」
「フェイトちゃん!」
まだフェイトは辿々しいも強く呼び掛け合い、感動的な光景だが放置された十六夜は?
「仲良き事は美しきかな。………ところでテメェら、そろそろ俺の背中流しを再開しろや」
「頑張ろうね?なのは。当面の目標はこの男を2人で叩き潰す」
「うん!ーーーッ!?変わってる!目標が変わってるよフェイトちゃん!フェイトちゃん!?」
「クッ、ハハハッ!OKお前ら、捻り潰してやるからいつでも掛かってこいよ」
「ええええええええ!!?」
別の意味で解り合いそうななのはとフェイト。
後に打倒十六夜同盟なるコミュニティはまだ芽を開いたばかり。
*
「十六夜くぅーん!遊びましょーーー!!」
豪邸の屋敷、上階に向けて叫ぶ金髪の女性。
「……居留守かしら?」
成人か否か少なくとも学生では無いだろう出立ち。真っ白いロングコートに赤紫のキャミソール、ヒール付きの黒ブーツを次第にカツカツ鳴らせて痺れを切らした様に窓ガラスに手を翳して。
「お、お待ち下さい
すると慌てて庭園より出てきた執事姿の使用人に呼び止められ。
「十六夜君に告げて。養子縁組合いの手続きが完了したから迎えに来たって。施設名は"カナリアファミリーホーム"、後にキミの"箱庭"になるかもしれない拠点と」
左右対処な貝殻イヤリングを揺らしキメポーズで執事に申す。
まさかこの女性が預かる子へ攻撃など"馬鹿な真似"はしないだろう財閥の会話に恐る恐る言う。
「十六夜様は忍お嬢様達と現在、海鳴温泉へ出向いてる次第でして」
「あの十六夜君が!?忍さんって確か月村の本家筋の長女よね!?て事はすずかちゃんとも一緒よね!!」
「うぐぶはふぁうううッ!?!」
途端に血相変えて胸ぐらを掴みに掛かる金糸雀。ブンブン振り回された使用人は直ぐに泡を吹いて意識を途絶えさせる。
「やり過ぎ、カナリアやり過ぎだから!」
突如影の底から顕現した銀髪の少年に腕を掴まれ止められ。
「あら、エル。久しいわね」
「うん久しぶり…それと偶々出会したばかりお願いされた監視中の逆廻十六夜は現在高町なのはとフェイト・テスタロッサって女の子と混浴中。貴方が期待した御令嬢とは接点無いっぽいよ」
「あの子が?……ハッハッー成長したわね十六夜君!女の子を連れ込む作法は多分教えてないはずだけれど?」
これは金糸雀も動揺したのか、神のような黄金の頭脳を抱えて。以前高町家の前に現れたエルと呼ばれる銀髪の少年の近状報告にも構わず使用人を噴水にストライク。鍛えた頭から入水して目を覚ました執事は即座に金の女へ跪き。
「例の魔法使いの一因かも。追うの?」
「………待ち伏せる。それに多次元宇宙が此処から干渉してももう遅いわよ。高町なのははちょっと気になってるけれど」
「あの、因みにレティシア様は…」
「「それこそ私(僕)が知りたいわボケェがぁ!!」」
「ヒィッすいみゃせん!」
「───最悪でも黒ウサギやコミュニティが無事なら私は安心かしらね」
「僕は転生者の有象無象を垂れ流した馬鹿が箱庭に干渉した疑いあり。お互い仕事が増えて大変だね」
「敗残兵に仕事?なんの冗談かしら」
元から純血の使用人ではない男を以降置き物扱いで無視して銀の少年と向き合う金の女性。お互いの報せを伝え確認と理解し合った様に月村の屋敷から姿を消す。